共働き世帯の増加により、積極的に育児に参加する男性が増えてきました。

 

2022年4月からは、改正育児・介護休業法の施行がスタートすることもあり、多くの企業が男性社員の育休取得推進に取り組んでいます。

 

しかし、育児支援制度を利用しようとする男性社員に嫌がらせをする「パタハラ(パタニティハラスメント)」も増加しています。

 

この記事では、パタハラへの理解を深めるために、パタハラの概要や現状、原因について解説いたします。

 

なお、パタハラ防止策や対処法、取り組み事例についてもご紹介いたしますので、ぜひご覧ください。

 

パタハラとは?

パタハラ(パタニティハラスメント)とは、父性を意味する「パタニティ」と、嫌がらせやいじめを意味する「ハラスメント」を組み合わせた言葉です。

 

積極的に育児に参加しようとする男性社員に対して、嫌がらせや不利益な扱いをすることを「パタハラ」と言います。

 

例えば、

  1. 育児休暇の取得拒否
  2. 短時間勤務やフレックス制度を活用しようとする男性社員への嫌がらせ
  3. 育児支援制度の活用を理由とした異動・降格・退職勧告

など、男性社員の育児参加を妨害する行為がパタハラに該当します。

 

マタハラやケアハラとの違い

パタハラと似たような意味を持つ言葉に「マタハラ」や「ケアハラ」があります。

 

ハラスメントへの理解を深めるためにも、それぞれの違いを把握しておきましょう。

 

マタハラとの違い

マタハラ(マタニティハラスメント)とは、妊娠・出産・育児を理由に女性社員に対して、嫌がらせや不当な扱いを行う行為です。

 

育児に関する嫌がらせである点は共通していますが、「ハラスメントの被害者」や「休業の種類」が異なります。

 

パタハラは男性社員、マタハラは女性社員がハラスメントの被害者です。

 

休業の種類に関しては、パタハラが育休であるのに対し、マタハラは産休・育休となります。

 

ケアハラとの違い

ケアハラ(ケアハラスメント)とは、働きながら家族の介護を行う人に対して、嫌がらせや不当な扱いを行う行為です。

 

家族をサポートする社員への嫌がらせである点は共通していますが、パタハラとは「ハラスメント被害者の範囲」や「休業の種類」が異なります。

 

パタハラの対象は男性社員のみですが、ケアハラは男女問いません。

 

また、パタハラが育休を申請・取得する男性社員への嫌がらせであるのに対して、ケアハラは介護休業を申請・取得する従業員に行われます。

 

パタハラが注目される背景

従来の日本では「夫は外で働き、妻は家を守るもの」という考えが根づいていたため、積極的に育児に参加する男性はごく少数でした。

 

しかし、少子高齢化やグローバル化、ダイバーシティなどの影響により、女性の社会進出が進んだ現在、共働き世帯が急増しています。

 

仕事と家庭を両立させるには、男性の積極的な育児参加が必須であり、結果的にさらなる女性の社会進出促進にもつながるのです。

 

このような背景から、男性育休制度の整備が進み、育休を取得する男性社員が増えてきました。

 

しかし、従来のような考えを失くすのは容易なことではありません。

 

「育児は女性がするもの」といった、固定観念を持つ人は一定数存在するため、価値観の違いからパタハラが増加しています。

 

こうした固定観念は、男性の積極的な育児参加を阻害する要因となることから、パタハラが注目されています。

 

パタハラの現状

パタハラの現状を把握するために、男女の育休取得状況やパタハラ経験の実態について見ていきましょう。

 

男女別の育休取得状況

男女別の育休取得状況

参考:厚生労働省「令和元年度雇用均等基本調査

 

厚生労働省の調査によると、女性社員の育休取得率は80%超と高い水準で推移しています。

 

一方、男性社員の育休取得率は、最も取得率の多い2019年度でも7.48%に留まることから、男性の育休取得が進んでいないことは明らかです。

 

パタハラ経験の実態について

パタハラ経験の実態について

参考:厚生労働省「職場のハラスメントに関する実態調査

 

2020年10月に行った厚生労働省の調査によると、過去5年の間で育休などを利用しようとした男性の26.2%がパタハラを受けていたことが分かりました。

 

パタハラの発生割合は、企業規模によっても異なります。

 

1,000人以上の企業が21.7%だったのに対して、99人以下の企業では31.1%と、小規模な企業で発生しやすい傾向にあることが分かります。

 

また、ハラスメントの内容については「上司による、制度等の利用の請求や制度等の利用を阻害する言動」が半数以上です。

 

その他、雑務に従事させるなどの嫌がらせや、人事考課における不利益な評価といった行為が行われていることが明らかになりました。

 

