近年、海外を中心に従業員に長期休暇を与える「サバティカル休暇」を導入する企業が増えています。
日本政府は、サバティカル休暇が働き方改革やワークライフバランスの実現につながるとして、福利厚生への導入を推進しているため、今後は徐々に増えていくでしょう。
そこでこの記事では、サバティカル休暇の概要や導入するメリット・デメリット・注意点についてご紹介します。
サバティカル休暇の導入企業事例もまとめていますので、ぜひご覧ください。
サバティカル休暇とは
サバティカル休暇(sabbatical)とは、一定期間在籍している従業員に対して、1か月以上の休暇を与える制度のことです。休暇の取得目的に制限はありません。
「sabbatical」のみで長期休暇を意味しますが、一般的に日本では「サバティカル休暇」と呼ばれています。
元来、サバティカル休暇は大学教員が外部機関で研究するために与えられる長期休暇を指しますが、近年ではヨーロッパを中心に、サバティカル休暇を導入する企業が増えています。
日本でも、サバティカル休暇は「働き方改革の推進につながる」と注目を浴びているものの、導入企業は少ないです。
サバティカル休暇が注目される背景
ここでは、サバティカル休暇が注目されるようになった背景についてご紹介します。
働き方改革の推進
働き方改革関連法案の施行により、多くの企業が長時間労働の是正などに取り組むようになったものの、長時間労働が日常化しているケースもあります。
経済産業省では、サバティカル休暇が長時間労働による心身のリフレッシュや過労防止に有効な施策であるとして、福利厚生への導入を推奨しています。
ワークライフバランス
ワークライフバランスの重要性が高まったことで、サバティカル休暇が多くの企業から注目されるようになりました。
というのも、心身のリフレッシュやプライベートの充実は、「パフォーマンスの向上」「新しいアイデアの創出」といった仕事への好影響を期待できるからです。
長期休暇を取得すれば、従業員は旅行や家族との時間に充てたり、資格取得の時間に利用したりできるため、ワークライフバランスの実現につながります。
人生100年時代の到来
平均寿命の延伸により、日本では人生100年時代が到来しています。
終身雇用制度が崩壊した現代において、生涯に渡って労働者が活躍するには、企業に将来をゆだねるのではなく、自主的なキャリア形成が欠かせません。
サバティカル休暇を利用すれば、キャリアを断絶せずに自己のキャリアと向き合い、将来のキャリアに必要な知識・スキルを学ぶ時間を確保できます。
サバティカル休暇のメリット
では、サバティカル休暇を取得すると、具体的にどういったメリットを得られるのでしょうか。
従業員の知見が高まる
サバティカル休暇を取得すれば、従業員はキャリアの断絶を心配することなく、業務に関する新たな知識やスキル獲得の勉強に専念できます。
取得する期間によっては、教育機関や研究機関で本格的に学ぶことも可能でしょう。
従業員が新たな知識やスキルを獲得できれば、業務効率化はもちろん、新たに獲得した知見や価値観を新規ビジネスに活用することもできます。
企業の価値向上の観点からも、サバティカル休暇の導入は大きな意義があります。
リフレッシュによる生産性の向上
日本では長期休暇の取得に否定的な考えを持つ労働者が多いです。
そのため、一般的に有給休暇はまとまった休みを取りづらい傾向にありますが、サバティカル休暇は一定期間在籍している従業員に1か月以上休暇を与えます。
長期休暇の取得により、心身に溜まった疲れやストレスをリフレッシュできるため、従業員の心身の健康維持・増進に役立ちます。
心身の状態が健康に近づけば、従業員は本来のパフォーマンスを発揮しやすくなるため、生産性向上につながるでしょう。
企業イメージの向上
引用:東京海上日動リスクコンサルティング株式会社『「令和2年度仕事と生活の調和」の実現及び特別な休暇制度の普及促進に関する意識調査』
日本では、有給休暇の取得にためらいを感じる労働者が多いです。
東京海上日動リスクコンサルティング株式会社の行った調査によると、「年次有給休暇の取得にためらいを感じる」と回答した労働者は、52.7%に上ることが分かっています。
サバティカル休暇は、一定期間在籍している従業員に長期休暇を与えるため、社外に対して「働きやすい環境づくりに取り組む企業」というイメージを与えられるでしょう。
また、サバティカル休暇を導入している企業は少ないので、他社との差別化を図れます。
