ダイバーシティの促進が求められる近年、ブラインド採用への注目が高まっています。
採用の現場では、能力と無関係な情報によって採否が決まることも多いです。
そのため、「気づけば似たような人材ばかり採用していた」という経験を持つ方も多いのではないでしょうか。
こうした人材の同質化を防ぐには、能力で採否を判断するブラインド採用がおすすめです。
この記事では、ブラインド採用の概要やメリット・デメリットについて詳しく解説いたします。
具体的な実施方法やポイントについてもご紹介しますので、ぜひご覧ください。
ブラインド採用とは
ブラインド採用とは、応募者の個人情報を一切排除し、能力やキャリアのみで採否を判断する採用方法です。
通常の採用選考では、
- 顔写真
- 氏名
- 性別
- 年齢
- 住所
- 学歴
といった個人情報が記載された履歴書をもとに、採用担当者が応募者を評価します。
しかし、こうした情報はアンコンシャス・バイアス(無意識の思い込み・偏見)がかかりやすくなり、本来採用すべき人材の取りこぼしにつながります。
実際、「学歴が良いから」「自社に合いそうな雰囲気だから」などの理由で採否が決まることもあるでしょう。
ブラインド採用の書類には、応募者のキャリアやスキルが中心に記載されており、面接も個人情報が伏せられた状態で行います。
個人情報を伏せることで偏見や先入観を持ちにくくなるため、公正な採用選考が行えます。
ブラインド採用が注目されている背景
ブラインド採用が注目されている大きな理由は、多様性が求められるようになったためです。
高度経済成長期における日本は、大量生産・大量消費の時代です。
「物をつくれば売れる」時代で、価値観やニーズは画一的だったため、企業にとって多様性は重要な要素ではありませんでした。
しかし、インターネットの普及やグローバル化などの影響により、現代のビジネス環境は高度化・複雑化しています。
こうした状況の中で企業が生き残るには、多様化し複雑化する消費者の価値観やニーズにマッチした商品・サービスをいち早く提供しなくてはなりません。
当然、同じような価値観を持つ人材ばかりでは、新たなアイデアは生まれにくいため、多角的な視点が必要です。
つまり、イノベーションの創出には多様性が欠かせないため、アンコンシャスバイアスによる同質化を防ぐブラインド採用が注目されています。
ブラインド採用の始まり
1970年代~80年代にかけてのアメリカでは、全オーケストラ団員に占める女性の割合はわずか5%でした。
スタンフォード大学のクレイマン・ジェンダー研究所は、「男女比の差の原因はバイアスにある」と考え、オーケストラオーディションで実証実験を行っています。
奏者と審査員の間に幕を挟み、足音で性別が判別できないようカーペットも敷いて審査した結果、一次審査を通過した女性は50%を超えました。
この実験により、アンコンシャスバイアスが結果を左右していたと分かり、ブラインド採用が求められるようになったのです。
また、超学歴社会の韓国では、有名大学を卒業していないと大企業への就職が難しい上、履歴書の顔写真によっても結果が左右されると言われてきました。
そこで、2017年6月韓国政府は若年層に公正な就職を保証するため、公務員や公共団体の選考でブラインド採用を導入するよう指示しています。
ブラインド採用のメリット
では、ブラインド採用を導入すると、どういったメリットを得られるのか見ていきましょう。
ダイバーシティの促進につながる
通常の選考で、アンコンシャスバイアスを完全に排除するのは困難なため、学歴や出身地、容姿といった、能力と関係のない情報で結果が左右されることも多いです。
組織の同質化が進めば、思考の柔軟性が失われて、イノベーションが生まれにくくなってしまいます。
一方、ブラインド採用では、学歴や容姿などの個人情報は伏せた状態で行います。
これまで、無意識に抱いていた先入観や偏見を排除して公正に選考できるため、ダイバーシティを促進できるでしょう。
優秀な人材を確保できる
ブラインド採用は、個人情報を取り除き、能力やキャリアのみで評価します。
採用担当者の主観によって評価が変わる要素がないので、アンコンシャスバイアスによって見逃していた優秀な人材を確保できます。
実力主義の採用活動を行えば、スキルやキャリアに問題のある人材からの応募も抑えられるでしょう。
採用基準の統一により、公平に採用できる
能力とは関係ない個人情報を排除することで、採用基準を統一できます。
スキルやキャリアという明確な基準にもとづいて採用選考を行えるため、優秀人材の取りこぼし防止はもちろん、公平性のある選考を行えます。
また、多様性や公平性を重視する企業は社会に好印象を与えるため、企業ブランディングにも有効です。
ブラインド採用のデメリット
ブラインド採用にはさまざまなメリットがありますが、デメリットも存在します。
採用のミスマッチが発生しやすい
ブラインド採用は、応募者を能力やキャリアのみで評価するため、通常の採用と比べると自社とのマッチ度が判断しづらいです。
