過労死ラインとは?

過労死ラインとは、心身の疾患や死亡、自殺リスクが高まると考えられている時間外労働時間の基準です。

 

病気の発生は、生活習慣や体質など、さまざまな要因が複雑に関わっているため、労災として認定されるには一定の基準「過労死ライン」を定める必要があります。

 

これまで厚生労働省は、

  1. 発症する1ヶ月前の時間外・休日労働が100時間超
  2. 発症する2~6ヶ月前までの時間外・休日労働が月平均80時間超

のどちらかに該当する場合、「業務と発症との関連性が強い」と評価しています。

 

よって、上記が過労死ラインと言えるでしょう。

 

ただし、過労死ラインは、あくまで過労死等を認定するための目安です。

 

過労死ラインを超えていなかったとしても労働状況が劣悪だと見なされれば、業務との関連性が強いと判断されやすくなります。

 

過労死ラインは月80時間以上!

過労死ラインは、

  1. 発症する1ヶ月前の時間外・休日労働が100時間超
  2. 発症する2~6ヶ月前までの時間外・休日労働が月平均80時間超

どちらか一方にでも該当する場合を指します。

 

発症する1ヶ月前の時間外・休日労働が100時間超

そもそも、月100時間超の残業とは、どういった状況なのでしょうか。

 

例えば、

  1. 月の労働日数25日
  2. 所定労働時間8時間(9:00~18:00)

と仮定します。

 

となると、1日平均4時間の残業、毎日9:00~22:00まで働いていることになります。

 

これに往復の通勤時間が加わるため、1日の自由時間はほとんどなく、睡眠時間も削られていることは明らかです。

 

労災補償に関する「脳・心臓疾患の認定基準」においても、月100時間を超える残業は、業務と発症との関連性が強いと評価されています。

 

そのため、月100時間超の残業を行っている人に、精神的・肉体的な疾患が発生した場合、労災認定される可能性は高まります。

 

ちなみに、労働時間とは雇用主の指揮命令下で労働に従事する時間のことです。

 

休憩時間中の電話番や来客待ちは、手待ち時間として労働時間にカウントされるため、注意しましょう。

 

発症する2~6ヶ月前までの時間外・休日労働が月平均80時間超

これは、発症前2~6ヶ月間における、いずれかの月平均の時間外労働・休日労働時間が80時間を超えた場合を意味します。

 

例えば、

6月…80時間

7月…70時間

8月…90時間

の時間外労働だった場合、6月と7月の2ヶ月平均では「80+70÷2=75時間」となるため、過労死ラインには届きません。

 

しかし、6月~8月の3ヶ月だと「80+70+90÷3=80時間」となるので、過労死ラインに該当するのです。

参考:厚生労働省「STOP!過労死

 

上表の通り、1ヶ月あたりの労働時間が45時間を超えて長くなるほど健康障害のリスクは高まり、月80時間を超えると関連性が強いと評価されます。

 

ただし、WHO(世界保健機関)とILO(国際労働機関)は、「1日8時間働いた場合、1ヶ月に65時間残業すると脳や心臓に関する疾病リスクが高くなる」と指摘しています。

 

各国の政府や企業に対策を求めているため、今後過労死ラインが見直される可能性は十分にあるでしょう。

 

過労死の定義

過労死とは、具体的にどのような状態を指すのでしょうか。

 

過労死等防止対策推進法第2条では「過労死等」として、

  1. 業務における過重な負荷による脳血管疾患・心臓疾患を原因とする死亡
  2. 業務における強い心理的負荷による精神障害を原因とする自殺による死亡
  3. 死亡には至らないが、これらの脳血管疾患・心臓疾患、精神障害

と定義づけています。

 

対象となる疾病

 

脳血管疾患…脳内出血/脳梗塞/くも膜下出血など

心臓疾患…心筋梗塞/狭心症/心臓性突然死を含む心停止など

精神障害…うつ病や神経性障害/パーソナリティ障害など

 

では、ここで触れられている「業務における過重な負荷」「業務における強い心理的負荷」について詳しく見ていきましょう。

 

業務における過重な負荷

厚生労働省「脳・心臓疾患の認定基準」によると、業務による過重負荷には、

  1. 異常な出来事
  2. 短期間の過重業務
  3. 長期間の過重業務

の3種類が存在します。

 

これらの要素に加え、「業務以外の過重負荷」や「基礎疾患の程度」などを総合的に判断して、労災認定するかどうかを決定しています。

 

異常な出来事

発症する直前から前日までの間に、強度の精神的・身体的な負荷を負う異常な事態の発生や、急激で著しい作業環境の変化があった場合を指します。

 

