経営理念やミッション、ビジョンは設定していても「クレド」は設定していないという企業が多いのではないでしょうか。
クレドは、企業の理念や信条を行動規範に落とし込んだものです。
導入するとコンプライアンス遵守やモチベーション向上など、様々なメリットを得られるため、クレドを導入する企業が増えています。
この記事では、クレドの概要や必要とされている背景、導入のメリットについて解説いたします。
導入手順や注意点、企業事例もご紹介しますので、ぜひご覧ください。
クレドとは
クレドとは、ラテン語で「信条」「志」を意味する言葉です。
ビジネスシーンにおいては、企業活動を行う上で、従業員一人ひとりが心がける信条や行動指針を指します。
企業として何を大事にするのか、理念や信条を行動規範に落とし込むことで、従業員が判断や行動をする際の指標となります。
ミッションやビジョンとの違い
ミッションとは、企業が果たす使命や任務のことです。
企業活動を通じて市場や顧客にどういった価値を提供するのか、どんな風に社会に貢献するのかを指します。
ビジョンは、企業の目標や方向性のことで、「将来どういう企業でありたいのか」を掲げたものを表します。
ビジョンは、「どのようにミッションを実現するか」方向性を示すものなので、両者は似た内容になりやすいです。
例えば、コミュニケーションツール大手企業であるLINEのミッションとビジョンを見ると、
のように、ミッションで使命を掲げ、ビジョンでどういう風に実現するのかが示されています。
このことから、ビジョンやミッションは企業が主体の言葉と言えるでしょう。
一方クレドは、企業の理念や信条を行動規範に落とし込んだものであり、その主体は従業員です。
企業理念や経営理念との違い
企業理念や経営理念とクレドに明確な違いはありません。
ただし、企業理念や経営理念は企業の根幹となる価値観であるため、創業当初から受け継がれます。
また、企業経営における軸のようなものなので抽象的です。
そのため、これらが従業員の行動に直接的な影響を与えることはないでしょう。
クレドは、従業員の規範を示すために理念や信条を文章化しており、時代に合わせて変化するのが大きな違いです。
例えば、ニチレイフーズでは企業理念に「くらしに 笑顔を」を掲げ、クレドには「法と社会の秩序を守り、高い倫理観をもって行動します。」などを示しています。
クレドが必要とされている背景
クレドの必要性が高まった主な背景は、コンプライアンスの強化です。
2000年代には海外の大手企業を中心とした不祥事による倒産が相次ぎ、国内でも食品の産地偽装や金融不祥事など、様々な問題が発生しました。
こうした社会的背景から、コンプライアンスへの注目が高まり、日本では内部告発した労働者を保護する「公益通報者保護法」が制定されました。
しかし、法令を制定しても従業員の倫理観に任せていては、隠蔽や偽装といった不祥事はなくならないでしょう。
そこで、従業員が決断や行動をする際の基準となる行動指針を設定するために、クレドの必要性が高くなったのです。
実際、1982年に発生したジョンソン・エンド・ジョンソンによる「タイレノール事件」の対応は、クレドの成功例と言えるでしょう。
タイレノール事件とは、タイレノールという鎮痛剤の服用者に相次いで副作用が発生した事件です。
同社ではクレドで掲げていた「消費者への責任」をもとに、事件直後から情報を包み隠さず公開し、商品回収や再発防止といった誠意ある行動を取ってきました。
経営陣を含め、全従業員がクレドにもとづいた行動をした結果、わずか数カ月で事件発生前の8割程度にまで売り上げが回復しています。
この事件は「ビジネス史上もっとも優れた危機対応」と称され、クレドの重要性を知らしめるきっかけとなりました。
クレドを導入するメリット
では、クレドを導入すると具体的にどういったメリットを得られるのか、見ていきましょう。
人材育成に役立つ
クレドの導入は、従業員の継続的な人材育成に役立ちます。
というのも、企業の価値観や信念といったソフト面の教育は、研修などで1度行った程度では定着しないからです。
クレドは、企業の価値観や信念を行動規範に落とし込んで文章化するため、行動基準が明確になります。
常に従業員の目に触れるような形でクレドを共有すれば、企業にフィットした従業員を育成できるでしょう。
モチベーションが向上する
クレドがあると、企業が何を大事にしているのか、何をモットーとしているのかが明確になるため、判断や行動がしやすくなります。
逐一上司に判断を仰がなくても、方向性が間違っていなければ問題ないので、従業員は自信を持って業務に取り組めるようになります。
主体性を育み、やりがいを持って働けるようになるため、従業員のモチベーション向上に効果的です。
コンプライアンス遵守に有効
行動基準が明示されていない場合、従業員は自分自身の考えにもとづいて判断や行動をすることになります。
