目まぐるしくビジネス環境が変化する現代において、「チェンジマネジメント」の重要性が高まっています。

 

実際、チェンジマネジメントは、経営戦略や方針の変革に欠かせないマネジメント手法として、多くの企業で取り入れられています。

 

この記事では、チェンジマネジメントの概要や注目されている背景、阻害要因について解説します。

 

チェンジマネジメントのプロセスや成功事例についてもご紹介しますので、ぜひご覧ください。

 

チェンジマネジメントとは何か

チェンジマネジメントとは、経営戦略の改革や組織変革を、効率よく成功に導くためのマネジメント手法です。

 

既存の資源(ヒト・モノ・カネ)で最大限の成果を出そうとする従来型のマネジメントと違い、チェンジマネジメントはビジョンや戦略、資源に至るまで変革を求めます。

 

チェンジマネジメントは、1990年代の米国で流行した「BPR(Business Process Re-engineering 業務プロセス改革)」を成功させるメソッドとして、実践されたのが始まりとされています。

 

チェンジマネジメントが重要視されている背景

現代は、変化が激しく先の予測が困難なVUCAの時代に突入しています。

 

ビジネスを取り巻く環境が刻々と変化する中で、企業が生き残っていくには、その時々の状況に合わせた柔軟な経営が欠かせません。

 

しかし、経営方針や組織体制、業務プロセスといった組織運営に関する大幅な変更は、意図や目的が十分に共有されていなければ、従業員に不信感を与えてしまいます。

 

プロジェクトの成功には、従業員の協力が必要不可欠なため、従業員の共感を得ながら改革を進めるチェンジマネジメントが重要視されるようになりました。

 

チェンジマネジメントの規模

チェンジマネジメン新規追加トは、変革の規模によって3つの単位に分けられます。

 

個人レベル

個人レベルのチェンジマネジメントは、従業員一人ひとりに変化を促すアプローチです。

 

具体的には、特定の従業員に対して、

  1. いつ、誰から、どんなふうに業務内容の変更を伝えるべきか
  2. 新たな業務指導はどう進めたら良いか
  3. 新しいスキルを習得する適切なタイミングはいつか

など、変化を促す施策を検討する必要があります。

 

従業員ごとの変化を促すことができれば、変革への抵抗感を抑えつつ、生産性の高い業務に取り組んでもらいやすくなるでしょう。

 

プロジェクトレベル

プロジェクトレベルのチェンジマネジメントは、プロジェクト単位での変革を促すアプローチです。

 

戦略的に変革を進めるには、変化が必要なグループや社員を見極め、どのように変化させるべきかを明確にする必要があります。

 

また、プロジェクトリーダーや従業員に対して、

  1. 変革を進めるには、どういう取り組みが必要か
  2. どういった知識やスキルの獲得が求められるのか

といった、気づきを与えてプロジェクト全体の変化を促すことが重要です。

 

組織レベル

組織レベルのチェンジマネジメントは、企業全体または組織全体で経営戦略の改革に取り組むことです。

 

規模が大きいので、社会情勢の変化や市場のニーズにどう対応するか、方針を明確にしておく必要があります。

 

加えて、プロジェクトや個人レベルでのチェンジマネジメントを通して、効率よく改革を行える組織づくりにも並行して取り組むことが重要です。

 

組織レベルでの改革に取り組めば、組織全体で一つの目標に向かって突き進み、柔軟性のある企業に成長できるでしょう。

 

チェンジマネジメントを阻害する「チェンジモンスター」

誰しもが変革を望んでいるわけではなく、中には変革への抵抗感を持つ人もいます。

 

ボストンコンサルティンググループのコンサルタントであるジーニー・ダック氏は、変革に非協力的な従業員を「チェンジモンスター」と名づけ、変革の阻害要因であると説いています。

 

ここからは、ボストンコンサルティンググループの「チェンジモンスター」を参考に、日本企業特有のチェンジモンスターを見ていきましょう。

 

タコツボドン

 

タコツボドン

 

タコツボドンは、蛸壺に閉じこもるタコのように、他者とのつながりを持とうとしない人のことです。

 

具体的には、他部署の業務に対して無関心で、他部署が自分の業務へ関与することに否定的な姿勢の従業員を指します。

 

例)

