毎年、様々な求人サービス会社から採用市場レポートが公開されており、その年ごとの傾向を把握することができます。
今回は、2021年新卒採用市場の動向と、採用への取り組み方について解説いたしますので、ぜひご覧ください。
また、「その年の傾向が分かっても、採用戦略への生かし方が分からない」という方も多いと思いますので、市場レポートの読み方や採用戦略への生かし方についても、併せてご紹介いたします。
【2021年】新卒採用の市場動向
2021年卒の採用市場動向を求人倍率から見ていきましょう。
引用:リクルートワークス「第37回 ワークス大卒求人倍率調査(2021年卒)」
大卒求人倍率の推移を見てみると、2013年以降求人倍率は増加傾向にありましたが、
2019年卒⇒1.88倍
2020年卒⇒1.83倍
2021年卒⇒1.53倍(6月調査時点)
と、2年連続で低下しています。
また、2020年卒と2021年卒を比較すると、前年よりも0.3ポイント低下しており、10年ぶりの下げ幅です。
しかし、新型コロナウイルスの感染拡大後も1.53倍を維持していることから、バブル崩壊後やリーマンショック後のような低水準とまではなりませんでした。
企業規模別の大卒求人倍率
引用:リクルートワークス「第37回 ワークス大卒求人倍率調査(2021年卒)」
つづいて、従業員規模別の2021年大卒求人倍率を確認してみると、
300人未満:3.40倍
300~999人:0.86倍
1,000~4,999人:1.14倍
5,000人:0.60倍
です。
すべての従業員規模で求人数は減少しているものの、従業員数1,000人未満の企業では、いずれも就職希望者が増加しています。
具体的には、
従業員規模1,000人未満⇒前年比44.7%増
従業員規模1,000人以上⇒前年比28.8%減
となっていることから、学生の大手志向が弱まったと言えます。
2021年は、新型コロナウイルス感染拡大による、世界経済への打撃も大きかったことから、企業側の採用意欲が低下しました。
しかし、大卒の求人倍率は1.53倍を維持しており、低水準と呼ぶ水準にはなっていません。
つまり、新卒採用市場全体では買い手市場とまではなっておらず、「優秀な学生が獲得しやすくなる」訳ではないため、楽観視できない状況と言えます。
新卒採用市場の動向を採用戦略に生かすには?
採用市場の動向を採用戦略に生かすには、自社の立ち位置を把握し、どういう取り組みを行うべきかを考えることが重要です。
例えば、
-
従業員規模1,000未満の企業における、有効求人倍率や内定辞退率
-
インターンシップの開催状況や参加状況
を把握すれば、自社の採用競合となる企業の傾向を掴んだり、学生の行動・意識への理解を深めたりすることができます。
そのため、「自社はどのような企業と比較されているのか」や「どこで差別化を図れば学生から選ばれるのか」、「フェーズごとの施策をどうするか」といった、採用戦略に生かすことができるのです。
市場調査レポートの目的と読み方とは?
