経団連主導の就活ルール廃止に伴い、新卒採用の動向について情報収集している担当者も多いのではないでしょうか。
そこで、この記事では新卒一括採用とは何か、なぜ廃止されようとしているのかについて解説していきます。
また、新卒一括採用がなくなることで、企業側・学生側それぞれにどのような影響を与えるかについてもご紹介しますので、ぜひご覧ください。
新卒一括採用とは?
新卒一括採用とは、毎年決まった時期に、卒業予定の学生を対象として採用選考を行い、卒業後すぐに入社させる日本独自の雇用慣行です。
新卒一括採用の経緯
新卒一括採用の始まりは、明治時代にまで遡ります。
大学が誕生したばかりの明治時代において、大学生の就職先は官界や学界がほとんどでしたが、第一次世界大戦の好景気によって、一般企業も優秀な人材を求めるようになりました。
しかし、当時大学は旧帝大のみで人材が限られていたため、民間企業は高等小学校卒業の若者を採用し、社内で育成するようになったのです。
これを受け、日本政府は大学を増やすために「大学令」を交付しますが、第一次世界大戦の終結や関東大震災によって不況が深刻化してしまいます。
その結果、就職を希望する学生が企業に殺到し、各企業では選抜試験が行われるようになりました。
これが新卒一括採用の始まりと言われています。
その後、日中戦争の影響で景気が回復したため、大卒者の初任給は高騰しますが、政府は国が新卒者を企業へ割り当てる制度や初任給の一律化などを断行しました。
第二次世界大戦後は、朝鮮戦争の影響で好景気が到来すると新卒採用競争も激化したため、文部省(現:文部科学省)は就職斡旋開始日を定めた「就職協定」を通達します。
戦後の高度成長期を迎えると、ポテンシャル重視の若い労働力を確保するために、入社後の長期教育を前提とした一括採用と、在籍期間に応じて給与が上がっていく「年功序列」を組み込んだ日本型雇用が行われるようになります。
また、1968年には現在の就職活動の主流である「自由応募」が一般化しました。
以上のことから、新卒一括採用は、好景気による優秀な人材を大量確保するために始まり、戦後の高度成長期に日本型雇用が確立したと言えるでしょう。
新卒一括採用は廃止される背景
では、長らく続いてきた新卒一括採用がなぜ廃止されようとしているのか、その理由をみていきましょう。
就活ルールの形骸化
就活ルールは、1953年に定められた「就職協定」から始まります。
その後、経団連を中心とした「倫理憲章」に切り替わり、2013年には「採用選考指針」へ改められ、2015年現行のルールに落ち着きました。
就職協定が定められてから様々な変更が行われてきましたが、いずれも法的拘束力や罰則規定のない紳士協定であったため、ルールを守らない企業も少なくありませんでした。
経団連に加盟していないベンチャー企業はルールに従う必要がありませんし、加盟企業でさえ、解禁前から学生と接触するなどの行動が見受けられたのです。
このように、就活ルールが形骸化していたため、経団連による就活ルールの廃止が決まりました。
※混乱を避けるため、2022年卒までは政府主導で現行のルールを適用することが決まっています。
終身雇用や年功序列の終わり
新卒一括採用は、特定の時期に多くの新卒者を採用し、「終身雇用」や「年功序列」によって新卒者を育て上げるという考え方です。
新卒者を雇う場合、その人のポテンシャルに期待して採用し、長期的に社内教育を行うことで成長させていきます。
そして、「一生雇う」と保証する代わりに若くて安い労働力を確保し、勤続年数に応じて給料を上げる仕組みにすることで、1社で勤め上げる日本型雇用が成立するのです。
しかし、少子高齢化やグローバル化による企業競争の激化といった時代の変化により、今までの雇用形態を維持できなくなってきています。
このような背景から、今後は徐々に年間を通して採用活動を行う「通年採用」へ移行していくと考えられます。
新卒一括採用のメリット・デメリット【企業側】
新卒一括採用を行う企業側のメリット・デメリットをご紹介します。
企業側のメリット
採用担当者の負担軽減とコスト抑制
新卒一括採用は、毎年1回決まった時期に採用活動を行います。
短い期間で採用活動が終わるため、求人広告掲載の費用や採用担当者の人件費といった、採用コストを抑えることができます。
また、入社時期がバラバラだと研修も都度必要になるため、その分教育コストは高くなりますが、新卒一括採用は入社時期も同じです。
入社人数が多くても一括で研修できるため、教育コストを抑えられます。
就活生に対して一斉にアプローチできる
就活解禁日に合わせて、学生は企業の情報収集やエントリー企業の検討など、一斉に動き出します。
就活の意識が高まっている状態の就活生に向けて一斉にアプローチできるため、効率よく自社PRを行えるのです。
