多様な働き方が進む中、個人で事業を行うフリーランスは新しい働き方として脚光を浴び、その数も増加しています。
一方で、不当な扱いを受けるなど、フリーランスの立場の弱さも問題視されています。
そうした問題に政府でも対応する方向へ動き出し、2023年4月にフリーランス新法が成立しました。
そこで、本記事では、フリーランス新法の内容や下請法との違いなどについて解説します。企業で取るべき対応についてもご紹介していますので、早めに準備を進めたい方もぜひお読みください。
本記事で紹介する法令につきましては、厚生労働省、その他関連する団体などの情報も必ずご確認ください。
▼厚生労働省 https://www.mhlw.go.jp/index.html
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フリーランス新法とは?いつから施行されるの?
フリーランス新法とは、フリーランスの取引を適正化し、就業環境を整備するための法律です。
フリーランスの取引の適正化と安定した労働環境の整備を図るため、業務を委託する際に発注者が遵守すべき事項などを定めています。
2023年2月24日に「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律案(フリーランス・事業者間取引適正化等法)」が国会に提出されると、同年4月の参議院本会議で可決、5月12日には交付されました。
早ければ2023年中、遅くとも2024年には施行される見込みです。
フリーランス新法が成立した背景
フリーランス新法が成立した背景には、
- 増加するフリーランス人口
- フリーランスの弱い立場
- 口約束によるトラブル
などがあります。それぞれ詳しく見ていきましょう。
増加するフリーランス人口
「ランサーズ」の調査によると、フリーランスの数は2018年の1,151万人から2021年には1,670万人に増加していることが分かりました。
特に、2021年にはフリーランス人口が前年よりも約600万人増加しています。
調査開始以降最大の上昇幅となっており、フリーランス人口も最高値です。
経済規模も2018年の2,069万円から2021年には2,815万円に増加しており、この3年間でフリーランスやフリーターが請け負う仕事が大幅に増えているのが分かります。
フリーランスの弱い立場
フリーランスには、労働基準法が適用されないため、取引上の立場が弱いです。
下請法や独占禁止法が適用されますが、これらの法律に違反するケースも多く報告されています。
また、フリーランスは依頼を継続して受け続けなければならないため、発注主からの契約解除されないように多少無理な契約でも受け入れざるを得ない場合もあるでしょう。その結果、発注主の都合に合わせて利用されたり、報酬額を不当に減らされたりするケースもあります。
さらに、支払いの遅延や一方的な契約解除、報酬の未払いなどに強く抗議できないフリーランスもいます。
フリーランス新法の役割は、このような不利益を被らないようにフリーランスを保護することです。
口約束によるトラブル
通常、フリーランスは発注主と契約書を交わして仕事をします。
しかし、近年SNS上での口約束のみで仕事を請け負ってしまい、トラブルに発展するケースも出てきています。
口約束で仕事をした場合、契約書がないため契約違反として扱うことは難しいです。
また、途中納品について事前の同意がなく、トラブルになることもあります。
具体的には、病気や怪我、妊娠などで仕事ができなくなった場合、完成品を納品できなければ報酬を受け取れないといったケースです。
このようなトラブルを避けるためにも、仕事が途中で終了した場合は報酬を支払うのか、支払わないのかを事前に決めておくことが求められます。
フリーランス新法制定の目的は、お互い同意の上で契約を結び、トラブルを未然に防ぐことにあります。
フリーランス新法の対象者は?