離職防止につながる
共働き世帯が増える中、育児や介護を理由にやむを得ず離職する労働者は多いです。
サバティカル休暇を導入することで、法律で定められた休業期間よりも長く休めるため、ライフイベントの変化による離職を防げます。
また、サバティカル休暇を利用すれば、突発的なケガや病気による治療期間にも充てられるため、十分に心身を回復できます。
サバティカル休暇のデメリット
つづいて、サバティカル休暇導入のデメリットについてご紹介します。
担当者不在で混乱が生じる可能性がある
業務に慣れた従業員が長期間不在になった場合、他の従業員の業務量が増加したり、業務に混乱が生じたりする可能性があります。
そのため、サバティカル休暇を実施する際は、事前の業務量調整や担当者への情報共有が欠かせません。
マニュアルやエスカレーションの作成で業務の標準化を図っておけば、人材派遣などの外部サービスを利用しやすくなるでしょう。
ちなみに、スウェーデンやフィンランドでは、サバティカル休暇取得中の代替要員として、失業者の雇用が義務づけられています。
サバティカル休暇取得後の復職問題
サバティカル休暇を取得すると、1か月以上職場を離れることになるため、勤続年数の長い従業員であっても復職後の職場環境の変化に戸惑うでしょう。
休暇の期間や理由、業務内容によっても異なるでしょうが、休暇前と同等のパフォーマンスを発揮できるようになるまでに、ある程度時間がかかると考えられます。
また、休暇を取得する従業員は「以前と同じポジションで働けるか」など、職場復帰後のポジションに不安を感じるケースが多いです。
休暇を取得する従業員がスムーズに仕事復帰できるよう、復職後のポジションを保証した上で、段階的に業務量を増やすといったサポートが必要でしょう。
休暇中の収入減少
サバティカル休暇制度は、有給休暇と違って給与支払い義務がありません。
有給・無給は企業の判断にゆだねられており、多くの企業が無給としているため、サバティカル休暇を取得すると、従業員の収入が減少する可能性が高いです。
収入がなければ、貯金を切り崩して生活することになるため、従業員にとっては取得ハードルが高く、制度を設けても使われない可能性があります。
企業の負担は増えますが、
- 1か月だけ給与を支給する
- 給与の1/〇を支給する
- 休暇の取得目的に応じて支給の有無を決める
などの工夫が必要でしょう。
サバティカル休暇を取得できない可能性がある
日本の場合、育児や介護、ケガ・病気の療養といったケース以外での長期休暇取得は、一般的ではありません。
また、サバティカル休暇制度の概念も浸透していないため、上司や同僚から理解してもらえない可能性があります。
周囲の理解を得られなければ業務調整や人員調整ができないため、休暇取得が困難になるでしょう。
従業員が休暇を取得できるよう、サバティカル休暇に関する説明を丁寧に行って全従業員の理解を促し、環境を整えることが重要です。
離職につながる可能性がある
サバティカル休暇は、離職につながる可能性もあります。
キャリアアップ目的で休暇を取得する場合、新しい分野や環境、人脈に出会うことで価値観が変わり、キャリアチェンジを考える従業員が出てくる可能性があるからです。
サバティカル休暇導入の注意点・ポイント
サバティカル休暇制度の運用方法は、企業の裁量にゆだねられています。
ここでは、サバティカル休暇の導入で注意するべき点や導入のポイントについてご紹介します。
サバティカル休暇を取得しやすい環境を整える
サバティカル休暇を取得する場合、業務調整や人員調整などを行う必要があるため、サバティカル休暇の取得推進には、職場環境の整備が欠かせません。
具体的には、
- サバティカル休暇制度について周知徹底する
- 休暇の取得事例を公表する
- 休暇取得時期を閑散期のみにする
- 人員調整の仕組みを整える
などの方法が上げられます。
ホームページでサバティカル休暇制度について公表すれば、企業イメージの向上につながるため、優秀人材も集まりやすくなるでしょう。
休暇の目的を把握する
従業員に有意義な休暇を過ごしてもらうには、休暇の目的を明確化することが重要なため、従業員の休暇目的を事前に把握しましょう。
サバティカル休暇がきっかけの離職を防ぐには、
- 教育機関での学び直し
- 業務に関する資格取得
- ケガ・病気の療養
- 長期旅行
- 育児や介護
といった、スキルアップやリフレッシュなどを目的とした取得の推奨が有効です。