市場調査レポートは、採用戦略を立てるために、
-
自社の立ち位置を明確にさせる
-
採用競合を把握する
-
学生の考えや行動を把握する
ことを目的として読みます。
では、それらを採用戦略へ落とし込むには、どのように読み解いていけばいいのでしょう。
ここでは、市場調査レポートの注目すべき項目と読み方をご紹介します。
有効求人倍率
有効求人倍率とは、「求職者1人当たりにどれくらい求人があるか」を表した経済指標です。
有効求人倍率は、
1を超える時⇒求職者<求人「売り手市場」
1に満たない時⇒求職者>求人「買い手市場」
となり、労使の需給バランスを知ることができます。
2021年卒を対象とした求人倍率は、1.53倍と前年よりは低下しましたが、引き続き求人過多の状態です。
有効求人倍率が高いと採用難易度が高くなるため、
- 募集方法の見直し(人材紹介の活用など)
- 採用基準の見直し(人材要件が高くなりすぎていないかなど)
- 採用フローの見直し(エントリーシートの廃止など)
といった戦略を立てる必要があると判断できます。
また、有効求人倍率が低い「買い手市場」の場合、優秀な学生を採用できる可能性が高まります。
そのため、応募者集めよりも人材要件の引き上げなど、優秀層の見極めに比重を置いた採用戦略を立てることが有効です。
新卒採用活動の時期
政府の発表によると、2021年卒の就活ルールは例年通り、
広報活動解禁:3月~
選考活動解禁:6月~
となりました。
引用:株式会社ディスコ「2021年卒・新卒採用に関する企業調査-中間調査(2020年7月調査)」
しかし、実際には、約2割の企業が広報活動解禁前に面接を開始しています。
2021年は、新型コロナウイルスの影響で面接を遅らせる企業もありましたが、前年と比較すると、3月上旬より前の時期に開始する企業は増加しました。
採用活動が早期化している場合、
- 自社も採用活動の時期を早める
- 採用活動の時期を遅らせる
- 第2・第3クールがあることを前提に採用活動を行う
などの戦略が考えられます。
採用活動は早期化していますが、早く内定を出せば、その分内定フォローの負担が大きくなります。
アフターコロナの新卒採用では、大手などの採用力がある企業とのバッティングを避け、あえて遅い時期から採用活動を開始するのも一つの手です。
インターンシップの実施状況
インターンシップを実施する企業は年々増加しており、就職活動の一環として参加する学生も多いです。
引用:株式会社ディスコ「2021年卒・新卒採用に関する企業調査-中間調査(2020年7月調査)」
株式会社ディスコの調査によると、2020年度(2020年4月~2021年3月)のインターンシップについては、約6割の企業が実施予定と回答しています。
また、プログラムは、「1day仕事研究プログラム」を実施する企業が76.2%と最多です。
しかし、1dayインターンの場合、企業説明が大部分を占めた、インターンとは名ばかりのプログラムも少なくありません。
企業説明がメインのインターンは、学生の満足度も高くないため、
- 長期インターンを実施する(実際に就業してもらい、給料を支払う)
- 1dayインターンならグループ対抗コンペなどを実施し、社員からのフィードバックを行う
- 交流会や個別面談など、企業理解の促進に役立つイベントに変更する
など、現状を踏まえた戦略を立てましょう。
就職内定率・内定保有社数・内定辞退率
就職みらい研究所の「2020年8月1日時点 内定状況」によると、2021年卒の就職内定率は、81.2%と前年よりも10ポイント低下しています。
また、
内定保有企業数⇒1.08社(前年の同時期:1.06社)
内定辞退率⇒53.9%(前年の同時期:52.7%)
です。
8月1日時点で約半数の学生が内定辞退をしていることから、複数社の内定獲得後に企業の選定を行っていることが伺えます。
そのため、
- 自社が「滑り止め」である可能性を踏まえて、多めに内定出しする
- 第2・第3クールを前提に採用スケジュールを立てる
といった、戦略を立てましょう。
内定出しの多い時期は内定辞退者も増えるため、辞退者数に応じて追加募集できるよう、
- 募集方法(求人サイト・人材紹介など)
- 利用する業者
- スケジュール
を決めておくと安心です。
企業選びの軸
学生から選ばれるには、彼らがどのような基準で企業選びをしているのか、把握する必要があります。
例えば、
長時間労働やサービス残業の有無を基準としている
⇒残業時間の実績(通常期・繁忙期)や、長時間労働対策の取り組み(ノー残業デーなど)をアピール
多様な働き方ができるかを基準としている
⇒リモートワークや時短、副業などの制度をアピール
のように、「何を伝えるべきか」戦略を立てることができます。
ただし、ポジティブな面ばかり伝えていると、入社前後のギャップによって早期離職につながるため、等身大の情報を提供することが重要です。
採用への取り組み方とは?
