従業員の退職手続きと流れ、注意点をご紹介

従業員が退職する際は、社会保険や雇用保険の喪失手続きなど、様々な手続きを行う必要があります。

 

手続きの期限が決まっているものもあるため、対応が遅れると退職した従業員や転職先の企業に迷惑をかけてしまうことになります。

 

退職した従業員が新しい生活をスムーズに始められるようにするためにも、退職時の流れや手続きについて把握しておきましょう。

 

従業員に渡すもの、回収するもの、注意点についてもご紹介しますので、ぜひご覧ください。

 

本記事は2021年9月時点の記事です。

法令などにより内容が変更となることもあるため、日本年金機構や厚生労働省のホームページをご確認ください。

 

▼日本年金機構

https://www.nenkin.go.jp/

▼厚生労働省

https://www.mhlw.go.jp/index.html

 

従業員が退職する際の流れと手続き

従業員が退職する際の一般的な流れは、

  • 退職届を提出してもらう
  • 健康保険任意継続希望について確認する
  • 住民税徴収方法について確認する
  • 有給取得の意思確認
  • 貸与品の返却
  • 退職証明書の交付(希望者のみ)
  • 社会保険の喪失手続き
  • 雇用保険の喪失手続き
  • 住民税の手続き
  • 源泉徴収の交付

です。

 

退職届を提出してもらう

雇用保険の届出書作成にあたって、退職理由(自己都合or会社都合)が必要となるため、退職が決まった従業員には、退職届の提出を促しましょう。

 

ただし、退職届は法律で定められたものではないので、従業員から拒否されることもあります。就業規則に退職届に関するルールを明示しておくとトラブルを未然に防止できます。

 

健康保険任意継続希望について確認する

健康保険の任意継続(任意継続保険者制度)とは、退職後も最長で2年間被保険者資格を有することができる制度です。

 

通常健康保険は、労働者の退職によって被保険者資格が喪失されるため「国民健康保険への切り替え」もしくは「健康保険の任意継続」をする必要があります。

 

国民健康保険へ切り替えるには、「健康保険被保険者資格喪失確認通知書」が必要となるため、健康保険の加入継続を希望するか、意思確認をしましょう。

 

健康保険の任意継続をする場合、これまで折半だった保険料が全額労働者側の負担となるため、保険料負担の割合が変わることも伝えておくと親切です。

▼任意継続の条件

  • 被保険者だった期間が退職日までに2カ月以上継続してあること
  • 退職日の翌日から20日以内に「任意継続被保険者資格取得申請書」を退職者が提出すること

 

住民税徴収方法について確認する

住民税の徴収方法は、

  • 特別徴収…12分割された住民税を毎月給与天引きで支払う方法
  • 一括徴収…住民税の未納分を最後の給与や退職金から一括で支払う方法
  • 普通徴収…住民税を3カ月ごとの4分割で支払う方法

の3種類です。

 

給与所得者は「特別徴収」となるため、1年分の住民税を6月~翌年5月まで12回に分割して徴収されています。

 

よって、従業員の退職にあたって徴収方法を変更する必要があります。

 

原則的な徴収方法】

退職日 徴収方法
1月~4月 一括徴収
5月 特別徴収
6月~12月 普通徴収or一括徴収

 

 

1カ月以内に他社へ入社する場合は、転職先での給与天引き(特別徴収の継続)を選択することも可能です。

 

ただし、特別徴収の引き継ぎは自動で行われるものではありません。

 

従業員が特別徴収の継続を希望している場合は、従業員自身で直接新しい職場に依頼する必要があることを伝えましょう。

 

なお、いずれの徴収方法であっても「給与支払報告に係る給与所得者異動届」の作成は必要です。

 

有給取得の意思確認

有給休暇を保有している従業員には、退職が決まった段階でいつからいつまで取得するのか、有給取得の意思確認をしましょう。

 

通常は、引き継ぎなどに必要な日数と有給休暇消化のための日数を踏まえた退職日を設定します。

 

とはいえ、中には十分な日数を確保できず、退職までに取得しきれない場合もあるでしょう。

 

退職時においては、例外的に有給休暇の買い取りが認められているため、退職までに有給消化できない場合は未消化分を買い取ることできます。

 

