近年、企業が長期的に成長するには「ESG」の観点が必要だ、という考えが広まっています。

 

投資家たちの間では、投資先を決定する際の判断指標として重要視されているため、大手を中心にESGに取り組む企業が増加しています。

 

とはいえ、「ESGについてよく知らない」「SDGsとCSRとは何が違うのかが分からない」といった疑問を抱えている人も多いです。

 

そこでこの記事では、ESGとは何か、SDGsとCSRとはどのような違いがあるのか、ESG経営のメリットについて解説いたします。

 

また、人事としてESGに貢献できるポイントや、ESGの取り組み事例についてもご紹介いたしますので、ぜひご覧ください。

 

ESGとは?

EDGとは、

Environment(環境)…CO2削減、海洋中のマイクロプラスチック問題への対策など

Social(社会)…ダイバーシティ、適正な労働条件、新興国での児童労働問題など

Governance(企業統治)…不祥事の回避、リスク管理のための積極的な情報開示など

の3つの頭文字を取った言葉です。

 

これまで投資家たちの間では、投資の意思決定において、企業の財務情報のみが重視されてきました。

 

しかし、財務情報だけで先々の経営リスクは判断できません。

 

実際に「環境への配慮が低い」「情報を隠ぺい、偽装する」といったESGへの意識が低い企業は、厳しいバッシングを受けて業績悪化や倒産の危機に追い込まれるケースが多いです。

 

近年、投資家たちの間で「企業が持続的に成長していくには、ESGへの取り組みが重要」との考えが広まりました。

 

現在では、非財務情報も加味して投資する、ESG投資が世界的なトレンドになっています。

 

よってESGは、投資家が企業投資を判断する際の新しい基準と言えるでしょう。

 

SDGsやCSRとの違い

ESGと似た言葉にSDGsやCSRがありますが、それぞれどのような違いがあるのでしょうか。

 

ここでは、SDGsとCSRの説明と、ESGとの関係についてご説明いたします。

 

SDGsとは“持続可能な開発目標”

「SDGs(Sustainable Development Goals)」とは、2015年に国連サミットで採択された持続可能な開発目標のことです。

 

「2030年までに、持続可能でよりよい世界を目指す国際目標」として、17個の目標が掲げられています。

 

SDGsは、国や地方自治体、企業、個人など、すべての人を対象とした“世界共通の目標”であり、企業の利益を最優先したものではありません。

 

しかし、SDGsの達成に向けて取り組むことで、ビジネスチャンスや企業価値の向上につながると考えられています。

 

一方、ESGの対象は企業や投資家です。

 

企業は、「CO2削減のために電気自動車を開発する」など、ビジネスチャンスとして活用するために戦略的に取り組み、投資家は投資先を決める際の基準としてESGを重視します。

 

いわばESGは、ステークホルダー(消費者・投資家・従業員・地域社会など)への配慮と言えます。

 

ESGに取り組むことで、結果的にSDGsの達成につながるため、SDGsは“最終目標”、ESGはその目標を達成するための“手段”と考えて差し支えないでしょう。

 

▼SDGs17の目標

  1. 貧困をなくそう
  2. 飢餓をゼロ
  3. すべての人に健康と福祉を
  4. 質の高い教育をみんなに
  5. ジェンダー平等を実現しよう
  6. 安全な水とトイレを世界中に
  7. エネルギーをみんなに そしてクリーンに
  8. 働きがいも経済成長も
  9. 産業と技術革新の基盤をつくろう
  10. 人や国の不平等をなくそう
  11. 住み続けられるまちづくりを
  12. つくる責任 つかう責任
  13. 気候変動に具体的な対策を
  14. 海の豊かさを守ろう
  15. 陸の豊かさも守ろう
  16. 平和と公正をすべての人に
  17. パートナーシップで目標を達成しよう

 

CSRとは“企業の社会的責任”

「CSR(Corporate Social Responsibility)」とは、企業の社会的責任のことです。

 

企業がステークホルダーからの信頼を得るために、

  1. 安全かつ質の高い製品・サービスの提供
  2. 倫理的な企業活動
  3. 環境への配慮

などの社会的責任を果たす活動を行います。

 

CSRはESGほどビジネスの観点は入っていませんが、社会や環境に配慮した取り組みを行うことで、結果的に持続的な成長につながると考えられています。

 

一方ESGは、投資家の視点も踏まえて戦略的に取り組むため、対象が企業のみであり、ビジネスの観点が強くない点がESGとの大きな違いです。

?