パタハラによって育児関連の制度利用を取りやめた人は、

育休制度…7%

残業や深夜業務の免除・制限…4%

始業時間の変更・短時間勤務…3%

です。

 

パタハラの起こる原因

なぜ、パタハラが起こるのでしょうか。

 

ここでは、パタハラの起こる原因についてご紹介いたします。

 

就業状況の男女差

就業状況の男女差

参考:厚生労働省「令和元年度雇用均等基本調査

 

性別ごとに就業状況を比較してみると、正社員・正職員に占める女性の割合は25.7%であるのに対し、男性は74.3%と、約3倍も男性が多いです。

 

また、産業全体での管理職に占める女性の割合は11.9%となっており、男性社員が圧倒的に多いことが分かります。

 

つまり、企業内での男性の割合が非常に多いことから、仕事への影響を考慮して育休を取得しづらい状況であると言えるでしょう。

 

賃金の男女差

賃金の男女差

参考:厚生労働省「令和元年賃金構造基本統計調査の概況

 

男女によって賃金に大きな差があることも要因の一つと言えます。

 

賃金カーブを見てみると、男女ともに50~54歳が賃金のピークですが、男性に比べると女性のカーブは緩やかです。

 

男性のピーク時の年収が423.7万円、女性は275.8万円と、約180万円もの開きがあります。

 

このことから、男性が育休を取得すると家計に大きな打撃を与えるため、取得しにくい状況にあると推測されます。

 

上司や同僚の理解不足

上司や同僚の理解不足

参考:日本労働組合総連合会「パタニティ・ハラスメント(パタハラ)に関する調査

 

男性の積極的な育児参加には、上司や同僚の理解が欠かせません。

 

日本労働組合連合会が2014年に行ったパタハラの調査によると、45.1%の人が「男性の子育てに理解がある人は職場にいない」と回答しています。

 

厚生労働省の調査でも、上司・同僚から嫌がらせや、育児支援制度の利用を拒否された経験を持つ人は多いため、理解不足が原因の一つであることは明らかです。

 

「不利益な取り扱い」は育児介護休業法で禁止されている

育児・介護休業法では、育児休業や介護休業などの申請・取得を理由に、労働者に対して不利益な扱いをすることは禁じられています。

 

不利益な取り扱いには、

  1. 減給
  2. 降格
  3. 退職勧告
  4. 解雇
  5. 雇止め
  6. 契約更新回数の引き下げ
  7. 雇用契約内容の変更を強要
  8. 異動などの不当な配置転換
  9. 人事考課の不当な評価
  10. 不当な自宅待機命令
  11. 業務の取り上げ
  12. もっぱら雑務をさせるなど、就業環境を害する行為

などが該当します。

 

パタハラに該当する条件

では、具体的にどういう行為がパタハラに該当するのでしょうか。

  1. 男性社員が育児支援に関する制度を申請しても認めない
  2. 男性社員が育児支援に関する制度を申請した際、「他の社員の負担が大きくなる」「迷惑だ」などと発言し、利用を諦めさせる
  3. 育児支援に関する制度を利用しようとする男性社員に「育児は女性がするもの」「男性が育休を取得するなんてありえない」といった発言をする
  4. 育児支援に関する制度を利用した男性社員に対して、異動や転勤、降格、減給など人事権を不当に行使する
  5. 育児支援に関する制度を利用した男性社員から仕事を取り上げる
  6. 育児支援に関する制度を申請・利用した男性社員に退職を勧める

上記のような行為をすると、「パタハラ」と認定される可能性が高いです。

 

ちなみに、育休取得要件を満たした男性社員からの育休申請を拒否することは、法律違反に当たります。

 

育児・介護休業法に違反した場合、勧告や企業名の公表、20万円の罰金といったペナルティを受けることもあるため、注意が必要です。

 

なお、2021年6月改正育児・介護休業法が成立し、2022年4月から順次施行されていきます。

 

具体的には、

  1. 育休制度の周知・取得の意向確認を義務化(2022年4月頃~)
    産後8週間以内に取得できる「出生時育児休業制度」(2022年秋頃~)
  2. 配偶者の産後8週間以内に、最大4週間まで育児休業が取得可能
    本人または配偶者の妊娠や出産を申し出た従業員に対する、育休制度の周知や取得意向の確認義務化育児休業取得率の公表義務化(2023年4月~)
  3. 従業員数1,000人以上の大企業は、毎年育休取得状況を公表すること
    育休の分割取得(2022年秋頃~)
  4. 出生時育児休業とは別に、子どもが1歳になるまで育休を2回に分割して取得できるように変更
    有期労働者の育児・介護休業の取得要件緩和(2022年4月頃~)育児・介護休業の取得要件である「1年以上の雇用」が廃止
    ※労使協定で締結された場合は、対象外とすることも可能