ただし、就業規則などで退職時の有給休暇買い取りを義務として規定している場合を除き、

 

企業に有給休暇の買い取り義務はありません。

 

労働者側とのトラブルを避けるためにも、普段から有給休暇を取得しやすい環境に整えておきましょう。

 

社会保険資格喪失手続き(健康保険・厚生年金保険)

労働者は退職することで健康保険と厚生年金の社会保険資格を喪失します。

 

従業員が社会保険の任意継続を希望しない場合、企業は従業員の退職後5日以内に「健康保険・厚生年金被保険者資格喪失届」を年金事務所に提出しなくてはなりません。

 

必要な書類は、

  • 健康保険・厚生年金被保険者資格喪失届
  • 退職者の健康保険証
  • 被扶養者の健康保険証(配偶者や子どもなどの被扶養者がいる場合)

です。

 

社会保険資格喪失手続きには、健康保険証の返却を求められます。

 

「高齢受給者証」や「健康保険限度額適用・標準負担額減額認定証」「健康保険特定疾病療養受給者証」が交付されていることもあるため、これらも忘れずに回収しましょう。

 

紛失など何かしらの理由で回収できない場合は、「健康保険被保険者証回収不能届・滅失届」を提出する必要があります。

 

事務所を管轄する年金事務所の窓口で提出できる他、郵送や電子申請の提出も可能です。

【注意点】

提出後は喪失届の控えを保管しておきましょう。労働基準監督署から提出を求められることもあります。

 

社会保険料は日割りで計算されません。

社会保険の資格喪失日は退職日の翌日であり、資格喪失日の前月まで保険料が発生します。月末を退職日とした場合、退職月とその前月の2カ月分の社会保険料を退職月の給与から控除することになるため、注意が必要です。

 

例えば、12/31が退職日の場合、資格喪失日は1/1となるため、11月分と12月分の保険料を控除しなくてはなりません。

しかし、12/30であれば12月中に資格を失うため、控除するのは前月の11月分までです。

 

雇用保険資格喪失手続き

雇用保険の喪失手続きは、退職日の翌日から10日以内に管轄のハローワークへ届け出をします。

 

雇用保険喪失手続きがされていない場合、退職者が転職先で雇用保険に加入できなくなってしまうため、迅速に手続きを行いましょう。

 

必要な書類は、

  • 雇用保険被保険者資格喪失届
  • 雇用保険被保険者離職証明書
  • 労働者名簿
  • 賃金台帳
  • 出勤簿
  • 退職届
  • 離職証明書(労働者が離職票交付を希望しない場合を除く)

です。

 

「雇用保険被保険者離職証明書」は、失業保険の給付額決定に必要な書類です。

 

そのため、すでに次の就職先が決まっているなど、従業員が離職票の交付を必要としていない場合、提出する必要はありません。

 

ただし、退職する従業員が59歳以上の場合、本人の希望にかかわらず離職票を交付する必要があります。

 

離職証明書を作成したら、本人に記載内容を確認してもらった上で署名・押印をもらいましょう。

 

管轄のハローワークの窓口で提出できる他、郵送やオンラインでの申請も可能です。

【注意点】

「雇用保険被保険者資格喪失届」や「雇用保険被保険者離職証明書」の内容によって、基本手当の受給内容が変わってくるため、正確に記載してください。

 

特に、離職理由は給付制限期間が大きく異なります。

会社都合退職の場合、最短7日後から給付を受けられますが、自己都合退職の場合、3カ月間は給付を受け取れません。

 

 

住民税の手続き

給与所得者の徴収方法は、12分割した住民税を給与天引きで納付する「特別徴収」が原則です。

 

そのため、従業員が退職したら、退職日の翌月10日までに「給与支払報告に係る給与所得者異動届書」を居住地の市区町村へ提出する必要があります。

 

【原則的な徴収方法】

退職日 徴収方法
1月~4月 一括徴収
5月 特別徴収
6月~12月 普通徴収or一括徴収

住民税には3種類の徴収方法があり、退職日に応じた徴収方法で納付するのが原則です。

 

なお、当該従業員が転職先での給与天引き(特別徴収の継続)を希望している場合は、自分で直接転職先に依頼するようを伝えましょう。

 

