規模が大きくなるにつれて発生しやすくなる「セクショナリズム」は、部署間の協力・連携を阻みます。
業務効率や従業員の心理状態を悪化させるだけでなく、企業の信頼度にも関わってくるため放置すると組織全体に悪影響を及ぼします。
この記事ではセクショナリズムの意味や種類、発生する原因、弊害について詳しく解説します。
ご紹介する改善方法や解決事例を参考に、セクショナリズムの打開に努めましょう。
セクショナリズムとは
「セクショナリズム(sectionalism)」とは、割拠主義や派閥主義、縄張り意識のことです。
自分の所属するチームや部署の利益を最優先に考え、他のチームや部署に対して非協力的になっている状態を指します。
自分の部署の利益を最優先に考えて行動するのは、メンバーとして当然のことです。
また、適度なセクショナリズムは団結力や責任感向上につながるため、決して悪いことではありません。
しかし、組織全体の利益を上げるには他部署との連携が必要不可欠です。
所属する集団に固執しすぎるあまり、縄張り争いや派閥争いといったネガティブな作用が働くと、セクション間の連携が上手く取れません。
連携が上手く取れずに情報がブラックボックス化すれば、生産性が低下したり、お客様に迷惑をかけたりすることになります。
また、人間関係に軋轢を生み出すこともあるため、企業にとっては放置できない問題です。
セクショナリズムの対義語
セクショナリズムに対義語はありません。
しかし、セクショナリズムは強い縄張り意識から他部署との協力・連携を拒否する姿勢を指すことから、対となる意味として「協力」「連携」といった用語が挙げられるでしょう。
よって、協働主義や協力主義などの意味を持つ「コーポレーショニズム(cooperationism)」が、対義語として適切だと考えられます。
セクショナリズムの種類
セクショナリズムには、他セクションへの反応や対応によって「無関心型・非協力型」「批判型・排他型」の2種類に分けられます。
それぞれ、どのような違いがあるのかを見ていきましょう。
無関心型・非協力型セクショナリズム
無関心型・非協力型セクショナリズムとは、自分のセクションにしか興味を持たず、他セクションに非協力的な態度を取るセクショナリズムのことです。
自分のセクションを最優先に考えるあまり、組織全体の利益を考えません。
他セクションとの協力は、負担や責任が増えると考え、傍観者的な立ち居振る舞いをします。
直接的な損害を与えることはありませんが、情報のブラックボックス化を招くため、問題の発覚やトラブル対応の遅れにつながります。
このタイプのセクショナリズムは、他セクションとのコミュニケーションを避けるのが特徴です。
批判型・排他型セクショナリズム
批判型・排他型セクショナリズムは、他セクションに興味はあるものの、敵対心が強くて攻撃的な態度を取るセクショナリズムのことです。
「あのセクションから足を引っ張られている」という被害者意識を持ち、他のセクションに対して批判的な態度を取ったり、組織から排除しようとしたりします。
相互に批判・排他的な行動を取ることが多いため、足の引っ張り合いになり、組織全体に悪影響を与えます。
このタイプのセクショナリズムは、放置すると不祥事などの大問題につながるため、早急な対処が必要です。
セクショナリズムの弊害
過度なセクショナリズムは、組織に様々な問題を引き起こします。
では、具体的にどういった弊害をもたらすのか、詳しく見ていきましょう。
同調圧力が発生し、メンタルヘルスが悪化する
セクショナリズムが蔓延する職場では「あの部署のせいでこっちが悪いと思われている」「あの部署は何も分かっていない」など、批判的な内容ばかりが話題に上ります。
他セクションに否定的な感情を持っていなくても、反対意見を言える雰囲気ではなくなるため、常に周囲の顔色を窺いながら仕事をするようになるでしょう。