具体的には、

精神的負荷…業務に関連した重大な人身事故や重大事故

身体的負荷…事故処理や救助活動

作業環境の変化…暑熱環境下でありながら水分補給ができない

などです。

 

短期間の過重業務

発症前おおむね1週間前に、日常業務と比較して特に過重な精神的・身体的負荷を生じさせる仕事に就労した場合のことです。

 

例えば、

  1. 十分な仮眠時間が確保されないまま、5日間連続で長時間拘束される
  2. タイトなスケジュールでさまざまな国の出張に行かされる

などが考えられます。

 

長期間の過重業務

発症前おおむね6ヶ月の長期にわたり、著しく疲労を蓄積させる仕事に就労した場合のことです。

 

業務量や業務内容、作業環境などを考慮して、客観的かつ総合的に判断されます。

 

業務における強い心理的負荷

厚生労働省「精神障害の労災認定」によると、認定基準の対象となる精神障害の発病前おおむね6か月の間に、業務による強い心理的負荷が認められること(精神障害の労災認定要件②)と定められています。

 

つまり、精神障害発病前6ヶ月の間において、仕事で起こった出来事と発病との関連性を評価するということです。

 

出来事には、

  1. 特別な出来事
  2. 特別な出来事以外

の2種類が存在します。

 

では、2つの出来事について見ていきましょう。

 

特別な出来事

特別な出来事に該当すると認められた場合、心理的負荷の総合評価が「強」となります。

 

具体的には、

  1. 非常に重い後遺障害を残す業務上の病気やケガ
  2. 業務に関連して相手を死亡させてしまった

などです。

 

「強」と評価された場合、上述した精神障害の労災認定要件②「業務による強い心理的負荷」を満たします。

 

ただし、精神障害の労災認定を受けるには、

  1. 認定基準となる精神障害を発病していること

     

  2. 業務以外の心理的負荷や個体要因による発病とは認められないこと

の要件も満たす必要があります。

 

これらを総合的に評価して判断されるため、特別な出来事に該当するからといって、必ず労災認定されるわけではありません。

 

特別な出来事以外

特別な出来事に該当しない場合、具体的出来事に当てはめた上で、総合的に心理的負荷の程度を評価します。

 

例えば、

  1. 上司等から、暴行などの身体的攻撃を執拗に受けた(心理的負荷「強」)
  2. 1ヶ月に80時間以上の時間外労働を行った(心理的負荷「中」)
  3. 勤務形態に変化があった(心理的負荷「弱」)

などです。

 

過労死ラインと36協定の関係

労働基準法により、労働時間は「1日8時間・週40時間」以内と定められています。

 

この法定労働時間を超えて働かせるには、労使間で締結した「36協定」を労働基準監督署長に届け出なくてはなりません。

 

36協定を締結せずに法定労働時間を超えて働かせた場合、労働基準法違反にあたり「6ヶ月以下の懲役または、30万円以下の罰金」が科されます。

 

36協定を結べば、法定労働時間を超えた時間外労働が認められますが、無制限ではありません。

 

36協定には、原則として「月45時間・年360時間」の上限が定められているため、これに違反すると罰則の対象となります。

 

ただし、臨時で特別の事情がある場合に限りますが、労使間で特別条項を結んでいれば、

  1. 休日労働も合わせて月100時間未満
  2. 休日労働も合わせて2~6ヶ月の平均で1ヶ月あたり80時間以内

などの労働が認められます。

 

特別条項を結んでいれば、過労死ラインに限りなく近い残業も違法ではなくなりますが、あくまで臨時的措置であり、原則は「月45時間・年360時間」が上限です。

 

過労死防止のための取り組み

過労死や過労による疾病は、訴訟や業務上のミス・事故につながるため、企業の社会的信頼を損ねる可能性があります。

 

従業員の心身の健康を守り、トラブルを回避するためにも、しっかりと対策を取りましょう。

 

労働時間の把握

過労死や過労による疾病を防ぐには、長時間労働を是正することが重要です。

 

長時間労働を防止するには、まず従業員一人ひとりの労働時間を正確に把握する必要があります。

 

タイムカードなどで勤怠管理している企業も多いですが、タイムカードは締め日にならないと集計できないため「知らないうちにオーバーしていた」といった事態も起こり得ます。

 

また、自己申告制の場合、従業員が申告した労働時間と実態がズレている可能性があるため、正確な管理ができません。

 

そのため、従業員一人ひとりの勤怠状況がリアルタイムで把握できる「勤怠管理システム」の導入がおすすめです。

 