手続きを行うのは転職先の企業ですが、「給与所得者異動届出書」の作成は必要です。

 

必要事項を記入したら当該従業員の新しい勤務先へ回付してください。

【注意点】

市区町村によって様式が異なるため、当該従業員が住んでいる地域の届出書を入手する必要があります。

一括徴収の場合、未納額分の住民税が退職金や最後の給料から差し引かれることになるため、事前に説明しておきましょう。

 

源泉徴収票の交付

従業員が退職する場合、1月1日~退職日までの給与にもとづいた「給与所得の源泉徴収票」を退職後1カ月以内に交付する必要があります。

 

退職源泉と呼ばれており、当該従業員へ交付する他、当該従業員の住所地の市区町村にも提出しなくてはなりません。市区町村への提出は翌年の1月末までです。

【注意点】

給与所得の源泉徴収票に退職金を合算することはできません。

そのため、退職金を支給した場合、「給与所得の源泉徴収票」と「退職所得の源泉徴収票」を別々に発行する必要があります。

 

従業員から回収するもの

退職する従業員から回収するものには、

  • 退職届
  • 保険証
  • 貸与品

などが挙げられます。

 

退職届

退職届は、退職の可否にかかわらず自分の退職を一方的に通告する書類です。

 

一方、退職願は退職を願い出る書類なので、企業側が却下することもできます。

 

民法第627条では、労働者には退職の自由が認められています。

 

「期間の定めがない雇用の場合、退職の申し入れから2週間が経過すると終了する」と定められているため、企業側の承諾が不要な退職届を出されると却下できません。

 

とはいえ、業務の引き継ぎが必要になることから、就業規則に1カ月前までの提出を規定している企業が多いです。

 

保険証

従業員の退職をもって健康保険の被保険者資格が喪失されます。

 

健康保険の任意継続をする場合も健康保険証は変更されるため、任意継続をするかどうかにかかわらず、保険証を回収しましょう。

 

当該従業員に扶養している家族がいる場合は、被扶養者の保険証も回収する必要があります。

 

貸与品

従業員に貸与しているものがあれば、忘れずに返却してもらいましょう。

 

例えば、

  • 社員証
  • 社章
  • 名刺
  • 通勤定期券
  • 制服
  • デバイス(PC・スマートフォンなど)
  • 書類やデータ
  • 顧客情報(名刺など)

といったものが挙げられます。

 

顧客データや機密情報を自宅に持ち帰って作業しているケースもあるでしょう。

 

情報漏洩すると大きな問題に発展するため、残さず返却させることが重要です。

 

退職する従業員に「提出・返却リスト」を渡しておくと、抜け漏れを防ぐことができます。

 

従業員に渡すもの

従業員に渡す書類には、失業給付手続きや再就職で必要となる重要な書類が多々あります。

 

抜け漏れがあると多方面に迷惑をかけることになるので、注意が必要です。

 

従業員に渡す書類は、

  • 離職票
  • 雇用保険被保険者証
  • 源泉徴収票
  • 健康保険被保険者資格喪失確認通知書
  • 退職証明書
  • 年金手帳

です。

 

離職票

離職票は、失業給付を受給するときなどに必要な書類です。

 

再就職先が決まっている場合や本人が希望していない場合、発行する必要はありません。

 

ただし、退職者が59歳以上の場合は本人の意向にかかわらず発行します。

 

本人が希望しているにもかからず、会社都合で離職票を発行しない場合、6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金を課される可能性があるため、注意が必要です。

 

雇用保険被保険者証

雇用保険被保険者証は、失業給付の受給や再就職先での雇用保険加入時に必要な書類です。

 

会社で保管しているケースが多いため、退職日に手渡しするか後日他の書類と一緒に郵送しましょう。

 

源泉徴収票

源泉徴収票は、給与やボーナス、退職金といった支給額と、所得税の金額が記載された書類です。

 

再就職先で年末調整を受けるときや、再就職せずに自分で確定申告をするときに必要となります。

 

退職後、1カ月以内に交付しましょう。

 

