厳しい採用市場の中、ようやく獲得できた内定者から「親が反対するので辞退します」と言われた経験はありませんか。
近年、親の意向によって内定辞退されてしまうケース(親ブロック)が増えており、多くの採用担当者を悩ませています。
こうした親ブロックを防ぐためには企業としても対策を練る必要があります。
この記事では、親ブロックについて詳しく解説いたします。
親ブロックとは何か、親ブロックの例や対処法についてもご紹介しますので、ぜひご覧ください。
親ブロックとは?
親ブロックとは、就職・転職活動中の学生や求職者が、保護者から反対を受けて内定辞退することです。
また、夫または妻の意向を受けて、転職活動中止や内定辞退することを「配偶者ブロック」と言います。
親ブロックによる内定辞退が増えていることから、親ブロック対策を行う企業が増加しています。
親ブロックの背景
ではなぜ、親ブロックが増えているのか、その背景を見ていきましょう。
親ブロックが増えている主な背景は、
- 現在の価値観と親世代の価値観がズレ
- 少子高齢化による親子関係の密接化
- ブラック企業を警戒する保護者が増えた
などがあります。
現在の価値観と親世代の価値観がズレ
現在、就職活動を行う学生の親世代は、ちょうどバブル期ごろに就職活動を行っていた世代です。
当時から30年以上が経過し、日本経済や企業を取り巻く環境は大きく変わりました。
現代は会社のブランドや知名度よりも、仕事内容などを重視する傾向が当時よりも強くなっています。
また、大手企業でも将来的な安定は難しいと考える学生も増えています。
しかし、バブル期ごろの就職活動では、大手企業や有名企業であることが重視されており、当時の価値観を引きずった親世代は、子どもが“知らない企業”や“規模の小さな企業”に進むことを受け入れられない傾向にあります。
少子高齢化による親子関係の密接化
引用:内閣府「出生数、合計特殊出生率の推移」
1970年代前半の第二次ベビーブームを境に、子どもの出生数は減少し続けています。
一人っ子や兄弟の少ない家庭が増えたことで、従来よりも親子関係が密接になった結果、子どもの進路への関心が高まっているのです。
ブラック企業を警戒する保護者が増えた
近年、長時間労働やパワハラといった、就業環境に大きな問題を抱えた「ブラック企業」の存在が、広く認知されるようになりました。
企業規模の大小にかかわらず、就業環境を気にする親が増えたことも、親ブロックが増えた要因と言えるでしょう。
親ブロック対策の必要性
株式会社ネオキャリアが行った「就職活動における「企業」と「親」」の調査によると、
「内定を出した新卒生が親の意向で内定辞退を申し出てきたことがある」と回答した企業⇒9%
「新卒生の親の関心が高まっている」と回答した企業⇒3%
という結果が出ています。
そもそも、採用活動は「求人広告への掲載」や「説明会の開催」、「採用担当者の人件費」など、様々なコストが発生するため、新卒1人採用するのに平均50万円程度かかります。
ようやく採用できても内定辞退されてしまえば、それまでかけてきた手間とコストがすべて無駄になるのです。
このように、企業にとって大きな損失となる内定辞退が、親の意向で発生しているケースが増えているため、「親ブロック」への対策は必要不可欠と言えるでしょう。
親ブロックの例
では、どういったパターンがあるのか、親ブロックの例を見ていきましょう。
例1.子どもが親元から離れるのが嫌
-
「総合職は転勤があるから、やめて。実家から通えるところにしなさい。」
-
「商社なんて海外転勤させられるかもしれないのだから、やめておきなさい。」
例2.業界への偏見から反対される
-
「○○業界は世間体が悪いからやめなさい。」
-
「あの業界は残業が多いからやめておきなさい。」
例3.リスクの低い人生を送ってほしい
-
「外資系やベンチャーは、不安定だからやめておきなさい」
-
「大手なら安定しているから、就職するなら大手企業にしなさい」
-
「大手企業じゃないなら公務員にしなさい」
親が反対する理由とは?
親ブロックのパターンが分かったところで、なぜ、親は子どもの内定に反対するのでしょう。
ここでは、パターンごとの理由をご紹介します。
子どもが親元から離れるのが嫌
商社や総合職など、全国転勤があり得る業界・職種へ就職すると、遠方の地に転勤させられる可能性があります。
このパターンの場合、親は自分たちの介護や、子どもが一人離れて暮らすことに不安を感じて反対するのです。
特に、地方出身者や女性は、親元から離れて生活することに難色を示される傾向にあります。
業界への偏見から反対される
内定先の企業ではなく、業界について難色を示している場合、親の抱いている業界のイメージが原因で反対しているのかもしれません。
近年は、長時間労働による自殺やパワハラ、セクハラといった、企業の就業環境が問題となるケースが多く取り上げられたこともあり、親の意識も変わってきています。
そのため、「あの業界は上下関係の厳しい体育会系が多い」、「○○業界は残業が多い」のように、イメージが先行して反対している可能性があるのです。
リスクの低い人生を送ってほしい
マイナビの行った「就職活動に対する保護者の意識調査」によると、子どもに入社してほしい企業の特徴は、
経営が安定している(2%)
本人の希望や意志に沿っている(7%)
福利厚生が充実している(1%)
と、安定性を求める回答が突出しています。
引用:マイナビ「就職活動に対する保護者の意識調査」
また、同調査によると、子どもに働いてほしい企業は、
公務員(170ポイント)
トヨタ自動車(36ポイント)
NTT(18ポイント)
日本航空(JAL)
パナソニック(13ポイント)
という結果が出ています。
既に大企業安定神話は崩壊していますが、名だたる企業が上位を占めていることからも分かるように、親世代は「大企業=安泰」と考えている傾向にあるのです。
つまり、リスクの低い人生を送ってもらうために、子どもが公務員や経営の安定している企業に勤めることを望んでいるのです。
親ブロックの対処法とは?
