日本では、長らく「メンバーシップ型雇用」が行われてきましたが、大手企業を中心に「ジョブ型雇用」を導入する企業が増加しています。
近年耳にする機会は増えていますが、そもそもジョブ型雇用やメンバーシップ型雇用とは何でしょうか。
そして、この2つの人事制度にはどんな違いがあって、なぜジョブ型雇用にシフトしているのか、よくある疑問について解説いたします。
ジョブ型雇用のメリット・デメリット、導入事例もご紹介しますので、ぜひご覧ください。
ジョブ型雇用とは?
ジョブ型雇用とは、特定の職務を遂行する能力のある人材を雇用する制度です。
募集職種ごとに採用する中途採用や、専門職採用をイメージすると分かりやすいでしょう。
ジョブ型雇用は、職務を限定した雇用のため「ジョブディスクリプション(職務記述書)」が欠かせません。
ジョブディスクリプションは、具体的な職務内容やその範囲、権限、必要な知識・スキルなどが明記された書類のことです。
ジョブディスクリプションを作成すると、従業員ごとの役割や職務遂行に必要なスキルが明確になります。
ジョブ型雇用は、成果主義の欧米諸国で一般的に行われており、近年日本でも導入する企業が増えています。
ジョブ型の特徴
ジョブ型雇用は、
- ディスクリプションで業務内容を決める
- 異動・転勤がない
- 成果に応じた評価
などの特徴があります。
ディスクリプションで業務内容を決める
ジョブ型雇用の場合、業務内容などを明確に定義づけたジョブディスクリプションを作成し、それにもとづいて雇用契約を結びます。
異動・転勤がない
ジョブ型雇用は、職務に応じた人材を採用するため、基本的に異動や転勤はありません。
スキルアップを目的としたジョブローテーションを実施する場合、ジョブディスクリプションに明示された勤務地で働きます。
成果に応じた評価
ジョブ型雇用は年齢や勤務年数ではなく、成果ベースで評価されます。
評価基準が公平なため、同一労働同一賃金や外国人雇用の推進にも役立ちます。
メンバーシップ型雇用とは何か?ジョブ型雇用との違い
ジョブ型雇用の対となる人事制度にメンバーシップ型雇用があります。
ここでは、この2つにどのような違いがあるのかを解説いたします。
メンバーシップ型雇用とは?
メンバーシップ型雇用とは、職務を限定せずに採用する制度です。
職務や勤務地を特定しない“総合職”として入社し、ジョブローテーションを繰り返すことで総合的なスキルを持つ人材を育成します。
メンバーシップ型雇用は、自社にマッチする人材を育成できる反面、教育の手間やコストがかかるのが大きなデメリットです。
終身雇用や年功序列をベースとした新卒一括採用が慣例化している日本では、長期育成が前提となるメンバーシップ型雇用が広く普及しています。
ジョブ型雇用との違い
ジョブ型雇用は、職務ありきで募集を行うため、職務に応じた適切な人材を雇用します。
一方、職務を特定せずに募集するメンバーシップ型雇用は、ジョブローテーションを繰り返し、人に合わせて職務を割り当てます。
よって、
ジョブ型雇用⇒スペシャリスト育成型
メンバーシップ型雇用⇒ゼネラリスト育成型
と言えるでしょう。
この2つの違いを把握するために、それぞれの特徴をまとめましたので、ご覧ください。
?
