財形貯蓄制度とは? 種類やメリット・デメリット、導入手順、注意点、財形貯蓄以外の資産形成方法もご紹介!

少子高齢化が進み資産形成の重要性が高まる近年、従業員の資産形成をサポートする「財形貯蓄制度」の意義が大きくなっています。

 

財形貯蓄制度は、企業規模が小さいほど導入率が低い傾向にあるものの、導入によりさまざまなメリットを得られるため、中小企業にこそおすすめの制度です。

 

この記事では、財形貯蓄制度の概要やメリット・デメリット、導入手順についてご紹介します。

 

注意点や財形貯蓄以外の資産形成方法にも触れていますので、ぜひご覧ください。

 

財形貯蓄制度とは

財形貯蓄制度とは、従業員の給与から毎月一定金額を天引きし、提携している金融機関に送金する任意加入の貯蓄制度です。

 

勤労者財産形成促進法にもとづいて制定された「勤労者財産形成促進制度」の一種で、国と企業が従業員の財産形成を支援しています。

 

毎月自動的に給与天引きされるため、貯蓄が苦手な方でも着実に資産形成できるのが特徴です。

 

財形貯蓄制度は、当該制度を導入している企業の従業員なら、一定の要件を満たせば契約社員やパート・アルバイトといった非正規社員でも加入できます。

 

ただし、役員は従業員に該当しないため、財形貯蓄制度を利用できません。

 

財形貯蓄制度の種類

財形貯蓄制度は、資産の使用目的に応じて「一般財形貯蓄」「財形年金貯蓄」「財形住宅貯蓄」の3種類に分けられます。

 

  一般財形貯蓄 財形年金貯蓄 財形住宅貯蓄
使用目的 自由 年金(満60歳以上) 住宅購入やリフォーム
対象者 すべての従業員 55歳未満の従業員
積立期間 原則3年以上 原則5年以上
利子非課税 なし 550万円まで
※保険型は385万円まで
550万円まで非課税
貯蓄商品 定期預金・有価証券(国債など)・保険(生命保険や損害保険など)ほか

 

 

では、詳しく見ていきましょう。

 

一般財形貯蓄

一般財形貯蓄は、自由に使えるお金を貯蓄していく方法で、複数の契約も可能です。

 

積立期間は原則3年以上ですが、基本的に払い出しの時期や回数は決められていません。

 

自由度の高い貯蓄方法なので、ケガや病気、旅費、結婚・出産・育児など、幅広い用途で利用できます。

 

ただし、一般財形貯蓄には、預貯金の利息や投資信託などの配当金に20%の税金がかかります。

 

財形年金貯蓄

財形年金貯蓄は、老後の資金づくりを目的とした貯蓄制度で、原則1人1契約です。

 

55歳未満の従業員が対象となっており、5年以上積み立てる必要があります。

 

また、財形年金貯蓄は非課税優遇措置を受けられます。

 

財形住宅貯蓄と合わせて元利合計550万円まで、保険商品で積み立てる場合は払い込みベースで385万円までが非課税です。

 

積立金の受取も非課税で、満60歳以降に5年~20以内の年金形式によって受け取ります。

 

※保険商品の場合、終身受取可能なものもあります。

 

なお、老後資金以外の目的での払い出しは解約となり、「解約利子の課税」と「5年間遡及の追徴課税」が課されるため、注意が必要です。

 

ただし、災害や疾病など一定の事由により払い出す場合、非課税で解約できることもあります。

 

財形受託貯蓄

財形住宅貯蓄は、マイホームの建設・購入・リフォームといった住宅資金づくりを目的とした貯蓄制度です。

 

財形年金貯蓄と同様、原則1人1契約で55歳未満の従業員が、5年以上積み立てていきます。

 

財形住宅貯蓄は、財形年金貯蓄と合わせて元利合計550万円まで非課税です。

 

払い出し要件は、以下の通り決められています。

【住宅の建設・購入】

  • 床面積50㎡以上
  • 従業員本人が居住すること
  • 中古住宅の場合は、築後20年(耐火構造は25年)または、一定の耐震基準を満たすもの

 

【リフォーム】

  • リフォーム費用が75万円を超える
  • 施工後の床面積50㎡以上
  • 施工後の住宅に従業員本人が居住すること
  • 居住部分の工事費用が全体の工事費用の1/2以上

要件外の払い出しには、解約利子が課税されるほか、過去5年の間に非課税で支払われた利子に追徴課税が課されるため、注意が必要です。

 

財形貯蓄制度のメリット

財形貯蓄制度を利用すると、どういったメリットがあるのでしょうか。

 

企業と従業員それぞれのメリットについて見ていきましょう。

 

企業側のメリット

福利厚生として財形貯蓄制度を導入するメリットからご紹介します。

 