親ブロックのパターンと、親が反対する理由について分かりました。
ここでは、その対処法についてご紹介していきます。
親ブロックに対処するには、内定者の親に内定承諾の確認「オヤカク」を行うことが重要です。
オヤカクとは、新卒採用における新用語で、内定承諾した学生に対して「親からも同意を得ているか」と確認をする行為のことを言います。
しかし、オヤカクを行ったからといって、必ずしも承諾を得られるとは限りません。
そのため、オヤカク対策として
- 会社案内や自社商品を親へ送付する
- 採用ホームページに「親向け」ページを開設する
- 親向けの会社説明会を開催する
- 内定式の様子を写真や動画で親へ送付する
- 内定者懇親会や食事会に親も招待する
- 経営者や採用担当者による家庭訪問を実施する
を行い、内定者の親の信頼を勝ち取ることがポイントとなります。
会社案内や自社商品を親へ送付する
先述している通り、内定者の親は企業に安定や安心を求めています。
誰もが知るような大企業は別ですが、我が子の就職先が聞いたこともない会社であったら、「どういう会社なのだろう?」「きちんとした会社なのだろうか?」と思うのは当然でしょう。
会社案内(パンフレットやDVDなど)や自社商品を内定者の親に送れば、「自社がどういった会社なのか」理解を深めてもらうことができます。
企業によっては、保護者の信頼を獲得するために、会社の現状や内定出しした経緯を手紙に書いて同封することもあります。
採用ホームページに「親向け」ページを開設する
採用ホームページに「親向け」のページを開設することも有効です。
親は子どもの就活状況や応募している企業について関心を持っていますし、企業名を聞いたら、ほとんどの親はインターネットで検索します。
そのため、
- 社員の姿や会社の雰囲気
- 詳細な仕事内容
- 親向けのメッセージ
などについて書かれていると、企業への理解が深まります。
親向けの会社説明会を開催する
親向けの会社説明会を開くことで、誠実さや真剣さをアピールすることができます。
一昔前では考えられないことですが、最近では親向けもしくは、親同伴の会社説明会を実施する企業も増加傾向にあります。
実際、愛媛県を中心に店舗展開している伊予銀行では、就活生の親を対象とした会社説明会を実施しており、評判も良いようです。
伊予銀行の会社説明会では、自社への理解を深めてもらえるよう、
- 事業内容
- 福利厚生
- 就活スケジュールの流れ
といったプログラムが組まれています。
また、今後はオンラインでの会社説明会も増えてくると考えられますが、オンラインの場合は記録が残るため、発言内容には十分注意する必要があるでしょう。
内定式の様子を写真や動画で親へ送付する
内定式の様子を写真や動画で親へ送付することも有効と考えられます。
オヤカク対策の多くは、内定辞退を防ぐために行われますが、入社後であっても親の意向で早期離職する場合もあります。
内定式の様子が分かる写真や動画を親が見ることで、子どもの働く環境を具体的にイメージできるため、安心感につながるのです。
また、内定者の実家に郵送するだけでなく、FacebookなどのSNSで公開している企業もあります。
内定者懇親会や食事会に親も招待する
内定者懇親会や食事会に親を招待することも有効です。
企業理解を促進するために、
- 経営ビジョン
- 事業内容
- 仕事内容
- 職場紹介
などを詳しく説明した上で、経営者や従業員、他の内定者と交流できる機会の場を提供している企業も増えています。
経営者や採用担当者による家庭訪問を実施する
経営者や採用担当者が内定者の家を訪問し、親と直接話すことで真摯な姿勢を感じてもらえます。
親は子どもの就職に不安を感じているため、経営者や採用担当者が
- 事業内容
- 仕事内容
- 会社の取り組み
といった、企業理解を促進する内容を中心に説明することが多いです。
また、家庭訪問をすると、親から内定者の生い立ちや人柄を聞くことができるため、教育方針決定の参考にもなります。
家庭訪問を通して両親との関係性を構築することができれば、子どもが辛い時に「もう少しあの会社で頑張りなさい」と応援してくれるようになるため、早期離職の防止にもつながるでしょう。
親ブロック対策で内定辞退を防止
約5割の企業が「親ブロック」を経験していることから、今や親ブロックへの対策は必須と言えるでしょう。
親ブロックは、子どもの内定先企業への理解不足が原因であることが多いため、「自社がどういった会社なのか」を親に説明することがポイントです。
今後はますます少子高齢化が進んでいくため、「内定者フォロー+親ブロック対策」が重要になっていくでしょう。