近年、ビジネスシーンで「VUCA」という言葉を耳にする機会が増えています。
VUCAとは、ビジネスを取り巻く環境が激しく変化し、予測困難になっている状況のことです。
例えば、私たちの生活やビジネスモデルに大きな影響を及ぼした、新型コロナウイルス感染症は、VUCAの代表例と言えるでしょう。
この記事では、VUCAの概要やVUCA時代の象徴的な事例、組織づくりのポイントについてご紹介いたします。
また、VUCA時代に必要なリーダーシップや求められる要素、フレームワークについてもまとめていますので、ぜひご覧ください。
VUCAとは
VUCA(ブーカ)とは、
- Volatility(変動性)
- Uncertainty(不確実性)
- Complexity(複雑性)
- Ambiguity(曖昧性)
の単語の頭文字から成る造語です。
政治・経済やビジネス環境、組織、個人などを取り巻く環境が激しく変化し、あらゆるものが予測困難な状況になっていることを意味します。
元来VUCAは、冷戦終結後の複雑化した国際情勢を表す軍事用語です。
1990年代ごろから米軍で使われていましたが、2010年代には世界のビジネスシーンで「予測不能なこれからの時代」を表す言葉として用いられるようになりました。
では、それぞれの単語について詳しく見ていきましょう。
Volatility(変動性)
「Volatility(変動性)」は、社会やマーケットがどう変化するのか、予測困難な変動が激しい状態のことです。
テクノロジーが急速に進展したことで、革新的な商品やサービスが次々と生まれています。SNSやスマートフォンなどがその代表です。
こうした商品・サービスの登場によって、人々のライフスタイルは大きく変わり、それに伴い営業・マーケティングの手法も変化しました。
近年では、新聞・雑誌・テレビ・ラジオといったマス広告よりも、リスティングやバナーをはじめとしたインターネット広告が主流になっています。
変動性が高い状態だと、商品・サービスのライフサイクルが短期化します。
Uncertainty(不確実性)
「Uncertainty(不確実性)」は、不確実な事柄・事象が多く、予測を立てられない状態のことです。
例えば、地球温暖化に伴う気候変動や未知のウイルス、自然災害、テロ、EU離脱といったものから、終身雇用制度の終焉や複業解禁など個人レベルのものまで様々な事象が挙げられます。
現代では、こういった不確実性の高い事象が増えてきているため、従来よりもビジネスの見通しを立てる難易度が高まっています。
Complexity(複雑性)
様々な要素や要因が複雑に絡み合うことで、理解や解決策を導き出すのが難しい状態のことです。
グローバル化やボーダレス化によって、ビジネスが拡大すると同時に複雑化しています。
例えば、キャッシュレス化や一般による空き家の貸し出し、配車サービスなど、既存の枠組みを超えた画期的な事業が世界中で増えてきています。
しかし、画期的なサービスに法整備が追いついておらず、様々な課題や問題が発生しているのも事実です。
文化や習慣の違いといった要素も、ビジネスを複雑化させている要因として挙げられます。
Ambiguity(曖昧性)
Ambiguity(曖昧性)は、一つの事象に対して複数の解釈があり、明確な答えがない状態のことです。
「Volatility(変動性)」「Uncertainty(不確実性)」「Complexity(複雑性)」が組み合わさることで、曖昧性が高くなります。
インターネットの普及で情報が溢れる社会になったことで、消費者のニーズや価値観が多様化しました。
過去の実績や成功例にもとづいた既存の手法が通用しなくなっているため、手探りの状態で進めていかなくてはならない状態です。
曖昧性をビジネスにした例としては、「ベンチャーキャピタル」が挙げられます。
ベンチャーキャピタルは、成長の見込めるベンチャー企業などに投資を行い、株価が上がった後に、株価や事業を売却することでキャピタルゲイン(売買差益)を得る事業です。
投資先企業が成長して上場すれば利益が出ますが、失敗する可能性もあります。
VUCA時代とは
VUCA時代とは、「VUCA」の状態が続いており、これまでの常識が通用しない予測不能な時代のことです。
2016年開催の「世界経済フォーラム(ダボス会議)」で「VUCAワールド」という用語が頻繁に用いられたため、VUCA時代に突入したことが世界的に認識されるようになりました。
2000年代以降、IT技術の急激な進化によって産業構造が大きく変化し、ビジネスモデルのライフサイクルは短期化しています。