? | ジョブ型雇用 | メンバーシップ型雇用 |
---|---|---|
主な特徴 | 職務に合わせて雇用 | 人に合わせて職務を割り当てる |
仕事の幅 |
専門的・限定的 (ジョブディスクリプションで明確に定められている) |
総合的 (業務の範囲は曖昧、幅広い業務を行う) |
求められる人物像 | 専門的な知識・スキルを持つスペシャリスト | 幅広い分野の知識・スキルを持つゼネラリスト |
転勤の有無 | なし | あり |
ジョブローテーション | なし | あり |
報酬制度 | スキルや成果が重要な要素 | 年齢や勤続年数が重要な要素 |
教育制度 | 自己研鑽 | 集合研修などの会社による育成 |
主な採用方法 | 中途採用 | 新卒一括採用 |
人材の流動性 | 高い | 低い |
ジョブ型雇用が注目されている背景
日本では、長らくメンバーシップ型雇用が行われてきましたが、近年ジョブ型雇用にシフトする動きが活発化してきています。
では、なぜ今ジョブ型雇用が注目されているのか、その背景を見ていきましょう。
国際競争力の強化
メンバーシップ型雇用は、長期間かけてゼネラリストを育成するため、職務の専門性が高まりづらいです。
いくら社内で活躍できる人材を育てても、国際競争に勝つことはできません。
スイスのビジネススクールIMDが発表した、2020年度版の世界競争力ランキングによると、日本は34位と過去最低の順位を記録しています。
アジア圏では中国・台湾・韓国に抜かされており、バブル期に4年連続で1位を獲得していた頃と比較すると、日本の国際競争力は大きく低下したと言えるでしょう。
そのため、日本の国際競争力を強化する目的で、スペシャリストの育成に長けたジョブ型雇用が注目されているのです。
専門職の人手不足
第4次産業革命と言われるAIやIOT、ビッグデータなどの技術革新に伴い、これらを扱うIT人材が不足しています。
そもそも、こうした高い専門性を有する人材は、総数自体が多くありません。
近年は、IT化の流れが急速に進んだことで、様々な業界でIT人材のニーズが高まったため、さらに人手不足が深刻化しています。
今後もIT人材のニーズは高まっていくため、ジョブ型雇用を取り入れる企業は増えるでしょう。
終身雇用の終焉や価値観の変化
日本では、長らく終身雇用や年功序列をベースとした新卒一括採用が行われてきました。
若い労働力を安く確保する代わりに、定期的な昇給と雇用を保証することで成り立っていましたが、社会情勢の変化により終身雇用制度を維持できなくなっています。
また、労働者の価値観の変化により人材の流動化が進んだため、長期育成が必要なメンバーシップ型雇用が実態にそぐわなくなってきています。
そこで、育成の手間が少ないジョブ型雇用が注目を浴びるようになりました。
働き方の多様化
少子高齢化の進行に伴い、日本の労働力人口は減少し続けています。
政府は労働力を早急に確保するため、時短勤務やテレワーク、外国人雇用といった様々な取り組みを推奨しています。
ジョブ型雇用は、職務の内容や評価基準を明確に定義した上で、成果にもとづいた評価を行うため、時間や場所の制限を受けずに多様な働き方に対応することができます。
働き方改革を推進する手段の一つとして、ジョブ型雇用を取り入れる企業は増えていくでしょう。
ジョブ型雇用のメリット
ジョブ型雇用を導入すると、企業はどういった恩恵を受けられるのでしょうか。
ここでは、ジョブ型雇用のメリットをご紹介いたします。
ミスマッチ採用の抑止につながる
ジョブ型雇用は、職務に関する様々な情報を明示した上で募集を行います。
職務内容やその範囲、権限、目標が明記されているため、求職者は具体的に働く姿をイメージすることができます。
企業側は、ポテンシャルよりも職務遂行に必要なスキルを持っているかどうかで判断するため、仕事内容と人材スキルのミスマッチを防止することが可能です。
求職者側と企業側の双方が入社後に感じるギャップを低減できるため、ミスマッチ採用の抑止につながります。
専門性の高い人材を雇用できる
ジョブ型雇用の場合、募集段階から職務内容や必要なスキルを明確かつ詳細に定義します。
求職者は、その情報を確認した上で応募してくるため、専門的な知識やスキルを持った人材を採用することができます。
また、ジョブ型雇用は基本的にジョブローテーションを行わないため、特定の分野の専門性を高めやすいです。
生産性の向上につながる
ジョブ型雇用は、職務内容や範囲、権限といった、組織での役割や責任が明確です。
誰が何をどこまで行うのかがはっきりしているため、業務上の無駄がなくなり、効率的に仕事を進めることができます。
さらに、職務に応じた適材適所の配置が実現するため、教育・育成の工数を削減することが可能です。
よって、ジョブ型雇用を導入すると、生産性の向上につながります。
ダイバーシティ経営が推進する
高い能力を持っていても、子育てや介護、ハンディキャップなどの様々な事情から、仕事を制限せざるを得ない人も数多く存在します。
ジョブ型雇用は、労働時間ではなく成果で評価を行うため、柔軟な働き方に対応することができます。
そのため、勤務時間や勤務地を限定して雇用すれば、働きたくても働けない優秀な人材を雇用することが可能です。
多様な人材を雇用する機会が増えるため、ダイバーシティ経営の推進に役立ちます。
公正で客観的な評価が実現する
メンバーシップ型雇用は、成果よりも年齢や社歴を重視して評価されることが多いため、優秀な若手人材ほど、不満を感じやすい傾向にあります。