が追加・変更されます。

 

今後は、男性社員に対しても企業側から「有給休暇取得するかどうか」を聞かなくてはならなくなります。

 

「うっかり」パタハラをしてしまわないよう注意しましょう。

 

パタハラを防止する方法

パタハラ防止は企業の義務です。

 

ここでは、パタハラ防止の方法についてご紹介いたします。

 

社内制度化し、従業員へ周知する

育休を取得する従業員が少ない企業や創業間もない企業の場合、社内制度が整っていないこともあるでしょう。

 

育休が社内制度として整備されていないと、育休の必要性について理解が深まらないため、パタハラが起こりやすくなります。

 

したがって、育休の取得条件や取得可能期間などを就業規則に明示した上で、全社員へ男性社員も取得可能であることを周知しましょう。

 

社員へ周知する際は、どういった言動・行動がパタハラに該当するのか、合わせて説明するとトラブル防止につながります。

 

啓蒙活動を行う

男性社員の育休取得に向けた動きは活発化していますが、女性の育休と比べると、普及しているとは言えない状況です。

 

従業員の中には「育児は女性がするもの」「男性は仕事をするべきだ」と考える人もいるため、男性社員の育休を促進するには、啓蒙活動を行う必要があります。

 

管理職を含めた全従業員と、育休に関する認識を統一させることが重要です。

 

パタハラを中心としたハラスメント研修の実施や、企業としてハラスメントを許容しないことを伝えましょう。

 

また、代表者自らが男性社員の育休取得を推奨するメッセージを発信したり、育休取得者の声を紹介したりすると、従業員の意識が変わってきます。

 

相談窓口を設置する

パタハラ防止には、相談窓口の設置も有効です。

 

従業員の中には「トラブルを恐れて育児支援関連の制度を申請できない人」や「パタハラについて悩んでいる人」もいます。

 

相談窓口を設置しておけば、悩み相談だけでなく、パタハラ防止のアドバイスも受けられます。従業員のストレスケアにも役立つでしょう。

 

職場環境を整える

社内制度を整備しても、育児支援関連の制度を利用できる職場環境が整っていなければ、利用者は増えません。

 

例えば、毎日のように残業が発生する職場の場合、ITツールの導入や業務の見直しといった施策によって、長時間労働の是正を行う必要があるでしょう。

 

また、有給や育休の取得者が少ない企業では、「上司が率先して育休を取得する」など、育休取得を歓迎している姿勢を示すことが重要です。

 

イクメンアワードへの参加

厚生労働省が実施している「イクメン企業アワード」や「イクボスアワード」への参加もパタハラ防止に役立ちます。

 

イクメンアワードとは、男性の育児と仕事の両立を推進する企業や、上司を表彰するプロジェクトです。

 

こうしたプロジェクトに参加することで、男性の育児参加への意識向上や企業イメージ向上につながります。

 

パタハラを防止するメリット

パタハラ防止は、育休を取得する本人だけでなく、企業にも様々なメリットがあります。

 

企業イメージの向上

男性の積極的な育児への参加を推奨・支援すると、「従業員やその家族を大切にする企業」という印象を与えられるため、企業イメージが向上します。

 

少子高齢化で働き手が減少している中、仕事と育児の両立を支援する制度を整えることは、人材確保面でも役立つでしょう。

 

離職率の低下

共働き世帯の増加に伴い、「積極的に子育てに参加したい」と考える男性が増えてきています。

 

そのため、企業が仕事と子育ての両立を支援することで、従業員エンゲージメントが向上し、離職率を低下させる効果が期待できます。

 

また、男性が積極的に育児に参加すれば、女性の負担が減って家庭環境も豊かになるため、モチベーションも向上するでしょう。

 

業務改善につながる

育休取得を推進するには、「その人でないと分からない・できない」といった、業務の属人化を解消しなくてはなりません。

 

業務の属人化を解消するには、業務を棚卸してチーム内で共有し、誰でもできる状態にする必要があります。

 

業務改善が進めば長時間労働が是正されるため、残業代減少も期待できるでしょう。

 

パタハラ発生時の対処方法

では、パタハラが発生した場合、どうしたら良いのでしょうか。パタハラ発生時の対処法についてご紹介いたします。

 

事実確認

「パタハラを受けた」「パタハラされているところを見た」などの報告が上がってきたら、ただちに事実関係を確認しましょう。

 

「いつ、誰が、誰に対して、どのような行為をした・されたのか」を正確に把握するには、被害者・加害者だけでなく、周囲の従業員にもヒアリングを行うことが重要です。

 

