給与前払いとは、従業員がすでに働いた分の給与を、本来の支給日より前に受け取ることができる制度です。
近年は、従業員満足度の向上や採用力強化を目的に導入を検討する企業が増えています。

 

一方で、「違法にならないのか」「前借りとの違いは何か」「どのサービスを選べばよいのか」といった疑問を持つ担当者も少なくありません。

本記事では、給与前払いの仕組みや法的な位置づけ、メリット・デメリットを整理したうえで、サービス比較の際に確認すべきポイントを解説します。導入を検討する際の参考にしてください。

 

【1】給与前払いとは

給与前払いとは、従業員がすでに労働した分の賃金を、通常の給与支給日より前に受け取ることができる制度です。

「給与前借り」と混同されることがありますが、前払いはすでに発生している賃金の支払いであり、借入ではありません。あくまで支払時期を前倒しする仕組みです。

 

人材確保が難しい状況が続くなか、福利厚生の一環として導入する企業が増えており、採用競争力の向上や定着率改善につながる施策として注目されています。

 

1-1.非常時の給与前払いは法的に問題ない

労働基準法第25条では、労働者またはその扶養家族が出産、疾病、災害、結婚、死亡などの非常時に該当する場合、すでに働いた分の賃金を支払うことを企業に義務付けています。
これを「非常時払い」といいます。

 

従業員から請求があった場合、企業は支払いに応じなければなりません。これは法律に基づく義務であり、違法ではありません。

企業が任意で導入する給与前払い制度とは異なり、非常時払いは法令上の義務である点を理解しておく必要があります。

 

1-2.働いていない分の給与前払いは違法になる

給与前払いとして支払うことができるのは、すでに労働した分の賃金に限られます。

まだ労働していない将来分の給与を支払う場合、それは賃金ではなく貸付とみなされる可能性があります。労働基準法第17条では、前借金相殺の禁止が定められており、企業が貸付をおこない、賃金から一方的に控除することは原則として認められていません。

 

そのため、制度を導入する際は、勤怠データと連動させ、発生済み賃金の範囲内で運用することが重要です。

 

 1-3.カードローンとの違い

給与前払いは借入ではなく、すでに働いた分の賃金を早期に受け取る制度です。

利息は発生せず、返済義務もありません。信用情報機関に登録されることもありません。

 

一方、カードローンは金融機関からの借入であり、利息が発生し、返済義務が生じます。利用状況は信用情報に記録されます。

このように、給与前払いは金融商品ではなく、賃金支払方法のひとつである点が大きな違いです。

 

【2】給与前払いサービスの仕組みと種類

給与前払い制度は、自社運用も可能ですが、専用サービスを活用することで申請管理や振込業務を効率化できます。

サービスは主に、資金の流れによって次の3種類に分類されます。

 

・立替払いタイプ
・自社払いタイプ
・預託金払いタイプ

 

それぞれ仕組みやコスト構造が異なるため、自社の体制に合わせた選定が必要です。

 

 2-1.立替払いタイプ

立替払いタイプは、サービス提供会社が企業に代わって従業員へ給与を支払う方式です。

企業は後日、サービス提供会社へ精算します。

 

企業側で前払い資金を用意する必要がないため、資金負担を抑えながら導入できます。一方で、サービス利用料が発生します。

 

2-2.自社払いタイプ

自社払いタイプは、企業が自社資金から直接前払いをおこなう方式です。サービス提供会社は、システムや管理機能を提供します。

 

運用の自由度が高い反面、資金管理や事務対応は自社でおこなう必要があります。

 

2-3.預託金払いタイプ

預託金払いタイプは、企業があらかじめサービス提供会社に資金を預け、その範囲内で前払いをおこなう方式です。

振込業務を委託できるため、事務負担を軽減できます。

 

【3】給与前払いサービスのメリット

給与前払い制度は、企業側・従業員側の双方にメリットがあります。

 

3-1.企業側のメリット

企業側にとって給与前払いサービスの導入は、採用力や定着率の向上、従業員満足度の改善など、組織運営において複数の効果が期待できる施策です。主なメリットとしては、以下が挙げられます。

 

・福利厚生の充実によって、求人応募が増える可能性がある
・従業員の定着率が向上する
・アルバイト・パートが集まりやすくなる
・従業員の満足度が上がることで生産性向上につながる

 

給与前払い制度は、求職者にとって「柔軟な給与受取が可能な企業」という安心感を与える制度です。
特に若年層やアルバイト層など、資金流動性を重視する層にとっては魅力的な福利厚生となります。
その結果、求人応募数の増加や応募の質の向上につながる可能性があります。

 

また、急な出費に対応できる環境があることで、従業員の経済的不安が軽減されます。
金銭的不安は離職理由の一因にもなり得るため、生活基盤を支える制度があることは定着率向上にも寄与します。

 

さらに、アルバイト・パート採用においては「すぐにお金が必要」というニーズを持つ層への訴求力が高まります。
採用競争が激化する業界では、差別化施策の一つとして機能します。

従業員が安心して働ける環境は、モチベーションの安定や業務集中度の向上にもつながります。その結果、組織全体の生産性向上やエンゲージメント向上が期待できます。

 

3-2.従業員側のメリット

給与前払い制度は、従業員にとっても生活の安定を支える制度です。主なメリットは以下の通りです。

 

・急な出費があっても対応することができる
・借入をせずに資金を確保できる
・精神的な安心感につながる

 

医療費や生活費、突発的な支出など、予期せぬ出費が発生した場合でも、すでに働いた分の賃金を前倒しで受け取ることができれば、資金繰りの不安を軽減できます。

また、借入ではないため利息は発生せず、返済義務もありません。


信用情報への登録もおこなわれないため、金融機関からの借入と比べて心理的負担が小さい点も特徴です。

給与前払いはあくまで発生済み賃金の早期受取であるため、金利負担への不安がありません。
必要なときに必要な分だけ利用できる仕組みは、生活の安定につながります。

 

