経営目標を達成するには、経営資源の一つである「ヒト」の適切な管理が欠かせません。
少子高齢化やグローバル競争の激化などの影響により、近年大手企業を中心に「タレントマネジメント」を導入する企業が増えています。
タレントマネジメントとは、可視化した従業員の能力をもとに、戦略的に採用・配置・育成・評価といった人材管理を行うことです。
この記事では、タレントマネジメントの定義や目的、導入手順、注意点について解説いたします。
また、タレントマネジメントの導入企業事例やおすすめのタレントマネジメントシステムについてもご紹介しますので、ぜひご覧ください。
タレントマネジメントとは
タレントマネジメントとは、従業員(タレント)に、自身のスキルや能力を存分に発揮してもらうために、採用や配置、育成、評価といった人事施策を戦略的に行うことです。
人材の流動化が激しい米国において、優秀な人材を定着・育成するための手法として1990年代に考案されたもので、海外では一般的に行われています。
近年では、日本の労働市場も流動化が進んだため、タレントマネジメントを導入する企業が増えています。
タレントマネジメントの定義
タレントマネジメントの本場である米国には、「人材マネジメント協会SHRM」「米国人材開発機構ASTD(旧ATD)」という人材マネジメント組織があります。
米国を代表する2つの人材マネジメント組織の定義を見てみましょう。
SHRMの定義(2006年版)
人材の採用、選抜、適材適所、リーダーの育成・開発、評価、報酬、後継者養成等の人材マネジメントのプロセス改善を通して、職場の生産性を改善し、必要なスキルを持つ人材の意欲を増進させ、現在と将来のビジネスニーズの違いを見極め、優秀人材の維持、能力開発を統合的、戦略的に進める取り組みやシステムデザインを導入すること。
ASTDの定義(2009年版)
仕事の目標達成に必要な人材の採用、人材開発、適材適所を実現し、仕事をスムーズに進めるため、職場風土(Culture)、仕事に対する真剣な取り組み(Engagement)、能力開発(Capability)、人材補強/支援部隊の強化(Capacity)の4つの視点から、実現しようとする短期的/長期的、ホリスティックな(多層的なものを有機的に統合する)取り組みである。
参考:株式会社スマートビジョン「世界の大企業のCEOが最重要課題としたタレント・マネジメントとは?」
少し分かりにくく感じるでしょうが、まとめると「従業員のスキルや能力を見える化して、戦略的に人材管理すること」と言えるでしょう。
タレントマネジメントの対象者
タレントマネジメントの対象者は従業員ですが、企業の目的に応じて「全従業員を対象とする場合」と「特定の人材のみを対象とする場合」に分けられます。
全従業員を対象とする場合
新入社員から幹部クラスまで、組織に所属する従業員すべてを対象としてタレントマネジメントを行う場合、適材適所の配置に役立ちます。
従業員一人ひとりの知識や経験、スキルを把握し、意識や意欲を高めるマネジメントを行うことで、パフォーマンスも向上するでしょう。
正社員や契約社員だけでなく、アルバイトにまで対象者を広げてマネジメントする企業もあります。
特定の人材のみを対象とする場合
幹部候補の従業員や専門的な知識・スキルを有する従業員など、特定の人材のみを対象とする場合、戦略的な人材活用に役立ちます。
ポテンシャルの高い人材を見つけ出し、早いうちから経験を積ませることで、組織をけん引するリーダーや管理職として育成できます。
また、ハイパフォーマーの情報を分析すれば、その後の人材育成に活用することも可能でしょう。
タレントマネジメントの目的
タレントマネジメントの目的は、企業の経営目標を人事面から実現することです。
最終目的である経営目標達成までの中間目的として、
- 人材調達
- 人材育成
- 適材適所への配置
- 人材定着
の4つが挙げられます。
人材調達
経営目標を達成するには、必要な人材を揃えなくてはなりません。
「社内の誰がどんな仕事をしているのか」「どういったスキル・能力を保有しているのか」を一元管理しておけば、適切な人材調達に役立ちます。
例えば、採用ニーズが発生した際の要件定義や、チームの状況に応じた求める人物像の明確化など、マインド面も含めた適切な採用を行えます。
従業員のスキル・能力を把握しておけば、埋もれている人材を発掘して、活躍の機会を与えることも可能です。
人材育成
従業員一人ひとりの能力を向上させることも重要です。
育成を行う際は、求める人物像(マインドやスキルなど)と現状にどれくらいギャップがあるかを正確に把握する必要があります。
現状を把握したら、経験や研修といったギャップを埋めるために必要な機会を提供しましょう。