「その仕事はうちの部署とは関係ない」

「忠告は感謝しますが、それはこちらの仕事なので、後はお任せ下さい」

 

ウチムキング

ウチムキング

 

ウチムキングは、内向きの視点で仕事をする人のことです。

 

社内からの評価ばかり重視して、顧客のニーズや社会情勢の変化といった外部の評価は気にしません。

 

例)

「社内の反応は上々なので、上手くいくはずです」

 

カコボウレイ

カコボウレイ

 

カコボウレイは、現状から目を背けて過去に固執する人のことです。

 

業績が悪化しても、前経営者が手掛けた事業や、取引先からの撤退を渋るなどが挙げられます。

 

例)

「先代が手塩にかけた事業から撤退とは何事か」

 

ミザル・キカザル・イワザル

ミザルイワザルキカザル

 

ミザル・イワザル・キカザルは、我関せずの姿勢で、改革の嵐が通り過ぎるのをやり過ごす、非協力的な従業員のことです。

 

例)

「どうせ今回も掛け声で終わる」

 

ノラクラ

ノラクラ

 

ノラクラは、改革に否定的な意見や言い訳ばかりを述べ、改革に向けた行動をしない従業員のことです。

 

ネガティブな意見ばかり出すため、周囲のモチベーションを下げてしまう可能性があります。

 

例)

「そんな前例はないし、組合が頷くはずない。それ以前に忙しくて人手が足りない」

 

マンテン

マンテン

 

マンテンは、満点を目指すあまり、少しでもリスクがあると行動をためらってしまう従業員のことです。

 

完璧を目指すあまり、具体的な行動に移せなかったり、行動に移すまでに時間がかかったりするため、改革がスムーズに進みません。

 

例)

「データが足りない。もう少し検討してから行動に移そう」

 

カイケツゼロ

カイケツゼロ

 

カイケツゼロは、課題の指摘や言い訳に長けているものの、解決策を出せない従業員のことです。

 

ノラクラ同様、ネガティブな意見が多いタイプなので、周囲から反感を買ったり、モチベーションを低下させたりする可能性があります。

 

例)

「それは何度も検討した結果、無理だと判断しました。具体的な理由は…」

 

参考・画像引用:ボストンコンサルティンググループ「チェンジモンスター

 

チェンジマネジメントを進める8つのプロセス

チェンジマネジメントを成功させるには、変革に前向きに取り組める仕組みづくりをすることが重要です。

 

ハーバード大学ビジネススクールのジョン・コッター名誉教授が提唱した「変革の8段階プロセス」にしたがって、チェンジマネジメントに取り組みましょう。

 

STEP1.危機意識を高める

変革に抵抗する従業員には、危機意識や切迫感、当事者意識が欠如していることが多いため、従業員の危機意識を高めることが重要です。

 

そのため、まずは「なぜ今変革しなければならないのか」自社が抱える危機や、改善の緊急性を明確にして、従業員に理解させましょう。

 

従業員自身に必要性を理解させ、危機意識を高めることが、変革への第一歩となります。

 

STEP2.変革推進の連帯チームを編成する

組織全体の変革を成し遂げるには、強い力で引っ張っていかなくてはならないため、変革推進の連帯チームを編成しましょう。

 

変革推進チームを編成する際は、

  • スキル
  • 人脈
  • 信頼
  • 評判
  • 権限

がある人材を集めるのがポイントです。

 

こうした要素を持つ人材は、従業員への影響力が強いため、効率よく変革を進められます。

 

STEP3.変革のビジョンを明確化する

コッター教授は、変革のビジョンを

将来のあるべき姿を示すもので、なぜ人材がそのような将来を築くことに努力すべきなのかを明確に、あるいは暗示的に説明したもの

と定義しています。

 

つまり、「変革を通して最終的にどうなりたいのか」ビジョンを明確にすることで、変革の実現に向けた戦略も立案しやすくなるのです。

 

また、コッター教授は、優れたビジョンには共通する特徴があると指摘しています。

 

具体的には、

  1. 可視化できる…将来のあるべき姿が明確に示されている
  2. 実現を望まれている…ステークホルダー(従業員や顧客など)が期待する長期的利益が見込める
  3. 実現可能…現実的で達成可能な目標がベースとなっている
  4. 方向を示す…意思決定の方向が明確に示されている
  5. 柔軟…変化に対応できるよう、個人の自主的行動と多様な選択を許容する柔軟性がある
  6. 伝わりやすい…5分以内で説明できる