? ESG SDGs CSR
定義 環境・社会・企業統治に関する非財務的な評価 持続可能な開発目標 企業の社会的責任
目的 環境問題や社会問題を解決すること 2030年までに、持続可能でよりよい世界を実現すること 社会的な信頼を得ること
特徴 SDGsを実現するための手段の一つ 世界共通の課題であり目標 社会や環境に取り組む活動
対象の範囲 企業/投資家 すべての人 企業

 

それぞれ意味は異なりますが、SDGsには企業が果たすべき責任を定めた「CSR」と重複する要素もあるため、根本は同じです。

 

全く別のものと考えるのではなく、関連づけて取り組む必要があるでしょう。

 

ESGが注目されるようになった背景

ESGが注目されるようになった背景として、

  1. 国連責任投資原則の提唱
  2. 社会問題の顕在化

が挙げられます。

 

国連責任投資原則(PRI)の提唱

ESGが注目された背景の一つが、2006年に国連事務総長が提唱した「国連責任投資原則(PRI)」です。

 

この原則では、機関投資家(巨額の資金を投資して運用する大口投資家)が投資先を決定する際に、ESGの要素を考慮することを提唱しています。

 

この原則が提唱されて以降、賛同する機関投資家は徐々に広まっていき、現在ではESG投資が世界的な潮流となりました。

 

国連責任投資原則(PRI)

  1. 私たちは、投資分析と意思決定のプロセスにESG課題を組み込みます。
  2. 私たちは、活動的な所有者となり、所有方針と所有習慣にESG問題を組み入れます
  3. 私たちは、投資対象の企業に対してESG課題についての適切な開示を求めます。
  4. 私たちは、資産運用業界において本原則が受け入れられ、実行に移されるよう働きかけを行います。
  5. 私たちは、本原則を実行する際の効果を高めるために協議します。
  6. 私たちは、本原則の実行に関する活動状況や進捗状況に関して報告します。

参考:PRI「責任投資原則

 

社会問題の顕在化

経済活動が活発化していく一方、異常気象の頻発や海面上昇、環境汚染、児童労働といった様々な問題が顕在化しています。

 

従来のような利益追求の企業活動では、短期的な利益を上げられても、社会や環境に悪影響を与えれば持続的に成長していくことはできません。

 

そのため、ESGに対する取り組みや姿勢を評価する、非財務情報が重要視されるようになったのです。

 

ESG経営のメリット

ESG経営とは、文字通りESGを意識して経営を行うことです。

 

例えば、

  1. 環境に配慮した製品・サービスの提供
  2. 多様性を認めた雇用、ワークライフバランス実現に向けた取り組み
  3. 社内外の情報を開示し、透明性を上げる

などが挙げられます。

 

では、こうした財務以外の部分に注力した経営を行うと、どういったメリットを得られるのでしょうか?

 

ブランド力の強化

ESG経営に取り組むと、「社会や環境にやさしく、透明性の高い企業」を作り上げることが可能です。

 

近年は、特に社会や環境への意識が高まっているため、こうしたクリーンな企業イメージは、ブランド力の強化に役立ちます。

 

ブランド力が強化されれば、「資金調達しやすくなる」「自社製品やサービスが選ばれやすくなる」といった効果が期待できます。

 

企業価値の向上

ESG経営を行うと、企業価値も向上します。

 

これまで投資家は、財務情報のみで企業価値を測っていましたが、持続的に成長していくかどうかは財務情報だけでは分かりません。

 

現在投資家たちの間では、財務情報だけでなく非財務であるESG情報を加味して、企業価値を測っています。

 

よって、ESG経営に注力している企業は、「成長するポテンシャルのある企業」と評価されやすくなります。

 

経営リスクの軽減

環境や社会、企業統治への意識が低い企業は、経営リスクが大きいです。

 

例えば、「生産の過程で汚染物質を垂れ流す」「重大な問題を隠ぺいする」「劣悪な労働環境」などは、消費者や投資家からの信用を著しく低下させます。

 

ステークホルダーからの信用を失うと、企業イメージの悪化や業績悪化、大量退職といった、危機的な経営状況に陥りやすくなります。

 

ESG経営を行うと、こうしたリスクを大幅に軽減できますし、リスクが下がれば、消費者や投資家からの注目度も高まるでしょう。

 

人事がESG経営で貢献できること

では、ESG経営の実現に向けて、人事はどのような貢献ができるのでしょうか。

 