加えて、昨今は新型コロナウイルスの世界的流行により、これまでの常識は通用しなくなりました。
また、終身雇用制度の崩壊や、安泰と言われていた大企業の倒産など、その影響は個人にまで広まりを見せています。
VUCA時代は、こうした変化の激しい、先を予測できない状況を的確に言い表しています。
VUCA時代において企業が求められていること
経済や企業経営だけでなく、個人のキャリアに至るまで、あらゆるものが予測不能な時代に突入しました。
VUCA時代では、ビジネスモデルのライフサイクルが短期化しており、過去の成功体験をもとにした手法も通用しなくなっています。
では、こうした時代を生き抜く、柔軟性の高い組織をつくるにはどうしたら良いのでしょうか。
人材マネジメントの見直し
従来の日本では、終身雇用や年功序列をベースとした長期的かつ安定的な雇用システムのもとで、時間をかけて自社に最適な人材の育成を行ってきました。
しかし、変化の激しいVUCA時代においては、自社に最適化した人材を育成したところで国際競争力を高めることはできません。
安定的雇用で人材の強化を目指すよりも、多様な考えや価値観、バックグラウンドを持つ人材を適材適所で活用する「ダイバーシティ」の推進が重要となります。
多様な価値観・意見を認め合うことで、これまで思いつかなかった新たな課題の発見やイノベーションが生まれやすくなります。
そのため、多様性を認め合える柔軟な思考の持ち主やグローバル人材、自主的に考え行動できる人材の採用・育成が欠かせません。
これらの人材を確保・育成するには、
- 採用基準の見直し
- 従業員のキャリア構築支援
- 職務やスキルに応じた柔軟な人事制度の構築
などが挙げられます。
ステークホルダーへの積極的な発信と対話
企業の競争力を高めVUCA時代を生き抜くには、ダイバーシティを推進し、多様な考えや価値観を持つ人材を集めることが重要です。
経営陣が「人事戦略は今後の経営戦略の中心となる」ことを理解するのはもちろん、ステークホルダーへのアプローチも欠かせません。
社員や株主、労働市場といったステークホルダーに対して、人材戦略を積極的に分かりやすく発信し、人材の獲得・育成に向けた建設的な対話を重ねることが重要です。
人材への投資は企業価値を高めるものと位置づけ、具体的にどういった取り組みをしているのかを社内外に発信できているか確認しましょう。
コーポレートサイトで情報発信している企業も多いです。
VUCA時代の象徴的な事例
ここでは、VUCA時代におきた象徴的な事例や、VUCA時代ならではの革新的なビジネスモデルを展開した事例をご紹介します。
シャープ
日本を代表する大手家電メーカーであるシャープは、ブラウン管から液晶テレビへの置き換えを目標に掲げて戦略を展開しました。
2000年代には、過去最高売上となる3兆4,177億円の計上に成功したものの、2011年頃になると状況は一転し、巨額赤字を計上しています。
経営不振により、2016年には台湾企業の「鴻海精密工業」に買収されました。
シャープの経営不振は、
- 注力していた液晶テレビ用パネル価格の大幅下落
- 太陽電池工場への過剰な設備投資
- 円高による為替価格の変動
などが原因として挙げられます。
VUCAの代表とも言える、市場価格や為替価格の変動といった煽りを受けた企業事例と言えるでしょう。
マクドナルド
新型コロナウイルス感染拡大の影響で外食産業が深刻なダメージを受ける中、日本マクドナルドでは、全店で過去最高の売上を更新しました。
日本マクドナルドでは、
- 迅速なマーケティング戦略
- 宅配サービスの対応店舗拡充
といった、施策を迅速に実行しています。
新型コロナ感染拡大当初は、衛生管理の取り組みや非接触での商品購入が可能なことをいち早くアピールしており、安心・安全をキーワードとした取り組みを行っています。
また、自社や他社の宅配サービス強化によるデリバリー対応店舗の拡充など、ニーズに応じた迅速な展開がVUCAに対応した好事例と言えるでしょう。
Uber Technologies
アメリカのIT企業であるUberでは、一般的なタクシー配車サービスに加え、一般人がドライバーとして自家用車と空き時間を使って乗客を運ぶサービスを構築しています。
アメリカではUberの配車サービスが普及していますが、日本では「第二種免許」が必要なため、一般人による配車サービスは認められていません。
すべての国で通用するサービスではありませんが、シェアリングサービスの安さとドライバーの利益を両立させる革新的なビジネスモデルです。