いがみ合いや足の引っ張り合いといった不毛な争いは、当人同士はもちろん、それを目撃している周囲の人間にも大きなストレスを与えます。
当然ギスギスした環境で働きたい人はいないので、離職率の上昇につながります。
特に、組織全体の利益を考えて行動できる優秀な人材には、見切りをつけられやすくなるでしょう。
生産性が低下する
セクショナリズムで同調圧力が発生すると、常に周囲の顔色を窺うようになるため、のびのびと働くことができなくなります。
このような心理的安全性の低い職場では、従業員のモチベーションや集中力が低下するため、本来のパフォーマンスを発揮しづらくなるのです。
また、部署間での連携が上手くいかなければ、迅速かつ適切な対応がしづらくなるため、業務効率が悪化して生産性を大幅に低下させてしまいます。
顧客や取引先からの信頼度が低下する
セクショナリズムが蔓延すると、他部署との連携や協力に消極的な姿勢を取るようになるため、顧客や取引先への対応レベルが低下します。
また、「評価が下がればいい」といった感情が働けば、顧客や取引先の対応をないがしろにしたり、他部署が不利になるような行動を取ったりする従業員も出てくる可能性があります。
いずれにしても、顧客や取引先からの信頼度や満足度の低下につながるため、注意が必要です。
セクショナリズムが起こる原因
ではなぜ、セクショナリズムが引き起こされるのでしょうか。
縦割り組織
日本企業に多い縦割り型の組織は、上意下達は得意ですが横のつながりが希薄です。
他部署が何をしているのか分からず連携も取りづらいことから、自分の所属している部署以外に興味を持ちづらくなります。
仕事内容や貢献、関係性など他部署への理解が不足している状態は偏見や軋轢を生み出すため、縦割り組織そのものがセクショナリズムの原因となっているのです。
権力の集中
特定の部署に権力が集中している場合、権力の強い側の意見が通りやすくなり、他の部署が不満や反発を感じるようになります。
たとえ傲慢な態度を取っていなくても、権力の弱い側は強い側に対して少なからず敵対心を持つため、組織の正常な運営を阻害する要因となります。
ジョブローテーションが少ない
長年部署異動が行われていない場合、そこに所属している人員の入れ替えもほとんどない状態でしょう。
こうした職場では他部署への興味が薄れて、理解不足の状態に陥りやすくなるため、セクショナリズムが発生しやすいです。
業務のマンネリ化や属人化にもつながるため、組織全体を把握できるよう定期的にジョブローテーションを行うのが適しています。
ただし、エンジニアのような専門性の高い仕事はジョブローテーションに不向きです。
ジョブローテーションだけでなく、部署横断型のプロジェクトで意見交換できる機会を提供するなど、部署間の交流を促す工夫が必要と言えます。
過剰な成果主義・相対評価
過剰な成果主義や相対評価もセクショナリズムの原因の一つです。
組織には数値化しづらい仕事をする部署もあります。
そのため、行き過ぎた成果主義は「あの部署が足を引っ張っている」といった感情を持ちやすくなり、部署間の対立を招きます。
相対評価の場合、他のメンバーやセクションの成果が上がれば、相対的に自分や所属セクションの評価が下がるシステムのため、必然的に協力・連携は取りづらくなるでしょう。
組織全体の利益よりも所属している部署の利益を優先しがちになるため、評価制度の見直しは必要です。
従業員数の増加
組織が大きくなり従業員数が増加すると、知らない人が増えるため、意思疎通が難しくなります。
組織内の一体感が薄まればセクショナリズムが発生しやすくなるため、「複数のコミュニケーション手段を用意する」「社内イベントを実施する」など、部署間を超えて交流する機会を提供することが重要です。
セクショナリズムを改善するには?
