ジョブローテーション制度をご存知でしょうか。
社員の育成方法や、適材適所な人員配置に悩んでいる企業も多いと思いますが、ジョブローテーション制度を導入すれば、これらを解決できるかもしれません。
そこで、今回は従業員と企業双方にとって多くのメリットがある「ジョブローテーション制度」について、メリット・デメリットと共に解説していきます。
他にも、ジョブローテーション制度の導入方法やポイント、向いている企業・向いていない企業についてもご紹介しますので、ぜひご覧ください。
ジョブローテーション制度とは?
ジョブローテーション制度とは、人材育成計画をもとに戦略的に行われる人事異動のことです。
数ヶ月~数年一つの部署で経験を積み、他部署へ移動になるケースが一般的ですが、同じ部署内で担当する業界や職務内容を変更するケースもあります。
例)
他部署へ移動となるケース:営業→企画→生産→総務→人事
同一部署で担当内容が変更となるケース:個人営業→法人営業
様々な業務を経験させることで事業や業界への理解を深められることから、従業員の能力開発を行う仕組みとして、多くの企業で取り入れられています。
ジョブローテーション制度の目的
ジョブローテーション制度導入の主な目的は、「人材育成」「属人化防止」です。
では、内容を詳しく見ていきましょう。
人材育成
ジョブローテーションは様々な仕事が経験できるため、実務研修の要素を含んでいます。
新入社員の場合、入社後すぐに各部署の特徴や業務内容を把握するのは難しいため、なかなか全体像がつかめません。
各部署で経験を積めば、職務内容や企業への理解を深めることができますし、適性を見極めた人員配置も可能です。
また、幹部候補者に対してジョブローテーションを行えば、社内業務全体を把握することができるため、俯瞰的に捉える力や能力開発に役立ちます。
属人化防止と組織活性化
特定の社員にしかできない業務が多いほど、その社員の負担は大きくなるため、多様な働き方の阻害やマンネリ化につながります。
また、業務が属人的になると、
・引き続きが上手くいかずに業務が滞る
・不正や隠ぺい
といったリスクも考えられます。
そのため、定期的に担当業務を変えることで、属人化の防止や組織の活性化を図る目的があるのです。
ジョブローテーション制度のメリット・デメリット
ジョブローテーション制度にはどのようなメリット・デメリットがあるのか、見ていきましょう。
メリット
ジョブローテーション制度のメリットをご紹介します。
社員の最適な部署や仕事内容が分かる
生産性や利益を向上させるには、適性に合った人員配置を行うのが有効です。
しかし、社員一人ひとりがどの職種・業務に適性があるか、見極めるのは難しいですよね。
ジョブローテーションは様々な業務を経験するため、本人の意思や実務を通して適性を見極めることができます。
部署間のコミュニケーションが円滑になる
入社してからずっと同じ部署で働いている場合、他部署のメンバーと接する機会が少ない、というケースも珍しくありません。
様々な部署で経験を積むジョブローテーションは、異動先の社員と新しいネットワークを構築できるため、部署間のコミュニケーションが円滑になります。
部署間の連携が取りやすくなれば、生産性向上や風通しの良い風土作りにも役立つでしょう。
新しいアイデアが生まれる可能性がある
特定の部署でのみ経験を積めば専門性を高めることはできますが、知識や発想が偏って新しいアイデアを生み出しにくくなる可能性もあります。
様々な職種や部署を経験し、異動先の社員と交流を深めることで、幅広い知識や多角的な視点で考える力が身に付きます。
そのため、新たなアイデアの創出や課題を発見する機会が増えやすくなるのです。
業務が標準化しやすい
特定の社員が長期間同じ業務を担当するのは、業務の属人化を招きます。
ジョブローテーションは「誰でもできる」ように業務を標準化させるため、業務効率化や急な欠員にも柔軟に対応できるようになります。
デメリット
ジョブローテーション制度には、様々なメリットがあることが分かりました。
ここでは、ジョブローテーション制度のデメリットをご紹介します。
生産性が下がってしまう可能性がある
ジョブローテーションは定期的に部署が変わるため、異動先では新たな業務を行うことになります。
対象の社員は一からその部署の仕事を覚えなくてはならず、異動先の社員も仕事を教えなくてはならないため、生産性が低下する可能性があります。
生産性低下を最小限に抑えるためにも、マニュアルの完備や能力の高い社員を近くに置くなど、フォロー体制を整えることが重要です。
社員に不満が生まれやすい
