このページでは、採用、育成、組織開発など人事領域のさまざまなテーマについて、株式会社人材研究所 シニアコンサルタント 安藤健さんに解説していただいています。
人事領域は、会社ごとに環境や課題が異なるため、担当者自身が積極的に情報を吸収していくことが求められます。
ぜひ、参考にお読みいただき、普段の業務に生かしていただければ幸いです。
社内パワーの無い新入社員が身に着けるべき力
4月に入り、新卒の新入社員が会社に入社してきます。
新入社員というのは、新たな戦力になるという意味以外にも、組織に新鮮な風を届けてくれ、職場の雰囲気がなんとなく明るくなる、などといった効果もあり、「今年の新入社員はどんな人だろうか」と内心楽しみにしている既存社員の方も多いのではないでしょうか。
一方で、新たに入ってきた新入社員に、まず何を身につけてもらえばよいのか、という教育担当者の悩みもしばしば耳にします。
昨今、多くの企業が自社の新人に対し、様々な新入社員研修を実施していますが、その内容は、マナー講座やExcel/word使い方講座といったテクニカルなものから、新入社員としての心構えといったマインド的なものまで様々存在します。
もちろん、これらも重要な開発すべき能力だと思います。
ただ、やはり「人は経験から最も学べる」という言葉の通り、現場での経験以上に人を成長させるものはないでしょう。
そして現場での経験の中で効率よく学んでいくためには、社内の人脈図を理解し、先輩やベテラン社員から「コイツが困っているときにはぜひ助けてやろう」というサポート姿勢を得ることが重要となってきます。
しかし、新入社員は、まだこういった力を持っていない、いわば社内パワーを持たない文字通り“新しく組織に入ってきた人間”なのです。
そんな彼らに、まず何を学ばせるべきか。それはずばり「アサーティブコミュニケーション力」だと私は思います。
人を動かすアサーティブコミュニケーション
アサーティブコミュニケーションというのは、特に人を動かす交渉場面でのコミュニケーション技法の一つです。
交渉場面でのコミュニケーションには、3つの種類があるといわれています。
まず1つ目が、攻撃型のコミュニケーション。これは自分の主張を一方的に通して、相手の意見を否定する、いわばI`m OK, You`re Not OKのコミュニケーションです。
次に、その逆、非主張型のコミュニケーション。
これは相手の主張は無条件に受け入れるが、こちらからの主張はできないI`m Not OK, You`re OKのコミュニケーションです。
そしてその中間にあるのがアサーティブコミュニケーションです。
これはしばしば「適切な自己主張」と訳されることが多いのですが、これだけでは少し言葉が足らない気がします。
本質的には、アサーティブコミュニケーションとは、「自分の考え、欲求、気持ちなどを“率直に”、“正直に”、“その場の状況にあった”適切な方法で伝えること」です。
社内パワーの無い新入社員が、社内の既存社員からのサポートを勝ち取るためには、まずはこの、人を動かす(しかも気持ちよく)ためのコミュニケーション力を身に着ける必要があるのです。
実はアサーティブコミュニケーション力を身に着けることは、ストレスマネジメント力を高めることにも繋がります。
「人間の悩みはすべて対人関係の悩み」と心理学者アルフレッド・アドラーも言っていますが、実際多くの社会人が人間関係を元に退職しているというアンケート結果もあります。
しかし、より良い適切なコミュニケーション方法を採ることで予防できた退職もあったのではないでしょうか。
例えば、新入社員は、慣れない環境の中でこなさなければならない仕事を多数抱える中、更に上司から新しい仕事を依頼されることがあるかもしれません。
もしそういう状況で「本当にこれ以上は無理だ!」という時、非主張的なコミュニケーションしか取れなければ、抱え込んでしまい、誰もそのアラートに気づいてあげることができません。
逆に攻撃的なコミュニケーションしか取れなければ、上司や先輩からは嫌われ、誰からのサポートも得られなくなってしまいます。
このように結果的には、どちらも高ストレス状態につながっていくわけです。
実はアサーティブコミュニケーションには、体系化されたテクニック「DESC話法」というものが存在します。
DESC話法は、①Describe ②Explain ③Specify ④Choose の頭文字をとったものですが、この流れに沿ってセリフを作っていけば自然とアサーティブな伝え方ができるというものです。
新入社員には、このDESC話法を学んでもらうことで、現場に帰った時にすぐに既存社員とI`m OK, You`re OKなコミュニケーションを取ることができるようになると思います。
アサーティブコミュニケーションを通じて他の能力をつけていく
このように、アサーティブコミュニケーションができるようになると、社内の様々な人との気持ちの良いコミュニケーションが取れるようになっていきます。
そうすると、既存社員と良好な関係を築けるため、自然と社内人脈が広がっていき、業務上のコツやポイントを教えてもらいやすくなったり、提案を通すために誰が意思決定者であるかなど、様々な有益な情報が自然と自分に集まっていくようになるのです。
ここまでくれば、新入社員のオンボーディング(組織に円滑に馴染み、必要なスキルを習得していくプロセス)の土台はほぼ完成しているといってもよいでしょう。
このように、新入社員にとって、まずアサーティブコミュニケーションを学ぶことが結果的に他の能力を身に着ける上でも非常に重要となってくるのです。
著者プロフィール
株式会社人材研究所 シニアコンサルタント 安藤健
児童心理治療施設(旧情緒障害児短期治療施設)での約1年半の現場経験を経て、心理学が日常生活に困難をきたす様々な障害の治療に活きる現場を体験。
その後、心理学を逆に人間の可能性を最大化する方へ活かしたいと感じ、現職である人事コンサルティングに転向。
現在は新卒採用・中途採用をメインとして、育成教育配置、評価報酬制度などのコンサルティングに幅広く従事。
そのほかに人事のための実践コミュニティ「人事心理塾」運営、人事向けセミナー、若手・新入社員向けキャリアワークショップなども多数実施。
■ 株式会社人材研究所
2011年設立。代表取締役社長 曽和 利光
世の中のあらゆる組織における「人と組織の可能性の最大化」を目指している人事コンサルティング会社。
組織人事コンサルティング、採用コンサルティング、採用業務代行(RPO)、各種トレーニング(面接官トレーニング、評価者訓練、新入社員研修等)などを提供。
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