近年、「組織風土」が話題に上る機会が増えました。

 

組織風土は、組織内のルールや価値観を意味しますが、「具体的にどういったものを指すのか」「組織文化や社風とは何が違うのか」不明瞭な点も多いでしょう。

 

この記事では、組織風土の概要や組織文化・社風との違い、良い組織風土がもたらす効果について解説いたします。

 

また、組織風土活用の注意点や改革のステップについてもご紹介いたしますので、ぜひご覧ください。

 

組織風土(企業風土)とは?組織文化や社風との違い

組織風土(企業風土)とは、組織内に根づいている独自のルールや価値観のことです。

 

明文化されていないルールも多く含んでおり、従業員の行動や考え方に影響を与えます。

 

例えば、

  1. 新入社員は〇分前に出社して全員の机を掃除しておく
  2. 先輩社員や上司よりも早く帰ってはいけない

など、就業規則には書かれていない“暗黙のルール”も組織風土の一つです。

 

組織運営の中で時間をかけて形成される組織風土は、外部の影響を受けにくいため変革するのは容易ではありません。

 

そのため、組織風土を変えるには、表面的なルールの整備だけでなく継続的な取り組みを行うことが重要です。

 

ちなみに、組織風土は「企業風土」と言われることもあります。

 

どちらも同じ意味ですが、企業風土が「会社全体」を指すのに対し、組織風土は「組織(部署やチーム)」を指す意味でつかわれることもあります。

 

同じ会社の中でも「あの部署はピリピリしているけど、この部署は和気あいあいとしている」など、部署ごとの違いを実感している人も多いのではないでしょうか。

 

このように、部署やチームといった組織によって異なるものを「組織風土」、企業全体に浸透している価値観やルールを「企業風土」と言います。

 

組織文化との違い

組織文化とは、従業員の間で共有化された行動様式やルールのことです。

 

企業のビジョンは、社会やビジネス環境に応じて変化することもあり、従業員の行動もそれに合わせて変化します。

 

具体的には、

  1. 個人主義orチームワーク
  2. トップダウンorボトムアップ
  3. 年功序列or成果主義

といった要素が組織文化に影響を与えます。

 

実際、終身雇用をベースとした年功序列制度から、昨今の社会情勢を踏まえて成果主義に切り替えた企業は多いです。

 

以上のことから両者の違いは、

組織風土…自然に作られ、外部の影響を受けにくい

組織文化…意識的に作られ、外部からの影響を受けて変化する

です。

 

人間で例えるなら、組織風土はこれまで培ってきた「性格」、組織文化は性格や時代の流れを反映した「価値観」と言えるでしょう。

 

社風との違い

社風とは、従業員が感じる職場の雰囲気や特徴のことです。

 

組織風土や組織文化から生み出されるもので、

  1. 体育会系
  2. 風通しが良い
  3. 活発な雰囲気
  4. ピリピリしている

のように、その企業で働く従業員が感じている要素を指します。

 

人間で例えるなら、性格や価値観によって生み出された「人柄」に当たるでしょう。

 

なぜ今「組織風土」改革が求められているのか

なぜ今、組織風土の改革が求められているのでしょうか。

 

ここでは、組織風土改革が必要とされている背景について解説いたします。

 

VUCA時代

VUCAは、

  1. Volatility(変動性)
  2. Uncertainty(不確実性)
  3. Complexity(複雑性)
  4. Ambiguity(曖昧性)

の頭文字を取った言葉です。

 

近年は、「変化が少なく、先を見通しやすい単純明快」な時代から、「変化スピードが速くて先を見通しにくく、複雑で捉えにくい」時代に突入しています。

 

このような時代で組織が生存競争を勝ち抜くには、個々の多様性を活かして変化し続ける必要があります。

 

そのため、従業員の行動や考え方に影響を与える、組織風土改革の必要性が高まったのです。

 

価値観の変化

日本独自の雇用慣行である終身雇用制度の崩壊により、「入社したら定年まで勤め上げる」という価値観は薄れ、人材の流動化が活発化しています。

 

人材の流出を防ぐには、離職防止のための施策を講じ続けなくてはなりません。

 

離職防止策の一つとして、「この会社で働き続けたい」と思ってもらえるような組織風土の醸成が挙げられています。

 

労働環境の変化

ハラスメントやコンプライアンス、テレワークといった、企業に関する社会的な制約が増大・複雑化しています。

 

企業には、現場の理解を得つつ、こうした事態に迅速かつ的確に対応し、なおかつ生産性向上も求められているため、組織風土改革の必要性が高まっています。

 

組織風土を醸成する3つの要素

組織風土は、

  1. ハード要素
  2. ソフト要素
  3. メンタル要素

の3つの要素から醸成されます。

 

それぞれどういった要素なのか、詳細を見ていきましょう。

 

ハード要素

ハード要素とは、明文化されたルールであり、目に見える要素のことです。

 

【ハード要素の例】

  1. 企業理念
  2. ビジョン
  3. 行動指針
  4. 就業規則
  5. コーポレートガバナンス
  6. 就業規則
  7. 人事制度
  8. 評価制度
  9. 組織構造
  10. 組織体制
  11. 業務内容
  12. 業務プロセス など