愛社精神や忠誠心を高められる
新卒一括採用では、他社のカラーに染まっていない人材を獲得できるため、愛社精神を育みやすい傾向にあります。
また、長期就業を前提としているため、忠誠心も高めやすいです。
企業のデメリット
機会損失の可能性がある
新卒一括採用は、日本の大学スケジュールに合わせて、入社する時期が決まっています。
そのため、日本の大学とは卒業時期が異なる、海外在住の大学生・留学生といったグローバル人材は、就活や入社のタイミングが合いません。
優秀な人材であっても、タイミングが合わなければ対象外となってしまうため、機会損失の可能性があるのです。
特定の期間に負荷が集中する
新卒一括採用は、選考活動が一定期間に集中するため、期間中担当者の負荷が急増します。
また、近年は売り手市場の影響で採用難易度も上がり、採用手法が多様化していることもあり、「応募を出して待つ」従来のやり方だけでは、成果を上げられません。
戦略的な採用活動が必要とされているため、採用担当者の負担は大きくなるばかりです。
ミスマッチ採用のリスクがある
新卒一括採用は、ポテンシャル重視のため、経験やスキル重視の中途採用よりも評価基準が曖昧になりやすいです。
そのため、求める人物像の設定を明確に行えていないと、入社後に「想像していたようなタイプではない」とギャップを感じる可能性もあります。
ミスマッチ採用防止のためにも、採用予定人数の確保に気を取られず、しっかりと意思疎通を図り、本質を見極めましょう。
新卒一括採用のメリット・デメリット【学生側】
つづいて、新卒一括採用の学生側のメリット・デメリットをご紹介します。
学生側のメリット
大手企業に就職できる最大のチャンス
中途採用で大手企業へ就職しようとすると、スキルや経験を求められるため、転職難易度が高くなります。
一定の学力は必要ですが、新卒一括採用はスキルや経験ではなく、ポテンシャルを重視した採用です。
また、中途採用や通年採用より採用枠を広めに取っていることもあり、大手企業に就職できる最大のチャンスと言えるでしょう。
同期と切磋琢磨できる
同期の働く姿を見ることで「自分も負けていられない」と感じ、切磋琢磨し合うため、成長スピードが早くなる傾向にあります。
また、学生時代には出会わなかったタイプの人に巡り合うことで、刺激を与え合い、見識を広めることもできるでしょう。
学生側のデメリット
景気の影響を受ける
景気と求人数は連動しているため、景気が悪化すると求人数は減少し、就職の難易度が高まります。
事実、バブル崩壊の煽りを受けた1991年~2005年頃まで「就職氷河期」が訪れ、不本意な非正規社員が増加しました。
このように、その年の景気によって
就職の難易度は大きく変動するため、平等性に欠けることが指摘されています。
新卒入社できないと就職が難しくなる
様々な理由から新卒で入社できなかった場合、「既卒」扱いになります。
既卒は中途採用枠になることもあるため、社会人経験のある転職者と同じ土俵で戦わざるを得なくなります。
スキルや経験のある転職者と比較されてしまうため、新卒入社できないとその後の就職が難しくなるのです。
そして、このような状況に陥ることを避け、「新卒」ブランドを守るために留年する学生がいることも問題になっています。
自分で就活のタイミングを決められない
新卒一括採用は、毎年決まった時期に採用活動が行われるため、学生の都合で就活のタイミングを決めることができません。
留学やボランティア活動をしたいと思っても、就活を優先しなくてはならず、個人の活動が制限されてしまいます。
新卒一括採用がなくなってからのメリット・デメリット【企業側】
新卒一括採用のメリット・デメリットが分かったところで、新卒一括採用がなくなると、どのような影響があるのでしょう。
ここでは、通年採用となった際の企業側のメリット・デメリットをご紹介します。
企業側のメリット
多様な人材を獲得できる機会が増える
新卒一括採用では、留学生や海外在住の大学生といった、日本と卒業時期が異なるグローバル人材の採用は困難です。
しかし、通年採用であれば活動期間の制限を受けないため、グローバル人材を採用しやすくなります。
また、学外の活動に力を入れている学生なども応募できるようになるため、新卒一括採用では対象とならなかった、多様な人材を獲得できる機会が増えるのです。
慎重な選考によるミスマッチ採用の減少
通年採用は、採用活動期間が決まっていないため、採用の時期を調整することができます。
就活のピーク期を避けて活動すれば、応募者が殺到することもないため、企業側は余裕を持って選考を行えます。
応募者の見極めを慎重に行えるようになるため、入社後のミスマッチ減少に期待できるのです。