人材確保につながる

財形貯蓄制度の導入は、人材確保の施策として有効です。

 

人生100年時代と言われる現代において、財形貯蓄制度の意義は大きいものの導入している企業はそれほど多くありません。

 

特に、100人未満の中小企業では35%程度(2014年時点)と少ないため、中小企業が財形貯蓄制度を導入すると他社との差別化を図れます。

 

財形貯蓄制度の導入で福利厚生が充実すれば、採用面で好影響を期待できるでしょう。

 

また、財形貯蓄制度を利用すれば子育てやマイホーム購入といったライフイベントも計画しやすくなるため、安心感や働く意欲が高まり定着率向上にもつながります。

 

パフォーマンス向上が期待できる

財形貯蓄制度は、毎月一定額が自動で給与天引きされる仕組みです。

 

貯蓄や資産形成への関心が薄くても、無理なく貯蓄していけるため、金銭的な悩みを抱えにくくなります。

 

生活が安定すれば仕事にも集中して取り組めるようになり、パフォーマンスも向上するでしょう。

 

待遇格差の是正につながる

財形貯蓄制度は、雇用形態に関係なく利用できるため、導入することで従業員間の待遇格差是正につながります。

 

同一労働同一賃金が施行されたこともあり、今後も格差是正につながる福利厚生はニーズが高まるでしょう。

 

また、非正規労働者は正社員と比べると雇用の安定性が低いです。

 

将来に不安を感じている人も多いため、福利厚生として導入すれば非正規労働者の生活をサポートできます。

 

従業員側のメリット

つづいて、従業員側のメリットについてご紹介します。

 

給与天引き

財形貯蓄制度の最大のメリットは、毎月給与天引きしてもらえる点です。

 

指定した金額が毎月自動的に貯蓄されるため手元にお金があると使ってしまう人でも貯蓄できますし、貯蓄用の口座にお金を移動する必要もありません。

 

金額も月々1,000円から指定できるため、生活スタイルに合わせて無理なく確実に資産形成できます。

 

非課税優遇措置を受けられる

財形年金貯蓄と財形住宅貯蓄は合計550万円までの利子が非課税となるため、ただ銀行にお金を預けるよりも効率よく貯蓄できます。

 

また、財形年金貯蓄の場合、満60歳以降の払い出しにも税金がかかりません。

 

ただし、本来の目的と異なる用途での引き出しは要件違反です。

 

解約利子の課税や過去5年の間に非課税で支払われた利子に対して、追徴課税が課されるため注意しましょう。

 

住宅ローン融資が受けられる

いずれかの財形貯蓄を行っている従業員は、「財形住宅融資」または「財形持家転貸融資」を受けられます。

 

一定の基準をクリアしていれば、長期かつ低金利で住宅ローンが受けられるため、民間の住宅ローンよりもお得にマイホームを入手できます。

 

ただし、借入限度額は財形貯蓄の合計残高の10倍かつ、最高4,000万円までと低めの設定です。

 

財形貯蓄制度のデメリット

多様なメリットを得られる財形貯蓄制度ですが、デメリットも存在します。

 

デメリットを把握した上で導入・利用を検討しましょう。

 

企業側のデメリット

財形貯蓄制度を導入する主なデメリットは、人事・総務の業務増大です。

 

企業に財形貯蓄制度を導入するには、

  1. 財形貯蓄規定の検討
  2. 財形貯蓄取扱金融機関の選定
  3. 給与天引きに関する労使協定締結

など、さまざまな事項について検討した上で、手続きしなければなりません。

 

それに伴い、金融機関や社労士とのやり取りも発生するため、財形貯蓄制度を導入すると人事・総務の業務が増大します。

 

しかし、財形貯蓄制度は貯蓄の一部を企業が負担するものではないので、金銭的な負担を抑えつつ福利厚生を充実させられるでしょう。

 

従業員側のデメリット

では、従業員が財形貯蓄制度を利用するデメリットについて見ていきましょう。

 

利用者が限られる

財形貯蓄制度を利用できるのは、当該制度を導入している企業の従業員のみです。

 

転職先が財形貯蓄制度を導入していれば、退職から2年以内の手続きで移換できますが、導入していなかった場合、解約して引き出すことになります。

 

「財形住宅貯蓄」や「財形年金貯蓄」は、払い出し時に課税されてしまうため注意が必要です。

 

低金利の商品は非課税の恩恵を受けづらい

定期預金や保険商品など金利が低い商品を利用する場合、非課税の恩恵は得にくいです。

 

例えば、金利0.002%の定期預金に1年間100万円を預けた場合、利息は20円、税制上非課税となるのはたったの4円です。

 

このように、超低金利な現代においては元金に対する利息が少ないため、非課税の恩恵はあまり期待できません。

 

商品によっては元本割れのリスクがある

財形貯蓄の商品は、金融機関によって異なります。

 