【4】給与前払いサービスのデメリット

給与前払いサービスにはメリットがある一方で、運用面やコスト面で注意すべき点もあります。
導入前にデメリットを理解し、自社に適した運用体制を整えることが重要です。

 

4-1.企業側のデメリット

企業側では、導入方法によって運用負担やコストが発生する可能性があります。
給与前払いサービスはメリットがある一方で、導入形態によっては負担やリスクも発生します。主な注意点は以下の通りです。

 

・自社での運用時には経理担当者の業務が増える
・外部サービスを利用するにあたってコストが増える
・従業員のお金の管理能力が下がってしまう可能性がある

 

自社払い型の場合、申請管理や勤怠確認、振込処理などの事務作業が発生します。
従業員数が多い企業では、管理工数が無視できない負担となる可能性があります。

 

外部サービスを利用する場合は、初期費用や月額費用、振込手数料などのコストが発生します。
福利厚生施策としての効果と費用対効果を見極めることが重要です。

 

また、従業員が頻繁に利用するようになると、給与日前の資金管理意識が希薄になる懸念もあります。
制度設計や利用上限の設定など、適切な運用ルールを整備することが求められます。

 

4-2.従業員側のデメリット

従業員側にも、利用にあたって注意すべき点があります。

 

・サービス利用料や振込手数料がかかることもある

・使いすぎると常習化してしまい、自身の計画性が損なわれる

・前払いをした分だけ本来の給料日に受け取れる額が減る

 

外部サービスを利用する場合、サービスによっては1回あたりの利用料や振込手数料が発生します。
頻繁に利用すると実質的な受取額が減少する可能性があります。

 

また、前払いが常態化すると、給与日前に資金が不足する状態が慢性化するおそれがあります。
あくまで一時的な資金調整手段として活用する意識が必要です。

 

当然ながら、前払いした分は給与支給日に差し引かれます。そのため、給与日後の生活設計まで含めた計画的な利用が求められます。

 

【5】給与前払いサービスの契約手順と利用の流れ

給与前払いサービスを導入する際は、契約手順と運用フローを事前に理解しておくことが重要です。

 

5-1.サービスの契約手順

一般的には、サービス提供会社への問い合わせ、サービス内容の確認、契約手続き、システム設定の順で進みます。

 

5-2.サービス利用の流れ

従業員が申請し、承認後に指定口座へ振込が行われます。その後、企業とサービス提供会社の間で精算がおこなわれます。

 

【6】給与前払いサービスを比較するときのチェックポイント

給与前払いサービスは提供会社ごとに仕組みや費用体系、サポート体制が大きく異なります。導入後の運用負担や従業員満足度に直結するため、以下の観点から総合的に比較検討することが重要です。

 

6-1.既存システムと連携ができるか

給与計算システムや勤怠管理システムと連携できるかは、運用効率を左右する重要なポイントです。

勤怠データと自動連携できない場合、手作業で支給可能額を算出する必要があり、ヒューマンエラーのリスクが高まります。また、二重管理による業務負担も増加します。

 

API連携やCSV連携の可否、対応システムの範囲などを事前に確認しておくことが重要です。

 

6-2.初期費用や手数料の金額

費用体系はサービスによって大きく異なります。

確認すべき主な項目は以下の通りです。

 

・初期導入費用

・月額基本料金

・従業員1人あたりの利用料

・振込手数料

・立替資金に関する費用

 

企業負担型なのか、従業員負担型なのかによっても制度設計は変わります。福利厚生としての位置付けを明確にし、総コストを試算したうえで比較することが重要です。

 

6-3.従業員が使いやすいかどうか・入金までのスピード

利用画面の操作性やスマートフォン対応の有無は、従業員の利用率に直結します。

 

申請から入金までの時間も重要です。即時振込に対応しているか、平日のみ対応なのか、振込回数制限はあるかなどを確認しましょう。

 

制度は導入して終わりではなく、実際に使われてこそ価値が生まれます。UIや利便性の確認は欠かせません。

 

6-4.提供会社のサービス体制・実績

サポート体制や導入実績も重要な判断材料です。
特に、以下の項目は導入前に確認しておく必要があります。

 

・導入企業数や導入実績が豊富か
・自社と同じ業種・規模の企業への導入実績があるか
・企業担当者および従業員向けのサポート窓口が整備されているか
・個人情報保護や情報セキュリティ対策が適切に講じられているか

 

導入実績が豊富なサービスは、さまざまな企業での運用ノウハウを蓄積しているため、導入時の設定や運用トラブルへの対応もスムーズに進む傾向があります。
また、自社と近い業種や規模での導入実績がある場合、自社の運用に適した支援を受けやすくなります。

 

【7】給与前払いに関してよくある質問

給与前払い制度に関しては、多くの企業や従業員が疑問を持っています。導入前に基本的なポイントを確認しておきましょう。

 

7-1.正社員でも給与前払いは利用できますか?

はい、正社員でも利用可能です。雇用形態に関係なく、企業が制度を導入していれば利用できます。

 

7-2.給与前払いを利用するには正当な理由がないとできませんか?

一般的な給与前払いサービスでは、特別な理由は不要で利用できます。ただし、企業ごとの運用ルールに従う必要があります。

 

【8】まとめ

給与前払い制度は、従業員の生活支援と企業の採用力強化の両方に貢献する制度です。
適切なサービスを選択し、自社に合った運用体制を整えることで、採用競争力の向上や定着率改善につなげることができます。

 

導入目的と運用体制を明確にしたうえで、最適なサービスを選定することが重要です。

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