このページでは、採用、育成、組織開発など人事領域のさまざまなテーマについて、株式会社人材研究所 シニアコンサルタント 安藤健さんに解説していただいています。
人事領域は、会社ごとに環境や課題が異なるため、担当者自身が積極的に情報を吸収していくことが求められます。
ぜひ、参考にお読みいただき、普段の業務に生かしていただければ幸いです。
配置で検討すべき3つの要素
新入社員、既存社員問わず自社の人材を、何らかの仕事や役割に割り当てることを「配置・配属」と呼びます。
配置に関しては、配置転換、人事異動、ジョブローテーションと様々な言葉がありますが、結局は概ねどれも同じ意味で使われています。
?多くの会社では、経営層や事業部のトップと共に、人事部門もこのプロセスに関わっているかと思います。
では、この配置・配属を検討する際にはどのような観点から考えれば良いでしょうか。
配置で検討すべき要素は大きく分けて3つあります。
それは、「性格・能力」、「キャリア・志向」、そして「能力開発」という点です。
こうした中、実際に多くの場面では、社員を受け入れる側(配属先部署)は、その社員が「その仕事をどれくらいできるのか」という「能力」の部分を重視し、社員個人の側では、「その仕事がどれくらいやりたいのか」という「キャリア・志向」の部分を重視していることがわかります。逆に、「性格」の部分や「能力開発」といった部分は観点としてあまり考慮されていないように感じます。
これらはある種、当たり前のように思われがちな配置の考え方ですが、本当にこの観点だけでよいのでしょうか。今回は配置において、一般的な考え方と少し異なる視点を考えてみたいと思います。
育成を考えた配置をする
上記のような「能力」と「キャリア・志向」を重視した一般的な配置の考え方は、言い換えると、「その仕事が最もできる人、最も成果を出せる人を配置する」というものです。
これは目の前の事業運営上は非常に重要です。
その仕事が最もできる人を配置すればすぐに成果を出すので短期的な利益に直結するからです。
但し、ここにはいくつか落とし穴があります。
1つは、その仕事が最もできる人というのは、その仕事から新たに学ぶことはもうほぼないということ。
一方、「経験学習が人を最も成長させる」、とも言われている通り、ポストは人材開発のための有限な資源でもあります。
つまり、そのポストが空かない限り、まだ芽は出ていないものの本来その仕事から一番多くを学べるポテンシャル層は成長する機会を失ってしまうのです。
また、優秀な人材は自部門から放したくないために、しばしば囲い込みがちになることも問題となります。
人は、その仕事からもうあまり学ぶことがなく、しかも自部門に囲い込まれて異動機会がなくなると、次第に外に目を向けるようになっていきます。
つまり優秀な人材の退職リスクにつながるのです。
ではどうすればよいかというと、もちろん状況に応じた使い分けが必要ですが、「その仕事から最も学べる人、最も伸びる人を配置する」という視点を取り入れることです。
その仕事から最も学べる人を配置する、というのは、会社からすると、ある意味投資となります。
しかし、優秀な人材の退職リスクもさることながら、短期的な利益ではなく、永続的な企業成長という中長期的視点からは、この配属の仕方は非常に重要に思います。
実際に、長い間、優れた競争優位性を保っている企業を見てみると、難易度の高い仕事や役割にあえて若くて活きのあるポテンシャル層の若手を抜擢している例がしばしば見受けられます。
パーソナリティを加味することで、育成効果を最大化する
そして、もう一つ、配属の際にこれまであまり考慮されていなかった「性格」についてですが、これも一般論とは異なる、非常に興味深い研究結果が示されています。
すなわち、「性格」を考慮した配置によって、配置後の居心地の良さだけでなく、生産性にも大きく影響を与えていることがわかっています。
この「性格」を加味して配置を考えるというのは、具体的には配属先の上司との相性、同僚との相性、ひいてはチーム全体との相性がマッチしていることを指しています。
そもそも人間関係の相性は、大きく分けて、3つに分類できるとされています。
1つ目は、同質の人間関係で、これは性格的に類似した人同士を指しており、生産性への効果が出るのは早いとされていますが、思考が偏るためマンネリ化する恐れがあります。
そのため、同質の人間関係は、短期に完了する、かつ勝ちパターンの決まっている比較的シンプルな仕事をするチームに適しているといわれています。
反対に、異質な人間関係は、全くバラバラで互いに相関もない人の集まりである無作為集団と、異質ではあるものの互いに補いあえる凸凹の関係である異質補完型の人間関係に分かれます。
この異質補完型の人間関係は、生産性への効果が出るのに時間がかかるものの、生産性は単純な人数の総和以上が生まれるとされています(例えば8人で12人分の生産性が生まれるという研究結果があります)。
このように、企業の中長期的成長という視点に立つと、これまで一般的に考えられていた「能力」や「キャリア・志向」の観点だけでなく、その仕事からどれくらい学べるのかという「能力開発」の観点を取り入れたり、同時に配属先の人間関係を加味した配置を行うことが非常に重要なのです。
著者プロフィール
株式会社人材研究所 シニアコンサルタント 安藤健
児童心理治療施設(旧情緒障害児短期治療施設)での約1年半の現場経験を経て、心理学が日常生活に困難をきたす様々な障害の治療に活きる現場を体験。
その後、心理学を逆に人間の可能性を最大化する方へ活かしたいと感じ、現職である人事コンサルティングに転向。
現在は新卒採用・中途採用をメインとして、育成教育配置、評価報酬制度などのコンサルティングに幅広く従事。
そのほかに人事のための実践コミュニティ「人事心理塾」運営、人事向けセミナー、若手・新入社員向けキャリアワークショップなども多数実施。
■ 株式会社人材研究所
2011年設立。代表取締役社長 曽和 利光
世の中のあらゆる組織における「人と組織の可能性の最大化」を目指している人事コンサルティング会社。
組織人事コンサルティング、採用コンサルティング、採用業務代行(RPO)、各種トレーニング(面接官トレーニング、評価者訓練、新入社員研修等)などを提供。
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