組織の階層が多いと、意思決定のプロセスが複雑化し遅延が生じることがあります。
これにより社内だけでなく顧客にも迷惑をかけてしまうようであれば、組織としての在り方を見直す必要があるでしょう。
今回は、業務を円滑に進める組織形態として注目されている「フラット組織」について解説します。
フラット組織とは、社内の役職としての管理階層が少ない組織のことです。
管理層の階層が深い「ピラミッド組織」と比較した場合のメリットやデメリットなども紹介します。
組織改革を視野に入れている企業担当者の方は、ぜひこの記事を参考にしてくださいね。
フラット組織とは
フラット組織とは、社内の役職を減らし、階層を簡素化した組織形態のことです。
社長、部長、課長、係長と幾重にも重なる管理層の組織と比較して、組織構造が平面的であることから、フラット組織またはフラット型組織と呼ばれています。
フラット組織は、中間層管理職に集まる権限が社員に分散されることが特徴です。
組織階層をどの程度減らすのかによって変わりますが、階層が少ないほど社員の裁量で意思決定できる範囲が広がります。
これまで、些細な意思決定でも部長や課長など各階層に許可を取る必要があったでしょう。
フラット組織であれば、社員一人ひとりが主体的に行動できるようになります。
さらに、いくつもの階層に許可を取る必要がなくなるため、意思決定スピードが早まることが期待できるでしょう。
フラット型組織以外の組織形態
組織形態には、フラット型組織以外にもピラミッド型組織とアメーバ型組織の2つがあります。
それぞれの組織の特徴について紹介します。
ピラミッド型組織とアメーバ型組織の特徴を把握して、フラット型組織と比較してみましょう。
ピラミッド型組織
フラット型組織と対になるのがピラミッド型組織です。
社長、部長、課長のように管理層の階層が深い組織のため、管理職の目が届く人数に応じてチームを区切ります。
役職が下がるにつれて人数が多くなっていくため、役職を持たない一般社員が最も多いのがピラミッド型組織の特徴です。
強いリーダーシップを発揮できる人物が集団を引っ張り、組織を盛り上げていくには、最適な組織形態といえます。
ただ、企業の規模が拡大するほど階層が複雑化してしまうのが難点です。
組織のトップが発する指示が平社員に正確に伝わらない、伝達スピードが遅くなるなどの問題が生じやすいといわれています。
また、ピラミッド型組織は組織のトップの影響力が大きいのも特徴です。
思考に一貫性があり信念を持って決断できるトップであれば、売り上げや社員の働きやすさに大きく貢献するでしょう。
しかし、そのときの気分や短期的な利益を優先するトップの場合は、組織全体に悪影響を及ぼす可能性があります。
ピラミッド型組織は、良くも悪くも組織のトップの考え方に大きく左右されるのです。
アメーバ型組織
アメーバ型組織とは、5~10人程度の小集団に細分化、さらに各小集団に一人リーダーを任命し、ひとつの企業として経営していくことです。
この手法は京セラの稲盛和夫名誉会長が自らの会社経営体験から見出した経営管理手法です。
「企業は組織のトップだけが経営するのではなく、従業員が全員参加して経営していくものだ」という考えに基づいているといわれています。
アメーバ型組織には階層が存在せず、上下関係に縛られません。
そのため、気兼ねなく意見交換ができ、アイデア出しや課題発見が滞りなく行われるようになります。
また、各小集団が経営者意識を持って物事に取り組むようになるのも、アメーバ型組織の特徴です。
利益の最大化や目標達成を常に意識して行動できるようになります。
ただ、同じ企業の中に小集団がいくつも存在することで、ライバルのような関係に発展してしまう可能性もないとは言い切れません。
部署間の横連携がとりにくくなることもあるため、経営陣による企業統治の強化が求められるでしょう。
フラットな組織のメリット
フラット組織は管理階層が少なくなることで、さまざまなメリットが生まれます。
今回は、フラット組織に切り替えることで生まれるメリットを6つ紹介します。
フラット組織の導入を検討している方は、企業の課題や改善点と照らし合わせながら目を通してみてくださいね。
意思決定のスピードアップ
フラット組織に切り替えることで、意思決定がスピードアップします。
作成した書類を課長、部長と、各階層に許可を取らなければならない形態に、うんざりしたことのある人は多いでしょう。