フリーランス新法は、どのような人が対象になるのでしょうか。
ここでは、保護される対象事業者と、規制される事業者について解説します。
特定受託事業者(保護される事業者)
フリーランス新法では、フリーランスを「特定請負事業者」と定義しています。
特定請負事業者とは、簡単にいうと従業員を雇っていない個人事業主や法人のことです。
物品の製造や情報成果物の作成、役務の提供といった業務を委託される人を指します。
主に従業員を雇わない事業者のことですが、一時的な雇用であれば、従業員を雇っている場合でも特定受託事業者にあたります。
保護される事業者の例は、
- ITエンジニア、プログラマー、WEBデザイナー
- ライター、イラストレーター、カメラマン
- コンサルタント、マーケター
- スポーツジムのインストラクター、トレーナー
- フードデリバリーの配達員
などです。
特定業務委託事業者(規制される事業者)
「特定業務委託事業者」とは、従業員を雇っている個人事業主や法人で、フリーランスに業務を委託する側のことです。
個人事業主でも法人でも、継続的に従業員を雇用している場合は「特定業務委託事業者」とみなされます。
主な規制内容は、以下の通りです。
- 口頭で依頼してはならない
- 報酬は60日以内に支払わなければならない
- 不当な返品や受け取り拒否をしてはならない
- 理由なく報酬を減額してはならない
- 極端に買い叩いてはならない
これらに違反した場合は、50万円以下の罰金などが課せられます。
フリーランス新法のポイント5つ
フリーランス新法には、発注側に義務付けられた5つの遵守事項があります。
1. 契約内容を書面交付すること
発注者がフリーランスに業務を委託する時は、契約内容を書面またはメールで明示する必要があります。もちろん、特定請負事業者による発注(フリーランス同士の受発注)であっても、書面交付必須です。
契約内容について具体的に何を明記すべきか決まっていないものの、今後ガイドラインが整備されていくでしょう。
また、フリーランスへの業務委託を継続する場合、原則として中途解除日または契約終了日の30日前までに中途解約の通知をしなければなりません。
ただし、前もって即日契約解除できる条件を定めておくことは可能です。違法行為や契約違反など、禁止行為をあらかじめ明示し、合意した場合はそれに従います。
2. 不特定多数に対する募集は業務内容を明記すること
業務委託を希望する発注者が、クラウドソーシングサイトやSNSなどで委託先を募集する際は、業務内容を明記しなければなりません。
また、募集時と実際の契約時とで条件や業務内容に変更がある場合は、その変更点について発注者側が説明する必要があります。
募集時に提示する内容は、正確かつ最新のものでなければならず、虚偽や誤解を招く情報は罰則の対象となります。
3. 60日以内に報酬を支払うこと
事業者は、フリーランスから仕事を受け取り検収した後、60日以内に報酬を支払わなければなりません。
例えば、「月末締めの翌月末払い」とした場合は最長60日以内となるので問題はありません。
しかし、「月末締めの翌々月15日払い」の場合は最長75日となるため、フリーランス新法の遵守事項違反となり、罰則の対象となります。
なお、フリーランス同士の業務委託の場合、支払日の決まりはなく、60日を超えても違法ではありません。
4.フリーランスへの不当な扱いを禁止
フリーランス新法では、フリーランスへの不当な扱いを禁止しています。
フリーランスと取引を行う事業者の禁止行為は、以下の通りです。
- フリーランスの責めに帰すべき理由なく受領を拒否すること
- フリーランスの責めに帰すべき理由なく報酬を減額すること
- フリーランスの責めに帰すべき理由なく返品を行うこと
- 通常相場に比べ著しく低い報酬の額を不当に定めること
- 正当な理由なく自己の指定する物の購入・役務の利用を強制すること
- 自己のために金銭、役務その他の経済上の利益を提供させること
- フリーランスの責めに帰すべき理由なく給付の内容を変更させ、又は やり直させること
引用:厚生労働省「フリーランスに係る取引適正化のための法制度の方向性」
「責めに帰すべき理由」とは、責めることのできない過失や落ち度のことです。
つまり、フリーランス側に明確な落ち度がないにもかかわらず、フリーランスに対して不利になることを行うのは遵守事項違反となります。
5.フリーランスの労働環境整備に努めること
フリーランスは組織との雇用関係がないため、現状では労働基準法などの法令は適用されません。
そのため、フリーランス新法では、ハラスメントや出産・育児・介護などに適切に対応できる体制を整備することが求められています。
例えば、
- 出産・育児・介護と仕事の両立に配慮し、ハラスメントに関する相談には必要な体制を整備して対応する
- 出産・育児・介護等により仕事との両立が困難となった場合、労働条件について交渉・配慮できる体制をつくる
などです。
ただし、継続的な業務委託が対象のため、一度きりの契約には適用されません。
フリーランス新法に違反した場合の罰則は?