一方、ジョブ型雇用は成果主義です。
ジョブディスクリプションで明記されているスキルや成果に対して、実態を評価するため、公正かつ客観的な評価が実現します。
評価の指標が明確なため、従業員も高い納得感を得られるでしょう。
ジョブ型雇用のデメリット
ジョブ型雇用には多様なメリットがある反面、デメリットもあります。
デメリットも把握した上で、導入を検討しましょう。
採用難易度が高まる
ジョブ型雇用は、特定の仕事に特化した能力を持つ人材をターゲットとするため、採用難易度が高まる可能性があります。
ジョブ型雇用が主流のアメリカでは、人材の流動性が高く、専門人材も労働市場に多く存在するため、必要な人材をピンポイントで採用することが可能です。
しかし、メンバーシップ型雇用が行われてきた日本では、専門性の高い人材はそれほど多くありません。
そのため、ジョブ型雇用に移行した場合、人材採用が難しくなる可能性があります。
転職されやすくなる
ジョブ型雇用で人材の専門性が高まると、より良い条件を求めて転職されやすくなる可能性があります。
というのも、ジョブ型雇用は、メンバーシップ型雇用のように、終身雇用ありきの制度ではないからです。
定年まで勤め上げるという考えが薄くなりがちなので、高待遇やスキルアップができる環境を求めて、転職されやすくなります。
また、人材が流動的になると、帰属意識やチームワークが弱くなってしまう可能性もあるため、注意が必要です。
会社都合での転勤・異動をさせづらい
メンバーシップ型雇用では、ジョブローテーションしながら人材を育成するため、異動や転勤が当たり前に行われてきました。
しかし、ジョブ型雇用は、職務や勤務地を限定して契約を結ぶのが一般的なので、転勤や異動を提示する場合、契約を結びなおさなくてはなりません。
従業員は、契約変更を断ることも可能なため、会社都合による転勤・異動が実現できない可能性があります。
ジョブ型雇用の導入事例
大手企業を中心に、ジョブ型雇用を導入する企業が増加しています。
ここでは、ジョブ型雇用の導入事例をご紹介いたします。
富士通
富士通では、2020年4月から幹部社員を対象として、職能ベースから職責ベースで評価する『FUJITSU Level』に切り替えました。
グローバルに統一されたジョブ(職責)に応じて格付けし、報酬に反映する人事制度です。
一般社員にも段階的に適用し、数年後の導入を目指しています。
KDDI
KDDIでは、2020年8月から「働いた時間ではなく成果や挑戦および能力を評価・称賛し、処遇へ反映する」ことを目的とした新人事制度を導入しています。
この制度では、市場価値や成果にもとづく報酬、職務領域の明確化などが盛り込まれており、中途社員から順次適用を開始しました。
また、2021年4月入社からは一律の初任給制度が撤廃され、個人の能力に応じた給料体形が導入されています。
多様な働き方の実現に向けて、オフィス環境やIT環境の整備も行っています。
資生堂
資生堂では、2015年から管理職を対象に「役割等級制度」を導入し、ジョブ型雇用を推進しています。
2021年1月からは、同制度を改定した「ジョブグレード制度」の段階的な導入を開始しました。
ジョブグレード制度は、およそ20部門部門での各ポストに応じたグレード(職級)を設定し、要件を満たすポストに社員を登用します。
そして、目標などが明確に記されたジョブディスクリプションをもとに、達成度合いに応じた給与や次のポストが決まる仕組みです。
資生堂は、ジョブ型の導入によって、多様な立場の意見を経営に生かせるとともに、社員の成長も促せると考えています。
日立製作所
日立は、外国人材の増加したことなどを受け、「ジョブ型雇用」でグローバル化に対応しています。
2020年には、デジタル分野で学歴別の一律初任給額ではなく、個人の技能や職務内容を勘案して個別の設定を行う「デジタル人財採用コース」を新設しました。
2021年3月までに、すべての職種のジョブディスクリプションを作成させ、ジョブ型雇用の運用を本格的に開始しています。
また、リモート環境の整備や自律的なキャリア形成のサポートといった施策も同時に進めており、働きやすさと従業員のスキル向上支援にも取り組んでいます。
日立では、こうした取り組み行いつつ、2024年度中のジョブ型雇用への完全移行を目指しているようです。
カゴメ
カゴメグループでは、2013年から従業員の多様な働き方に対応するために「グローバル人事制度」を行っています。
世界中どこにいても、どんな仕事をしていても、公平公正な評価・処遇を受けられるよう、年功型から職務型に等級制度を移行しました。
社長や役員、管理職と段階的に対象を広げて行っていますが、各部門と連携して仕事をしている一般社員は業務の区分けが難しいため、制度の対象外になっています。
ジョブ型雇用で柔軟な働き方を実現
職務を限定したジョブ型雇用は、業務内容や範囲、評価基準が明確です。
これらが明確になることで、時間や場所に制限されずに働けるようになるため、テレワークや時短勤務といった、柔軟な働き方が実現します。
また、外国人雇用もしやすくなることから、ダイバーシティ経営にもつながるでしょう。
ただし、ジョブ型雇用には、転職されやすくなるなどのデメリットもあります。
「メンバーシップ型雇用よりもジョブ型雇用の方が優れている」というわけではないので、メリット・デメリットを理解した上で導入を決定しましょう。