内定辞退があっても対応しやすい
新卒一括採用は選考期間が限られているため、期間終了後に内定辞退が発生すると再度募集を出さなくてはならず、新たなコストがかかってしまいます。
しかし、通年採用であれば、内定辞退が出ても随時追加していくだけで済むため、柔軟な採用活動ができるのです。
企業側のデメリット
一括採用よりもコストが増大する
一括採用の場合、採用活動の期間や入社のタイミングが決まっているため、求人広告費用や入社後に行う教育・研修費用を抑えることができます。
しかし、通年採用で採用活動が長期化すれば、広告掲載期間が長くなるため、求人広告費や応募者対応を行う採用担当者の人件費も高くなります。
また、入社時期も分散してしまうため、その都度研修を行わなくてはなりません。
したがって、通年採用は一括採用よりもコストが増大する可能性があるのです。
採用担当者の負担が増える
通年採用は、年間を通して選考活動を行えるため、新卒一括採用のように一度の試験や面接で大量の応募者を捌くことができません。
そのため、内定出しまでの選考期間が長期化しやすく、入社後の研修も一括化しにくくなります。
新卒一括採用と比べると効率が悪くなるため、採用担当者の負担が増えてしまうのです。
特に、他の業務と兼任している場合、採用業務の負荷が重くなることで、通常業務に支障をきたす可能性もあります。
専任の採用担当者の任命や採用管理システム(ATS)を導入して、採用活動を円滑に進めましょう。
採用広報が難しい
新卒一括採用の場合、採用活動期間に合わせて就職情報サイトなどへの掲載により、広報活動を行えます。
しかし、就活の時期以外で学生と接触する場合、企業側から積極的に学生へアプローチしていかないと応募者が集まりません。
大手企業のような認知度が高い企業であれば問題ないでしょうが、認知度の低い企業の場合、採用広報に苦戦すると考えられます。
新卒一括採用がなくなってからのメリット・デメリット【学生側】
通年採用になると、企業側にとって様々なメリット・デメリットがあることが分かりました。
では、学生側にはどのようなメリット・デメリットがあるのでしょう。
学生側のメリット
自分のタイミングで就活を行える
新卒一括採用は、採用活動の時期が決められているため、就活のタイミングを自分で決めることは困難です。
個人の活動を制限するだけでなく、病気などの理由で就活の時期をずらしたい人にとって、非常に不利な状況になっていました。
通年採用によって、いつでも応募できるようになれば、学生は自分のタイミングで企業にエントリーすることができます。
そのため、自分のペースでしっかりと企業研究を行い、就業意欲の高い状態で就活を始められるのです。
また、就業前の留学やボランティアといった、長期活動も行いやすくなるため、充実した学生生活を送れるでしょう。
就職失敗のリスクを低減できる
新卒一括採用では、企業の採用活動期間中に就職先を決めないと、その後の就職に大きな影響を及ぼします。
しかし、通年採用は年間を通して就活できるため、就職失敗によるリスクを低減することができるのです。
納得感のある就職ができる
新卒一括採用は活動期間が決まっているため、学生は「期間中に就職先を決めなくては」と焦りを感じやすくなります。
不安を感じたまま就職先を決める学生もいますが、通年採用であれば焦らず就活ができます。
企業研究や自分の価値観との擦り合わせができるため、納得感のある就職につながるのです。
学生側のデメリット
能動的に就活する必要がある
新卒一括採用の場合、特定の期間になると一斉に就活を始めるため、周囲の人と同じように動いていれば出遅れることはありません。
しかし、通年採用は企業によって採用活動のタイミングが異なるため、並行して選考を受けられない可能性や、興味のある企業が募集を出していない可能性もあります。
そのため、常にアンテナを張り巡らせ、能動的に動かないとチャンスを逃してしまう可能性があるのです。
内定を獲得しづらくなる
新卒一括採用の場合、内定辞退が出ることを加味し、採用枠にゆとりを持たせています。
しかし、通年採用は企業の都合に合わせて採用活動を行えるため、一括採用よりも採用枠が狭くなります。
また、通年採用になると、スキルや経験のある既卒者も同じ土俵に上がってくるため、自ずと選考基準が高くなり、内定を獲得しづらくなるのです。
採用環境を注視し、適切な対策を実施しましょう!
終身雇用や年功序列ありきの「新卒一括採用」は、終身雇用制度を維持できなくなりつつあることや、就活ルールの形骸化によって、変化する段階に入ってきています。
長らく続けられてきたこともあり、いきなり新卒一括採用がなくなることはないでしょうが、徐々に通年採用へ移行すると言えるでしょう。