近年、社内向けの広報活動である「インターナルコミュニケーション」に取り組む企業が増えています。
広報活動と聞くと社内報がイメージされるでしょうが、インターナルコミュニケーションでは、様々な方法で社内コミュニケーションの活性化を図ります。
この記事では、インターナルコミュニケーションの概要や背景、目的、メリットについて解説いたします。
導入方法や注意点、企業事例もご紹介しますので、ぜひご覧ください。
インターナルコミュニケーションとは
インターナルコミュニケーションとは、社内向けに行う広報活動のことです。
従来は、社内広報のような情報共有活動と捉えられていましたが、近年では社内コミュニケーションを活性化させる活動全般を指します。
コミュニケーションの国際的なプロフェッショナル団体である米国IABCでは、
「組織内の情報交換で理解と行動を生み出し、組織のビジョンや価値観を従業員間で強化しながら、従業員が外部に向けて発信すること」
と、定義しています。
つまり、企業への理解を深めて従業員をファン化し、従業員自身に自社の良さを広めてもらうことが最終的な目的と言えるでしょう。
インターナルコミュニケーションへの注目が高まった背景
ではなぜ、インターナルコミュニケーションへの注目が高まったのでしょうか。
企業と従業員との関係性の変化
終身雇用が崩壊したことにより、企業と従業員の関係は永続的な雇用を条件とした旧来の主従的な関係から、スキルに紐づいたパートナーシップの関係に変化しています。
そのため、従来のようなトップダウン型の一方的なコミュニケーションがそぐわなくなってきたのです。
互いに価値を提供し合い事業活動を行うには、活動の指針となる企業理念やメッセージといった共通認識を持って、取り組む必要があります。
従業員一人ひとりを尊重し、しっかりと情報共有を行うためにも、インターナルコミュニケーションが欠かせません。
働き方の多様化
働き方改革や技術革新の影響でリモートワークやフレックスタイム、時短勤務、非正規雇用など、労働者の働き方は多様化しています。
個人の都合に合った柔軟な働き方ができる一方、直接顔を合わせる機会が減ったことで、コミュニケーションや情報共有は以前よりも難しくなりました。
コミュニケーションや情報共有の不足は、業務効率の悪化や従業員エンゲージメントの低下を招きます。
したがって、従業員同士を結びつけるインターナルコミュニケーションの重要性は年々高まっています。
価値観の多様化
現代の労働者に「就職した会社で勤め上げる」という価値観はあまりありません。
また、労働の中心を担うミレニアル世代は存在意義や働く意義を重要視しているため、企業理念や文化が就職・転職先を決める基準の一つとなり得ます。
厳しい採用競争の中でも自社にマッチする優秀人材を採用し、働き続けてもらうためにも、理念や文化を伝えるインターナルコミュニケーションは欠かせません。
インターナルコミュニケーションの目的
インターナルコミュニケーションの目的は主に3つです。
トップダウンのコミュニケーション活性化
インターナルコミュニケーションの目的の一つが、トップダウンのコミュニケーション活性化です。
企業理念や経営ビジョンを策定している企業は多いですが、一般社員にまで正しく共有され、日々の業務にまで落とし込まれているケースはそれほど多くないでしょう。
全従業員への共有や業務への落とし込みを進めるには、企業理念や経営ビジョン策定の中心である経営陣からの継続的な発信が必要となります。
トップダウン・コミュニケーションの活性化を図ると、企業理念の浸透や文化の醸成がスムーズに進みます。
ボトムアップのコミュニケーション活性化
先の予測が困難なこれからの時代を生き抜くには、その時々で必要とされる製品・サービスを迅速かつ的確に提供する必要があります。
経営者の力だけでは限界がありますし、現場の社員にしか分からないこともあるため、ボトムアップ・コミュニケーションの活性化はスピード経営に役立ちます。
また、現場の意見を積極的に反映させると環境改善につながるため、従業員エンゲージメントの向上も期待できるでしょう。
従業員同士の連携強化
インターナルコミュニケーションには、従業員同士の連携を強化させる目的もあります。
一般的に、企業規模が大きくなるほど、チーム間や部門間といった横の連携が取りづらくなるため、他部署の業務・取り組みは見えにくくなるものです。
従業員同士の連携が強化されれば、「どの部門が何の仕事をしているのか」「自分たちとどういうつながりがあるのか」企業全体の動きを把握できます。