様々な部署を経験する中で「この仕事がしたい」と思っても、期間中は次の部署へ異動しなくてはなりませんし、合わない仕事であっても一定期間は続ける必要があります。
また、「慣れてきたと思ったら異動になってしまい、一から仕事を覚えなくてはならない」といったサイクルに負担を感じる社員も多く、不満が生まれやすいのです。
こうした不満から退職を検討する社員も出てくるため、定期的に本人の意向やキャリアパスと会社側の意向をすり合わせることが重要です。
スペシャリストの育成が難しい
ジョブローテーションは数ヶ月から数年程度で部署異動となるため、期間内に業務の深層部まで理解することは困難です。
ジョブローテーションによって幅広い知識を得ることは可能ですが、知識や技術の専門性を高めることは難しいため、「スペシャリスト」の育成には向いていません。
ジョブローテーション制度の導入方法
ジョブローテーションのメリットを最大限引き出すには、どのような方法で導入したら良いのでしょう。
ここでは、ジョブローテーションの導入方法をご紹介します。
STEP1.目的を明確化させる
まずは、ジョブローテーションを実施する目的を明確にさせましょう。
ジョブローテーションの適正な実施期間は、
・企業理解の促進や適切な人員配置を行う目的…3ヶ月~6ヶ月程度の短期
・幹部候補の能力開発が目的…3年~5年程度の長期
のように、目的によって異なります。
STEP2.対象者を選定する
目的を明確化させたら、年齢や社歴をもとに対象者を選定します。
例えば、適材適所の人員配置が目的であれば、新入社員や若手社員を対象とするなど、目的に沿ったジョブローテーションの対象者を選定します。
また、ジョブローテーションは、特定の分野に特化した「スペシャリスト」には向かないため、本人のキャリアプランを確認することも重要です。
STEP3.配属先を決める
ジョブローテーションのメリットを最大限引き出すには、対象者に合った配属先を選定することです。
対象者のキャリアプランと会社が期待している活躍を考慮した上で、配属先を決めましょう。
STEP4.実施期間と目標を設定する
ジョブローテーションを有益なものにするためには、実施期間と目標を設定することが重要です。
実施目的を踏まえ、どのような知識やスキルをどの程度の期間で習得させるか、目標を立てましょう。
STEP5.対象者への説明
ジョブローテーションの対象者へ実施内容を説明しましょう。
きちんとした説明もなく異動を命じられると大きなストレスとなるため、モチベーション低下を招く原因になります。
実施する期間や目標だけでなく、「何を期待して実施するのか」説明することで、モチベーション低下を防げます。
STEP6.実施
対象者の了承を得られ、受け入れ先の準備が整ったら、いよいよ実施です。
ジョブローテーション期間中も定期的に面談を行い、目標の進捗状況を確認してください。
また、実施期間が終わったら、次の配属先を決める必要があります。
本人のキャリアプランや異動によって得た知識・スキルが活かせる部署を考慮し、新たな配属先を決めましょう。
ジョブローテーション制度導入のポイント【社員の役職別】
ジョブローテーション制度導入のポイントは、社員の段階に合わせたフォローを行うことです。
詳しく内容を見ていきましょう。
新入社員、若手社員
企業理解の促進や適切な人員配置を目的として、ジョブローテーションの対象となることが多いです。
しかし、やりたい仕事が決まっている人もいるため、望まない部署へ配属された場合、出鼻をくじかれたように感じられ、不満を抱えることもあります。
そのため、事前の説明を行うだけでなく「メンター制度」「ブラザー・シスター制度」を導入し、メンタル面のフォローも行いましょう。
中堅社員
ある程度経験を積んだ中堅社員の場合、一般的には次世代リーダーを育成する目的で実施されます。
将来管理職として活躍するには、企業全体の業務把握やリーダー経験などが必要とされますが、異動経験や部下を持ったことがない場合も多いです。
そのため、リーダー候補性として新しい役割を与え、少数の部下を持たせるといった、経験をさせましょう。
管理職の社員
管理職の社員を対象として実施する場合、将来経営陣となる幹部候補生の育成が主な目的です。
経営視点やマネジメント、リーダーシップなどが必要となるため、3年~5年程度の長期スパンで営業や人事、財務といった基幹業務を経験していきます。
また、グローバル化が進んでいることから、国際的な感覚を持たせることも重要です。
海外拠点がある企業は、海外勤務させるのも有効でしょう。
ジョブローテーション制度はどんな企業に向いている?