すでにセクショナリズムが発生している場合、どうしたら事態を改善できるのでしょうか。
ここでは、セクショナリズムを改善する方法についてご紹介いたします。
情報の共有
セクショナリズムは、組織全体の利益よりも、自分の所属するセクションの利益を最優先にすることで発生します。
そのため、まずは企業がどういった目標やビジョン、理念を持っているのか、共通認識を持つことが重要です。
その上で、各セクションの目的や方針、目標をリンクさせて全体に共有すると、各セクションの役割や存在意義が明確になります。
定量的な評価が難しいセクションであっても、必要性を感じてもらいやすくなるため、セクショナリズムの解消に役立ちます。
横割りの組織編成
ヒエラルキー型の縦割り組織は、横のつながりを希薄にさせてセクショナリズムを助長する原因となります。
横割りの組織編成にすることで、様々な従業員と協力して業務を進められるため、セクショナリズムの防止・解消に効果的です。
例えば、
ホラクラシー組織…役職や階級といった階層構造が存在しない、フラットな組織
ティール組織…階層構造やマネジメントはなく、各々が組織の目標達成に向けて動く組織
マトリックス組織…1人の社員が複数の事業やプロジェクトを進めていく組織
が挙げられます。
ただし、急激な組織改変は従業員や業務を混乱させてしまうため、一部の部署・部門から試験的に取り入れて、少しずつ規模を広げていきましょう。
なお、組織改編する際は、他のセクションへの理解度を確認しながら、慎重に進める必要があります。
定期的なジョブローテーション
人事異動の少ない部署は、他部署の内情に疎いため、視野が狭くなりやすく偏見を持ったまま仕事を進める傾向があります。
こうした閉鎖的な部署では、セクショナリズムが生まれやすくなるため、ジョブローテーションで定期的に配置転換を行うのが効果的です。
様々な業務に携われば組織全体を見る力が養えますし、縄張り意識でいがみ合うこともなくなり、他部署との連携もスムーズになるでしょう。
社内コミュニケーションを活性化させる
社内コミュニケーションの活性化は、他部署への理解促進だけでなく、多角的な視点や思考の柔軟性を保つ効果が期待できます。
社内コミュニケーションを活性化させる方法として、
- 社内SNS
- ビジネスチャットツールなどのITツール
- 社内サークル・イベント
- フリーアドレス制
などが挙げられます。
社内SNSやビジネスチャットといったツールを利用すれば、業務上の記録を残せる上、気軽にやり取りができるため、コミュニケーションが取りやすくなるでしょう。
また、CRM(顧客管理システム)などのITツールを活用すると、情報を一元管理できるため、セクショナリズム防止しつつ業務効率の向上に役立ちます。
社内サークルやイベントは、他部署の従業員と交流を持つ絶好のチャンスです。
ただし、規模や頻度によっては従業員だけでなくコスト増大になってしまうため、適度に行う必要があります。
席を固定しないフリーアドレス制を導入すると、これまで関わりのなかった他部署の従業員とも交流する機会ができます。
人事評価制度の見直し
相対的な評価制度や過度な成果主義は、競争意識が強くなりすぎるため、セクショナリズムの原因となります。
そのため、セクショナリズムを解消するには、部署間の軋轢を生む評価基準を撤廃し、個人の適性や能力を評価する絶対評価制度の導入が効果的と言えます。
セクショナリズムの解決事例
最後に、セクショナリズムを解決した事例についてご紹介いたします。
NTTデータ
NTTデータは2006年4月、セクショナリズム打開に向けて、社内SNS「Nexti(ネクスティ)」を稼働させました。
稼働からわずか2日で約500名、1週間で約1,000名の従業員が参加し、ピーク時には登録者数が約1万人にまで増えたそうです。
Nextiには社長も積極的に書き込みを行っており、「部署間を越えた交流の場」だけでなく「ボトムアップの提案ができる場」としても機能しました。
Nexti は2019年3月で閉鎖されましたが、13年にわたってセクショナリズム防止に効果を発揮しました。
シャープ株式会社
家電メーカーのシャープでは、解釈のバラつきや伝達不足により、戦略が正確に共有できない状況を打開するため、2016年に「S&Tツリー(戦略と戦術のツリー)」を導入しています。
S&Tツリーの導入により、戦略と先述のつながりが見える化したため、各部門に求められていることや、するべきことが明確になりました。
認識のバラつきも低減し、セクションを超えた情報共有がしやすい体制になったそうです。
日本アーツ株式会社
印刷物制作や映像制作などを行う日本アーツでは、依頼された案件ごとにプランニングやクリエイティブなど、各専門部署の従業員が集まり、プロジェクトチームを結成しています。
プロジェクトメンバーは、縦割りにならないよう部門を横断して招集されるのが特徴で、社長や新入社員も加わることもあるそうです。
部署や役職に関係なくフラットにアイデアを出し合うことで、セクショナリズムの防止・解消に役立っています。
セクショナリズムを解消して組織力を強化
適度なセクショナリズムは、所属する部署やチームの団結力や責任感の向上につながります。
しかし、行き過ぎたセクショナリズムは、いたずらに縄張り意識を助長させ、セクション間の協力や連携を阻み、組織全体に悪影響を及ぼします。
横割りの組織編成や評価制度の見直し、コミュニケーションの活性化など、ご紹介した施策を参考に、セクショナリズム打開を目指しましょう。