本人のキャリアに即した業務経験やトレーニングを提供することで、パフォーマンスだけでなくモチベーションの向上にもつながります。
適材適所への配置
従業員一人ひとりが自分の強みを最大限発揮することができれば、業務効率や生産性の向上につながるため、経営目標の達成に大いに近づきます。
適材適所の配置を行うには、
- スキルや能力、経験の見える化
- キャリア志向やプランの把握
- 明確な評価基準の設定
- 成果やキャリア志向を反映した配置の検討
を行うことが重要です。
自分に合う環境や求める環境で働ければ、従業員は自分の能力を最大限発揮できますし、やりがいやモチベーションもアップします。
人材定着
採用や育成を行っても、離職されては意味がありません。
従業員にできる限り長く活躍してもらうのも、タレントマネジメントの目的です。
例えば、
- 実力に合ったポジションを提供する
- 成果を報酬に反映する
- キャリア志向と会社の意向をすり合わせる
- 教育研修などで従業員のキャリア開発を支援する
といった方法が挙げられます。
こうした施策を実行すると、従業員はキャリアの実現に向けて、前向きな気持ちで取り組めるようになるため、人材流出を防止できます。
タレントマネジメントが注目される背景
タレントマネジメントは、大手企業を中心に普及しています。ではなぜ、タレントマネジメントが注目されているのでしょうか。
グローバル競争の激化
終身雇用や年功序列制度をベースとした、新卒一括採用が一般的だった時代では、労働者は雇用された会社で勤め上げるのが当たり前でした。
一度入社したら定年まで同じ会社に所属することになるため、企業は従業員の能力開発よりも、協調性や従順性を重要視していたのです。
しかし、少子高齢化が進みグローバル競争が激化した近年、企業を取り巻く環境は激変しました。
日本企業が世界との競争に勝つには、刻々と変わる世の中のニーズにいち早く応え、新しい価値を提供しなくてはなりません。
能力の高い人材を採用・育成することが急務となったため、タレントマネジメントが注目されるようになりました。
価値観の多様化
転職が一般化したことで、かつての「定年まで勤める」という価値観は薄れ、業務委託やフリーランス、副業といった柔軟な働き方が広まってきました。
また、少子高齢化による労働人口の減少を補うため、女性や高齢者、障がい者といった、様々な背景を持つ人たちの登用が活発に行われています。
そのため、労働者の価値観は、スキルアップやキャリアアップ、やりがい、ワークライフバランスなどに多様化しています。
優秀な人材を確保し、高いモチベーションを維持した状態で長く働いてもらうには、適切な人材管理が欠かせないため、タレントマネジメントが注目されるようになったのです。
タレントマネジメントの導入手順
では、タレントマネジメントを導入するには、具体的にどういった手順で進めていけば良いのでしょうか。
ここでは、タレントマネジメントの導入手順をご紹介します。
導入目的の明確化
タレントマネジメントの効果を最大限発揮するには、導入の目的を明確化することが重要です。
「何のために導入するのか」「導入して何を解決したいのか」目的が曖昧な状態で始めても、タレントマネジメントは成功しません。
経営戦略をベースとして、「どのポジションに、どういう人材が、何人くらい必要なのか」など、人材戦略を立てましょう。
経営戦略と人材戦略を連動させることで、見える化した従業員の情報を有効活用できます。
人材情報の見える化
タレントマネジメントには、人材情報が欠かせません。
具体的には、
基本情報…顔写真・氏名・年齢・性別・所属・役職など
能力…スキル(ヒューマンスキルを含む)・知識・資格・語学力など
職務内容や実績…業務内容・成果・評価履歴・表彰歴・経歴など
勤怠情報…業務時間・残業時間・遅刻・欠勤・早退など
価値観・志向性…仕事へのスタンスや価値観、考え方、性格
といった情報です。
すべての情報を取得する必要はありません。
取得する項目が多いほど、情報の吸い上げや管理に労力がかかるため、課題や目的に応じて必要な情報を選択してください。
人材情報は、常に最新の情報にアップデートし、関係部署間でスムーズに情報共有できるよう体制を整得ましょう。
採用・育成計画を立てる
人材情報を見える化したら、部署やポジションなどのグループごとに、人事戦略上で必要となる人材と現状を確認します。
ギャップがある場合は、基本的に社内で人材調達しますが、それでも足りない場合は、既存従業員の育成や新規採用などでギャップを埋めていきます。
採用や人材育成、離職防止の取り組み施策とスケジュールの検討など、「いつまでに何をするのか」計画を立てましょう。