また、情報共有やコミュニケーションが活性化することで、業務効率化や新たなアイデアの創出を期待できます。
社内コミュニケーション不足による課題
では、社内コミュニケーションが不足すると、どういう事態が発生するのか見ていきましょう。
モチベーション低下
社内コミュニケーションが不足すると、他部署の従業員との交流が減少するため、仕事の質を上げるために必要な多角的な視点が失われます。
仕事の幅も広げにくくなるため、スキルアップの機会損失やモチベーションの低下につながります。
モチベーションの低下は離職リスクを高まらせるため、注意が必要です。
コンプライアンス違反の発生
社内コミュニケーション不足は、コンプライアンス違反の発生を誘発させる可能性があります。
誰が何をやっているのかが分からなければ、「どうせ気づかない」「これくらいいいだろう」という心理が働き、怠慢や不正行為へのハードルが低くなります。
業務が可視化されていれば、こうした行為はしづらくなりますし、フォローもしやすくなるでしょう。
顧客からの信頼低下
社内コミュニケーションが不足していると、情報共有や連携が上手くできません。
そのため、「どこの誰につなげればいいか分からない」「顧客の質問に答えられない」「引き継が不十分」など、顧客対応に支障をきたす可能性があります。
対応品質が低ければ、機会損失はもちろん顧客の信頼低下を招くため、注意が必要です。
社内コミュニケーションが活発化すれば、ニーズに応じて部署間で顧客を紹介し合うといった利益アップの行動も可能になるでしょう。
インターナルコミュニケーションのメリット
つづいて、インターナルコミュニケーションのメリットについてご紹介します。
生産性の向上
インターナルコミュニケーションは、生産性向上の効果を期待できます。
というのも、インターナルコミュニケーションは従業員同士の連携を強化するため、部署を超えた情報共有もスムーズに行われます。
迅速かつ的確な対応を取りやすくなりますし、プロジェクトも管理しやすくなるので、生産性向上に役立つのです。
また、互いの業務が可視化されれば、従業員同士でのフォローもしやすくなるでしょう。
組織風土の醸成
組織風土は、企業理念の策定だけで根づくものではありません。
従業員一人ひとりの行動によって長い時間をかけて醸成されるものなので、まずは従業員の意識を変える必要があります。
インターナルコミュニケーションに取り組むと、「社内報で企業理念に沿って行動した社員を紹介する」など、メッセージを発信し続けられます。
企業の求めている行動が分かれば、自ずと従業員の意識・行動は変わってくるため、組織風土の醸成もスムーズに進むでしょう。
定着率の向上
インターナルコミュニケーションは、従業員定着率の向上にも有効です。
従業員同士のコミュニケーションが活発化すると、チームワークが良くなり、連携不足も緩和されるため、人間関係や業務上のストレスが低減します。
職場環境が改善して働きやすくなるため、定着率の向上につながります。
インターナルコミュニケーションの注意点
では、インターナルコミュニケーションのメリットを最大限引き出すには、どういった点に注意すれば良いのでしょうか。
目的を明確にして理解を得る
単なる情報共有だけでは社内コミュニケーションは活性化しませんし、施策を考案しても従業員から反発されては意味がありません。
インターナルコミュニケーションに取り組む際は、「何のために行うのか」「誰に・どんな風に役立つのか」を明確にした上で、理解を得ることが大切です。
従業員が目的や必要性を理解すれば、自発的に協力してくれるようになるため、効果が出やすくなります。
多様な価値観があることを理解する
自社で働く従業員であっても、価値観や組織に対する考え方は人それぞれです。
また、従業員の置かれている立場や状況によって、インターナルコミュニケーションに関与できる度合いは変わってきます。
イベントへの強制参加などは、従業員から反発を招く可能性が高いため、従業員自身が関与する度合いや方法を選べるような活動にしましょう。
「参加自由としながら、不参加者をマイナス評価する」など、評価と連動させる企業もありますが、従業員からの信頼を損ねるため、おすすめしません。
インターナルコミュニケーションの導入方法
つづいて、インターナルコミュニケーションの導入方法についてご紹介します。
社内報やブログ
一般的にインターナルコミュニケーションでは、社内報やブログの運営が用いられます。
