スピード経営が求められる近年、経営幹部として戦略人事を実行する「CHRO(最高人事責任者)」の重要性が高まっています。
とはいえ、日本企業でCHROを導入している企業はまだ少ないため、これまでの人事部長とは何が違うのか、どういった役割を担っているのか分からない方も多いでしょう。
この記事では、CHROの定義や人事部長との違い、役割、CHROが求められるようになった背景について解説いたします。
CHROに必要なスキルや導入企業事例についてもご紹介しますので、ぜひご覧ください。
CHROとは
CHRO(Chief Human Resource Officer)とは、最高人事責任者のことです。
CEO(最高経営責任者)やCFO(最高財務責任者)といった「C(Chief)×O(Officer)」の一つで、人事に関する全責任を負う存在を指します。
つまり、経営幹部として戦略人事を実行するとともに、人事関連の業務を統括する責任者のことです。
CHROは、「CHO(Chief Human Officer)」や「取締役人事部長」「執行役員人事部長」と呼ばれることもあります。
ただし、CHOを「健康管理最高責任者(Chief Health Officer)」や「幸福最高責任者(Chief Happiness Officer)」と定義している企業もあるので、注意が必要です。
「C×O」の種類
「Chief(最高)×Officer(責任者)」には様々な役職があります。
CHROと混同されやすいため、それぞれの違いを把握しておきましょう。
CEO(最高経営責任者)
Chief Executive Officerの略称で、経営に関する最高責任者です。
企業全体の経営方針を決定します。
COO(最高執行責任者)
Chief Operations Officerの略で、組織運営にあたって実務的な業務を担う最高責任者です。
経営判断を行うCEOとともに、経営の中核を担っています。
CFO(最高財務責任者)
Chief Financial Officerの略で、財務部門の最高責任者です。
資金調達の戦略立案や交渉・管理などを行っています。
CIO(最高情報責任者)
Chief Information Officerの略で、情報管理の責任者です。
ITシステムや情報管理だけでなく、情報を経営に活かす戦略なども行います。
CTO(最高技術責任者)
Chief Technical Officerの略で、技術開発部門の責任者です。
ITや製造業など、技術力がビジネスに大きく影響する企業で設けられることが多く、技術戦略の立案・実行などを行います。
CMO(最高マーケティング責任者)
Chief Marketing Officerの略で、マーケティングの最高責任者です。
マーケティングの戦略立案や実行だけでなく、費用対効果を最適化する役割も担っています。
人事部長との違い
人事部長もCHROも人事労務のプロですが、両者の大きな違いは「経営幹部の一員として経営に関与しているかどうか」です。
一般的な人事部では、採用や育成、人材管理に関する業務を行っています。
人事部長は、あくまでこうした業務を行う部の責任者として存在しているため、基本的に経営への直接的な関与はしません。
一方CHROは、経営陣の一人として経営戦略の策定に参画し、経営戦略にもとづいた人事施策を戦略的に実行します。
よって、CHROは人事部門の最高責任者としての役割だけでなく、経営幹部としての役割も担っているのです。
CHROが求められる背景
なぜ、近年CHROの必要性が高まっているのでしょうか。
ここでは、CHROが求められるようになった背景についてご紹介いたします。
人材確保の難易度が高まっている
参考:内閣府「平成30年版高齢社会白書(全体版)」
少子高齢化の進む日本では、働き手が減少し続けています。
実際、2000年には8,622人だった生産年齢人口(15~64歳)は減少し続け、2030年で6,875人、2055年には5,028人にまで落ち込むと予測されています。
働き手の総数が減少すれば必然的に人材獲得競争は激化するため、年々人材確保の難易度が高まっているのです。
限られた労働資源の中で自社にマッチした人材を確保し続けていくには、戦略的な取り組みが欠かせません。
そのため、経営視点と人事視点を併せ持ち、人事戦略を策定・実行するCHROの必要性が高まりました。
変化に柔軟に対応する組織が求められている
現代は変化が大きく先を予測できないVUCAの時代です。
そのため、企業には変化に合わせた柔軟かつ迅速な対応が求められています。
例えば、新型コロナウイルス感染拡大の影響により、時差出勤やリモートワークの導入などを行う企業が増えました。
また、感染対策としてオンライン面接も活発化しています。
予測不能な事態が起きても迅速な対応を取るには、経営層の決断力や実務に落とし込む能力が必要です。
人事労務のプロでありながら経営にも関わるCHROは、現場と経営層のパイプ役となるため、スムーズな組織運営には欠かせません。
つまり、変化の多い時代の中でも企業が持続的に成長していくために、CHROの必要性が高まっているのです。
CHROの役割
ここでは、CHROの役割について具体的にご紹介いたします。
人事視点での経営サポート
人事部門の最高責任者であるCHROには、人事の観点から経営をサポートすることが求められています。
例えば、
- 誰をどこに配置するべきか
- 人的リソースは足りるか
- 足りなければ、どういった人材をいつまでに何名確保する必要があるのか
など、経営戦略を実現させるための具体的な進言・提案を行います。
経営戦略と人事評価の連携
経営戦略にもとづいた人事評価制度の構築と運用もCHROの重要な役割です。
現場とのギャップは起きていないか、正しく実行されているかを確認し、必要に応じて内容を修正する必要があります。
特に、契約件数や顧客獲得数のような定量評価が困難な部署については、従業員のモチベーションを維持・向上させる評価制度を検討するのも役目です。
従業員の育成