健康保険被保険者資格喪失確認通知書

健康保険被保険者資格喪失確認通知書は、加盟していた社会保険の被保険者資格を失ったことを証明する書類です。

 

国民健康保険への切り替え手続きを行う際に必要となります。

 

健康保険・厚生年金被保険者資格喪失届を提出すると、「健康保険被保険者資格喪失確認通知書」が発行されます。

 

年金事務所から届いたら、退職者に送付しましょう。

 

退職証明書

退職証明書は、業務の種類や使用期間、賃金、退職理由などが書かれている書類で、退職したことを証明するものです。

 

企業によっては、転職者に退職証明書の提出を求めることもあります。

 

労働基準法では、退職者が退職証明書を請求した場合、企業は遅滞なく交付しなければならないと定められています。

 

手続きを怠った場合は法令違反となるため、退職者から求められた場合は早急に対応しましょう。

 

年金手帳

雇用時年金手帳を預かる企業も多いでしょう。

 

年金手帳は、転職の際や失業中の国民年金の種類を変更する際に必要となる重要な書類です。

 

従業員が退職する際は忘れずに返却してください。

 

退職時の対応での注意点

従業員によって退職時の対応は異なります。

 

ここでは、退職時の対応で注意が必要なケースについてご紹介いたします。

 

財形貯蓄をしている場合

財形貯蓄は、従業員の財産形成を支援する制度で福利厚生の一つです。

 

給与やボーナスから一定の金額を天引きし、定期預金や財形保険などの金融商品で積み立てます。

 

財形貯蓄には「一般財形貯蓄(使途自由)」「財形住宅貯蓄(住宅購入目的)」「財形年金貯蓄(老後の年金)」の3種類があります。

 

財形貯蓄は転職先でも継続するかどうかで対応が異なるため、本人の意思を確認した上で対応方法を指示しましょう。

 

転職先に財形貯蓄制度がある場合、退職から2年以内に手続きを行えば継続可能です。

 

同一金融機関を利用する場合は「勤務先異動申告書」、他の金融機関に変更する場合は「転職等による財形貯蓄継続適用申告書」を転職先企業で行います。

 

転職先で財形貯蓄を扱っていない場合や退職後2年以内に就職しない場合、原則として財形貯蓄は解約することになります。

 

財形年金貯蓄や財形住宅貯蓄は、退職後一定期間経過後から課税扱いとなるため、注意が必要です。

 

社内融資を利用している場合

社内融資は、住宅取得などによる資産形成を支援するために企業が設けている融資制度です。

 

一般的には、勤続年数や年齢に応じて貸し付け枠が設けられています。

 

会社から融資を受けている場合は、退職時の一括返済が原則です。

 

返済期間や残額を本人にも伝え、一括返済に向けて所定の手続きを行います。

 

場合によっては、当該従業員に金融機関からの借り入れをお願いすることもあるでしょう。

 

外国人従業員の場合

外国人従業員の退職手続きは、基本的に日本人従業員と同じです。

 

ただし、

  • 外国人雇用状況届出書の提出
  • 退職証明書の交付

を忘れずに行いましょう。

 

外国人の新規雇い入れ・離職時には、管轄のハローワークへ「外国人雇用状況届出書」提出することが義務づけられています。

 

届出の期限は、雇用・離職の場合ともに翌月末日までです。

 

退職証明書は、在留期間の更新や在留資格変更といった手続きを行う際に必要となるため、必ず発行しましょう。

 

また、退職や転職に伴い、当該従業員が自分で行わなければならない手続きもあります。

 

把握していない可能性もあるため、どういった手続きが必要となるのか伝えましょう。

 

具体的には、

  • 所属機関等に関する届出(退職・転職した場合)
  • 国民年金や厚生年金の脱退一時金の請求手続き(帰国する場合)」

などです。

 

退職手続きは迅速に行いましょう

従業員が退職する際は、「社会保険」「雇用保険」「住民税」「所得税(源泉徴収)」に関する手続きを行います。

 

法令により手続きの期限は決まっていますが、退職した従業員がスムーズに新生活をスタートできるよう、早めに対応するのが望ましいです。

 

また、年金手帳などの必要書類を渡すとともに、退職届や健康保険証、貸与物の回収も忘れずに行いましょう。

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