採用活動を行う場合、「リクナビ」や「マイナビ」といった、求人サイトを利用する企業がほとんどです。
しかし、売り手市場がつづいていたこともあり、「求人サイトに募集を出して応募を待つ」だけでは、応募者が集まりにくくなっています。
そのため、従来の方法に加えて「ダイレクトリクルーティング(企業から求職者にアプローチする)」や「リファラルリクルーティング(社員紹介)」といった、新たな採用手法を取り入れる企業が増加しています。
また、近年の学生は「Wantedly」や「OfferBox」といった新しい形の求人サービスを利用することも増えています。
Wantedly
Wantedlyとは、20代の若手層に多く利用されている「ビジネス特化型のSNS」です。
給与や待遇といった条件面の記載はできないため、自社の価値観や仕事内容に共感した学生と巡り合うことができます。
また、Wantedlyでは、インターンシップや新卒採用の情報提供、求職者からの応募も可能なほか、ユーザーの中から自社の要件にマッチした学生に直接アプローチすることも可能です。
OfferBox
OfferBoxは、就活生の約3人に1人が利用している「新卒オファー型の就活サイト」です。
幅広い検索軸から採用要件に合う学生にオファーを送ることができます。
企業のオファー送信数と学生のオファー受信数に制限が設けられているため、オファー開封率87%と、非常に高い反応率を誇ります。
また、人工知能によるアシスト機能も付いているため、企業とマッチ度の高い学生を検索することも可能です。
新卒採用が上手くいくコツは?
採用が上手くいっている企業とそうでない企業には、明確な違いがあります。
具体的には、
- 企業理念やビジョンの明確化
- 社内全体で取り組んでいるかどうか
の違いです。
企業理念やビジョンの明確化
採用活動は、
- いつ
- どの部署に
- 何人
- どのような人材を
- どうやって採用するか
といった、採用計画に基づいて進めていくため、事業計画との連動が不可欠です。
企業理念やビジョンが明確になっていれば、「○年後の目標を達成するためには、こういう人材が必要だ」のように、求める人物像が明確になります。
求める人物像が明確になれば、その人を軸に「どういった価値観を持ち、どのような方法で就職活動を行うのか」などを具体的にイメージできるようになるため、効率的な採用活動が実現するのです。
社内全体で取り組んでいるかどうか
採用活動は、人事や採用担当者だけで取り組んでも上手くいきません。
なぜなら、人事や採用担当者は、すべての部署の仕事内容や、やりがいを把握しているわけではないからです。
そのため、部署ごとの人材要件の定義づけや、応募者の意向上げなどを行う際には、その部署で実際に働いている社員からの協力が欠かせないのです。
採用担当者が意識することとは?
採用担当者は、企業の代表者であることを意識して、学生に接することが重要です。
就職活動において、「企業は選ぶ立場だ」と考えている採用担当者は多く、そうした考えから不適切な態度を取ってしまう人も少なくありません。
しかし、学生にとって「採用担当者は企業そのもの」であり、入社を決意するきっかけになるほど重要な存在です。
また、近年は面接の感想を口コミサイトに投稿する学生が増えたため、採用担当者の対応次第では、企業イメージを低下させる可能性もあります。
そのため、採用担当者は企業の代表者であることを意識し、学生一人ひとりと真摯に向き合うことが重要なのです。
新卒採用を成功させるには、採用市場動向の把握が重要
景気と連動している採用市場は、毎年動向が変わります。
そのため、毎年変わる市場に対応するには、市場調査レポートから自社の立ち位置や、採用競合の傾向、学生の意識・行動を把握し、それを採用戦略に生かすことが重要です。
また、採用活動は人事・採用担当者だけの取り組みではありません。
採用担当者は、社内全体を巻き込んで採用活動を行い、学生一人ひとりに真摯に向き合いましょう。