働き方改革が推進される中、複数人で仕事を分け合う「ワークシェアリング」への注目度が高まっています。

 

ワークシェアリングは、労働者1人当たりの負担を軽減することで長時間労働の是正や雇用の維持・拡大を目的とした取り組みです。

 

企業にとっても労働者にとっても大きなメリットのある働き方ですが、「どういったものかよく分からない」という方も多いでしょう。

 

そこでこの記事では、ワークシェアリングの概要や注目の理由、企業・労働者双方にとってのメリット・デメリットについて解説いたします。

 

企業の導入事例や導入フロー、活用できる助成金についてもご紹介しますので、ぜひご覧ください。

 

ワークシェアリングとは

ワークシェアリングとは、労働者同士で仕事を分け合うことです。ワーキングシェアとも呼ばれています。

 

複数人の労働者で仕事を分け合うことで、

  1. 1人当たりの業務量を削減し、労働時間を短縮する
  2. 新しい雇用を生み出す

といった目的があります。

 

ワークシェアリングが注目されている理由

ワークシェアリングは、労働環境の悪化や失業・過労死が増加していたヨーロッパで、労働者の負担軽減や雇用創出を目的として誕生しました。

 

ワークシェアリングは複数人で仕事を分担するため、雇用を創出できますし、1人当たりの業務負担も軽減することができます。

 

1980年頃からワークシェアリングを積極的に活用している海外では、多くの企業で導入されており、失業率の大幅な改善も報告されています。

 

日本では、景気低迷にともなう失業率の悪化や過重労働によるうつ病の発症、自殺が社会問題となった10年ほど前からワークシェアリングへの注目が高まりました。

 

働き方改革の推進により、国内でもワークシェアリングを導入する企業が増えています。

 

ワークシェアリングの種類

ワークシェアリングには4つの種類があります。ここでは、それぞれの内容についてご紹介いたします。

 

雇用維持型(緊急避難型)

雇用維持型(緊急避難型)は、業績悪化時に行われるワークシェアリングのことです。

 

業績悪化で問題となる人材流出を防ぐために、従業員の数を減らすことなく1人当たりの労働時間を短縮することで雇用を維持します。

 

雇用が維持されるため、経営の立て直しがスムーズになります。

 

雇用維持型(中高年対策型)

雇用維持型(中高年対策型)は、定年以上の中高年層の労働時間短縮・雇用拡大を目的としたワークシェアリングのことです。

 

短時間勤務や勤務日数を少なくすることで、定年以上の中高年層をより多く雇用し、活躍の場を提供します。

 

知識や経験が豊富な中高年層が残れば、若手層へのナレッジや技術の継承も行えるため、企業にとっても大きなメリットとなるでしょう。

 

雇用創出型

雇用創出型は、雇用拡大を目的としたワークシェアリングです。

 

既存従業員の1人当たりの労働時間を短縮し、その分の業務を新規採用することで雇用の機会を増やします。

 

景気悪化などで求人倍率が低い場合に実施されることが多いため、失業率改善に特化したワークシェアリングと言えるでしょう。

 

多様就業促進型

多様就業促進型は、柔軟な働き方の実現を目的に行われるワークシェアリングです。

 

働き手を確保するには、育児や介護と仕事の両立など、それぞれのライフスタイルに合わせた柔軟な働き方を提供する必要があります。

 

短時間労働やフレックスタイム、在宅勤務といった就業形態を取ることで雇用を維持し、人材流出を防止することができます。

 

ワークシェアリングのメリット

ワークシェアリングを導入するとどういったメリットを享受できるのでしょうか。

 

ここでは、企業側と労働者側双方のメリットについてご紹介いたします。

 

企業側のメリット

 

労働状況の改善

ワークシェアリングを導入すると、従業員1人当たりの業務量を減らすことができるため、長時間労働や過重労働といった労働状況が改善されます。

 

業務量が減り、余裕を持って取り組めるようになれば、より重要な業務に注力できるようになるため、生産性の向上も期待できるでしょう。

 

コストの改善

複数人で業務を分担することで1人当たりの労働時間が短縮します。

 

深夜残業や休日出勤といった時間外労働も減少するため、人件費や光熱費を抑えることが可能です。

 