また、ビジネス展開を複雑化させているVUCAならではの事例と言えるでしょう。
VUCA時代における組織づくりのポイント
VUCA時代に負けない組織づくりを行うには、どうしたら良いのでしょうか。ここでは、押さえておきたいポイントをご紹介します。
情報収集と分析
まずは、「自社にとってVUCAの要素になるものは何か」を把握し、不安定要素の情報を収集しましょう。
Volatility(変動性)
インターネットやスマートフォンなどの普及により、市場の変動性は高くなっています。
マーケティングやアプローチ手法の変化は、経営やビジネスモデルに大きな影響を及ぼすため、これらの情報を収集しておきましょう。
技術やサービスに関する情報収集も欠かせません。
Uncertainty(不確実性)
自然災害やテロ、未知のウイルスといった突発的な事態を予測するのは困難です。
特に日本は災害多発国のため、災害リスクの評価や分析、災害発生時の体制、ガイドラインの整備などは欠かせません。
Complexity(複雑性)
グローバル化が進む昨今では、様々な要素・要因が複雑に絡み合っているため、国内の情報だけチェックしていてもビジネスを拡大できません。
海外の企業と取引をしている企業や海外マーケットへの進出を目指す企業は、その国の政治や文化、商習慣、インフラに至るまで多様な情報を収集し、理解する必要があります。
海外の商品やサービスが日本で展開されるケースも多いですが、すべてがそのまま展開できるとは限りません。
Uberの配車サービスのように法律に阻まれることもありますし、日本と海外ではニーズも違います。そのため、こうした情報を収集しておくことも重要です。
Ambiguity(曖昧性)
インターネットやスマートフォンが普及したことで、膨大かつ多様な情報が溢れるようになり、消費者のニーズや価値観は多様化しました。
市場のセグメントが細分化し、消費者の購買行動も変化しているため、従来のマーケティングの手法は通用しなくなっています。
多様化した消費者のニーズや価値観を把握するために、アンケートや苦情、SNSなど、あらゆる方法で声を集めましょう。
VUCAの施策を立案
自社に影響を与えるVUCAの情報を収集・分析すると、どういった対策を行う必要があるのかが見えてきます。
例えば、コロナ禍における飲食業なら、宅配サービス・テイクアウトの開始・拡充や非接触型決済の導入、それを周知させるSNSやインターネットを活用した広告などが挙げられるでしょう。
収集した情報や分析結果は社内全体で共有しましょう。現場の従業員だからこそ思いつくアイデアもあるため、施策の幅が広がります。
日常的な施策の実行
いざ問題が生じたときに施策を実行しても、立案した施策が役に立たなければ意味がありません。
立案した施策がVUCA対策になるのかを見定める必要があるため、日ごろから施策を実行することが重要です。
日常的に施策を実行していれば、「ここはこうした方が良い」「この部分は省いても問題ない」など、実態に沿った運用が実現します。
日常的または定期的に実行していれば、非常事態発生時にも落ち着いて対応できるでしょう。
VUCAに対する意識を根づかせる
変化の激しいVUCA時代の中で競争力を高めるには、刻々と変わる状況に柔軟に対応できる人材を増やすことが重要です。
そのためには、VUCAに対する意識を根づかせ、自主的に行動できる人材を増やさなければなりません。定期的にVUCAに関する会議や勉強会を開いて、意識を根づかせましょう。
VUCA時代に必要なリーダーシップ
ここでは、VUCA時代に求められるリーダーシップやマネジメントについてご紹介いたします。
ビジョンの設定
従来から企業理念やミッション・ビジョン・バリューは重視されてきましたが、不確定要素が多いVUCAの時代では、これまで以上にビジョンの設定が重要となります。
「組織が何を目指し、どこに向かおうとしているのか」道を示すことで、従業員一人ひとりが自分の役割を再認識して自発的に行動できるようになります。
全員が共通認識を持って行動できれば、イノベーションの創出にもつながるでしょう。
常に学ぶ姿勢
これまでの常識が通用しないVUCA時代では、成功事例や既存のやり方に頼るのではなく、常にアンテナを張って新たな情報を積極的に学ぶことが重要です。
自社や商品・サービスの周辺情報はもちろん、新しいテクノロジーや経営手法、国外の政治情勢など、あらゆる情報をインプットしましょう。
メンバーの動機づけ