近年は紙媒体に加えて、Webメディア社内報を配信するケースが増えてきており、「特集コーナー」や「社員インタビュー」など、コンテンツへのアクセスを促す企業が多いです。
また、月に1度程度発行する社内報の他に、高頻度で社内向けブログを更新する企業もあります。
社内情報の正確な共有はもちろんですが、社内イベントや話題のトピックなど、従業員に興味を持ってもらえる内容にすることが重要です。
社内イベントや社内表彰
社内イベントや社内表彰もインターナルコミュニケーションの一つです。
社内イベントは、普段業務では関わることのない他部署の従業員とコミュニケーションを取れますし、上司や部下、同僚の素顔を垣間見ることができます。
社員旅行や忘年会、創立記念パーティー、社内サークル活動などの様々な活動があるため、目的に応じて適切なイベントを企画しましょう。
社内表彰は、成果を上げた従業員を褒賞するために年1~2回程度行われることが多く、企業理念や経営方針の伝達、モチベーション向上に役立ちます。
Web会議システムを活用して、オンライン上で行うケースも増えています。
社内SNS
FacebookやTwitterなどのSNSをコミュニケーションツールとして、活用する企業も増えています。
新商品・新サービスといった業務関連の情報を中心に、社内イベントの内容や様子など、業務外の情報についてアップされていることが多いです。
一方通行の情報発信である社内報と違い、社内SNSは気軽に誰でも情報を発信できますし、相互にコミュニケーションが取れます。
そのため、インターナルコミュニケーションは社内SNSの方がスムーズに進むと考えられます。
社内勉強会
社内勉強会の実施もインターナルコミュニケーションの1つです。
従業員の能力開発や業務に関連するものが主流ですが、資産運用や語学、健康など、業務と直結しなくても関心が高そうなテーマを取り上げるのも良いでしょう。
共通の話題で参加者同士の関係を深められますし、従業員エンゲージメントの向上にもつながります。
勉強会や研修の様子を録画しておけば、勉強のコンテンツとして社内向けに配信することも可能です。
インターナルコミュニケーションの企業事例
他の企業では、どのようにインターナルコミュニケーションに取り組んでいるのでしょうか。
ヒントを得るためにも企業事例を見ていきましょう。
株式会社西武ホールディングス
西武ホールディングスでは、
チームほほえみ賞…グループビジョンにもとづく素晴らしい取り組みを表彰
ほほえみFactory…従業員が経営層に施策やアイデアをプレゼン
Good Jobカード…グループビジョンにもとづく部下の行動を認めて、コミュニケーションをサポートするツール
など、様々な取り組みを実施しています。
インターナルコミュニケーションの取り組みにより、モチベーション向上やビジョンの浸透、社内コミュニケーションの活性化といった効果が表れているそうです。
沢根スプリング株式会社
バネの生産を主に行う同社も、インターナルコミュニケーションに注力しています。
具体的には、
月1回の全社懇談会…全従業を対象に経営情報を共有
経営計画書の配布…経営情報や理念、価値観が書かれた経営計画書を全従業員に配布
いいねカード…従業員同士で良いところを褒め合う
などの取り組みを行っています。
また、社長からのメッセージを給与明細と一緒に送ったり、従業員の誕生日を祝ったりと、コミュニケーションを活性化させる仕組みが数多く存在するのが特徴です。
株式会社SmartHR
SmartHRは部活動に力を入れているのが特徴で、52個も部活があります(2019年時点)。
参加経験がある従業員は全体の86.5%に上るほど浸透しており、条件を満たせば1人1,500円/月が支給される仕組みです。
「うなぎ部」や「遠い世界の食卓部(他国の料理屋さんに行く部)」や「王子部(王子駅周辺で王子らしい遊びをする部)」など、ユニークな部活も多数存在しています。
普段関わることのない従業員とも、部活動を通して関係構築ができるため、社内コミュニケーションの活性化につながったそうです。
インターナルコミュニケーションで組織力強化
インターナルコミュニケーションに取り組むと、情報共有が円滑に行われるため、業務効率化や生産性の向上につながります。
また、社内コミュニケーションが活発になれば、組織のタテ・ヨコのつながりによって、組織力も強化されるでしょう。
対面でのコミュニケーションが減少するにしたがって、インターナルコミュニケーションの重要性は高まると考えられるため、ぜひ取り組んでみてはいかがでしょうか。