従業員満足度の向上

ワークシェアリングは、雇用の維持や拡大を目的として行われるものです。

 

そのため、ワークシェアリングの導入により、業績悪化時でも雇用が守られる仕組みがあることを従業員に伝えれば、安心感を与えることができます。

 

また、ワークシェアリングで1人にかかる業務負担が減れば、心身への負担も軽減されるため、従業員の心と身体の健康も維持できるでしょう。

 

さらに、ライフスタイルに合わせて柔軟に働けるようになることから、ワークライフバランスも実現しやすくなります。

 

迅速な対応が可能

業績悪化にともない従業員数を減らしてしまうと、市場が活性化したとき人員不足に陥ってしまいます。

 

ワークシェアリングで仕事量を減らして人材を確保しておけば、業績や市場の状況に応じて柔軟かつ迅速に人材を配置できるため、経営の立て直しもスムーズに進みます。

 

企業イメージの向上につながる

ワークシェアリングは雇用の維持・拡大を目的としているため、積極的に社外にアピールすることでイメージアップにつながります。

 

企業イメージの向上は企業価値向上にもつながるため、投資家へのアピールにもなるでしょう。

 

戦略的にワークシェアリングを活用するのも一つの手です。

 

労働者側のメリット

働き続けられる

ワークシェアリングが行われると雇用の枠が増えるため、求職者は就職・転職しやすくなります。

 

ワークシェアリングでは従業員数ではなく業務量を減らすため、従業員はリストラの心配をせずに安心して働けようになります。

 

ワークライフバランスが実現しやすくなる

ワークシェアリングを実施すると1人当たりの業務量が削減されるため、労働時間が短くなります。

 

必然的に残業時間も減少するので、育児や介護、リフレッシュ、キャリアアップなど、空いた時間を多様な目的に充てられます。

 

プライベートに充てる時間が増えれば、ワークライフバランスの実現にもつながるでしょう。

 

ワークシェアリングのデメリット

ワークシェアリングは企業や労働者に大きな恩恵を与える反面、デメリットもあります。

 

では、どういったデメリットが存在するのか、詳しく見ていきましょう。

 

企業側のデメリット

制度の見直し

ワークシェアリングを実施する場合、多様な就業形態を取り入れることになるでしょう。

 

そのため、短時間勤務制度や雇用形態の違いによる格差是正制度の創設など、自社の制度見直しが必要になります。

 

どの従業員にとっても公平な制度に整備することは、企業に大きな手間や負担がかかります。

 

給与計算の煩雑化

ワークシェアリングを実施すると、短時間勤務など労働者の働き方が多様化するため、給与の計算方法が変わる可能性が高いです。

 

加えて、従業員数も増加するため給与計算の手間も増えるでしょう。

 

給与計算は従業員の生活に直結する重要な業務なので、ミスなく期限までに完了させなくてはなりません。

 

給与計算が増大・煩雑化すれば担当者の負担は大きくなりますし、人為的ミスも起こりやすくなるため、注意が必要です。

 

コストが増加する可能性がある

ワークシェアリングは人件費や光熱費の削減につながりますが、雇用者数を増やすことで、企業が負担する社会保険料や福利厚生費、教育費が増加する可能性もあります。

 

コスト増大につながる可能性もあるため、新規採用の際にはコスト面をよく検討する必要があるでしょう。

 

労働者側のデメリット

給与が減る

仕事を分け合うワークシェアリングは、労働者一人ひとりの勤務時間が短くなるため、受け取れる給与額が減る可能性が高いです。

 

従業員の中には給与が減ることで、子どもの教育費や住宅ローンの支払いが苦しくなる人もいるでしょう。

 

職種間で格差が生まれる可能性がある

職種によってはワークシェアリングの導入が困難なものもあります。

 

企業内に対象となる職種・ならない職種が混在する場合、ワークシェアリング対象職種の労働者のみ労働時間が短縮されるため、両者に賃金格差が生じる可能性があります。

 

身につけられるスキルが減る可能性がある

ワークシェアリングを実施すると分業化が進むため、経験できる業務が減ります。

 

