やる気アップには報酬よりも自己決定感! アンダーマイニング効果の概要と事例、原因、対策について解説

「報酬UP=やる気アップ」と考えている方も多いですが、実際の企業と従業員との関係においては、逆効果に働く場合があります。

 

アンダーマイニング効果と呼ばれる、この心理現象について理解を深めておけば、効率的に従業員のやる気を引き出すことができるかもしれません。

 

この記事では、アンダーマイニング効果の概要や実験例、原因について詳しく解説いたします。

 

アンダーマイニング効果が及ぼす影響や対策方法についてもまとめていますので、ぜひご覧ください。

 

アンダーマイニング効果とは

アンダーマイニング効果とは、金銭などの報酬によって、モチベーションが低下してしまう心理現象です。

 

最初は満足感や達成感を得るために自発的に行っていたことが、何らかの報酬を得ることをきっかけに「報酬をもらうこと」が目的になり、報酬なしではやる気が出なくなる現象を指します。

 

例えば、喜んでもらえるのが嬉しくてお手伝いをしていた子どもに、お礼として毎回お小遣いを渡していたら、お金をもらうのが当たり前になります。

 

そのため、いつしか「お小遣いなしではお手伝いをしたくない」「タダでお手伝いをするのは意味がないことだ」と考えるようになるでしょう。

 

これがアンダーマイニング効果です。

 

心理学では、人が行動を起こすには「外発的動機づけ」「内発的動機づけ」の2つが存在すると考えられています。

 

では、この2つの違いを見ていきましょう。

 

外発的動機づけ

外発的動機づけとは、外部から与えられる動機づけです。

 

報酬や利益、評価といった、外部から与えられる目的を達成するための意欲を指します。

 

例えば、

  1. 第三者から褒められる
  2. 報酬を与えられる
  3. 罰則を設ける

など、“アメとムチ”による動機づけです。

 

内発的動機づけ

内発的動機づけとは、興味や関心、向上心、満足感など、本人の内面的な動機づけです。

 

具体的には「絵が好きだからもっと上手くなりたい」のように、それそのものに興味を持ち、自発的に頑張ろうとする意欲を指します。

 

意欲や集中力が持続し、自発的な行動を促せることから、内発的動機づけの方がより良い結果を生み出すと考えられています。

 

教育の現場では、子どもたちの自主性を促すために、内発的動機づけを取り入れているケースが多いです。

 

アンダーマイニング効果を実証した事例

アンダーマイニング効果は、心理学者のエドワード・L・デシ氏と、マーク・R・レッパー氏が1971年に行った実験で明らかになった心理現象です。

 

ソマパズルの実験

1970年代ごろに流行っていたソマパズルという立体パズルを用いた実験です。

 

大学生を2つのグループに分け、

 

第1セッション…両グループにパズルを解いてもらう

第2セッション…一方のグループにはパズルが解ける度に報酬を与え、もう一方には報酬を与えない

第3セッション…両グループにパズルを解いてもらい、どちらにも報酬は与えない

 

という実験を行いました。

 

最初から報酬のなかったグループは、ソマパズルに触れる時間に変化はありませんでしたが、報酬を得たグループはソマパズルに触れる時間が減少しました。

 

この結果から、報酬を得たのがきっかけで「ソマパズル=報酬を得る手段」に置き換わり、モチベーションが低下したことが分かります。

 

お絵描き実験

アンダーマイニング効果は幼稚園児を対象とした実験でも証明されています。

 

絵を描くのが好きな子どもたちを、

 

Aグループ…「絵を描いたらご褒美をあげる」と約束し、実際にご褒美を与える

Bグループ…約束はしないが、描いたらご褒美を与える

Cグループ…約束もせず、ご褒美も与えない

 

の3つのグループに分けて、実験を行いました。

 

実験後に子どもたちの様子を観察したところ、「Aグループ」と「B・Cグループ」では絵を描く時間に変化があることが判明しました。

 

B・Cグループの子どもたちは、自発的に絵を描く時間が短くなることはありませんでしたが、Aグループの子どもたちは短くなったのです。

 

アンダーマイニング効果はなぜ起こる?

