ダイバーシティが広まるにつれて、インクルージョンという言葉を頻繁に耳にするようになりました。

 

しかし、「インクルージョンとは何か」「なぜ近年注目されるようになったのか」「ダイバーシティとの関連性が分からない」方も多いでしょう。

 

そこでこの記事では、インクルージョンの概要や重要視されるようになった背景、メリットについて解説いたします。

 

また、インクルージョン推進の注意点やポイント、事例についてもまとめています。

 

インクルージョンとは

インクルージョンとは、「包括」「包含」「受容」といった意味を持つ言葉です。

 

ビジネスの場面では、従業員一人ひとりが互いを認め合い、一体感を持って共に働いている状態を指します。

 

つまり、人種や国籍、性別、ライフスタイル、価値観、考え方など、あらゆる違いを受け入れ、それぞれの能力やスキルが組織内で活かされている状態です。

 

ビジネスにおいては、ダイバーシティに欠かせない考え方として広がりました。

 

インクルージョンの語源

元来インクルージョンは、宝石が出来上がるまでの過程で取り込まれた不純物を指します。

 

「天然石は成長過程や周辺環境によって特徴が異なる」という考えにもとづいて発展させたのが、1980年代のヨーロッパで掲げられた「ソーシャル・インクルージョン(社会的包摂)」です。

 

失業者や障がい者など、社会的に排除されてきた人々との経済的格差を是正するために、社会全体で彼らを受け入れ、支えるソーシャル・インクルージョンの必要性が高まりました。

 

また、インクルージョンは、教育分野における機会均等の達成にも取り入れられています。

 

アメリカを中心とした欧米では、障がいの有無に関係なく、すべての子どもたちが通常学級で個々に合った教育を受けられる「インクルージョン教育(インクルーティブ教育)」が行われています。

 

ダイバーシティ&インクルージョン

働き方改革の推進にも盛り込まれている「ダイバーシティ」と「インクルージョン」は、切っても切れない関係にあります。

 

ここでは、ダイバーシティとは何か、インクルージョンとの関係性について見ていきましょう。

 

ダイバーシティとは

ダイバーシティとは、多様性を意味する言葉です。

 

人種や国籍、性別、年齢、価値観、ライフスタイルなどに関係なく、多様な人材を積極的に採用・活用しようとする取り組みを指します。

 

具体的には、

  • 定年の延長やシニア層の雇用
  • 外国人の雇用
  • 障がい者の雇用
  • 女性の活用
  • 短時間勤務やダブルワーク

などです。

 

テクノロジーの進化に伴うグローバル化や消費者のニーズの多様化といった変化に対応するべく、ダイバーシティ推進に注力する企業は増加傾向にあります。

 

インクルージョンとの関係性

ダイバーシティは“人材の多様化”を目的としているため、形だけの取り組みでは対立や誤解、生産性の低下といったリスクが高まります。

 

また、多様な人材を獲得できても企業側の受け入れ体制が不十分な状態では、早期離職リスクが高まりかえって組織の弱体化を招くことになります。

 

一方、インクルージョンの目的は“受容と活用”です。

 

互いの個性を受け入れて能力を発揮できる状態を指すため、似通ったタイプばかりの企業では、インクルージョンを推進しても大した効果は得られないでしょう。

 

このように、ダイバーシティとインクルージョンは相互補完の関係にあるため、どちらか1つだけ推進しても、効果を十分に引き出すことはできません。

 

「ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)」は、従業員の個性を認めて受け入れ、それを活用することで組織の成長を推進する取り組みです。

 

両方の施策を行うことで、高い効果を発揮することができるため、同時に推進することが重要となります。

 

なお、ダイバーシティ&インクルージョンは、SDGs(持続可能な開発目標)全体の理念である「誰一人取り残さない」にも共通します。

 

 

なぜインクルージョンが重要視されているのか

ここでは、なぜインクルージョンが重要視されるようになったのか、背景についてご紹介いたします。

 

労働市場の流動化

引用:中小企業庁「2 人材の定着」

引用:中小企業庁「2 人材の定着

 

終身雇用や年功序列といった日本独自の雇用慣行の終焉によって「就職したら勤め上げる」という価値観は薄まり、転職が珍しいものではなくなりました。

 

実際、中小企業庁の調査によると、3年以内の離職率は中途採用者で約3割、新卒採用では約4割にも上ります。

 

ミスマッチや人間関係のトラブルなど、早期離職の理由は様々ですが、いずれにしても早期離職はコスト増大や組織の成長を阻む要因になります。

 

従業員一人ひとりが能力・スキルを最大限発揮し、自社で長く活躍できるようにするには、互いを受け入れ合う機会や風土づくりが欠かせません。

 

競争の激化

テクノロジーの発展に伴い、グローバル化や消費者ニーズの多様化・複雑化が進んでいます。

 

少子高齢化が進む日本のマーケットは縮小傾向にあるため、海外進出を目指す企業も多いでしょう。

 

企業が生き残るには、日本国内だけでなく様々な国の企業と競争しなくてはなりません。

 

