少子高齢化や価値観の多様化により、全国転勤を望まない働き手が増えてきたことから、「地域限定型採用」が注目されています。

 

この記事では「地域限定型採用」や「地域限定型社員」の概要について解説していきます。

 

また、地域限定型採用のメリットや事例についてもご紹介しますので、是非ご覧ください。

 

地域限定型採用とは?

地域限定型採用とは、勤務地を特定のエリアに限定した採用方法のことです。

 

企業によって「地域限定職」「エリア総合職」「準総合職」「特定総合職」など、様々な名称で呼ばれていますが、いずれも原則として転居を伴う転勤のない雇用形態での採用を表しています。

 

地域限定採用では、全国転勤がない代わりに、制限のない社員とは処遇を変えている企業も多いです。

 

例えば、給与設定(8~9割程度)や職位の制限(課長以下など)などが挙げられます。

 

これまで、全国展開している企業の正社員採用では、本社での一括採用後に各エリアへ割り振る方式が一般的でした。

 

しかし、労働人口減少や、多様な働き方へのニーズが高まったことから、勤務地を限定した正社員を各地域のニーズに合わせて募集・採用する「地域限定型採用」が導入されるようになりました。

 

実際、独立行政法人労働政策研究・研修機構が 2017 年に行った「大学生・大学院生の多様な採用に対するニーズ調査」によると、就活開始時点で地域限定社員を希望する学生は、72.6%に上ることが分かっています。

 

一方、同時期に行われた企業向けの調査では、地域限定社員を募集している企業は14.3%にとどまっており、普及率はそれほど高くないことが分かります。

 

ただし、雇用政策に地域限定社員を含めた「多様な正社員」の普及・拡大が盛り込まれていることもあり、地域限定型採用を導入する企業は増えていくと考えられます。

 

地域限定型採用のメリットとは?

地域限定型採用の主なメリットは

  1. ワーク・ライフ・バランスの実現
  2. 多様化の実現
  3. 人材確保

です。

 

ワーク・ライフ・バランスの実現

ワーク・ライフ・バランスは、仕事と私生活のバランスを意味しています。

 

地域限定型採用は、原則として転居を伴う転勤がありません。

 

そのため、子どもを転校させる心配もありませんし、住宅購入などの決断もしやすくなります。

 

労働者の心理的・身体的負担を減らせば、私生活が安定・充実するため、モチベーションや生産性の向上につながります。

 

多様化の実現

出産・育児、介護といった、ライフステージの変化が起こった場合、従来の画一的な雇用形態では、柔軟な対応ができません。

 

そのため、仕事と家庭の両立が難しく、やむを得ず離職する従業員も少なくありませんでした。

 

地域限定採用を行えば、

  1. 小さな子どもを抱えて働く女性
  2. 介護を必要とする家族を持つ人
  3. 高齢者
  4. 障がい者

など、様々な背景を持った労働者が働きやすくなるため、安定的な労働力を確保し、多様な人材を活用することができるのです。

 

人材確保

意欲や能力はあっても、仕事と家庭の両立が困難なことから、離職する人やアルバイト・パートなどの非正規雇用に就いている人も多くいます。

 

地域限定型採用では、住み慣れた地域で長く働くことができるため、こうした人材の採用や離職防止に効果があります。

 

地域限定型採用を行う企業の狙い

つぎに、なぜ地域限定採用を行うのか、企業の狙いをみていきましょう。

地域限定型採用を行う企業の狙い_地域限定型採用とは?目的やメリットなども紹介

厚生労働省:「「多様な正社員」の導入状況

 

上図は、厚生労働省の行った、地域限定社員を含む「多様な正社員」を設けるメリットです。

 

これによると、

 

1位:人材確保(40.0%)

2位:多様な人材の活用(26.7%)

3位:従業員の定着(24.7%)

 

となっていることから、企業はこのような狙いで地域限定型採用を取り入れていることが分かります。

 

人材確保

先述の通り、ライフステージの変化に対応するべく、やむを得ず離職や非正規雇用の道を選択する人も少なくありません。

 

しかし、そういった人の中には、働く意欲があり、スキルや能力の高い人も数多くいます。

 

勤務地を限定した正社員を募集すれば、家庭の事情などにより転勤が困難な人材を確保することができます。

 

また、地域限定型採用を導入している企業はそれほど多くありません。

 

積極的に導入すれば、他社との差別化や企業のイメージアップも期待できるため、優秀な人材の確保につながります。

 

多様な人材の活用

近年、労働者の価値観は多様化しています。

 

そのため、

  1. 転勤の可能性がある正社員採用
  2. アルバイト・パート

 

の2つの雇用形態のみの対応では、多様化した採用市場のニーズに応えることができません。

 

全国転勤の枠を取り払うことで、これまで対象外だった「転勤できない人」の雇い入れが可能になるため、多様な人材を活用することができるのです。

 

従業員の定着

地域限定型採用を導入すると、家庭の事情などの理由で、転勤できない従業員の離職を防止できます。

 

地域に密着して安定的に働けるようになれば、従業員の定着率が向上するため、採用・教育コストの削減にもつながります。

 

また、その地域のニーズに合うサービスを提供しやすくなり、地元の顧客獲得にも期待できるでしょう。

 

地域限定型社員とは?