スキルアップを目的とする場合、休暇後にレポート提出を義務づけている企業もあります。
いずれにしても、休暇の目的を明確にし、その目的を達成できるように取り組むことがポイントです。
休暇中の給与・社会保険の取り扱い
日本には、サバティカル休暇制度に関する法律上の規定はないので、給与や社会保険の取り扱いについて、事前に定めておきましょう。
例えば、
- 休暇取得の目的に応じて給与の有無を決める
- 給与支給はないが、手当を支給する
- 有給休暇との組み合わせで、給与を受け取れるようにする
- 教育機関を利用する場合は学費を補助する
などの方法があります。
また、休暇中であっても在籍期間中は、社会保険への加入が必須です。
給与支給しない場合、従業員から保険料・住民税を徴収しなくてはならないため、毎月期日までに企業の口座に振り込んでもらうよう取り決めておく必要があります。
復職の就業規則を定める
サバティカル休暇を終えた従業員が復職予定日に出社しない可能性がありますが、休暇終了後に出社しないからといって、直ちに退職させることはできません。
そのため、サバティカル休暇を実施する前に「復職後一定期間出社しない場合は、労働契約を終了する」といった旨を就業規則に定めておく必要があります。
サバティカル休暇の制度の周知
サバティカル休暇制度を導入する際は、必ず全従業員に制度の内容を周知徹底し、理解を促しましょう。
サバティカル休暇を取得するには、周囲の理解と協力が欠かせません。
日本では、長期休暇取得に対してネガティブなイメージを持っている人が多いため、ただ制度を導入しただけでは、取得者と周囲の従業員との間に軋轢を生む可能性があります。
サバティカル休暇を取得できるよう、メールや社内報、イントラネットなどの方法で周知し、従業員の意識を変えていきましょう。
サバティカル休暇の事例
サバティカル休暇運用のヒントを得るためにも、他企業の事例を見ていきましょう。
ヤフー株式会社(Yahoo! JAPAN)『サバティカル休暇』
Yahoo! JAPANでは、2013年11月から勤続10年以上の正社員を対象に、2か月~3か月の休暇が取れるサバティカル休暇制度を導入しています。
一定のキャリアを積んだ従業員が自分のキャリアや働き方に改めて向き合い、さらなる自己成長につなげることを目的としています。
Yahoo! JAPANのサバティカル休暇制度は、「休暇支援金」として基準給与1か月分が取得者に支給される他、有給休暇との併用も可能です。
また、Yahoo! JAPANではキャリア施策の一つとして、勉学休職制度も導入しています。
専門的知識の習得に専念できる機会を提供するため、勤続3年以上の正社員を対象に最長2年間休職できます。
ソニー株式会社『フレキシブルキャリア休職』
ソニーでは2015年4月から、勤続2年以上の従業員を対象に、フレキシブルキャリア休職制度を導入しています。
従業員のキャリア形成を目的としており、
専門性を深めるための私費就学…最長2年
配偶者の海外赴任・留学同行による知見の向上をキャリアに活かすための休職…最長5年
と長期休暇の取得が可能です。
休職中の給与支給はありませんが、社会保険料が会社負担となる上、私費留学の場合は初期費用として最大50万円まで支給されます。
さらに、2017年からは休職期間内に任意の期間で週1〜2日程度のテレワークができる『求職キャリアプラス制度』も運用開始されています。
株式会社リクルートテクノロジーズ『STEP休暇』
リクルートテクノロジーズでは、勤続3年以上の社員を対象に、3年ごとに最長28日間休暇を取得できる『STEP休暇』を導入しています。
心身のリフレッシュや自己成長の学びに充てるなど、取得目的に制限はなく、休暇取得時には応援手当として一律 30 万円支給されるのが特徴です。
この他、有効期間内(発生日~2 年間)に未消化となった年次有給休暇を、最大40 日間積み立てられるストック休暇制度もあります。
本人の病気やけが、家族の介護・看護、育児などに用いられています。
サバティカル休暇の導入で企業価値を高める
サバティカル休暇は一定の在職期間と引き換えに、1か月以上の休暇を与える長期休暇制度です。
離職防止や企業イメージの向上はもちろん、従業員の知見が深まることで業務効率化・新しいアイデアの創出など、副次的な恩恵も期待できます。
サバティカル休暇のメリットを最大限引き出すためにも、「有給との併用を認める」「手当を支給する」といった工夫で取得を促しましょう。