多様性

性別や人種、年齢、宗教、障がいの有無、LGBTなど、様々なバックボーンを持つ従業員が働きやすい環境をつくることが大切です。

 

例えば、

  1. 産前産後休暇
  2. 育児休暇
  3. 介護休暇
  4. 時短勤務
  5. テレワーク

の整備が挙げられます。

 

不平等さや格差を感じさせないための取り組みを行いましょう。

 

労働安全性

労働安全性の分野では、ケガの防止や精神的な不調への配慮を行い、従業員の健康や安全を確保する環境づくりをしましょう。

 

具体的には、

  1. 防災訓練や健康診断の実施
  2. 相談窓口や医務室の設置
  3. 産業医面談義務化
  4. 差別やパワーハラスメントを防止する研修

などです。

 

人材育成

人材育成による働きがいの創出も重要な取り組みであり、SDGsにも「雇用とやりがい」が提示されています。

 

職種・等級に合わせて行われるOJT研修やOff-JT研修、e-ラーニングといった、キャリア形成への注力は、企業価値の向上にもつながります

 

雇用確保

正規・非正規従業員の割合を算出し、評価する投資家もいます。

 

適切な労使関係への取り組みや、生産拠点での現地スタッフ雇用などが挙げられます。

 

積極的な情報開示

研修の充実度や人材育成への投資金額といったESGへの取り組み情報は、積極的に開示しましょう。

 

投資家へのアピールになりますし、求職者にも「従業員を大切にしている企業」という印象を与えられます。

 

優秀な人材も集めやすくなるため、人材確保もしやすくなるでしょう。

 

ESG取り組み事例

大手企業を中心にESGに取り組む企業が増えています。

 

ここでは、人事としてESGに取り組んでいる事例をご紹介いたします。

 

キヤノン

キヤノンでは、企業理念として「共生」を掲げ、環境に対しても良い関係をつくって、社会的責任を全うすることを宣言しました。

 

この理念は、SDGsの考えとも一致しており、技術力を生かした価値創造や社会課題の解決、環境保護などで社会に貢献すると声明しています。

 

S(社会)においては、人権や多様性の尊重、モチベーションを持って働ける魅力的な職場づくり、人材育成などを行っています。

 

G(ガバナンス)では、執行役員制度の導入や取締役会の実効性評価の実施、氏名・報酬委員会の設置といった、ガバナンス体制の強化に取り組んでいるようです。

 

KDDI

KDDIでは、事業活動に関わる課題の中から、「ステークホルダーの評価や意思決定への影響」と「社会・環境・経済に与えるインパクト」の2つの視点で検証を行い、6つのマテリアリティを定めています。

 

差別をしないことや人件を侵害する労働慣行の是正や根絶、LGBTの社内啓発、同性パートナーの家族・配偶者制度適用を行っています。

 

また、人財の育成と働きがいのある労働環境の実現に注力しているのも特徴的です。

 

KDDIでは、ジェンダーの平等と女性のエンパワーメント推進に注力しており、女性リーダー育成、管理職の意識啓発・行動変革、労働環境の整備などに取り組んでいます。

 

このような取り組みが評価され、女性活躍推進に取り組む上場企業である「なでしこ銘柄」に2012年~2018年の6年連続で選定されました。

 

カネカ

カネカでは、経営理念体形にESG憲章を掲げ、「価値あるソリューションをグローバルに提供する」「企業理念の実現を通じて社会的責任を果たす」ことを提言しました。

 

S(社会)では、在宅勤務制度の拡充やリーダー育成研修、女性社員、外国籍社員の活躍推進、シニアの活用、障がい者雇用などに取り組んでいます。

 

また、メンタルヘルス対策や健康維持・増進体制も整え、従業員の心と体の健康にも配慮しています。

 

G(ガバナンス)においては、執行役員制度の導入や内部統制システムの基本方針の制定、社外取締役の選任、指名・報酬諮問委員会の設置などを実施しました。

 

企業価値を高めるにはESGへの取り組みが重要

ESGは、消費者や従業員、投資家、地域社会といった、ステークホルダーへの配慮であり、企業価値を評価する指標です。

 

社会や環境への意識が高まっている昨今、ESGに注力する企業は大手を中心に増えてきています。

 

ESGに注力すると健全な経営ができるだけでなく、投資家や消費者からの評価が高まるため、ブランド力アップや企業価値の向上にもつながります。

 

企業としての価値を高めるためにも、ESGへ積極的に取り組んでみてはいかがでしょうか。

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