業務の幅が狭まれば身につくスキルの幅も狭まってしまうため、転職活動で不利になることもあるでしょう。

 

ワークシェアリングの導入事例

他企業ではどのようにワークシェアリングを導入しているのでしょうか。

 

ワークシェアリング成功のヒントを掴むためにも、導入事例を見ていきましょう。

 

マツダ株式会社

マツダ自動車では、新車販売の業績不振にともない、2009年1月に工場勤務の正社員約1万人に対して、「雇用維持型(緊急避難型)」のワークシェアリングを実施しました。

 

ワークシェアリングの内容は、雇用維持の代わりに勤務時間と給与を減らすものです。

 

従来の昼夜2交代制から夜間操業を中止し、1人当たりの労働時間を半減させています。

 

また、時間外勤務や休日出勤などの手当も減らしており、様々な取り組みから雇用維持に対応しています。

 

株式会社ベネッセコーポレーション

教育・生活事業を展開するベネッセには女性社員が多数所属しており、1992年からワークシェアリングに取り組んでいます。

 

育児と仕事を両立し、社員として長期的なキャリア形成ができるよう、短時間正社員制度を導入しました。

 

ベネッセのワークシェアリングは、「多様就業促進型」に該当するでしょう。

 

制度利用者は増加傾向にあり、今後は男性社員も含めた全従業員向けの施策として徹底していくことを目指しているそうです。

 

株式会社エス・アイ

アウトソーシング事業を展開しているエス・アイでは、約20年前からワークシェアリングに取り組んでいます。

 

具体的には、出勤・退勤時間を個人で自由に設定できる「自由出勤制度」や、働く意欲のある社員は本人が希望する限り働き続けられる「エイジレスフリー制度」の導入です。

 

「多様就業促進型」と「雇用維持型(中高年対策型)」のワークシェアリングに取り組むエス・アイでは、格差問題を是正するために「全社員時間給制度」を導入しています。

 

意欲向上を図るため実績評価額となっており、半年単位で個人の実績にもとづいた時間給の見直しが行われています。

 

ワークシェアリングの導入フロー

ワークシェアリングを導入するには、具体的にどうしたら良いのでしょうか。

 

ここでは、ワークシェアリングの導入フローについてご紹介いたします。

 

目的の明確化と現状の把握

ワークシェアリングを導入する際は、目的の明確化と現状の把握が欠かせません。

 

というのも、ワークシェアリングには「残業時間の減少」「人材流出の防止」「一時的なコストダウン」など、多様な目的があります。

 

目的が変われば講じるべき施策も変わるため、「何のためにワークシェアリングを行うのか」を明確にする必要があるのです。

 

目的が明確になったら、自社の業務状況を把握しましょう。

 

具体的には、

  1. 自社にどういった業務があるのか
  2. 何人の従業員が関わっているのか
  3. 負担の大きな業務はないか

などを整理し、各業務にどれくらいの時間・コストがかかっているのかを把握します。

 

不要業務の見直し

業務状況を整理したら、不要な業務や効率化可能な業務がないかを確認します。

 

また、負担の大きな業務がある場合は、どういう人材を何人足せば良いのかを検討する必要があります。

 

ワークシェアリングできる業務・職種の検討

不要業務を整理したら、ワークシェアリングできる業務や職種を検討します。

 

対象業務は、複数人で分担できそうな業務や、人によって仕事の質が変わらない定型業務などが適切でしょう。

 

業務の分担や給与変更など、ワークシェアリングによって変更される予定の箇所とその範囲を対象部署のマネジメント層に伝えます。

 

その上でマネジメント層とともに、ワークシェアリングの内容や運用方法を検討しましょう。

 

ワークシェアリング運用に向けたマニュアル作成

ワークシェアリングの運用をスムーズに行うには、マニュアルが必要です。

 

具体的には、

  1. 誰が何の業務を担当するのか
  2. 責任者は誰か
  3. どんな風に運用するのか
  4. これまでと何が変わるのか(福利厚生や制度など)

を整理し、マニュアルにまとめましょう。

 

マニュアルがあっても、ワークシェアリングの導入初期段階は現場の混乱が予測されます。

 