人によって基準が異なれば、倫理観の欠如した行動をする者も出てきやすくなるため、不祥事が発生するリスクは高まります。
クレドで行動基準を明確にすれば、従業員は企業の信念や価値観を理解して行動するようになるため、意識改革やコンプライアンス遵守に有効です。
他社との差別化で人材確保につながる
企業の信念や価値観を伝えるクレドは、独自性をアピールしやすいため、他社との差別化を図れます。
ホームページなどで公開すれば、自社ならではの魅力を世間に広く発信できます。
自社で働くことで得られるやりがいや価値観が明確になれば、マッチ度の高い人材が集まりやすくなるでしょう。
また、行動基準が明確になると働きやすさやモチベーション向上につながるため、定着率の改善も期待できます。
クレド導入のステップ
クレドには様々なメリットがあるため、導入したいと考える企業も多いでしょう。
ここでは、クレド導入の具体的な手順についてご紹介します。
STEP1.プロジェクトチームを編成する
まずはクレド導入のプロジェクトチームを編成しましょう。
上層部が考えた表面的な文言だけでは、従業員全員が納得するクレドは作れません。
クレドを浸透させるためには、経営層や総務部などの管理部門はもちろん、様々な部門のメンバーで結成することが重要です。
現場の意見も参考にすることで、実態に合ったクレドが作成できます。
STEP2.目標やスケジュールを決める
次は目標やスケジュールを決めましょう。
クレドの作成に限ったことではありませんが、「何のために作成するのか」「何を実現したいのか」目的や目標がなければ意味がありません。
「いつまでに作成するか」「なぜクレドを作成する必要があるのか」といった、期限や必要性も明確化させましょう。
STEP3.経営層や従業員にヒアリングをする
クレドは経営理念やビジョン、ミッションを行動規範に落とし込んだものなので、軸となる部分について経営層と話し合いをしましょう。
ただし、現場を考慮しない表面的な内容では、浸透はおろか従業員からの反発を招く可能性も考えられます。
そのため、「従業員にとっての会社のあるべき姿」や「自分自身がどうありたいのか」といった現場従業員の意見も参考にすることが重要です。
クレドの軸が決まったら、従業員アンケートを行って全従業員の意見を集約しましょう。
実態に即したクレドが作成できれば、従業員も受け入れやすくなるため、浸透スピードも上がります。
STEP4.文章化する
次は、経営層や従業員からヒアリングした内容の文章化です。
クレドは全従業員の行動規範となるよう設定しなくてはならないため、分かりやすい表現で簡潔な文章にする必要があります。
無理に一つの文章にまとめようとせず、短い文章で箇条書きにすると良いでしょう。
STEP5.伝達方法を決める
クレドはカードやポスターなどで周知する方法が一般的です。
とはいえ、ただ共有するだけでは形骸化する可能性があるため、研修や朝礼、社内報でクレドが生まれた背景を伝え、身近に感じてもらいましょう。
クレドを業務報告や評価制度にも連動させると、さらに浸透しやすくなります。
クレドを浸透させる方法
ここでは、クレドを浸透させるための具体的な方法についてご紹介いたします。
どれか一つだけでなく、複数の方法を用いるのがおすすめです。
クレドカード
クレドの内容が書かれた、名刺サイズ程度のカードを従業員に配布する方法です。
持ち運びできるサイズのカードを従業員一人ひとりに配ることで、いつでもどこでも確認できます。利便性が高いことから、多くの企業がクレドカードを活用しています。
ポスター
オフィスや会議室など、目に入る場所にクレドを記載したポスターを掲載する企業も多いです。
ポスターを掲出することで、従業員だけでなく自社に訪れた顧客や取引先にもアピールできます。
朝礼や全社会議
クレドの浸透を個人任せにしては、いつまで経っても全体に浸透しません。
朝礼や全社会議などで定期的にクレドを発信することで、クレドへの意識が高まっていくため、朝礼や全社会議での共有は効果的です。
ただし、朝礼で従業員に暗唱させるだけでは、形骸化してしまう可能性があります。
時折、クレドの重要性やクレドでの成功事例を伝えると、身近に感じてもらえるでしょう。
社内用のツール
働き方改革の影響により、リモートワークやフレックスタイムなどの勤務制度を取り入れる企業が増えました。
メールや社内SNS、社内報などで定期的に発信すれば、朝礼や全社会議を実施できなくても全体に周知できます。
このとき、クレドの成功事例も一緒に発信すると、現場社員の関心も高まるでしょう。
社内システムの画面上にクレドを表示させておくと、作業中でも自然と目に入ります。
クレドを確認しつつ業務を進めることも可能なので、浸透しやすくなるでしょう。
ホームページ
企業ホームページや採用ホームページへの掲載も有効です。