不正やミスを防ぐうえで、上司の確認や承認を徹底するのは必要な業務のひとつといえます。
しかし、承認依頼をして許可が下りるまでのプロセスが長いことで、業務の遅れが生じることもあったはずです。
フラット組織は、中間管理層が存在しないため、現場の意見が直接経営陣に伝わりやすくなります。
つまり、何人もの上司を経由する必要がなくなるのです。
各プロセスに速さが問われる現代、フラット組織であれば急なトラブルにも早急に対応できます。
従業員の責任感の向上
フラット組織は中間管理職に相当する人が少ないことが特徴です。
そのため、一般的に中間管理職が担う権限が従業員にも割り振られるようになり、一人ひとりの責任感の向上が期待できます。
従業員は責任を果たそうと主体的な行動をするようになり、新しい知識やスキルの習得にも関心を寄せるようになるでしょう。
組織全体のパフォーマンスが向上する
フラット組織は、意思決定をする際に複数階層の承認を得る必要がありません。
つまり、従業員一人ひとりが自分で考え、自分の責任で行動できるようになるのです。
中間管理層の確認を待たずに素早く動けることで、個人のエンゲージメントが向上します。
その結果、組織全体のパフォーマンスにも大きな影響を与えるでしょう。
組織全体のパフォーマンスが高まれば、業務の効率化や生産性の向上も期待できます。
フラットな組織になる
係長や課長が存在しないフラット組織は、同じ立場の従業員がひとつの目標に向かって仕事を進めることができます。
メンバー間の力関係がフラットなので、「先輩だから…」といった気を遣わずに済みます。
アイデア出しや意見交換が活発化しやすいでしょう。
社内コミュニケーションの活性化
フラット組織は従業員と経営陣との距離が近いため意見交換しやすく、社内のコミュニケーションが活発化しやすい傾向にあります。
ピラミッド型組織の場合、意見の伝達に時間がかかったり、従業員が経営陣に提案する過程で取り下げられてしまったりする可能性があります。
ピラミッド型組織と比較して、フラット組織は経営陣と直接対話できる機会を迅速に用意できることがメリットといえるでしょう。
人件費の削減できる
フラット組織は中間管理層が少ないため、管理職手当などの人件費を大幅に削減できます。
そのため中間管理層に充てていた費用を、従業員の給料や事業予算に割り振ることができるでしょう。
フラットな組織のデメリット
フラット組織は、良い面ばかりではありません。
デメリットを把握せずにフラット組織に切り替えてしまうと、組織が機能しなくなるおそれもあります。
以下のデメリットを自社でカバーできるのかどうか、事前にシミュレーションしておきましょう。
組織全体の連携が取りにくくなる
従業員それぞれが独立して行動をとるフラット組織は、組織としてまとまった動きがとりにくくなります。
組織全体の連携がうまくいかないと、経営陣のビジョンやミッションがなかなか浸透しません。
さらに、意思決定や責任は個人に委ねられている場合が多く、同じケースでも従業員によって対応が変わってしまうなどの問題が生じるリスクもあることは覚えておきましょう。
情報漏洩のリスク
ピラミッド型組織では、上層部のみに機密情報が共有されるケースが多いでしょう。
しかし、フラット組織では意思決定権を持つ全ての従業員に情報が共有されるため、情報漏洩のリスクがあります。
機密情報や知的財産の外部への漏洩は、企業に重大な損失を与えるおそれがあります。
インサイダー情報の流出で不正が行われると、企業の存続に関わる悪影響をもたらすでしょう。
知的財産権の管理やインサイダー情報の漏洩防止など、全従業員に対して機密情報の管理徹底を講じる必要があります。
リーダー人材の育成が滞る
中間管理職層の削減や従業員の裁量権取得により、組織や従業員を俯瞰して統率できるリーダー人材の育成が滞るリスクがあります。
責任が分散された組織では、従業員それぞれが担当業務のみに没頭してしまいやすくなります。
組織を俯瞰できるリーダー人材がいないと、自己評価に偏りが生まれ、結果的に組織としての一体感がなくなる可能性もないとは言い切れません。
組織全体を俯瞰し、状況に応じて瞬時に対応ができる人材を育てるためにも、リーダー研修を積極的に実施しましょう。
管理者の負担が増加する
フラット組織とはいえ、中間管理層を削減するだけですから、少ないながらも管理者は存在します。
