リストラを行うと、従業員は生活の糧を失うことになります。
そのため、解雇を伝えるだけでは、労使間のトラブルや企業イメージの著しい低下などを招いてしまうでしょう。
従業員の生活を守り、企業のイメージダウンを緩和させるためには、企業側がリストラ対象者に手厚いサポートを行う必要があります。
そこで、人員削減策の一環として行われているのが「アウトプレースメント」です。
この記事では、リストラ対象者の再就職をサポートするアウトプレースメントについて、解説いたします。
アウトプレースメントの概要や目的、具体例などをご紹介しますので、ぜひご覧ください。
アウトプレースメントとは?
「アウトプレースメント(Outplacement)」とは、解雇する従業員の再就職・再雇用を支援する人材ビジネスのひとつです。
人員削減を行う企業からの依頼を受けて、人材派遣会社などの職業紹介事業者が、解雇対象者の再就職を支援することから「再就職支援」とも呼ばれています。
具体的なサービス内容は、
- 労使間の紛争解決やアドバイス
- 求人斡旋
- 履歴書の書き方や面接の指導
- キャリアプランの策定
- カウンセリング
- PC・電話等の設備利用
などです。
アウトプレースメントは職業紹介や人材派遣といった他の人材ビジネスと違い、人員削減を目的として行われます。
そのため、
通常の人材ビジネス…採用する企業が、サービス利用料(紹介報酬・派遣費用など)を紹介事業者に支払う
アウトプレースメント…リストラを行う企業が、解雇対象者の再就職にかかる費用を紹介事業者に支払う
といった違いがあります。
ただし、アウトプレースメントは、あくまで再就職“支援”のサービスなので、アウトプレースメントを利用すれば「必ず再就職先が見つかる」とは限りません。
そのため、アウトプレースメントを実施する際は、対象者が過度に期待しないよう正しく説明する必要があります。
また、対象者1人の支援につき、年間100万円近くコストがかかるため、資金力のある大企業が利用ケースが多いです。
アウトプレースメントの欧米と日本での違い
アウトプレースメントは、アメリカで1980年代から盛んに行われているビジネスで、日本では1990年代のバブル崩壊を機に普及しました。
アウトプレースメントは各国で行われていますが、国によって支援する範囲は異なります。
アメリカのアウトプレースメントでは、就職先の斡旋は行わず、再就職に向けた職業訓練や情報提供、カウンセリングといったサービスがメインです。
一方、日本では再就職の情報提供やカウンセリング、メンタルケア、キャリアデザインの策定はもちろん、就職先の斡旋まで行います。
また、他企業への再就職だけでなく、自営業やアルバイト、派遣といった求職者のニーズに応じたサポートをするため、支援の範囲は欧米よりも広いです。
転職成功を約束するものではありませんが、アウトプレースメントで対象者を支援することで、労使間のトラブルを回避することができます。
アウトプレースメントの条件
アウトプレースメントを導入するには、
- 企業都合の人員削減での再就職支援であること
- 人員削減を行う企業が「アウトプレースメント」を認めていること
- 解雇対象者がアウトプレースメントを希望していること
の条件をすべて満たす必要があります。
労使双方の同意がないと、アウトプレースメントは実施できないため、事前にしっかりと説明しましょう。
ただし、「再就職できるから大丈夫」のように、解雇を進めるとトラブルの原因となるため、注意が必要です。
アウトプレースメントの具体例
アウトプレースメントへの理解を深めるためにも、他の企業ではどのように行われているのか、具体的な例を見ていきましょう。
食品メーカーA社
食品メーカーのA社では、不況や新規参入企業の増加などの影響から、人員削減を行うことになったため、アウトプレースメントを実施しました。
施策
依頼したアウトプレースメントの内容は、「希望退職の募集計画の立案作成」です。
具体的には、
- 募集期間や募集人数の策定
- 割増退職金の算定
- 再就職支援策の設定(キャリアカウンセラーとの面談・面接指導など)
- 退職してほしくない従業員が応募した際の慰留措置
について検討・設定しました。
また、労働組合への説明資料と解雇対象者への説明資料を検討し、退職後の社会保険手続きについて明記するなど、資料を充実させました。
結果
総合的な計画を行ったことで、33名のリストラをトラブルなく、進めることができました。
運搬輸送業B社
ここ数年、B社では業績が悪化しており、改善する見込みもありませんでした。
人員削減は最後の手段と考え、管理職以上のボーナス一部減額などの対策を行ったものの、状況が変わらなかったため、退職希望者の募集を開始しました。