人材の採用・配置
採用・育成計画にもとづいて新卒・中途採用や人材配置を行います。
経営戦略や人事戦略を意識した採用、人材配置がされれば、タレントマネジメントの効果を最大限発揮できます。
人事評価・モニタリング
実行後は、必ずモニタリングして結果を分析します。
人事評価やアンケートなどで、
- 能力を発揮できているか
- 能力は向上できているか
- モチベーションに変化は起きているか
といった点をチェックします。
このとき、「1on1(上司と部下で行う面談)」などで、キャリア志向やスタンス、価値観なども詳しく確認すると良いでしょう。
また、こうした情報はPDCAサイクルを回す上で重要となるため、人材管理システムに記録していくことが重要です。
従業員の育成状況が不十分な場合、必要に応じて教育体制の見直しや研修プログロムの提供などを行い、能力開発をサポートします。
計画実行後、評価と改善を繰り返すことで、着実に従業員の能力を育成できます。
場合によっては、異動の必要性が生じることもあるでしょう。
迅速かつ最適な人員配置を行うために、スムーズに引き継ができる体制を整えておくことも重要です。
タレントマネジメント導入の注意点
タレントマネジメントを導入する際の注意点を見ていきましょう。
PDCAを回し続ける
タレントマネジメントを導入する上で最も重要なのが、PDCAを回すことです。
計画して実行しても振り返りを行わなければ、「どこに課題があるのか」「その課題をクリアするにはどうすれば良いのか」が分かりません。
タレントマネジメントを導入しても、上手く機能しない原因になります。
計画を実行したら、必ず内容を見直して改善点を洗い出し、再び計画を立てて実行を繰り返しましょう。
成長を促進させる環境づくり
タレントマネジメントの効果を出すには、適切な人事評価制度の構築や成果に応じた報酬の提供といった社内制度を整えることが重要です。
適切な評価がされることで、モチベーションが向上するため、従業員の成長が促進されます。
タレントマネジメントの周知を行う
タレントマネジメントの導入には、従業員や現場担当者の協力が欠かせません。
必要となる情報を集めるには、各部署の保有している評価情報を提供してもらったり、面談でヒアリングが必要になったりすることがあります。
タレントマネジメントの意味や導入する目的を説明せず、「導入することになったから、この情報集めて」と言ったところで十分な協力は得られません。
まずは、経営層にタレントマネジメントの重要性や必要性を説明した上で全社員に周知し、社を挙げて取り組む重要なプロジェクトであることを伝えましょう。
適切なタレントマネジメントシステムを選定する
一般的には、マネジメントシステムを導入して実施しますが、システムによって利用できる機能は異なります。
あれもこれもと様々な機能が利用できるシステムを導入しても、使わなければ意味がありません。
また、マネジメントシステムは、経営層やマネジメント層も使うため、使い勝手が悪いものは利用者にストレスを与えます。
そのため、適切なタレントマネジメントシステムを選定するには、課題や目的に応じて、「どういった機能が必要か」を明確にしておくことが重要です。
その上で、サポート体制や料金を比較して検討しましょう。
タレントマネジメントの導入事例
タレントマネジメントへの理解を深めるためにも、導入した企業の事例を見ていきましょう。
伊藤忠商事株式会社
世界各地に拠点を構える大手総合商社の伊藤忠商事では、人事システムや人材データの管理方法が統一されていませんでした。
「どこにどんな人材がいるのか」正確に把握することができていなかったため、クラウド型のサービスを導入することに決定しました。
ただし、膨大な従業員が在籍しているため、課長職以上と入社9年目以上の従業員を対象として、
- 氏名
- 人事評価
- 異動希望・国外勤務可否
- 職歴
- 育成計画
- 人材の将来性
などの項目についてデータ収集を行っています。
人材データベースを一元管理したことによって、世界各地にいる従業員の中から、システム内で条件検索するだけで適した人材が表示されるようになりました。
意思決定の助けとなるため、迅速な人材配置を実現しています。
参考:日本経済新聞「変革への第一歩 伊藤忠・トヨタ「ヒト」を再定義」
株式会社サイバーエージェント
スマホゲーム事業で有名なサイバーエージェントの人事では、採用、育成、活性化、適材適所を重視しています。
適材適所を図る上でポイントになる定量情報と定性情報を把握するため、「GEPPO」というタレントマネジメントデータベースを作成し、人材の定量情報を集約させています。
GEPPOでは、
- 先月の目標は何でしたか?
