少子高齢化による労働力不足が加速する中、生産性向上への取り組みは、さらに重要性を増しています。
限りある労働力でより多くの成果を得るためには、どうしたら良いのか、概要と合わせて具体的な施策や注意点を解説いたします。
生産性向上に役立てられる補助金・助成金についてもご紹介しますので、ぜひご覧ください。
生産性向上とは?
そもそも生産性とは、投入した資源に対する成果の割合です。
【計算式】
投入した資源に対して、得られた成果の割合が大きければ「生産性が高い」、少ない場合は「生産性が低い」と表現します。
例えば、5人で1日100個の商品を制作していた企業が、150個制作できるようになった場合、生産性は20⇒30にアップするため、「生産性が高まった」と言えます。
つまり、生産性向上とは、何らかの施策を講じて成果を増やすもしくは、投入する資源を減らして相対的に生産性を高める取り組みのことです。
生産性向上と業務効率化の違い
生産性向上は、少ない投資でより多くの成果を得るための取り組みのことです。
一方、業務効率化は無駄な作業を省いて、効率よく業務を遂行するための取り組みを言います。
端的に言うと、生産性の計算式の分母(投入した資源)を減らす試みであるため、業務効率化は生産性を向上させる施策の一つと位置づけられます。
生産性の種類
生産性には、「資本生産性」「労働生産性」「全要素生産性」の3種類があります。
資本生産性
資本生産性とは、機械設備や土地などの資本投入に対して、どれだけ成果を上げられたかを測る指標です。
「付加価値額÷有形固定資産」で求められます。
設備の利用頻度や稼働率の向上、付加価値の高い商品の開発などによって、付加価値額は増加し、資本生産性が高まります。
労働生産性
労働生産性は、成果を付加価値と捉える「付加価値労働生産性」と、物的成果と捉える「物理的生産性」の2種類に分けられます。
付加価値労働生産性
ここで言う付加価値とは、「粗利(売上-原価)」のことです。
付加価値労働生産性は、労働時間または従業員1人あたり、どれだけの粗利を生み出せたかを測る指標のことで「付加価値÷労働量」の式によって求められます。
労働量は、1時間あたりの生産性を算出する場合は「労働時間」、従業員1人あたりの生産性を算出する場合は「従業員数」を用います。
物的労働生産性
物的労働生産性は、労働時間または従業員1人あたり、どれだけの生産量を生み出せたかを測る指標です。
「生産量÷労働量(労働時間または従業員)」で求められます。
全要素生産性(TFP)
TFP(Total Factor Productivity)は、労働や資産だけでなく、投入したすべての要素に対してどれだけの成果を得られたかを測る指標です。
ブランド価値や技術進歩といった数値化できない要素も含まれるため、全体の生産量の変化率から労働変化率と資本変化率を引くことで、全要素生産性を推計します。
なぜ生産性を向上させる必要があるのか
ではなぜ、生産性を向上させる必要があるのでしょうか。
労働人口の減少に対応するため
引用:経済産業省「2050年までの経済社会の構造変化と政策課題について」
少子高齢化が深刻化する日本では、1995年を境に年々生産年齢人口(15~64歳)が減少しています。
労働力が減れば、当然生産性も減少してしまうため、経済活動を維持するには、少ない労働力で成果を生み出せるよう策を講じなくてはなりません。
こうした状況から、日本政府は「働き方改革」を掲げ、企業の生産性向上を後押ししています。
国際競争力を高めるため
引用:日本生産性本部「労働生産性の国際比較 2021」
2020年の日本国民1人当たりのGDP(国内総生産)は430万円と、米国の2/3程度しかありません。
OECD(経済協力開発機構)に加盟している38カ国の中では23位、主要先進国の中では最下位となっています。
日本の国際競争力を高めるためには、国全体で生産性向上に取り組む必要があります。
生産性を向上させるメリット
ここでは、生産性を向上させるとどのようなメリットを得られるのか、ご紹介します。
ワークライフバランスの改善
生産性向上への取り組みは、ワークライフバランスの改善を意味します。
というのも、生産性向上に取り組むと、短い労働時間でより高い成果を生み出せるようになり、長時間労働をする必要がなくなるからです。
ワークライフバランスが改善して働きやすい環境を提供できれば、従業員定着率も向上しますし、対外的にアピールすれば企業イメージの向上や応募者の増加も期待できます。
コスト削減
従業員一人ひとりの生産性が高まれば、短い労働時間でより多くの成果を得られるため、残業代などの人件費や光熱費を抑えられます。
コストを削減して資金に余裕が生まれれば、注力するべき事業への投資ができるようになり、ひいては組織全体の生産性も高まるでしょう。
人手不足の解消
生産性の向上は、人手不足の解消にも有効です。
例えば、RPAなどのテクノロジーを活用すれば、これまで手作業で行っていた業務が自動化されるため、従業員一人ひとりの生産性が向上します。
このように、限られた人員数でより多くの成果を生み出せるため、必要な人員数を抑えられます。
国際競争力の向上
少ない投資でより多くの成果を得られれば、質の高い商品を安く国際市場に流通させるなど、競争力を高められます。