また、多様化・複雑化した消費者ニーズに応え続けなくてはならないため、多角的な視点や意見が必要です。

 

様々なバックグラウンドを持つ多様な人材が、それぞれの視点から自由に意見を出し合うことができれば、新たなアイデアや埋もれていた課題を発見することも可能でしょう。

 

ダイバーシティの普及

経済産業省「2050年までの経済社会の構造変化と政策課題について」

引用:経済産業省「2050年までの経済社会の構造変化と政策課題について

 

少子高齢化の進む日本では、労働の主力である「生産年齢人口(15~64歳)」が減少し続けています。

 

このままの状態が続けば、当然日本経済は立ち行かなくなりますし、すでに人材不足に苦しんでいる企業は多いです。

 

しかし、介護や育児でフルタイム労働ができない人、国籍、年齢、障がいなどの理由から就業機会に恵まれない人は数多く存在します。

 

そこで、あらゆる人に就業機会を提供して労働力を確保するために、ダイバーシティが普及していきました。

 

とはいえ、ただ「女性の管理職を増やす」「外国人の採用比率を高める」のように、形だけ取り組んでも意味がありません。

 

管理職になるには相応の能力やスキル、マインドが必要ですし、外国人を受け入れるには、周囲の理解やスムーズに業務ができる環境を整える必要があります。

 

形だけのダイバーシティは、イノベーションの創出や競争力の強化といったメリットを打ち消すだけでなく、周囲との軋轢やハラスメントなどのトラブルにつながります。

 

多様な人材が自らの力を最大限に発揮して活躍するには、インクルージョンが必要となるため、ダイバーシティの普及とともに重要性が高まったのです。

 

インクルージョンを推進するメリット

では、インクルージョンを推進するとどのようなメリットを得られるのでしょうか。

 

エンゲージメント向上

従業員一人ひとりの価値観や意見を尊重すると、「大切にしてもらっている」「必要とされている」と感じるようになるため、エンゲージメントが向上します。

 

エンゲージメントが向上すればモチベーションも上がるため、自主的に業務の効率化を考えたり、職場内でのコミュニケーションを積極的に行ったりするようになるでしょう。

 

業績アップ

従業員一人ひとりが自分の強みや経験を活かせる環境で働けるようになれば、パフォーマンスが向上して生産性が上がるため、業績アップにつながります。

 

また、インクルージョンによって多様な人たちが意見を言い合える環境になると、社内コミュニケーションが活発になります。

 

アイデアやイノベーションが創出されやすくなりますし、ニーズの多様化にも柔軟に対応できるため、企業の競争力も強まるでしょう。

 

人材確保に有効

働きがいを持って活躍できる環境を得た従業員は、企業への貢献意欲や就業意欲を高く保てるようになるため、長期就労を期待できます。

 

勤務体制や評価制度などを整備して働きやすい環境を提供できれば、必然的に定着率は向上するでしょう。

 

ダイバーシティ&インクルージョンへの取り組みは、SDGsの一環にもなるため、求職者に自社の優位性をアピールすることが可能です。

 

近年の求職者はSDGsや働き方の柔軟性、能力の発揮を軸に就職・転職先を決める層が多いため、採用においても効果を発揮します。

 

インクルージョンの注意点

ここでは、インクルージョンを推進する上での注意点についてご紹介いたします。

 

手間や時間がかかる

インクルージョンは、会社から受け入れられているという安心感や満足感を持ち、能力を発揮できる状態にあることです。

 

そのため、まずは従業員の意識を変え、多様性を受け入れて一体感のある組織風土や文化を醸成しなくてはなりません。

 

また、多様な人材に長く活躍してもらうには、勤務体制や制度、人事制度などを整備する必要があります。

 

このように、インクルージョンを推進するには手間や時間がかかることを、念頭に置いておきましょう。

 

推進度合いが見えにくい

ダイバーシティの場合、属性別の採用比率や管理職の比率などで推進度合いを図ることができます。

 

しかし、意欲や満足度といった推進度合いは数値化しづらいため、目標設定や成果の判断が困難です。

 

個別面談やアンケート調査、従業員満足度調査などで推進度合いを測れるよう、工夫しましょう。

 

全員に正しい知識を身につけさせる必要がある

インクルージョンは組織全体で取り組むものなので、他人事と考えている状態で行っても効果を発揮しません。

 

インクルージョンを「特定の人材を優遇するもの」と、誤った認識を持っている人もいます。

 

理解できていない状態で進めても、不満や不平等感から軋轢を起こすこともあるため、まずは従業員全員に正しい知識を身につけてもらうことが重要です。

 

インクルージョン推進の目標やビジョンを明確にすると、トラブル防止に役立ちます。

 

インクルージョン推進のポイント

インクルージョンの効果を最大限発揮するために、押さえておきたいポイントについてご紹介いたします。

 

目標やビジョンを共有する

インクルージョンを実現するには、従業員全員の理解と協力が欠かせません。

 