第三者から話を聞くことで、客観的な判断が可能となります。プライバシーに十分配慮した上で、聞き取り調査を行いましょう。

 

被害社員への迅速な対応

パタハラの事実が確認できたら、被害者へのフォローを早急に行いましょう。

 

フォローが遅れると、被害を受けた従業員のモチベーションが低下するばかりか、訴訟に発展する可能性もあります。

 

具体的には、

  1. 育休取得を拒否された場合は、希望通り育休を取得できるようにする
  2. 育休が理由で降格や異動など不当な扱いを受けた場合は、それを撤回する

などが挙げられます。

 

また、ハラスメント被害を受けた従業員は、多少なりとも精神的ダメージを受けているため、メンタルケアも同時に行いましょう。

 

加害社員へ注意・指導

被害者への対応と同時に、加害者への対応も行う必要があります。

 

パタハラをした従業員へ注意や指導を行うところから始め、当事者に改善が見られるか確認してください。

 

注意・指導しても改善が見られない場合は、当該従業員に何らかのペナルティを科すことも検討する必要があります。

 

パタハラを放置してしまうと、他の従業員や職場に悪影響を及ぼすため、「どういったパタハラ行為を行っていたのか」を考慮した上で、適切な処分を検討してください。

 

再発防止策の検討・実施

パタハラが発生したら、再発防止策を検討・実施して、パタハラしない・させない姿勢を示すことが重要です。

 

なぜパタハラが発生してしまったのか、原因を分析した上でご紹介したようなパタハラ防止策を検討・実施しましょう。

 

また、ハラスメント被害を受けていても、全員が報告するとは限りません。

 

一定期間が経過したら、匿名の社内アンケートなどで状況を把握し、適宜見直しを図ることが大切です。

 

男性の育休取得推進の取り組み事例

改正育児・介護休業法が2022年4月から順次施行されることもあり、現在多くの企業が男性の育休取得推進に向けた取り組みを行っています。

 

ここでは、「イクメン企業アワード2020」に選出された企業事例をご紹介いたしますので、参考になさってください。

 

株式会社技研製作所

産業機械の製造販売を行っている株式会社技研製作所は、イクメン企業アワード2020グランプリを受賞しています。

 

【取り組み内容】

  1. 社内プロジェクトチームによる男性社員の育休取得サポート
  2. 社内アンケートでの課題分析
  3. 育休に関する給付金シミュレーションツールの構築
  4. 対象課員とその上司への育休説明会実施
  5. グループ全役職員に向けた「男性社員育休取得推進」の宣言

 

【結果】

男性社員の育休取得率が0%(2008年~2018年)から30%(2019年)にまで上昇しました。

 

また、「ノー残業デーの設定」や定時退社の促進、生産性向上を目的とした業務改善活動などの実施によって、ワーク・ライフ・バランスの意識が高まったそうです。

 

その結果、新卒採用応募者が前年比13%増、業務の属人化排除と業務効率化に成功しています。

 

積水ハウス株式会社

日本を代表する住宅メーカーの積水ハウスも、イクメン企業アワード2020のグランプリに輝いています。

 

【取り組み内容】

  1. 「イクメン休業制度」を設定し、3歳になるまでの期間1ヶ月以上の育休取得を推奨
  2. 育休取得最初の1ヶ月を有給、最大4回の分割取得が可能
  3. 育休取得申請手続きや取得者の声などをまとめた取得促進ツールの作成
  4. 育休中の家事・育児の役割分担についてコミュニケーションを図りやすくする「家族ミーティングシート」の作成

 

また、育休取得をスムーズにするために「イクメン3-2-1Action」を実施しています。

 

イクメン3-2-1Actionでは、

 

取得予定日の3ヶ月前まで…家族で取得時期や役割分担に関する話し合い

2ヶ月前まで…引き継ぎなどについて上長と面談

1ヶ月前まで…イクメン休業取得計画書の提出

 

を求めています。

 

【結果】

イクメン休業制度の取得率は100%を維持しており、2019年2月以降が取得期限の男性社員は、全員1ヶ月以上の育休を取得しています。

 

パタハラ防止で働きやすい職場を作ろう

男性の育休取得は徐々に活発化してきていますが、まだ一般的ではありません。

 

しかし、今後はさらに少子高齢化やグローバル化が進むことから、男性の育休取得者は増加していきます。

 

パタハラを防止し、男性の積極的な育児参加を支援すれば、社内外へ強力なアピールができるため、定着率向上だけでなく、人材確保にも役立つでしょう。

 

ご紹介した内容を参考に、パタハラ対策を講じてみてはいかがでしょうか。

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