社会保険は、ケガや病気、退職、失業といったアクシデントが起こったとき、労働者やその家族を守るための大切な制度です。
社会保険には様々な種類があり、カバーする内容もそれぞれの特性によって異なります。
また、労働者や事業所によって加入条件も異なるため、労働者から社会保険の対象になるか聞かれることも多いでしょう。
この記事では、人事や採用担当者にとって欠かせない社会保険の基礎知識について詳しく解説いたします。
社会保険の種類や内容といった基礎知識から、加入対象となる労働者・事業所の条件、罰則、加入手続きまでご紹介いたしますので、ぜひご覧ください。
広義の社会保険とは?
広義の社会保険とは、
- 労災保険(労働者災害保険)
- 雇用保険
- 健康保険
- 厚生年金保険
- 介護保険
の5種類です。
このうち、労災保険と雇用保険の2種類を「労働保険」、健康保険・厚生年金保険・介護保険の3種類を「社会保険(狭義)」と言います。
単に社会保険と言われた場合、一般的には健康保険・厚生年金保険・介護保険の3種類を指します。
社会保険の区分
社会保険(広義) | 労働保険 | 労災保険(労働者災害保険) |
---|---|---|
雇用保険 | ||
社会保険(狭義) | 健康保険 | |
厚生年金保険 | ||
介護保険 |
労働保険は、労働者を保護する制度です。
企業などに雇われている「被雇用者(従業員)」が加入の対象となるため、使用者は加入できません。
一方、社会保険は国民を守る制度のため、被雇用者だけでなく使用者も加入対象です。
労働保険の種類
労働保険と狭義の社会保険の違いが分かったところで、各労働保険の概要と加入条件について見ていきましょう。
労災保険(労働者災害補償保険)
労災保険は、業務上または通勤途中での事故により、病気やケガ、死亡などが発生したとき、労働者に給付する保険です。
保険料
全額会社負担のため、従業員が保険料を支払う必要はありません。
給付の種類
療養(補償)給付…治療費や薬剤費
休業(補償)給付…働けないときの損害補償
傷病(補償)給付…1年6ヶ月経っても治らず、傷病等級に該当する場合
障害(補償)給付…後遺障害が残った場合
介護(補償)給付…介護が必要になった場合
遺族(補償)給付…労働者死亡時に遺族に支払われる
葬祭料…葬儀費用
加入条件
対象者
すべての労働者が対象です。
正社員や派遣社員、パート・アルバイトといった雇用形態は問いません。
強制適用
原則、1人でも労働者を雇っている事業所は、加入義務があります。
暫定任意適用事業
暫定任意適用事業は、農林水産の事業のうち、労働保険の加入を「事業主の意思」または「労働者の過半数の意思」に任されている事業です。
労災保険の場合、
- 労働者5人未満の個人経営の農業(特定の危険・有害な作業を主としない)
- 個人経営の林業で常時雇用する労働者がいないかつ、年間使用労働者数が300人未満
- 個人経営の畜産または水産で、労働者が5人未満
が該当します。
原則、事業主の意思のみで任意加入可能です。
労働者の過半数が加入を希望するときは、申請義務が生じます。
なお、労災保険には特別加入制度があるため、
- 中小事業主
- 海外派遣者
- 一人親方
は、加入することができます。
雇用保険
雇用保険は、労働者が「失業したとき」「働き続けることが難しくなったとき」「自ら教育訓練を受けたとき」などに給付金を支給する保険です。
保険料
会社と労働者の折半
給付の種類
求職者給付…失業した場合
就職促進給付…再就職を支援
教育訓練給付…所定の教育訓練を受けた場合
雇用継続給付…定年後の再雇用者や介護・育児で休業する場合
「求職者給付」は、就職する意思とその能力がある人に一定期間支給する給付金です。
よって、ケガや病気、妊娠・出産といった何らかの理由ですぐに就職できない人や、個人事業主に転身する人は失業給付金を受け取れません。
▼加入条件
対象者
1週間の所定労働時間が20時間以上であること
31日以上の雇用見込みがあること
上記①②の要件を満たす労働者は、雇用形態にかかわらず加入する必要があります。
また、原則として学生は雇用保険に加入できませんが、休学中など一定の条件を満たす場合は、加入対象となります。
強制適用
労災保険と同じ条件
暫定任意適用事業
常時5人未満の労働者を雇用している個人事業で、一定の農林・畜産・養蚕・水産の業に該当する場合「暫定任意適用事業」となります。
「事業主の意思」+「労働者の1/2以上の同意」が原則です。
ただし、労働者の1/2以上が加入を希望する場合は、事業主に申請義務が生じます。
社会保険(狭義)の種類
つづいて、社会保険の種類とその加入条件についてご紹介いたします。
健康保険
健康保険は、労働者や被扶養者の病気やケガ、出産、死亡に関して給付を行う保険です。
医療機関などで保険診療を受けた場合、健康保険被保険者証を提示すると、一部負担金(一般的には3割)の支払いで治療や薬剤の処方を受けられます。