ではなぜ「楽しい」「もっと知りたい」など、内発的動機づけによって行動していたものが、報酬や罰といった外発的動機づけによって意欲が低下してしまうのでしょうか。

 

ここでは、アンダーマイニング効果の原因について解説します。

 

目的が報酬に変わる

アンダーマイニング効果の原因の一つが、目的が報酬に変わることです。

 

成果に見合った報酬は、従業員の満足度やモチベーションアップには欠かせません。

 

しかし、人はお金や物などの物理的な報酬が発生すると、それを求めるようになるため、目的が報酬に変わってしまいます。

 

こうした外発的動機づけは一時的なモチベーション向上には有効ですが、内発的動機づけよりも持続しづらいため、長期的にはやる気を削いでしまうのです。

 

従業員に報酬を与える場合は、使命感や楽しみといった内発的動機が損なわれないよう注意する必要があります。

 

やらされている感

人は自分の行動を自分で決めたい(自己決定)欲求を持っています。

 

興味や関心、向上心といった内発的動機によって行動をしているときは、この自己決定の欲求が満たされやる気が高い状態です。

 

しかし、物質的な報酬を期待して取り組むようになると「報酬のためにやらされている行動」に変化してしまうため、自己決定感が失われます。

 

もちろん、報酬を用意することで意欲が増進する従業員もいます。

 

しかし、“やらされている感” が高まると内発的動機づけが失われ、自主性や意欲を低下させる従業員がいることも忘れてはなりません。

 

評価

業績や成果、能力などを基準として、毎年人事評価を行っている企業も多いでしょう。

 

評価結果にもとづいて昇格を決めている場合、いつの間にか「周囲から評価されるため」「昇格のため」といった外発的動機づけに置き換わってしまうことがあります。

 

結果的に、「自己決定感」や「有能感(できるようになりたい・上達したい)」が低下して、アンダーマイニング効果を誘発させてしまう可能性があります。

 

プライドが高いなど、周囲からの評価を過度に意識するタイプは、特にアンダーマイニング効果を起こしやすいため、注意が必要です。

 

締め切り・ノルマ

締め切りやノルマは、短期的なモチベーションの向上には効果を発揮します。

 

しかし、「期日までに終わらせること」「ノルマを達成すること」が最優先になり、クオリティの低下や従業員の問題行動を誘発させる原因になるため、注意が必要です。

 

また、高すぎるノルマは従業員のやる気を削ぐだけでなく、多大なストレスも与えます。

 

締め切りやノルマを設定する際は、従業員の自主性を削がないよう適度に設定しましょう。

 

アンダーマイニング効果が及ぼす影響

アンダーマイニング効果が起こると、企業や従業員に様々な影響を与えます。

 

ここではアンダーマイニング効果が及ぼす影響についてご紹介します。

 

企業

ではまず、アンダーマイニング効果が企業に与える影響から見ていきましょう。

 

定着率の低下

外発的動機づけは、短期的に見ればモチベーション向上につながりますが、自己決定感や有能感の低下につながるため、持続性は期待できません。

 

一般的に、やる気にあふれた状態のときに退職を考える人は少ないです。

 

多くはモチベーションの低下に伴って転職・退職を考えるようになるため、アンダーマイニング効果が起こると、必然的に離職リスクが高まります。

 

外発的動機づけばかりの施策では、定着率低下を招く可能性があるため、内発的動機づけも行うことが重要です。

 

生産性の低下

外発的動機づけにより自己決定感や有能感が低くなれば、やらされている感が強くなりますし、上手くなりたいという欲求も低くなります。

 

次第にやる気が失われていくため、自主性や集中力が低下し、より良い結果を出すための創意工夫をしなくなるでしょう。

 

アンダーマイニング効果はクオリティやパフォーマンスを低下させるため、生産性の低下につながるのです。

 

従業員

アンダーマイニング効果が発生すると、定着率や生産性の低下につながることが分かりました。

 

では、従業員にはどういった影響を与えるのでしょうか。

 

モチベーションを持ち直しにくくなる

一度低下したモチベーションを持ち直すのは困難です。

 

実際、イスラエルのある保育園では、お迎えの遅刻者を減らす目的で、遅刻者に罰金を科す制度を設けたところ、当初と比較して遅刻率が約2倍に増加しました。

 

これは、「保育士に迷惑をかけたくない」という理由で門限を守っていたものが、「罰金を払えばOK」にすり替わったことでかえってモチベーションが低下したことを示します。

 

さらに、その後罰金制度を廃止しても遅刻率は改善せず、増加する一方でした。

 

このことから、アンダーマイニング効果で下がったモチベーションを再び上げるのは難しいことが分かります。

 

モチベーションを持ち直しにくくなれれば、従業員本人はパフォーマンスを発揮しづらくなりますし、成長する機会を阻む原因にもなるでしょう。

 

人間関係の悪化

インセンティブなどの報奨制度は、モチベーションを向上させる効果もありますが、メンバー同士の競争を促すものでもあります。

 