従業員の理解や協力を得るには、目標やビジョンを明確にした上で「なぜインクルージョンを推進する必要があるのか」をしっかりと説明することが重要です。

 

どれほど取り組み内容やメリットを伝えても、ビジョンや推進する理由について十分説明できていなければ、従業員の協力を得ることは難しいでしょう。

 

インクルージョンへの理解を促進させて意識を変える

ダイバーシティやインクルージョンは、「マイノリティのための施策であり、自分には関係ない」と考える人も存在します。

 

特定の人を優遇する施策だと認識したままインクルージョンを進めても、積極的に取り組んで貰えません。

 

また、不満や不平等感を募らせる従業員も出てくるでしょう。

 

そのため、経営陣や人事担当者だけでなく、従業員全員がインクルージョンを正しく理解し「多様性の受容と活用が重要な取り組みである」と認識してもらうことが重要です。

 

ダイバーシティ&インクルージョンの研修などを実施して、理解促進を促しましょう。

 

制度や体制の整備

組織の多様性を引き出し、様々な人材に長期間活躍してもらうには、制度や体制を整えることが重要です。

 

例えば、

  • テレワークの導入
  • 短時間正社員制度の導入
  • 時間単位の有給取得
  • 人事制度の見直し
  • 人事管理システムの導入
  • バリアフリー化
  • カフェテリアプラン(自分で選べる福利厚生)の導入

などが挙げられます。

 

様々な人材が働きやすい環境を整備する必要があるため、「マイノリティの優遇だ」と捉えられないよう、それぞれの立場に立って考え、バランスよく調整しましょう。

 

 

心理的安全性の向上

心理的安全性とは、メンバー全員が不安や恐怖を感じずに、自由に発言・行動できる状態のことです。

 

心理的安全性の高い職場は、従業員同士の意見交換が活発になるため、コミュニケーションが円滑になります。

 

多様な人材を雇用できても、各々が能力を発揮できないようでは意味がありません。

 

インクルージョンの推進には、遠慮なく発言できる風土や活発なコミュニケーションによる相互理解の促進が不可欠なため、心理的安全性の向上が重要となります。

 

 

インクルージョンの取り組み事例

他企業ではどのような取り組みを行っているのでしょうか。

 

他社の取り組みを参考に、インクルージョン推進のヒントを得ましょう。

 

ジョンソン・エンド・ジョンソン株式会社

医療関連製品やベビー製品などを取り扱うジョンソン・エンド・ジョンソンでは、ダイバーシティ&インクルージョンの推進を経営の重要課題と位置づけ、様々な取り組みを行っています。

 

具体的には、

  • 慶弔見舞金
  • 産前・産後休暇、育児休業
  • 妊娠期間中の業務調整
  • 子の看護休暇
  • 介護休暇、介護休業
  • ホームヘルパー費用補助
  • 在宅勤務
  • 短時間勤務

など、仕事と育児・介護の両立を促す制度です。

 

また、女性のリーダーシップ開発を目的とした「WLI (Women’s Leadership & Inclusion)」や「Open&Out」によるLGBTに関する啓発活動にも取り組んでいます。

 

三井住友海上火災保険株式会社

大手保険会社の三井住友海上では、ダイバーシティ&インクルージョンをベースとした、「働き方改革」「健康経営」「プロフェッショナリズムの浸透による専門性の強化」を推進しています。

 

具体的な取り組み内容は、

  • 育児・介護と仕事の両立支援(各種休暇、短時間勤務、フレックス勤務、在宅勤務など)
  • 女性管理職養成の研修プログラム
  • 自律的なキャリア形成支援
  • 障がい者の職場定着を支援する「チームWITH」の設置
  • グローバル人材の活躍を推進する制度(海外雇用社員向けの研修制度など)
  • LGBTへの理解促進の取り組み(人権啓発研修、福利厚生制度の拡大適用など)

です。

 

また、全従業員がダイバーシティ&インクルージョンへの理解を深め、意識・行動を見直す機会を提供するために、定期的にセミナーも開催しています。

 

株式会社IHI

社会インフラや産業機械事業などを展開するIHIでは、ダイバーシティを重要な人材戦略のひとつとして位置づけ、積極的にダイバーシティ&インクルージョンに取り組んでいます。

 

具体的には、

  • 多様な人材の活躍推進の環境整備(各種研修・セミナー、選択定年制度など)
  • 育児・介護関連の支援制度(各種休暇、在宅勤務、フレックス勤務、企業内保育所など)

です。

 

また、従業員が安心して活躍できる環境をつくるため、ハラスメントなどの各種相談窓口を社内外に設けています。

 

IHIの取り組みは、「くるみん認定」「えるぼし認定」「健康経営優良法人2021」といった評価を得ています。

 

ダイバーシティ&インクルージョンで企業の競争力を向上

労働人口の減少やグローバル化が進む中、企業が生き残っていくには多様性の受容と活用が必須です。

 

多様な人材から選ばれる企業になるためにも、相互補完の関係にあるダイバーシティとインクルージョンを同時に推進して、最大限の効果を引き出しましょう。

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