従来行われていた上司から部下への一方的な教育・指導は、VUCA時代にマッチしません。
多様性が求められるVUCA時代では、従業員一人ひとりの価値観や能力を活かす必要があるため、メンバーの意見に耳を傾けて対等に話すことが重要です。
ビジョンを実現する仲間として相手の意見を認めつつ、話し合うことができれば、メンバーのモチベーションを高められるでしょう。
メンバーの本音を引き出すには、1対1で対話する「1on1」の実施が有効です。
決断力と行動力を意識
VUCA時代は、未知の課題に対峙した際にも冷静に状況を分析・理解し、迅速に対応する必要があるため、決断力や行動力が欠かせません。
難しい判断や的確な行動を求められるため、「リーダーだから」とすべてを自分一人で解決しようとせず、周囲のメンバーに力を借りることも必要です。
場合によっては、課題に適した人材に権限を委譲することも必要でしょう。
VUCA時代で従業員に求められる要素
VUCA時代を生き抜くには、企業やリーダーだけでなく、従業員一人ひとりの能力も重要です。ここでは、従業員に求められる要素をご紹介いたします。
意思決定や迅速な対応
変化の激しいVUCA時代において、意思決定や対応の遅れはビジネスチャンスの損失につながります。
そのため、良いアイデアがあれば失敗を恐れずに行動することが重要です。
状況に合わせて修正することはいくらでもできるため、従業員にこうした意識を浸透させましょう。
従業員一人ひとりに意識が根づけば、スピード経営が実現します。
柔軟に変化に対応する臨機応変さ
不確定要素の多いVUCA時代では、当初の計画から変更せざるを得ない事態になることも多々あるため、状況に応じて柔軟に対応できる臨機応変さが必要不可欠です。
常に社会の動向にアンテナを張り、積極的に情報収集しましょう。
引き出しが増えれば分析の精度も向上し、行動の選択肢も増えるため、不測の出来事や急な変化にも柔軟に対応できます。
日ごろから、どういったリスクがあるのかを踏まえた「リスクマネジメント」の視点を意識した行動も有効です。
多様性を容認するコミュニケーション力
ダイバーシティの推進はVUCA時代に欠かせません。
とはいえ、多様な考えや価値観、バックグラウンドを持つ人材が集まれば、従業員間で摩擦が生じることもあるでしょう。
しかし、自分や発言権の強いメンバーなど特定の意見に偏ってしまうと、ダイバーシティの推進を阻害しますし、イノベーションも生まれません。
従業員一人ひとりが力を発揮できるよう、コミュニケーション研修などを通して、相手の考えや意見を容認する重要さを伝えましょう。
問題解決力
優秀な上司であっても、VUCA時代では明確な答えをすぐに提示できるケースは稀です。
誰も明確な答えを知らない状態の中、次々に現れる課題や問題の本質を見極めて解決していかなければならなりません。
取得した情報をもとに「どういう問題があって、どんな風にアプローチしたら良いのか」を自主的に考えて提案できる人材が増えれば、迅速に課題を解決できるでしょう。
VUCA時代に欠かせないフレームワーク「OODAループ」
OODA(ウーダ)ループとは、
- 観察(Observe)
- 状況判断(Orient)
- 意思決定(Decide)
- 実行(Act)
の4つのステップから成る意思決定プロセスです。
【観察(Observe)】
市場や顧客など、対象となる事象を観察して情報を収集し、自社の状況や競合の戦略を把握します。
【状況判断(Orient)】
収集した情報をもとに状況を分析し、どうするべきか方針を立てます。
【意思決定(Decide)】
方針にもとづいた施策や手段を具体的に決めます。
【実行(Act)】
決定したことを迅速に実行します。
PDCAは計画を立ててから実行するのに対し、OODAループはリアルタイムな情報収集にもとづいた意思決定を行います。
簡単に言うと、「走りながら考える」フレームワークなので、不確定要素の多い状況でも、柔軟かつ迅速に対応できるのです。
OODAループはVUCA時代に欠かせないフレームワークですが、方向性が定まっていないと混乱を招くため、目標や目的を明確にした上で取り組みましょう。
VUCA時代は迅速かつ柔軟な対応が重要
変化が激しく早紀代予測できないVUCA時代は、経営層のリーダーシップだけで対応するのは困難です。
管理職はもちろん現場社員も含めた従業員全員が、VUCA時代にあることを理解し、主体性や柔軟性を身につける必要があります。
ご紹介した内容を参考に、組織づくりや従業員の育成に取り組んでみてはいかがでしょうか。