の6つです。

 

STEP4.変革のビジョンを周知する

変革のビジョンを明確化したら、あらゆるチャネルを活用して周知、徹底しましょう。

 

新たなビジョンを伝え続けると同時に、変革推進チームは従業員の手本となるよう、率先して行動で示すことが重要です。

 

STEP5.従業員の自発的な行動を促す

ビジョンの周知徹底を行っても、行動に移されなければ意味がありません。

 

組織構造やシステムなどの社内環境を見直し、従業員の行動を阻害する原因がないか確認しましょう。

 

変革を阻害する要素を減らすだけでなく、「ビジョンに向けた行動を評価する仕組みづくり」など、自発的な行動を促す環境も大切です。

 

STEP6.短期目標を設定し、達成させる

企業が目指す変革のビジョンは、達成するまでにある程度時間がかかります。

 

従業員に変革のメリットを実感してもらうには、短期間で達成できる目標が必要となるため、短期的な業績目標の設定とその進捗具合を共有しましょう。

 

短期目標で成果を上げた従業員へ報酬を与えるのも、モチベーション向上に役立つため、変革の推進につながります。

 

STEP7.成果を活かして、変革を推進する

短期目標の達成を繰り返すことで、従業員は変革ビジョンに近づいていることを実感できます。

 

変革の重要性も理解しているため、構造やシステム、制度といったインフラ面の変革に取り組みましょう。

 

このとき、変革ビジョンの推進に貢献する人材の採用や教育も同時に行います。

 

STEP8.新しい手法を浸透させる

各部署のリーダーは、変革ビジョンにもとづいた新しい手法と、その実績を示して変革を根づかせましょう。

 

また、企業文化への定着を図るには、新たなリーダーや後継者の育成も欠かせません。

 

チェンジマネジメントの成功事例

他社ではどのように変革を行ったのか、チェンジマネジメントの成功事例についてご紹介します。

 

富士フイルム

事業構造の変革を目標に掲げる富士フイルムでは、2008年に課長クラス1,200人を対象とした意識改革研修「FF-CMP(富士フイルムチェンジマネジメントプログラム)」を実施しました。

 

360度評価によって自らを客観視した上で、今後あるべきリーダー像を構築していくというプログラムです。

 

FF-CMPを通じて、多くの参加者が「部下と一緒に考えて、やる気を引き出す」「チーム全体で課題解決に当たる」など、新しいリーダーシップスタイルを見出しました。

 

日産自動車

1990年代、業績低迷に苦しむ日産自動車の社長に就任したカルロス・ゴーン氏は、「リバイバル・プラン」と呼ばれるチェンジマネジメントを行いました。

 

リバイバル・プランでは、徹底的なコストカットや稼働率の低い工場の閉鎖、それに伴うリストラが行われました。

 

その結果、1兆円規模のコストが削減され、わずか1年で業績をV字回復させています。

 

こうした改革は、従業員から反感を買いやすいため難易度が高いです。

 

そのため、ゴーン氏は変革の専任チームを結成した上で、慣習や規定、価値観のゼロベースでの見直しを行いました。

 

また、ミーティングやイントラネット、マスメディアなどを活用して「なぜ日産は変わらなければならないのか」「どう変わるのか」を従業員に発信し続けました。

 

ゴーン氏の語る明快で一貫したビジョンの発信も、成功の要因と言われています。

 

Google Cloud

Googleでは、既存の社内インフラからメールやドキュメント、カレンダーなどをクラウド化させるために、チェンジマネジメントを行いました。

 

クラウド化に当たって、

  • 変化する目的を明確に伝える
  • 簡潔な言葉で繰り返し伝える
  • 協力的な従業員をサポートし、賞賛する
  • 従業員へ与える影響を考慮し、リスクを回避する

などを行い、サービスのクラウド化に成功しています。

 

チェンジマネジメントで組織変革を成功に導く

変化の激しい時代の中、企業が成長を続けるには組織変革が必要となりますが、否定的な考えを持つ従業員も一定数います。

 

変革には従業員の理解と協力が欠かせないため、ご紹介した8つのプロセスにしたがって、チェンジマネジメントを進めていきましょう。

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