企業の健康保険の運営主体(保険者)は、「健康保険組合」「全国健康保険協会(協会けんぽ)」の2種類です。
保険料
会社と労働者の折半
給付の種類
療養の給付…診療・治療を受ける場合(医療費の一部負担)
療養費…医療費の立て替え払いをした場合
高額療養費…医療費の自己負担額が高額になった場合
傷病手当金…ケガや病気で働けない場合
出産手当金・出産一時金…出産した場合
埋葬料・埋葬費…死亡した場合 など
加入条件
-
適用事業所(会社が社会保険に加入している)であること
-
フルタイム勤務の一般社員は原則全員加入対象
-
1週間の労働時間と1ヶ月の労働日数が一般社員の3/4以上あること
に該当している労働者は、強制加入です。
また、上記に該当しない場合でも一定の要件を満たせば、加入対象となります。
詳しくは、同記事内「短時間労働者の加入対象者」をご覧ください。
厚生年金保険
厚生年金保険は、労働者の老後や死亡、障害に対して給付を行う保険です。
会社員や公務員といった厚生年金保険の被保険者は、国民年金保険の被保険者でもあるため、「国民年金の基礎年金(基礎年金)」+「厚生年金」の2階建てになっています。
保険料
会社と労働者の折半
給付の種類
老齢厚生年金…65歳になったときに支給
遺族厚生年金…労働者が死亡した場合、遺族に支給
障害厚生年金…病気やケガなどで障害が生じた場合 など
加入条件
健康保険と同じ
介護保険
介護保険は、介護を必要とする40歳以上の人にその費用を給付する保険です。
40歳になると加入が義務づけられ、保険料の支払いが始まります。
保険料
第二号被保険者(40~64歳)…健康保険の保険料と一緒に徴収(事業主と折半)
第一号被保険者(65歳以上)…原則年金から天引き(全額自己負担)
要介護認定されると、介護サービスの利用費用や住宅改修費用の一部負担、車いすなどのレンタルといったサービスを利用できます。
加入条件
40歳以上のすべての国民
健康保険の加入手続きで完了するため、介護保険の手続きは不要です。
社会保険の加入対象となる「適用事業所」
適用事業所とは、健康保険・厚生年金保険の加入対象となる事業所のことです。
ここでは、適用事業所の種類についてご紹介いたします。
強制適用事業所
強制適用事業所は、社会保険への加入が義務づけられている事業所です。
社員(社長含む)が1人でもいる会社は、強制適用事業所となるため、必ず会社を設立したら加入することになります。
対象の事業所
-
- 常時使用する従業員が1人以上いる法人事業所
(国・地方公共団体や事業主だけの事業所を含む)
- 常時使用する従業員が5人以上いる個人事業所
(農林水産業・始業・一部サービス・宗教などを除く)
任意適用事業所
強制適用事業所以外でも、一定の条件を満たせば社会保険に加入可能です。
従業員が5人未満の個人事業所は、従業員の半数以上が同意し、厚生労働大臣から認可を受けることで「任意適用事業所」になります。
健康保険・厚生年金保険どちらか一方だけの加入も認められています。
申請には、「健康保険・厚生年金新規適用届」「任意適用申請書」「任意適用同意書」といった書類が必要です。
特定適用事業所
特定適用事業所は、厚生年金保険の被保険者数が常時501人以上いる事業所のことで、短時間労働者の社会保険加入が義務づけられています。
短時間労働者に対する健康保険・厚生年金保険の適用拡大に伴い、「特定適用事業所」が定義されました。
ただし、
2022年10月…常時101人以上
2024年10月…常時51人以上
に変更されるため、注意が必要です。
任意特定適用事業所
厚生年金保険の被保険者数が500人以下であっても、労使合意にもとづいて申し出れば、「任意特定適用事業所」として、短時間労働者の社会保険適用が可能になります。
短時間労働者の社会保険加入要件
短時間労働者とは、フルタイム勤務の一般社員よりも短い勤務時間の労働者です。
アルバイト・パートはもちろん、契約社員や臨時社員、準社員も働く時間が短ければ、短時間労働者に該当します。
短時間労働者の加入要件は以下の通りです。
- 週の所定労働時間が20時間以上
- 雇用期間の見込みが1年以上(2022年10月以降:2ヶ月以上)
- 月額賃金(所定内賃金)が8万円以上
- 学生でない
- 「特定適用事業所」or「任意特定適用事業所」に勤めていること
すべての要件を満たす短時間労働者は、社会保険の加入対象です。
週の所定労働時間が20時間以上
短時間労働者の場合、
- 所定労働時間が通常の労働者の3/4未満
- 1週間の労働時間が20時間以上
の要件を満たす必要があります。
所定労働時間とは、就業規則や労働契約で企業が定めた勤務すべき時間のことです。
例えば、一般社員の労働時間が週40時間(1日8時間、週5日)だった場合、「20時間以上かつ30時間(3/4)未満の労働者」が該当します。
雇用期間の見込みが1年以上(2022年10月以降は2ヶ月以上)
期間の定めなく雇用される場合や雇用期間が1年以上の場合が対象です。
ただし、雇用期間が1年未満であっても、