CHROには、経営戦略やビジョンといった、会社の方針にもとづいた育成方法の構築も求められています。
企業の三大資源の一つである“ヒト”の育成は、今後の企業の成長に大きな影響を与えるため、各部署と連携して組織力を高める育成方法を確立する必要があります。
そのため、経営戦略や現場の課題を把握した上で育成計画を立案し、現場やマネジメント層のキャリアアップをサポートする仕組みづくりが欠かせません。
現場と経営層の橋渡し
CHROには、現場と経営層を橋渡しする役割もあります。
組織の運営や改革をスムーズに進めるには、従業員全員が一致団結して取り組む必要があります。
経営層の考えが伝わらず経営戦略が現場に浸透しなければ、目標達成の道のりは険しくなりますし、現場からの反発が大きければ協力を得られないでしょう。
CHROは人事面から現場に経営戦略を浸透させるだけでなく、現場の意見を積極的に吸い上げた上で経営層に改善策などを提示します。
企業文化の浸透
企業理念や企業文化の浸透もCHROの重要な役割です。
職場環境にも目を向けて、「悪い慣習が生まれていないか」「風通しは悪くないか」「ハラスメントは起きていないか」などを確認し、必要に応じて施策を講じます。
CHROに必要なスキル・能力
CHROには、人事面から経営戦略を実現することが求められます。
では、具体的にどういったスキルが必要になるのか、見ていきましょう。
経営に関する知識
CHROは人事のプロであると同時に、経営陣の一員でもあります。
自分の意見を述べる必要があるため、経営者としての視点や知識が欠かせません。
そのため、業界や市場の動向だけでなく、国内外の社会情勢に至るまで幅広い情報を収集しておく必要があります。
その上で、「今後自社にどのような影響があるのか」「どうするべきか」自分の考えを明確にしておくことが重要です。
人事労務に関する知識
CHROは人事のプロとして経営に参画するため、人事労務に関する専門的な知識も求められます。
労働基準法などの労働関連の法律は頻繁に改正されるため、常に最新の情報にアップデートし、戦略に組み込めるようにしておきましょう。
組織をまたいだ人事マネジメント
CHROは組織における人事を統括するポジションであるため、社内すべての部署に精通している必要があります。
「どの部署がどういった業務をしているのか」「どんな課題を抱えているのか」「どういう人材を求めているのか」を理解していないと、有効な施策が練れません。
そのため、組織をまたいだ人事マネジメントのスキルや経験が求められます。
実際、CHROの登用では人事部門だけでなく、幅広い経験を持っていることを重視される傾向にあります。
戦略を立案する力
経営陣の一員であるCHROは、経営戦略にもとづいた人事戦略の立案だけでなく、経営戦略にも参画します。
そのため、社会情勢や業界、市場の動向、競合他社といった、自社を取り巻く環境を総合的に踏まえて戦略を立案するスキルが必要不可欠です。
課題解決力
CHROには人事の観点から見て、企業や各部署が抱えている課題や目標達成を実現するための意見の提言が求められるため、課題解決力は欠かせません。
また、施策の実行によって生まれた課題の迅速な分析や改善策の検討に加え、経営層や現場従業員への説明も行う必要があります。
コミュニケーションスキル
CHROは、現場と経営層との橋渡し役でもあります。
経営層の意図を伝え、経営戦略を現場レベルで浸透させるのはもちろん、現場従業員の意見を経営層に届ける役割も担っています。
しかし、一般の従業員は、経営層に対して自分の意見を伝えづらいものなので、CHROが現場の従業員から率直な意見を引き出さなくてなりません。
また、現場と経営層との間にギャップがある際は、双方の意向を把握した上で調整役を務めることになるため、高度なコミュニケーションスキルが求められます。
経営層の一員としてだけでなく、従業員の意見を代弁する役割も担っていることを日頃から意識することが大切です。
CHRO導入事例
企業が予測不能な時代を生き抜いていくには、経営視点を有するCHROの存在が重要となります。
ここでは、日本国内でCHROを導入している企業の事例についてご紹介いたします。
カゴメ株式会社
トマトケチャップや野菜果実ミックスジュースなどで国内シェアNo.1を誇るカゴメ株式会社は、2019年に創業120年を迎えました。
カゴメでは、戦略人事の一環としていち早くCHRO(カゴメではCHO)を導入しています。
経営戦略と人事戦略を連動させた評価制度・報酬制度の見直しで企業全体の風土改革を進めています。
また、カゴメでは理想的な働き方を推進するため、
- フレックスタイム制の導入
- 地域カード(一定期間勤務地を固定できる)の導入
- テレワークの推進
- 副業解禁
などにも取り組んでいます。
株式会社メルカリ
フリマアプリのメルカリを運営する株式会社メルカリでは、2018年からCHROを導入しています。
メルカリでは、従業員数が大幅に増加して多様化が進んだため、「グレードに応じた基本給+個人業績に応じた金額」で報酬が変わるシンプルな制度に変更しました。
また、育成型の組織にシフトするため、HRBP制度を導入して現場密着画の成長支援を行っているのが特徴です。
株式会社サイバーエージェント
メディアやゲーム、インターネット事業を展開する株式会社サイバーエージェントでは、2016年からCHROを導入しています。
従業員が月次ベースで自分のパフォーマンスを回答する「GEPPO」や、下位5%の人材にマイナス査定を行う「ミスマッチ制度」など、新しい社内制度を構築しました。
これらの制度により、企業理念の浸透度が浅い社員の早期発見や、人事に関する問題の早期発見ができるようになったそうです。
CHROは現場と経営層の橋渡し役
CHROは人事の最高責任者です。
変動性の高い時代の中で企業が生き残っていくには、柔軟かつ迅速な対応が欠かせません。
そのため、人事のプロでありながら経営者の一員としての役割を担うCHROの存在が重要となります。
現場の声を経営層に届け、それを経営に活かすことができれば、企業の推進力はさらに増していくでしょう。