そのため、マニュアルの作成だけでなく、ワークシェアリングの導入目的や背景、どんなメリットがあるのかをしっかりと説明し、理解を得ることも重要です。

 

ワークシェアリング導入のデメリットをカバーする取り組みについて説明すると、より納得感を与えられるでしょう。

 

業務の評価と進捗状況の把握

ワークシェアリングを導入したら、定期的に効果測定を行い「目標が達成できているか」「業績に貢献できているか」を確認しましょう。

 

振り返りを行う際は、現場のマネジメント層から報告するよう依頼しておくと、進捗確認がスムーズです。

 

定期的に振り返りを行って問題点や改善点をあぶり出し、必要に応じてマニュアルの修正を行います。

 

ワークシェアリングに関する助成金

国では、ワークシェアリングを運用している企業向けの助成金をいくつか用意しています。

 

2021年10月時点で実施している助成金についてご紹介いたします。

 

なお、助成金の内容は変更されることもあるため、申請する際は必ず厚生労働省のページをご参照ください。

 

時間外労働等改善助成金

時間外労働等改善助成金は、労働時間の短縮やテレワークの導入など、働き方改革に取り組む中小企業事業主向けの助成金です。

 

取り組みの内容によって5つのコースに分かれています。

 

支給額や受給要件は、コースによって異なります。

【時間外労働上限設定コース】

長時間労働の是正に向けて、時間外労働短縮に取り組んでいる企業向け

 

【勤務間インターバル導入コース】

働き過ぎ防止のため、終業から次の勤務開始まで一定時間の休暇を設けている企業向け

 

【職場意識改善コース】

ワークライフバランス推進に向け、労働時間や有給消化率の改善に取り組む企業向け

 

【団体推進コース】

中小企業団体や事業主団体を対象とするコースで、長時間労働の是正や職場環境改善に関する取り組みを行う企業向け

 

【テレワークコース】

在宅勤務やサテライトオフィスなどの多様な勤務形態の導入に取り組んでいる企業向け

参考:厚生労働省「働き方改革推進支援助成金(労働時間短縮・年休促進支援コース)

 

雇用調整助成金

雇用調整助成金は、景気の変動など経済上の理由で事業活動の縮小を余儀なくされた企業が、雇用調整を行うことで雇用を維持した場合に受給できる助成金です。

 

雇用調整には、休業・教育訓練・出向が含まれます。

 

※新型コロナウイルス感染症にかかる特例措置として、2021年11月末までは要件の緩和や受給額が拡大されています。

【支給額】

助成率…中小:2/3、大企業:1/2

(特例措置期間は中小:4/5、大企業2/3)

日額上限…8,265円/1人

(特例措置期間は13,500円)

教育訓練実施したときの加算額…1,200円

(特例措置期間は中小:2,400円、大企業:1,800円)

参考:厚生労働省「雇用調整助成金

 

人材開発支援助成金

人材開発支援助成金は、従業員のキャリア形成に必要な職業訓練を実施した場合に支給される助成金です。

 

支給額や受給要件はコースによって異なります。

  • 特定訓練コース

雇用する正社員に厚生労働大臣の認定を受けたOJT付き訓練や若年者への訓練など、訓練効果の高い10時間以上の訓練を実施した企業向け

  • 一般訓練コース

雇用する正社員に、職務関連の専門的な知識・技能を習得させるための20時間以上の訓練を実施した企業向け

  • 教育訓練休暇付与コース

「有給教育訓練休暇等制度」や「長期教育訓練休暇制度」を導入後、労働者が当該制度を利用して訓練を受けた企業向け

  • 特別育成訓練コース

有期契約労働者等の人材育成に取り組んだ企業向け

参考:厚生労働省「人材開発支援助成金(特定訓練コース、一般訓練コース、教育訓練休暇付与コース、特別育成訓練コース)

 

ワークシェアリングで働き方改革を推進

仕事を分け合うワークシェアリングは、雇用の維持・拡大を目的とした取り組みです。

 

労働時間の短縮などライフスタイルに合わせた柔軟な働き方が実現するため、働き方改革の推進につながります。

 

ワークシェアリング導入のメリット・デメリットを把握した上で、自社にとってどういった働き方を提供できるのかを検討しましょう。

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