- 就業規則や雇用契約書等の書面で、契約が更新される可能性があると明示されている場合
- 同様の雇用契約で雇用された者が更新などによって、1年以上雇用された実績がある場合
は対象となります。
2022年10月から「雇用期間の見込みが2ヶ月以上」に拡大されるため、注意が必要です。
月額賃金(所定内賃金)が8.8万円以上
時給・日給・週給を月額換算し、8.8万円以上である場合が対象です。
ただし、残業代や通勤手当、家族手当、精皆勤手当などの手当は含めません。
学生でない
学生は社会保険の適用外です。
ただし、夜間や通信、定時制の学生、休学中の学生は対象となります。
「特定適用事業所」or「任意特定適用事業所」に勤めていること
勤務先が「特定適用事業所」もしくは「任意適用事業所」の場合、短時間労働者も社会保険に加入することができます。
社会保険への加入を怠った場合の罰則
社会保険の強制加入条件を満たしていながら加入を怠った場合、事業主はどのような罰則を受けるのでしょうか。
労災保険の罰則
労災保険の加入を怠った場合の罰則は、
- 過去2年分の労災保険料と追徴金の徴収
- 未加入時の労災事故が発生したときは、保険休学の一部または全部を徴収
です。
また、労災保険の未加入は労働基準法違反にもあたるため、悪質な場合は30万円以下の罰金または6ヶ月以下の懲役を科される可能性もあります。
雇用保険の罰則
雇用保険の加入を怠った場合は、過去2年分の雇用保険料を納付します。
悪質な場合は、30万円以下の罰金または6ヶ月以下の懲役を科される可能性があります。
健康保険・厚生年金保険の罰則
健康保険・厚生年金保険の加入を怠った場合は、過去2年分の保険料を納付します。
なお、退職済み被保険者の保険料に関しては、全額会社負担になることもあります。
このほか、30万円以下の罰金または、6ヶ月以下の懲役を科される可能性もあるため、注意が必要です。
社会保険の加入手続き
全国健康保険協会に加入している場合は、「健康保険」と「厚生年金」の加入手続きをまとめて行えます。
健康保険組合の場合、年金事務所への届け出を行うとともに、各組合の規定に沿って手続きを進めてください。
資格取得時は、事業主が加入対象者の氏名・生年月日・性別・住所・マイナンバーまたは、基礎年金番号を確認した上で、資格取得届に記入・届け出を行います。
手続きを行う際は、必ずマイナンバーや基礎年金番号を確認してください。
事業所としてはじめて社会保険に加入する場合
強制適用事業所は設立から5日以内、任意適用事業所は同意を得た後に、以下の書類を所轄の年金事務所に提出します。
提出書類
- 健康保険・厚生年金保険新規適用届
- 健康保険・厚生年金保険被保険者資格取得届
- 被扶養者(異動)届(被保険者に被扶養者がいるとき)
- 保険料口座振替納付(変更)申出書
必要書類
法人事業所…法人登記簿謄本(原本)
強制適用所(個人事業所)…事業主世帯全員分の住民票(原本)・事業実態を確認できる書類
任意適用事業所(個人事業所)…事業主世帯全員分の住民票(原本)・任意適用申請書・任意適用同意書・公租公課の領収書1年分
従業員を雇用した場合
社会保険の加入対象者を採用した日から5日以内に、
- 健康保険・厚生年金保険被保険者資格取得届
- 健康保険被扶養者(異動)届(被保険者に被扶養者がいるとき)
を所轄の年金事務所へ提出します。
労働保険の加入手続き
労働保険は、原則として1人でも労働者を雇っていれば加入しなくてはなりません。
労災保険の加入手続きは、業種によって異なりますが、農林漁業や建設業以外であれば、大半は労災保険と労働保険をまとめて行えます。
開業してはじめて従業員を雇用した日が労働保険の加入日となり、10日以内に手続きを行います。
所轄の労働基準監督署へ書類を提出
「保険関係成立届(保険関係成立の翌日から10日以内)」と「労働保険概算・確定保険料申告書(保険関係成立の翌日から50日以内)」を提出します。
添付書類として、会社の情報が書かれた「履歴事項全部証明書」も必要となるため、あらかじめ用意しておきましょう。
所轄の公共職業安定所で加入手続きを行う
「雇用保険適用事業所設置届(設置日の翌日から10日以内)」と「雇用保険被保険者資格取得届(資格取得日の翌月10日まで)」を提出します。
必要書類
- 労働保険関係成立届(事業主控え)
- 登記簿謄本
- 事業実態を確認できる書類
- 労働者名簿
- 出勤簿orタイムカード
- 賃金台帳
- 雇用契約書or雇入通知書
- 雇用保険被保険者証
社会保険加入は企業の義務
社会保険の加入は企業の義務です。
保険加入を怠った場合、未納分の保険料納付だけでなく、懲役や罰金を科される可能性もあります。
加入義務違反は企業にとって大きな損害につながるため、漏れのなく加入手続きを行い、従業員を守りましょう。
また、社会保険の適用範囲は2022年10以降、段階的に拡大されます。
小規模な事業所も他人ごとではなくなってくるので、しっかりと情報をアップデートしておきましょう。