従業員や顧客、取引先はもちろん、株主や地域社会といったステークホルダー全体に、広くクレドを発信できます。
クレドを導入する際の注意点
クレド導入の効果を最大限引き出すには、導入時の注意点について把握しておくことが重要です。
経営陣だけで作らない
クレドは企業の価値観を全体で共有し、行動基準を明確にするものです。
理念や方針といった経営陣の意見は必要不可欠ですが、クレドに従って判断や行動をするのは従業員なので、現場従業員の意見も欠かせません。
現場の意見を取り入れずに作成しても、表面的な内容になってしまうため、従業員の理解は得られないでしょう。
よって、経営理念や方針でクレドの大枠を決めたら、従業員主体で作成するのが望ましいです。
経営陣は上がってきた内容に許可を出す程度に留めましょう。
独自性のある明確な文章を作る
クレドを作成する際は、独自性や具体性を意識することが大切です。
例えば、「世の中の課題を解決する」など抽象的なクレドを出されても、その企業の価値観や判断基準は見えてきません。
従業員はどう行動すれば良いのか分からないため、いつまで経ってもクレドが浸透せず形骸化しやすくなります。
クレドカードの配布や暗唱だけでは効果がない
クレドカードの配布や朝礼での暗唱によって、クレドの浸透を図っている企業も多いですが、単に配布や暗唱をするだけでは効果を発揮できません。
業務に即した内容でなければ形骸化しやすくなるため、「従業員が判断や行動ができる内容になっているか」を考えた内容にすることが重要です。
クレドの目的や成果をきちんと共有する
クレドを浸透させるには、従業員に目的や必要性を理解し、共感してもらうことがポイントです。
また、業務に即したクレドを作成できれば、運営していく中で何かしらの反応があるはずなので、クレドの成功例も従業員に共有しましょう。
成果を共有することによって、従業員も身近に感じやすくなりますし、モチベーション向上にもつながります。
クレドを理由に罰を与えない
クレドの浸透や浸透度の確認を目的として、クレドを評価と連動させる企業も多いです。
評価制度への連動はクレド浸透に効果的ですが、クレドに反した判断や行動をした従業員に対して、罰則を与えてはいけません。
従業員がクレドに反する判断や行動をするのは、「クレドが浸透していない」ということなので、現状を受けとめて改善案を講じましょう。
クレドの導入事例
クレド導入のヒントを得るためにも、企業事例を見ていきましょう。
ザ・リッツ・カールトン
ザ・リッツ・カールトンはお客様への心のこもったおもてなしと快適さを提供することを、もっとも大切な使命とこころえています。
私たちは、お客様に心あたたまる、くつろいだ、そして洗練された雰囲気を常にお楽しみいただくために最高のパーソナル・サービスと施設を提供することをお約束します。
リッツ・カールトンでお客様が経験されるもの、それは感覚を満たすここちよさ、満ち足りた幸福感そしてお客様が言葉にされない願望やニーズをも先読みしておこたえするサービスの心です。
引用:ザ・リッツ・カールトン「ゴールドスタンダード」
全世界で展開するホテルブランド、リッツ・カールトンの企業理念である「ゴールドスタンダード」は、
- クレド
- モットー
- サービスの3ステップ
- サービスバリュー
- 第6のダイヤモンド
- 従業員との約束
の6つで構成されています。
クレドでは、従業員一人ひとりが判断や行動ができるよう、企業の価値観や信念が具体的に提示されています。
ニチレイフーズ
-
法と社会の秩序を守り、高い倫理観をもって行動します。
-
お役に立つ価値提案のために食と生活を見つめます。
-
互いに多様性を認め合い、対話を通じて連携します。
-
誠実な気質を継承し、ていねいなものづくりを心がけます。
-
謙虚に自己を見つめ、挑戦することで成長し続けます。
引用:ニチレイフーズ「企業コンセプト・ミッション・ビジョン」
ニチレイフーズでは、「従業員のモットー及び行動指針」として、5つの行動指針が掲げられています。
簡潔に分かりやすく書かれているため、業務遂行や評価アップのヒントとしても活用できるでしょう。
グリー
グリーでは「インターネットを通じて、世界をより良くする。」というミッションの実現に即した4つのクレドが掲げられています。
4つそれぞれの詳細も提示されているため、従業員の理解も深まりやすいでしょう。
クレド導入で従業員の意識を改革
クレドは企業の価値観や信念を行動規範に落とし込んだものなので、認識を統一できます。
従業員の意識改革やコンプライアンス遵守はもちろん、行動基準が明確になれば判断や行動をしやすくなるため、自主性も育まれるでしょう。
従業員一人ひとりが行動規範に則った判断や行動をすれば、スピード経営も実現しやすくなるため、今後ますますクレドの重要性は増していくと考えられます。
ご紹介した内容を参考として、クレドの作成に取りかかってはいかがでしょうか。