どれほど優秀でも価値観や社風が合わなければ、パフォーマンスを十分に発揮できませんし、早期離職のリスクも高まります。
採用活動が長期化しやすい
ブラインド採用では、名前や性別、学歴といった個人が特定できる要素を徹底的に排除するため、履歴書を含めた書類をスクリーニングする手間がかかります。
また、通常の採用活動と比較すると、判断材料が少ないです。
限られた情報をもとに選考を進めなくてはならないため、通常よりも時間をかけて、何度も面接することになるでしょう。
応募者一人当たりにかける工数が増えれば、必然的に採用活動は長期化するため、採用コストの増大や他の業務への影響も考えられます。
採用人数が多いほど長期化しやすくなるため、増加する工数を逆算して採用スケジュールを計画する必要があります。
従業員の構成が偏る可能性がある
ブラインド採用は年齢や性別を伏せた状態で選考を行うため、従業員の年齢や性別が極端に偏る可能性があります。
「男女比に大きな偏りが出てしまった」「若年層が極端に少ない」など、従業員の構成バランスが取りづらくなることもあるでしょう。
従業員の構成が業務に支障をきたす場合は、通常の採用に切り替えたり、一部情報を公開したりする必要があります。
また、従業員の価値観や考えに統一感がなくなることで、ブラインド採用導入前に入社した従業員との間で衝突が起こる可能性も考えられます。
ブラインド採用の具体的な実施方法
ここでは、ブラインド採用の具体的な実施方法についてご紹介します。
採用担当と事務処理担当を分ける
ブラインド採用を実施する際は、採用担当者のほかに事務処理担当者を設けましょう。
というのも、履歴書をはじめとした応募書類には、個人を特定できるあらゆる要素が含まれています。
採用担当者がスクリーニング前の情報を見てしまえば、ブラインド採用の意味がありません。
そのため、応募者の個人情報をスクリーニングする事務処理担当者を設ける必要があります。
ブラインド採用を実施できる環境を整える
つぎは、ブラインド採用を実施できる環境づくりです。
氏名や性別、年齢、学歴に関する記入欄がある通常の応募書類を用いると、個人情報のスクリーニングに手間がかかります。
採用担当者の目に触れる可能性もあるため、はじめから選考に必要な情報のみを記載する専用の書類を用意しましょう。
また、面接時はパーティションやボイスチェンジャーなどを活用すると、バイアスがかかりにくくなります。
もちろん、バイアスがかかりやすい質問をしては本末転倒なので、質問内容にも注意が必要です。
たとえば、家族構成や宗教、思想といった「公正な採用選考の基本|厚生労働省」に該当する事項や、スクリーニングした事項は質問しないようにしましょう。
ブラインド採用の実施ポイント
さいごに、ブラインド採用を実施するポイントをご紹介します。
多様性を受け入れる組織風土をつくる
ブラインド採用の導入はダイバーシティの促進に役立ちますが、多様性を受け入れる風土がなければ、従業員間で摩擦が起こりやすくなります。
組織風土の醸成には、採用担当者はもちろん、従業員一人ひとりに至るまで意識改革する必要があります。
ブラインド採用を導入する意義や目的、メリット・デメリットについて説明し、従業員の理解を深めましょう。
さらに、コミュニケーションの活性化も必要です。
多様な考え・価値観を持つ人材が増えれば、相互理解を深めるための綿密なコミュニケーションが必要となります。
コミュニケーションツールやフリーアドレスの導入、交流会など、気軽にコミュニケーションが取れるような環境を整えましょう。業務連携もスムーズになるはずです。
採用基準を明確にする
ブラインド採用は個人情報を排除するため、応募者の能力やスキルをどういった基準で評価するか、明確にしておく必要があります。
また、ミスマッチを防ぐには内面の評価も重要です。
応募者の仕事に対する価値観や譲れない想いから自社との相性を判断できるよう、内面的な要素の評価基準も設けておきましょう。
採用活動の効率化を図る
通常の採用よりも情報が少ないブラインド採用は、採用活動が長期化しやすいです。
採用活動の長期化は、採用担当者の負担増大や選考辞退率の増加にもつながるため、採用活動の効率化を図りましょう。
たとえば、
- 部分的に情報を開示する
- 仕事に対する価値観・想いを応募書類に記載してもらう
- リファレンスチェックを実施して第三者から意見をもらう
などが挙げられます。
ブラインド採用で優秀人材を確保
ブラインド採用は、個人情報を排除して能力のみで応募者を判断する採用手法です。
アンコンシャスバイアス(無意識の偏見)の排除によって、これまで見逃していたような優秀人材の確保に役立つでしょう。
ただし、通常の採用と比べると情報量が少ないため、ミスマッチを防ぐ工夫は必要です。
優秀人材の確保やダイバーシティ促進のためにも、ブラインド採用を導入してみてはいかがでしょうか。