勤怠管理システムには、残業超過アラート機能がついたものもあるため、こういったシステムを利用すれば、働きすぎを未然に防ぐことができます。

 

勤務間インターバル制度を設ける

勤務間インターバル制度とは、退勤してから次の出勤までに一定の休息時間を確保する制度のことです。

 

従業員の生活時間や睡眠時間をしっかりと確保することができるため、過重労働の防止や従業員の健康保持に役立ちます。

 

勤務間インターバルで設ける休息時間の目安は、9~11時間が推奨されています。

 

なお、勤務間インターバルを導入すると助成金の対象にもなるため、導入を検討してみてはいかがでしょうか。

厚生労働省:働き方改革推進支援助成金(勤務間インターバル導入コース)

 

 

有給休暇の取得促進

労働基準法の改正により、10日以上の有休休暇が付与される労働者には、年5日間の有休休暇を取得させることが義務付けられています。

 

とはいえ、従業員に気兼ねなく有給休暇を取得してもらうには、業務に支障が出ないような環境を整えなくてはなりません。

 

例えば、

  1. 権限譲渡の範囲を広げて、業務の属人化を防ぐ
  2. 業務マニュアルを作成しておく
  3. 事前に有給休暇取得の計画を立ててもらう
  4. 部署やチームごとに交代制で有給休暇を設定する
  5. 時間単位や半日単位での取得を認める

などが有効でしょう。

 

ハラスメント防止対策

過労死等は、長時間労働だけが原因ではありません。

 

パワハラやセクハラといったハラスメントは、精神障害を発症させる要因になるため、ハラスメント防止にも取り組む必要があります。

 

労働施策推進施策法では、パワーハラスメント防止のために講じるべき措置について、

事業主は、職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であって、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものによりその雇用する労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。

労働施策推進施策法30条の2第1項

と規定しています。

 

厚生労働省「職場におけるパワーハラスメント対策が事業主の義務になりました!」では、具体的なハラスメント防止策として、以下の内容が示されています。

 

事業主の方針の明確化と周知・啓発

  1. ハラスメントの内容と方針を明確化し、周知・啓発
  2. 行為者への対処方針とその内容を規定し、周知・啓発

 

適切に相談に対応するための体制整備

  1. 相談窓口の設置
  2. 適切な相談対応

 

事後の迅速かつ適切な対応

  1. 事実関係の迅速・正確な確認
  2. 被害者への適正な配慮の実施
  3. 行為者への適正な措置の実施

 

再発防止に向けた対応の実施

  1. 関係者のプライバシーを保護するための対応と周知
  2. ハラスメントの相談・事実確認の協力等を理由とした、不利益取り扱いの禁止と周知・啓発

 

ストレスチェックの実施

労働安全衛生法の改正により、2015年から年1回のストレスチェックの実施が義務付けられました(常時使用する労働者が50人以上の事業場のみ)。

 

責任者や従業員本人がストレス状況を把握すると、医師の面談や仕事の軽減といった必要な措置を講じることができます。

 

メンタルヘルスの不調を未然に防止することができるため、働きやすい環境づくりに役立ちます。

 

相談しやすい環境の整備

過労死等を防止するには、労働者が仕事の不安や悩み、ストレスについて相談できる環境を整えることも重要です。

 

相談対応は、衛生管理者や産業医、保健師、労務管理スタッフなどさまざまですが、相談内容によっては、専門的な支援が必要となります。

 

そのため、産業医や精神科医などの専門医との連携ができるようにしておきましょう。

 

また、相談方法は対面だけでなく、電話やメールといった複数のツールを用意しておくと、相談のハードルが下がります。

 

社内相談窓口の運営方法が固まったら、イントラネットやリーフレットを活用して従業員に周知しましょう。

 

ただし、社内相談窓口は「周囲の目が気になる」という意見も多いため、設置する際はプライバシーが守られるよう配慮する必要があります。外部へ委託するのも一つの手です。

 

過労死ラインはあくまで目安!環境を整えて労働者の健康を守ろう

過労死ラインは、月80時間の残業が一つのボーダーです。

 

とはいえ、過労死ラインはあくまで労災認定となる基準の目安であり、絶対的な指標ではありません。

 

過労死ライン以内であっても、業務と発症との関連性が強いと評価されれば、労災認定されることも十分あります。

 

働き方改革が推進されているこの時代、過度な残業や精神的・身体的負荷の強くかかる環境は、採用面でもデメリットになってしまいます。

 

ご紹介した対策を参考に過労死や過労による疾病を防ぎ、ワークライフバランスを考慮した労働環境を整えましょう。

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