しかし、退職希望の応募が全くなかったため、アウトプレースメントを利用することになりました。
施策
リストラ対象者の合理的な選定基準や、削減人数の検討と設定を行いました。
対象者への優遇措置や、希望退職よりも高い割増退職金の設定など、優位な条件を設けると同時に、対象者への説明資料も作成しました。
結果
実施計画の作成により、着手すべきことが明確になったため、当初予定していた18名から退職勧奨の同意を得ることができました。
納得感を持って同意してくれたため、円満に進めることができました。
製造業(機械部品)C社
大手機械メーカーの下請けであるC社は、製品単価の引き下げ圧力や人件費上昇といった課題を解決するべく、コストの安い東南アジアへ工場を移転させることになりました。
海外への移転を機に、本社従業員も含めた90名の退職希望者の募集を行いました。また、退職希望者のための再就職支援を利用できるようにしました。
施策
初めて転職活動を行う従業員が多かったため、ビジネスマナーや履歴書の作成指導、面接指導スキルアップ講座など、基礎知識・スキル習得の支援を行いました。
また、キャリアカウンセラーによるキャリアプランの策定アドバイスといった、カウンセリングも実施しました。
結果
しっかりと説明を行った上で再就職支援策を講じたため、対象者はアウトプレースメントを活用しながら、自主的に転職活動を行いました。
その結果、8ヶ月以内にはほぼすべての対象者が再就職に成功しています。
アウトプレースメントを利用する目的
企業がアウトプレースメントを利用するには、様々な目的があります。
ここでは、その内容についてご紹介します。
リストラ対象者の生活の保障
リストラは、不景気などで経営状況が悪化した際、企業利益を守るために行うものであり、完全に会社都合による解雇です。
企業を存続させるためには仕方のない施策ではありますが、解雇された従業員すべての再就職先がすぐに見つかるとは限りません。
当然ながら、新しい就職先が見つからなければ収入を得られないので、リストラ対象者の生活に多大な影響を及ぼすことになります。
そのため、これまで会社に尽くしてくれた従業員の生活を守る目的で、就職先の斡旋や面接指導、カウンセリングといった、再就職支援を行うアウトプレースメントを実施するのです。
社会的責任の遂行
企業は、人を雇用することで様々な責任を負うことになります。
例えば、
生活の保障…生活を維持できる額を支給すること
業務災害の補償…業務中の災害を補償すること
安全と健康への配慮…労災・事故防止への取り組みや安全衛生に関する自主的活動等
などが挙げられます。
会社の都合で従業員を解雇するにもかかわらず「何も支援しない」のは、社会的責任を遂行しているとは到底言えません。
アウトプレースメントでは、就職先の斡旋だけでなく、キャリアプランの策定やメンタルヘルスの相談といった、総合的なサポートを受けられます。
キャリアカウンセラーからのアドバイスやマッチングを受ければ、失業期間の短期化につながるでしょう。
よって、リストラ対象者の再就職を支援するアウトプレースメントの実施は、社会的責任を遂行することができます。
ネガティブイメージへの対策
経営上仕方のないことであっても、リストラの対象となった従業員は、生活の糧を失うことになります。
そのため、従業員へ手厚いサポートをしないままリストラを断行した場合、不満や不安を解消できず、トラブルに発展しやすくなるでしょう。
世間の企業に対するイメージも、単に「経営状況の悪化している会社」だけでなく、「無責任な会社」といった、ネガティブな印象を与えてしまいます。
ネガティブイメージがつくと、ブランド力低下や売上低迷につながりますし、人が寄りつかなくなるなど採用活動にも波及するため、企業の被るダメージは大きいです。
アウトプレースメントで従業員の再就職をサポートすれば、誠心誠意対応していることが伝わるため、イメージの悪化を和らげることができます。
アウトプレースメントで円満退職
企業の都合による退職の勧奨は、従業員に大きなストレスを与えるだけでなく、生活を脅かしてしまうため、手厚いサポ-トを行わないとトラブルに発展します。
社会的責任を遂行し、これまで会社のために尽くしてくれた従業員に報いるためにも、アウトプレースメントでリストラ対象者の再就職を支援することが重要です。
アウトプレースメントを実施すると、円満退職によるトラブル防止やネガティブイメージを緩和することができます。
また、失業期間の短縮化にもつながるため、企業と従業員双方にとって大きなメリットを得られます。
少子高齢化が進んで人材確保が難しくなる今後、企業イメージを損ねないためにもアウトプレースメントの必要性は増していくでしょう。