定期預金で元本割れすることはありません。しかし、保険や投資信託などの商品は元本割れのリスクがあるため、慎重に選ぶ必要があります。

 

財形貯蓄制度の導入手順

ここでは、財形貯蓄制度を導入するための手順についてご紹介します。

 

取り扱い金融機関の選定と取り決め

従業員のニーズや事務処理を考慮した上で、財形貯蓄制度の取扱金融機関を選定しましょう。

 

金融機関が決まったら、金融機関との事務処理をスムーズに進めるために、事務分担について取り決めを締結します。

 

労使協定の締結と社内規定の作成

従業員の給与を天引きする場合、書面による労使協定を締結しなくてはなりません。

 

労使協定を締結したら、財形貯蓄制度の種類や対象者、取扱金融機関、払い出しの受付時期などを社内規定で制定する必要があります。

 

これらが完了したら、所轄の税務署署長あてに「財産形成非課税住宅・年金貯蓄に関する届出書」を提出してください。

 

従業員への説明と募集

財形貯蓄制度の導入前に、事務担当者へ制度内容や事務手続きに関してレクチャーしましょう。

 

従業員には制度の内容や申し込み・払い出しの受付時期などを説明し、利用希望者を募集します。

 

財形貯蓄制度は非正規社員も対象となるため、パートやアルバイト、派遣社員も含めた全従業員に向けて説明会を開くのが適切でしょう。

 

財形貯蓄制度利用時の注意点

財形貯蓄制度を利用する際は、いくつか注意点があります。

 

途中で引き出す(途中解約)

財形住宅貯蓄や財形年金貯蓄を途中で引き出す場合、払い出し時に課税されます。

 

一般財形貯蓄と違い、これらの貯蓄は明確に使用目的が決められているため、目的外で引き出すと利子などへの非課税は適用外となります。

 

払い出し時に20%課税されるほか、過去5年間に非課税で支払われた利子に対する追徴課税を受けることになるため、注意が必要です。

 

なお、一般財形貯蓄に非課税優遇措置はありません。

 

転職

転職先が財形貯蓄制度を導入していれば、退職後2年以内の手続きで、利子非課税のまま移換できます。

 

金融機関が同じ場合は「勤務先異動申告書」を転職先に提出、異なる場合は新たに契約し、預け替える必要があります。

 

ただし、退職から2年を過ぎると非課税優遇措置を受けられなくなるため、早めに手続きしましょう。

 

女性ならではの注意点

通常、財形年金貯蓄や財形住宅貯蓄は、定期的な払い込みを2年間中断すると非課税措置を受けられなくなります。

 

しかし、2015年の制度改正により、3歳に達するまでの子について育児休業等を取得する場合、財形貯蓄の休止が可能になりました。

 

休止したい場合は、休業開始日までに勤務先を通じて契約している金融機関に「育児休業などをする者の財産形成非課税住宅(年金)貯蓄継続適用申告書」を提出する必要があります。

 

ちなみに、職場復帰後はただちに払い込みが再開されます。

 

万が一再開できなかった場合、非課税措置が適用されなくなるので注意が必要です。

 

財形貯蓄制度以外の資産形成

最後に、財形貯蓄制度以外の資産形成方法についてご紹介します。

 

つみたてNISA

つみたてNISAは年間40万円を上限に、投資で得た利益が最長20年まで非課税で運用できる「少額投資非課税制度」です。

 

非課税投資枠年間40万円×20年なので、最大800万円までが非課税となります。

 

財形貯蓄制度と違い、日本在住の20歳以上の方であれば誰でも利用できます。

 

金融機関によっては100円から始められますし、投資と言っても売買は行わないため投資初心者におすすめです。

 

もちろん、元本割れのリスクはあるのでしっかりと金融商品を検討する必要があります。

 

iDeCo

iDeCo(個人型確定拠出年金)は、自分が拠出した掛け金を自分で選んだ商品で運用する「私的年金制度」の1つです。

 

原則として、日本在住の20歳以上60歳未満で国民年金や厚生年金などの公的年金に加入していれば、誰でも加入できます。

 

年金制度の一種なので60歳までお金を引き出すことはできませんが、積立金や60歳以降の資産引き出しは全額所得控除となります。

 

また、運用益に税金は課されません。

 

節税効果を感じつつ、老後の資金を形成できるため、多くの人が加入しています。

 

財形貯蓄制度は企業にも大きなメリットがある

財形貯蓄制度は、無理なく確実に貯蓄できる制度です。

 

導入にあたって事務手続きは一時的に増大するでしょうですが、企業が積立金を負担するわけではないので、コストを抑えて福利厚生を充実させられます。

 

人材確保やパフォーマンス向上といったメリットを得られるため、この機会に財形貯蓄制度を導入してみてはいかがでしょうか。

 

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