- 目標を達成しましたか?
- あなたの興味や得意なことを教えてください(毎月変更)
の3項目について、月に1回全社員が回答する決まりです。
毎月聞かれる目標に関する質問は「晴れ・曇り・雨」の記号で回答し、毎月変わる質問を記述式で回答させることで、従業員の多角的な情報を収集しています。
「楽器の演奏が得意」など、一見業務と無関係な情報であっても、音楽関連の事業立ち上げの際に、音楽と親和性の高い従業員を検索できるようになるのです。
また、面談によって従業員の考えや感性といった定性情報を把握することで、社内のヘッドハンティングチームは、定量・定性情報をもとにした適材適所を実現しています。
参考:Leaders Style「サイバーエージェント取締役 人事本部長 曽山哲人」
おすすめタレントマネジメントシステム4選
様々な機能を搭載したタレントマネジメントシステムがリリースされています。
ここでは、おすすめのタレントマネジメントシステムをご紹介いたします。
ヒトマワリ
ヒトマワリは、すべての人事情報を一元管理できる「クラウド型の戦略人事システム」です。
採用管理機能に加えて、タレントマネジメント機能(人材管理機能)も搭載されているため、内定者情報をそのまま従業員情報に移行できます。
また、給与や勤怠、人事評価、異動といった従業員情報は、独自の機能で分析できるため、組織の可視化を図れます。
加えて、人材データベースをもとにした組織シミュレーションも可能なため、意思決定の助けにもなるでしょう。
カオナビ
カオナビは、シェアNO.1を誇るタレントマネジメントシステムです。
画面上に顔写真が表示されるため、社員の顔ぶれやバランスを直感的に把握しながら人材配置を行ったり、顔と名前を確認したりしながら評価を行える仕組みになっています。
パルスサーベイやアンケート調査も可能なため、従業員のコンディションが定量データで可視化されます。
HITO-Talent
HITO-Talentは、パーソルキャリアの従業員約7,000名の運用を通してできあがったシステムです。
従業員の多様な情報を一元管理することで、本人の育成課題に応じたサポートが実現します。
異動シミュレーション機能も搭載されているため、異動の検討や新規プロジェクトメンバーの選定を行う際にも活用できます。
jinjer人事管理
jinjer人事管理は、従業員情報を一元管理できる人事管理システムです。
すべてのデータが一ヶ所に集約されるため、常に最新情報を1クリックで確認できます。
また、組織や従業員の状況を過去と比較分析することが可能なため、組織シミュレーションで適材適所の人員配置が実現します。
ハイパフォーマーの分析も可能なため、異動や研修、評価といった履歴を分析することで人材育成に役立てることが可能です。
タレントマネジメントで組織の競争力を底上げ
タレントマネジメントは、従業員に自分の強みを活かしてもらうために、採用や配置、育成、評価といった人事施策を戦略的に行うことです。
従業員のスキルや能力を見える化すれば、適材適所の配置や育成が実現するため、生産性向上や業務の効率化に役立ちます。
また、正当な評価が行えるようになるため、人材流出を防止することも可能です。
タレントマネジメントは企業の競争力向上につながるため、労働人口が減少し、グローバル競争が激化している現代において、重要な取り組みと言えるでしょう。
ご紹介した内容をもとに、タレントマネジメントの導入を検討してみてはいかがでしょうか。