ジョブローテーション制度は、全ての企業に向いているわけではありません。
ここでは、ジョブローテーション制度の向いている企業・向いていない企業をご紹介します。
向いている企業
ジョブローテーションが向いている企業としては、
・部署間の関連性が高い商品・サービスを提供している
・業務遂行に幅広い知識が必要
・企業の文化やポリシーを浸透させたい
・社員が多く在籍している
が挙げられます。
部署間の関連性が高い商品・サービスを提供している
ジョブローテーションは、部署間の関連性が高い商品を提供している企業に向いています。
例えば、商品の企画や製造を行っているメーカーの場合、企画職や研究開発職、製造職、営業職といった多様な部署があります。
このような場合、円滑な社内コミュニケーションや商品提供までの流れを理解することは、業務効率化や生産性向上につながるため、向いているのです。
業務遂行に幅広い知識が必要
ジョブローテーションで様々な部署を経験することで、知見を広めることができるため、柔軟な対応や的確な判断が下せるようになります。
企業の文化やポリシーを浸透させたい
支社や店舗の多い企業やM&Aを行っている企業の場合、企業文化を統一したいケースも多いと思います。
ジョブローテーションで複数の部署へ異動することによって、社員との交流を通して文化やポリシーが身につきます。
社員が多く在籍している
ジョブローテーションは一定期間で部署異動となるため、都度業務の指導・習得を行わなくてはなりません。
そのため、社員数の少ない企業では、業務に支障をきたす可能性があります。
また、社員数が多ければ同等の社歴・年代の社員も多いことから、候補者選定や異動もさせやすいため、ジョブローテーションに向いています。
向いていない企業
ジョブローテーションが向いている企業としては、
・専門性の高い業務が多い
・長期プロジェクトを請け負っている
・社員数が少ない
が挙げられます。
専門性の高い業務が多い
ジョブローテーションは、一定期間で部署や業務が変わるため、専門性を高めるのは困難です。
そのため、高い専門性を求められる業務の多い企業がジョブローテーションを取り入れると、業務効率やクオリティ低下を招きます。
長期プロジェクトを請け負っている
コンサルティングなどの長期プロジェクトを請け負っている企業に、ジョブローテーションは向きません。
プロジェクト進行中に異動が行われると、引き継ぎに手間取り業務が停滞する、連携不足による不手際で先方に迷惑を掛けるといったリスクが考えられます。
社員数が少ない
先述のとおり、社員数の少ない企業がジョブローテーションを取り入れると、業務に支障をきたす恐れがあります。
指導側・対象者どちらの社員にとっても負担が掛かるため、フォロー体制を整えた上で慎重に検討しましょう。
ジョブローテーション制度は慎重に検討
ジョブローテーション制度は、適材適所の人員配置や社内コミュニケーションの円滑化、幹部候補生の育成といった様々なメリットがあります。
しかし、スペシャリストの育成が難しいなどの面から、企業によっては恩恵よりもデメリットの方が大きいこともあるため、必ずしも“良い制度”とは言えません。
ジョブローテーション制度の導入が適しているか慎重に検討した上で、判断しましょう。