組織は、ハード要素に則って様々な意思決定を下します。

 

組織の下した意思決定が従業員の考え方や行動に影響を与え、組織風土が作られていきます。

 

ソフト要素

ソフト要素とは、行動や考え方、価値観、人間関係、雰囲気、暗黙のルールといった、目に見えない要素のことです。

 

【ソフト要素の例】

  1. 組織内のローカルルール
  2. チームワーク力
  3. 責任の所在
  4. 信頼関係
  5. 人間関係
  6. コミュニケーション
  7. 従業員エンゲージメント
  8. 個人のモチベーション
  9. 個人の価値観 など

例えば、コミュニケーションには「困ったことを何でも気軽に相談できる」「ギスギスした雰囲気で相談しづらい」などが当てはまります。

 

目に見えない上に多岐に渡ることから、洗い出しが困難な要素です。

 

メンタル要素

メンタル要素は、ソフト要素の中でも特に従業員の精神や心理面に影響を及ぼす要素のことです。

 

従業員のモチベーションが左右される重要な要素ですが、「感情」が関与するため容易にコントロールすることはできません。

 

【メンタル要素を測る指標の例】

  1. 自発的に行動できているか
  2. ボトムアップの姿勢は見られるか
  3. 上司や同僚としっかりコミュニケーションを取れているか
  4. チーム内での意見交換は活発に行えているか
  5. 従業員同士で助け合っているか 
  6. 無言のプレッシャーがないか など

メンタル要素は、部署やチーム間で形成されるため、他部署・チームの人が把握するのは困難です。

 

また、部署・チームごとにメンタル要素が異なるケースも多々あるため、正確に把握するには、従業員一人ひとりにヒアリングすることが重要です。

 

良い組織風土を醸成することで得られる効果

組織風土は、従業員の行動や考えに影響を与えるため、良い組織風土を醸成すると様々なメリットを得られます。

 

では、良い組織風土を醸成すると、どういった効果を得られるのか見ていきましょう。

 

企業の方向性やビジョンを従業員と共有できる

組織風土を構成する企業理念やコンプライアンスといった要素は、企業の方向性やビジョンにもとづいて設定されます。

 

そのため、組織風土を従業員に周知すると、従業員は企業の目指す方向性やビジョンを深く理解し、それに沿った行動を取れるようになります。

 

従業員同士の関係性が良好になる

自然と形作られる組織風土は、良いものばかりとは限りません。

 

例えば、失敗を責め立てるような風土が根づいている企業では、従業員同士の信頼関係を築くことは困難ですし、隠蔽も起こりやすくなります。

 

一方で「困ったとき、すぐに相談できる」「お互いにフォローし合える」など、良い組織風土が醸成されていれば、必然的に従業員同士の関係性も良好になるでしょう。

 

働きやすい環境になる

組織風土は、働きやすさにも影響します。

 

例えば、「新入社員は早く出社して、遅く退社する」といった組織風土が根づいている職場は、働きやすいとは言えないでしょう。

 

経営理念にワークライフバランス掲げ、それを実現できる就業規則にすれば、従業員は仕事とプライベートの両立を図れます。

 

また、定時退社の推奨や上司が率先して早く帰宅することで、ワークライフバランス重視型の組織風土が浸透しやすくなります。

 

従業員エンゲージメントが向上する

良い組織風土が醸成されると、従業員同士の関係性が良好になり働きやすい環境が整うため、従業員エンゲージメント(愛着・愛社精神)が向上します。

 

また、企業の方向性やビジョンへの理解が深まることから、理解不足によるストレスも低減されるでしょう。

 

従業員エンゲージメントの向上や企業への理解度が深まれば、定着率向上にも役立ちます。

 

生産性の向上

良い組織風土が醸成されると、従業員エンゲージメントが向上するため「会社のために貢献したい」といった思いから、高いモチベーションで働いてくれます。

 

企業の方向性やビジョンを理解し、モチベーションの高い従業員が多くなれば、必然的に生産性は高まります。

 

組織風土活用の注意点

良い組織風土は企業に大きなメリットをもたらしますが、注意点もあります。

 

組織風土の改革に着手する前に、どういったポイントに注意する必要があるのかを把握しておきましょう。

 

要素の洗い出しには時間がかかる

組織風土は、「ハード」「ソフト」「メンタル」の3つの要素から構成されています。

 

目に見えるハード要素の洗い出しは容易に行えますが、組織風土の大半を占めるソフト要素やメンタル要素は目に見えません。

 

そのため、洗い出しには時間と労力がかかります。

 

組織風土は各要素の関係によって成り立っているため、洗い出しが不十分な状態で進めても、改革や浸透は困難です。

 

従業員一人ひとりの声に耳を傾けて、できる限り多くの組織風土を抽出しましょう。

 

改革には時間がかかる

組織風土は、長い時間をかけて少しずつ形成され、その組織に根づいたものだけに、すぐに変えられるものではありません。

 

改革に着手しても、完了までに膨大な時間を要することは理解しておきましょう。

 