フリーランス新法に違反した場合、公正取引委員会や中小企業庁長官、厚生労働大臣による助言や指導、報告徴収や立入検査などが行われます。
命令に違反したり立入検査を拒否したりすると、50万円以下の罰金が科される場合があります。
また、フリーランス新法の罰金50万円は、「両罰規定」の適用です。
両罰規定とは、法人に所属する従業員が違法な行為をした場合、従業員だけでなく従業員の所属する法人も処罰する規定のことです。
つまり、発注元の事業者が違反した場合、違反者だけでなく事業主も罰則の対象となります。
フリーランス新法と下請法の違い
下請法の正式名称は「下請代金支払遅延等防止法」です。
資本金の大きい企業が、小企業や個人事業主に発注した商品・サービスに対して、不当に代金の減額・返品、支払いの遅延などを禁止する法律です。
下請法の規制対象は資本金1,000万円以上の事業者にしか適用されませんが、フリーランス新法は小規模な事業者とのトラブルにも対応できます。
フリーランス新法と下請法の主な違いは、下表の通りです。
フリーランス新法 | 下請法 | |
---|---|---|
保護の対象 |
業務委託を受けて従業員を雇わず1人で働くフリーランス |
下請事業者 |
規制の対象 |
従業員を雇っている事業者 |
資本金が一定額以上(少なくとも1,000万円超)の親事業者 |
主な義務 | 委託条件の明記・報酬を60日以内に支払うことなど | |
主な禁止行為 |
不当な代金の減額・返品、支払いの遅延など |
|
罰則 |
50万円以下の罰金など |
フリーランス新法の施行までに企業は何を対応すべきか
ここからは、フリーランス新法の施行に向けて、企業の人事が準備・注意すべきポイントを解説します。
フリーランス新法の内容は今後変更される可能性もありますが、現時点で準備すべきポイントは以下の4つです。
- 業務委託契約書や募集内容のフォーマット作成
- フリーランスの就業環境を整え、社内体制を整備する
- フリーランス新法に関する対応マニュアルの作成・配布で社内周知を徹底する
- フリーランス新法の遵守を対外的に発信する
これらの対応は、人事だけでは実施が難しいものもあります。そのため、関連部署や顧問弁護士、サービス企業などと協力して進めると良いでしょう。
フリーランス新法への対応は組織環境の改善や働き方改革につながるものと捉え、フリーランスと企業の双方にとって良い関係を築ける環境整備に取り組むことが大切です。早い段階から情報収集と準備を進めましょう。
【よくある疑問】フリーランス新法に関するQ&A
最後に、フリーランス新法に関する、よくある疑問について回答します。
フリーランス新法はいつから適用されるのか
2023年9月現在、施行日は未定ですが、フリーランス新法の附則によると公布から1年半以内に施行とされています。
よって、早ければ2023年中、遅くとも2024年には施行される見通しです。
条文内容の具体的な内容とは
フリーランス新法の条文内容は、具体的に次の通りです。
- 契約条件を書面で交付する…契約内容を書面またはメールで明示する必要がある
- 60日以内に報酬を支払う
- 不特定多数に対する募集情報は適切に行う…業務内容を明記する必要がある
- フリーランスの利益を損なう不当な扱いを禁止する…上下関係を利用した不当な扱いをしてはならない
- フリーランスの労働環境整備に努める…ハラスメントや出産・育児・介護などに適切に対応できる体制を整備する
新法と下請法の主要な違い
フリーランス新法と下請法の主要な違いは、以下の通りです。
フリーランス新法 | 下請法 | |
---|---|---|
対象者 | 従業員を雇わず1人で働くフリーランス | 下請事業者 |
規制対象 | 従業員を雇っている事業者 | 資本金1,000万円以上の親事業者 |
フリーランス新法のほうが、禁止事項をより具体的に記載しているため、トラブルになった時にフリーランスが条文を主張しやすくなっています。また、小規模な事業者とのトラブルにも対応できます。
まとめ
フリーランス新法は、フリーランスの労働環境の整備を目的とした法律です。
フリーランスは弱い立場にあるため、新たに法整備が行われました。フリーランス新法が施行されれば上下関係を利用した不当な契約によるトラブルが減少し、フリーランスが働きやすくなるでしょう。
企業でも、近づくフリーランス新法の施行に向けて、早めの対応をされてはいかがでしょうか。