『働き方改革』の影響から各企業で長時間労働の見直しが進んでいますが、その中で今後ますます増加が懸念されているのが「持ち帰り残業」です。
そこで今回は、“社員が勝手にしていることだから”では済まされない可能性のある、従業員の「持ち帰り残業」に潜むリスクと、その対策について解説します。
目次
「持ち帰り残業」とは?
持ち帰り残業とは「会社の労働時間内で終わらない仕事を、本来は残業時間に行うところ、自宅やカフェなどの外部に持ち帰って行う」ことを指します。
“労働時間”の定義
持ち帰り残業を語る上で欠かせないのが“労働時間“ですが、これは「労働者が使用者の指揮監督下に置かれている時間」のことを言います。
そのため、社員が自主的に持ち帰った仕事の場合は、使用者が指揮命令をしていないことから労働時間にはあたりません。
反対に、自主的に持ち帰ったものではない仕事の場合は、会社での労働と同じ扱いになるということです。
イマドキの新たな呼称も
以前は「風呂敷残業」とも比喩されていた持ち帰り残業ですが、現在では「Eメール残業」や「USB残業」、「モバイル残業」や「クラウド残業」などの表現も生まれています。
近年のインターネットの普及に伴うワークスタイルの変化により、持ち帰り残業の敷居も低くなっており、その分、問題化しやすい時代にあるとも言えるでしょう。
「持ち帰り残業」が増えている理由
現在、大企業をはじめとする日本中の企業において、『ノー残業デー』や『プレミアムフライデー』の導入、『オフィスの20時一斉消灯』の実施など、残業削減に向けた様々な取り組みが行われています。
しかしながら、実態として働き方の“本質”そのものは全く変わっておらず、業務量自体が減るわけではありません。
そのため、“これまでは残業をすることで、やっと仕事を仕上げることができていた”という社員からすると、会社で残業ができないとなれば自宅やカフェなど外部で残業をせざるを得なくなります。
根本的な業務削減の取り組みをしないまま“在社時間の減少”ばかりが訴えられることで、実際には業務量をカバーするために現場で業務を行う労働者が自ら「朝型勤務」や「持ち帰り残業」を行う必要に迫られているというわけです。
「持ち帰り残業」に潜む3つのリスク
未払い賃金による訴訟リスク
持ち帰り残業には「個人の自主性」により行われる場合と、「業務上の必要に迫られて」やむを得ず発生している場合の2つのケースがあります。
後者の場合、明確な指示の有無に関わらず『黙示の業務命令』とみなされ、会社は持ち帰り残業に伴う労働時間分の賃金を支払う必要があります。
事例
業務時間内には処理しきれない業務量を要求しながら、定刻に強制的に消灯。
※居残りの禁止・持ち帰り残業の強要としてみなされます。
労働時間を把握できないリスク
目の届きづらい外部での労働となることから、社員の労働時間を正確に把握することができず、残業代未払い等の問題が発生する可能性があります。
さらに、長時間労働の社員がいることにも気づけず、過度のストレスに起因する精神的な病気や自殺などの増加に繋がる可能性もあり得ます。
セキュリティのリスク
会社の情報を外に持ち出し、機密情報が記載された書類やUSBなどを社員が紛失したとなれば、会社の経営に関わる大問題にも発展しかねません。
「知らなかった」では済まされなリスクが、持ち帰り残業には潜んでいるのです。
「持ち帰り残業」を防ぐには?
そもそも“残業をさせない”施策を
「一人当たりの業務量・分担の見直し」や「業務の属人化の改め」、「新ツールの導入」により業務効率化を図るなど…“持ち帰り残業をなくしていくため”に、会社に必要な施策を具体的に考えていくことが必要です。
そのために、まずは持ち帰り残業の実態等の現状を正確に把握するところから始めていきましょう。
システムや就業規則の整備
社外での労働時間を正確に把握するためには、「勤怠管理システム」の導入・見直しが有効な場合もあります。
また、社会保険労務士など専門家に相談の上で「就業規則の整備」をすることも重要です。
形式や文言はネット上にも雛形は見られますが、会社の状況に合せた適切なものを用いて、持ち帰り残業の原則禁止、承認制の導入などを検討していきましょう。
まとめ
事業主にとって「労働時間の適正な把握」は義務です。
“社員が勝手にやっていることだから…”というスタンスでは、見えないところで大きな問題を生む可能性があることを、今後はより一層強く認識しておく必要があります。
そして、予防策として業務体制や職場環境の整備を行い、そもそも「持ち帰り残業」をさせないこと。
やむを得ないケースに対応するルールを事前に作っておくこと。
勤怠管理システムの導入を検討するなど、今、会社に必要となる具体的な施策を取り入れていくことが不可欠です。