効果が見られないからといって諦めるのではなく、長期的な視点で取り組むことが重要です。

 

改革に失敗すると経営に悪影響を及ぼす

良い組織風土は企業に様々な恩恵をもたらしますが、悪い組織風土や表面的な改革は、経営に悪影響を及ぼします。

 

例えば、極端な成果主義は、従業員同士の関係性や職場の雰囲気の悪化を招きますし、何の策も講じないまま定時退社を促されても、業務があれば残業せざるを得ません。

 

このような改革は、従業員に大きな負荷をかけるだけなので、企業への不満や不信感を高めやすく、離職者の増大につながります。

 

ビジョンや組織構造、システム構築といったハード面からのアプローチだけでなく、マネジメント方法や業務の進め方など、ソフト面からのアプローチも行いましょう。

 

組織風土改革のステップ

ここでは、組織風土改革のステップについてご紹介いたします。

 

目的や目標の明確化

組織風土改革に着手する際は「何のために組織風土改革を行うのか」「どういう姿になりたいのか」目的や目標を明確にすることが重要です。

 

何の目的で行うのか分からないまま改革に着手しても、従業員から十分な協力を得ることはできません。

 

また、組織風土改革の目標が分からなければ、ゴールには辿り着けないでしょう。

 

組織風土改革を行う理由づけを行った上で、目標を明確にすると方向性が示されるため、全員が共通認識を持って取り組むことができます。

 

課題や強みの抽出

目的や目標が明確になったら、自社が抱えている課題や強みを把握し、「どこを伸ばしてどこを強化するか」を検討しましょう。

 

組織風土は、現場で働いている人でないと分からないことが多いため、従業員一人ひとりの声を拾い上げる必要があります。

 

ただし、組織内の人に面と向かって本音を話すのは非常に勇気のいることなので、全員が正直に話してくれるとは限りません。

 

そのため、部署やチーム名だけを記載した匿名のアンケート調査や、組織診断ツールを使って、従業員の生の声を吸い上げるのが適切でしょう。

 

施策の考案

組織風土改革のための施策は、目的・課題によって様々です。ハード要素とソフト要素の両面からバランスよくアプローチを行いましょう。

 

課題解決のための活動をテーマに落とし込むと、「どんな施策が必要で、どういった手順で進めていくべきか」具体的な施策を検討しやすいです。

 

テーマの例としては、

  1. 経営理念やビジョン構築・浸透・共有
  2. 新しい行動基準の構築・共有
  3. 顧客志向の組織体制構築
  4. 人事制度・マネジメント体制の再構築
  5. 部門間・社員間の関係性強化

などが挙げられます。

 

小規模な範囲で実施

施策を考案できたら、モデルとなる事業所や部署で施策を実行します。

 

モデルとなる事業所や部署で実施する際は、事業所長や部長の協力を仰いだ上で、所属メンバーに全社が注目していることを伝えましょう。

 

施策を実行に移したら、些細なことでも早期のうちに成功体験を積ませてください。成功体験をさせることで、モチベーションがアップして効果が表れやすくなります。

 

モデルとなる事業所や部署は、多少貢献度の高いところを選びましょう。

 

貢献度の低いところを選ぶと、所属メンバーが被害者意識に陥って、改革が難航する可能性があります。

 

仮説の検証・実施範囲の拡大

実行した結果をもとに、「上手くいったこと」と「上手くいかなかったこと」を洗い出しましょう。

 

このとき、「何が良くて、何が悪かったのか」についても整理しておくと、次回実施の際に役立ちます。

 

また、「あるべき姿に向けて重要な成功要因は何か」を明確にしておきましょう。注力すべきポイントが分かるため、改革がスムーズに進みます。

 

仮説の検証を行ったら、次に展開する事業所や部署向けに施策を考案し、実施する範囲を拡大させていきましょう。

 

なお、事業所や部署によって置かれている環境や前提は異なります。

 

モデルとなる事業所や部署での実施状況を踏まえて「どういった施策をどんな風に実行するのか」しっかりと仮説を立てることが重要です。

 

定着のための仕組みづくり

組織風土が定着するにはそれなりの時間がかかるため、定着のための仕組みづくりを行いましょう。

 

例えば、人事制度やマネジメントシステムの再構築、次世代リーダーの育成計画といった施策は、組織風土定着の仕組みづくりに有効です。

 

ただし、いくら新しい制度やシステムを作って成果が出ても、改革の実施当初から時間が経過すれば、目的は忘れられてしまいます。

 

そのため、経営者は元の組織風土に逆戻りしないよう、継続的に啓発活動を行いましょう。定期的に組織風土のアンケートや組織診断を行うのもおすすめです。

 

組織風土の改革で組織力を強化

組織風土は、長い時間をかけて形成されるため、改革するには膨大な時間と労力がかかります。

 

しかし、良い組織風土が醸成されると、従業員エンゲージメントや生産性向上など様々なメリットを得られるため、組織力強化につながります。

 

先を見通すことが難しいVUCA時代において、組織風土改革の重要性はますます高まっていくでしょう。

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