上手く機能すれば、メンバー同士で切磋琢磨し合い相乗効果を期待できるため、競争自体は悪いことではありません。

 

しかし、成果が報酬に絡むことで「他メンバーに協力すると自分の利益が減る」と考えるようになり、人間関係が悪化する可能性があります。

 

過度に個人主義が高まればメンバー同士で協力し合わなくなるため、業務効率の悪化や属人化にもつながるでしょう。

 

アンダーマイニング効果と対となる“エンハンシング効果”

エンハンシング効果とは、相手を褒めることでその人のモチベーションを高める効果です。

 

称賛の言葉(外発的動機づけ)によって、内発的動機づけが高まることから「賞賛効果」とも呼ばれています。

 

特に信頼している人や尊敬している人から褒められたり期待されたりすると、より一層モチベーションが向上します。

 

このように、エンハンシング効果は当人同士の信頼関係によって、効果の程度が変化するのが特徴です。

 

ただし、「コミュニケーション力がある」「分析力が高い」のように能力や才能を褒めると、失敗を恐れて挑戦を避けるようになる可能性があります。

 

かえって成果を落としてしまう人もいるため、努力や工夫といった行動を褒めるのがポイントです。

 

エンハンシング効果は、定期的な励ましや肯定的なフィードバックを行うことで、見返りを求めずにモチベーションを保つことができます。

 

さらに行動を褒めることで当人に自信がつき、高いモチベーションで自主的に動く効果も期待できます。

 

どうすればアンダーマイニング効果を防げる?

最後にアンダーマイニング効果を防止して、従業員の自主性を促す方法についてご紹介します。

 

努力や行動を褒める

相手を褒めるのはモチベーション向上につながるため、アンダーマイニング効果を防止する効果があります。

 

とはいえ才能や能力を褒めた場合「その評価を裏切りたくない」という心理が働き、かえって能力を発揮できなくなることもあるため、注意が必要です。

 

伸ばすのが難しい才能や能力と違い、努力や行動は頑張り次第でいくらでも変えられるので、これを褒められると自主性の促進や有能感を高めることができます。

 

また単に成果を褒めるよりも「こういう努力をしていたから成果が出たんだね、頑張ったね」などと、努力や行動を褒めた方が気持ちは伝わります。

 

よって、アンダーマイニング効果を防止するには、よりモチベーションを高められる努力や行動を褒めるのがポイントです。

 

このとき、改善点も一緒に伝えると“褒められ慣れ”も防げます。

 

モチベーションが高いうちは報酬を与えない

「内発的動機づけ」「外発的動機づけ」には、それぞれメリット・デメリットがあるため、優劣はありません。

 

例えば、出世意欲の強い人は報酬がモチベーションとなりますが、物質的な報酬よりも興味や探求心、やりがいなどがモチベーションになっている人もいます。

 

アンダーマイニング効果は後者のタイプに報酬を与えることで発生するため、モチベーションが高く保たれているうちは報酬を与えないことが重要です。

 

強いられていると感じさせない

「自己原因性」という概念によると、

人は自分で自分の行動を決めていると知覚しているときには内発的に動機づけられるが、他者から統制されていると知覚しているときには外発的に動機づけられる

心理学者リチャード・ドシャーム氏「自己原因性」

と述べています。

 

つまり、人は生まれながらに自己決定感や有能感が備わっているため、他者から強要される状況を好まない傾向にあるのです。

 

そのため、アンダーマイニング効果を防止するには「従業員の成長段階に合わせて裁量を増やす」など、自己決定感や有能感を維持・向上させる必要があります。

 

人前で褒める

1対1よりも人前で褒めた方が相手の自尊心を満たせるため、より高い効果を期待できます。

 

朝礼やミーティング、社内報などを活用すると良いでしょう。

 

人前で叱責する場面を見ることも多いですが、人前での叱責は相手の自尊心を傷つけ、モチベーションを大きく低下させるため注意が必要です。

 

また、褒めるときは「○○さんと比べてあなたは優秀だね」など、他人と比較した褒め方をすると、「自分も誰かと比較対象にされているのだろうな」と思われます。

 

不信感を与えてしまうため、こういった褒め方は控えましょう。

 

アンダーマイニング効果を防止して従業員のやる気をアップ

アンダーマイニング効果は、やる気のある人に報酬を出すことで、かえってモチベーションが低下してしまう心理現象です。

 

アンダーマイニング効果が発生すると、企業や従業員にも悪影響を及ぼします。

 

「褒める」「強いられていると感じさせない」といった対策を講じて、従業員のモチベーションを高めましょう。

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