ただ、ピラミッド型組織と比較して管理者が抱える部下の人数は多く、管理者の負担が増加しやすいのが難点といえるでしょう。
従業員が仕事について相談したい場合、その相談相手となるのはトップに位置する管理者です。
組織の規模が大きいほど、さらには抱える部下の人数が多いほど、管理者の負担は増えてしまうでしょう。
従業員のスキルが必要
フラット組織は、従業員一人ひとりの自主性と自己責任に大きく依存する組織形態です。
そのため、各従業員には高度なスキルとセルフマネジメント能力が求められます。
課題解決力が低く責任感のない従業員が多いと、そういった従業員をフォローする中間管理階層が少ないフラット組織では、組織全体のパフォーマンスや生産性が低下してしまうでしょう。
管理者は、自己設定目標の設定、時間や品質の管理、スキルアップに向けた自己学習などを従業員に指導する必要があります。
フラット型組織の課題を解決する方法
フラット型組織のメリットを最大化し、デメリットを最小限にするためには、今回紹介する3つの取り組みを導入することをおすすめします。
どれだけ事前に失敗を予想し、対策を講じるかにより、組織編制の成果は決まります。
フラット組織への切り替えを検討している企業は、メリットデメリットだけでなく課題を解決する方法にも目を通してくださいね。
情報連携の方法を工夫する
上司の指示で動く組織とは異なり、フラット型組織は各従業員が自立して業務に携わります。
そのため、従業員それぞれがバラバラな動きをしてしまうと、組織としての一体感が失われてしまう可能性があるのです。
情報連携の方法を工夫すると、組織全体の活性化につながり、目標達成や業績拡大を実現できるようになるでしょう。
例えば、以下のような方法を意識して取り入れてみることがおすすめです。
- ビジョンやミッションの浸透
- 定期的なミーティングの実施
- ツールによる業務状況の可視化
- 各人が担当する業務の共有
- 業務に関する標準的なマニュアルの作成
- 協働の後押しにつながる評価制度の整備
- 交流を促進するカジュアルなイベントの開催
中間管理職が少ないからこそ、横のつながりを強化する施策が有効です。
従業員同士のコミュニケーションの機会を提供することで、連携しやすい職場環境が生まれるでしょう。
従業員のスキルアップの向上を促す
従業員の自主性やスキルが企業の利益に大きく影響するフラット型組織において、従業員のスキルアップやモチベーションの向上は欠かせません。
従業員一人ひとり、得意不得意があれば、好き嫌いもあるでしょう。
スキルアップを促す機会をなるべくたくさん提供し、従業員が選択できる形を取るのが良いですよ。
- 役割や目標を明確化するためのサービスを導入
- スキルの専門性を高める業務研修
- ロールモデルの提示によるキャリア開発
- 定期的な業務研修や能力研修
- eラーニングや外部講師を招いた研修
従業員一人ひとりが、企業貢献度や不足部分を把握できる人事評価制度の導入もおすすめです。
「きちんと見てもらえている」と感じることで、エンゲージメントアップにもつながります。
一度の改革で完全なフラット化を目指さない
一度の改革で、完全なフラット化を目指さないようにしましょう。
というのも、従来の組織形態からフラット型組織に一気に移行してしまうと、役割の認識や責任の所在が不明瞭になるリスクがあるからです。
段階的に移行を進めることで、管理者に負荷が集中した場合の対処が容易になります。
また、従業員の混乱も減らせるため、モチベーションの維持にも効果的でしょう。
まずは管理職の業務を細分化して、従業員に少しずつ譲渡するやり方を導入してみてくださいね。
まとめ
フラット組織とは、社内の役職を減らし、階層を簡素化した組織形態のことを指します。
管理層の階層が深い組織ピラミッド型組織とは異なり、各従業員に責任が分散されていることが特徴です。
意思決定のスピードアップや従業員の責任感の向上などのメリットがあります。
一方、情報漏洩のリスクが高まったり、管理者の負担が増えたりするなどのデメリットがあることも覚えておかなければなりません。
導入前にメリットデメリットを社内できちんと把握し、自社に合うかどうかを事前にシミュレーションしてみましょう。
フラット組織への切り替えを確定した企業は、一度の改革で完全なフラット化を目指さず、少しずつフラット組織へと移行していくことが望ましいですよ。