地域限定型社員(地域限定社員)とは、勤務地を限定した契約を結んでいる正社員のことです。

 

転居を伴う転勤がないため、地域限定型採用で雇用された社員を「地域限定社員」「エリア限定社員」と呼びます。

 

勤務地や労働時間、職種などを限定した契約を結んでいる「限定正社員」の一種で、「○○地域×時短」など、複数の条件を組み合わせているケースもあります。

 

柔軟な働き方を実現できますが、アルバイト・パートとはどのような違いがあるのでしょう。

 

アルバイト・パートとの違い

地域限定社員とアルバイト・パートとの違いは、

  1. 雇用期限
  2. 仕事内容
  3. キャリア

です。

 

雇用期限

そもそも、日本の労働契約において特別な契約でない限り、アルバイト・パートなどの非正規雇用者は「有期雇用契約」に該当し、正規雇用者は「無期雇用契約」に該当します。

 

そのため、アルバイト・パートも地域限定社員も、転勤がないことを前提として雇用契約を結びますが、契約期間については、アルバイト・パートが「有期雇用契約」、地域限定社員は「有期雇用契約」となり雇用期限が異なります。

 

但し、上記の内容はあくまでも一般論であり、個別の雇用契約における契約期間は雇用者と被雇用者の取り決めによって変わります。

 

仕事内容

一般的に、アルバイト・パートは業務の中でも比較的簡単な部分を任されることが多く、正社員と比べると担当する業務や責任の範疇は狭いです。

 

しかし、地域限定社員はあくまでも正社員であるため、担当する業務や責任の範疇も広くなります。

 

キャリア

アルバイト・パートは、能力に応じて昇給することなどはあっても他の従業員を教育したり統括したりする「管理職」になることはあまりありません。

 

しかし、地域限定社員は店長やエリアマネージャーといった、管理職に就くこともできます。

 

ただし、地域限定社員の場合、「職位に制限をかけている」「給与が違う(低く設定している)」など、勤務地の制限のない正社員と処遇を変えている企業も多いです。

 

地域限定型社員のキャリアとは?

地域限定社員への理解が深まったところで、どのようなキャリアを形成できるのか、具体的にみていきましょう。

 

アパレルなどの小売業の場合、「店舗スタッフ」⇒「主任/副店長/店長代理」⇒「店長」⇒「エリアマネージャー」といった、キャリアを用意している企業が多いです。

 

また、営業などの場合、「一般社員」⇒「主任/マネージャー」⇒「係長」⇒「課長」のキャリアを用意している企業が多く見受けられます。

 

一般社員からキャリアをスタートさせるのは、制限のない社員も同じですが、地域限定社員の場合、部長クラス以上の役職が用意されていないことも多いです。

 

ただし、地域限定社員から制限のない社員への転換を認めている企業もあるため、ライフステージに合わせたキャリアアップを目指すことも可能です。

 

地域限定型採用の事例

ここでは、地域限定型採用を行っている事例をご紹介します。

 

株式会社ファーストリテイリング

ファーストリテイリングでは、2007年から地域限定社員制度を導入しています。

 

当初は非正規雇用から正規雇用への切り替えを目的としていましたが、現在では、新卒や中途採用でも地域限定社員を募集しています。

 

ユニクロやPLSTなどの店舗運営スタッフとして、キャリアをスタートさせますが、全国転勤のある正社員に転換することも可能です。

 

キャリアプランに応じて本部の専門職や、グローバル事業を目指せるよう、しっかりと制度が整備されています。

 

武田薬品工業株式会社

武田薬品では、2015年から地域限定社員制度を導入しています。

 

同社は、安定的な人材確保や地域医療への貢献を目的として、入社後5年は希望地域で勤務できる「初任地限定制度」を導入していました。

 

しかし、制度の活用者が少なかったことから、期間を限定せず希望地域で勤務できる「地域限定社員制度」に変更しました。

 

給与や福利厚生といった待遇面は、全国勤務制の社員と同一にしており、地域限定社員として入社しても、全国勤務制へ変更することも可能です。

 

また、社員の希望と人員配置バランスが偏らないよう、勤務地のエリア設定を工夫しています。

 

東京海上日動火災保険株式会社

東京海上日動火災保険では、2005年度入社の社員から地域限定社員導入制度をスタートさせています。

 

東京海上日動では、

 

グローバルコース…国内外の転勤により早期キャリアアップを図る

エリアコース…一定の勤務エリア内で、キャリアアップを図る

 

の区分を用意しており、成長スピードや負荷の違いが明確化されています。

 

地域限定社員にも積極的な成長機会を与えられるよう、エリアコースは「ワイド型(一定の範囲内で転居を伴う異動あり)」が選択可能です。

 

また、ワイド型を選択しても転居を伴う異動のない、通常のエリアコースに変更することも可能なため、ライフステージに合わせた柔軟な働き方ができる仕組みになっています。

 

人材の確保には地域限定型採用が有効

労働人口が減少し、働き手の価値観も多様化している近年、「正社員で働きたいけど、全国転勤はできない(したくない)」という人も増えています。

 

先述の通り、地域限定型採用を取り入れている企業は、決して多くはありません。

 

しかし、そうした中でいち早く導入すれば、他社との差別化を図れますし、転勤がネックになっている優秀な人材の確保にもつながります。

 

少子高齢化の進む今後は、より一層地域限定型採用のニーズが高まっていくと予測されるため、導入を検討されてみてはいかがでしょうか。

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