ビジネスのグローバル化が進んだ昨今において、国際競争力の向上は欠かせません。
生産性を向上させる5つの施策
持続的に成長するためにも、生産性向上への取り組みは欠かせません。
では、具体的にどのような施策を講じれば良いのでしょうか。
業務内容の可視化とマニュアルの整備
マニュアルが整備されていなければ、人によってやり方が変わります。
当然品質にも差が出てきてしまうため、まずは業務内容の可視化とマニュアルの整備から始めましょう。
誰がどういう業務を抱えていて、どんなふうに作業を進めているのかが分かれば、
「自動化やアウトソーシングが可能か」
「作業の回数を減らせないか」
「省略できる工程はないか」
といった、効率化へのアプローチが検討できます。
タイムマネジメントの可視化
その日もしくはその週にやるべき業務を洗い出し、完了までにかかる目標時間を設定するのも有効です。
「いつ、何の仕事に着手して、いつまでに終わらせる必要があるのか」が可視化されると、仕事の優先順位が明確になり、効率よく業務が進められます。
業務の抜け漏れを防ぐ効果もあるので、ミスも減らせるでしょう。
業務の平準化
特定の従業員しか対応しない・できない業務もあるでしょう。
しかし、業務が属人化してしまうと、担当者不在時に誰も対応できないため、現場に大きな混乱を招きます。
円滑に事業活動を行うには、業務を平準化(ルール化)し、誰でも対応できるようにしておく必要があります。
「平準化できる業務がないか」「ルールやマニュアルの情報が古くなっていないか」を定期的に見直しましょう。
業務の自動化
生産性向上には、業務の自動化も有効です。
定型業務を自動化させるRPAや勤怠管理システム、給与自動計算ソフト、人事管理システム、顧客管理システムといった様々なITツールが存在します。
テクノロジーを活用すれば、これまで人が行っていた作業を自動化できるため、従業員はコア業務に専念できるようになります。
また、テクノロジーの活用で管理・共有がスムーズになれば、適材適所の配置や事業展開における経営判断のスピードアップも可能になり、組織全体の生産性も向上するでしょう。
スキルアップ
テクノロジーの活用も重要ですが、人にしかできない業務も数多く存在します。
PCスキルはもちろん、職務に応じたスキル・知識、コミュニケーションスキルといった仕事に必要なスキルの向上も行いましょう。
習熟度に合わせたフォローアップ研修や勉強会などを積極的に行うことで、従業員のスキルアップを図れます。
生産性向上の施策に取り組む際の注意点
生産性向上に取り組む際は、従業員の負担が大きくならないよう注意する必要があります。
長時間労働はNG
長時間労働によって生産性の維持・向上を目指す企業も多いですが、長時間労働は従業員の心身に大きな負担をかけます。
ストレスや疲労が蓄積すれば、当然パフォーマンスは低下しますし、離職されるリスクが高まるため、かえって生産性が下がる可能性があります。
従業員の健康を守るためにも、労働時間を増やす施策は避けた方が無難です。
マルチタスクは避ける
基本的に、人間は複数のタスクを同時に処理できません。
マルチタスクに見えても、実はタスクを切り替えているだけなので、マルチタスクは集中力が低下し、生産性も下がります。
また、スタンフォード大学の研究では、「普段からマルチタスクを行う学生の方が、そうでない学生よりも判断能力が低い」という結果も出ています。
マルチタスクは効率的と思われがちですが、従業員にストレスを与え、判断力を鈍らせるため、極力避けましょう。
現場の状況を理解した上で施策を講じる
生産性の向上は成果に直結するため、経営陣が主体となって施策を講じることになるでしょう。
しかし、実際業務に取り組むのは現場の従業員のため、現場の状況にそぐわない施策を講じてしまうと、意味のないものになってしまいます。
数値的に改善されたとしても、現場にかかる負担が増えて、従業員のモチベーションを下げてしまうこともあるため、現場の声をもとに施策を検討しましょう。
生産性向上に活用できる補助金・助成金
国では、企業の生産性を向上させるために、補助金・助成金も用意しています。
生産性向上に役立てられる制度をご紹介しますので、ぜひご覧ください。
※補助金や助成金の内容は変更される可能性があるため、厚生労働省などの公式情報も合わせてご確認ください。
業務改善助成金
業務改善助成金とは、中小企業・小規模事業者の生産性向上を国が支援し、事業場内の最低賃金の引き上げを図る制度です。
機械設備や業務改善のコンサルティング導入、人材育成などの設備投資を行い、生産性向上を達成した場合、投資した費用の一部が助成されます。
参考:厚生労働省「[2]業務改善助成金:中小企業・小規模事業者の生産性向上のための取組を支援」
人材開発支援助成金
職務に関連した知識や技能を修得させる、職業訓練などを実施した事業主に対して、助成する制度です。
人材開発支援助成金は、
- 特定訓練コース
- 一般訓練コース
- 教育訓練休暇付与コース
- 特別育成訓練コース
などの種類があり、訓練の経費や訓練中の賃金の一部が助成されます。
参考:厚生労働省「人材開発支援助成金」
IT導入補助金
IT導入補助金は、ITツールを導入した中小企業・小規模事業者に支払われる補助金です。
労働生産性の向上に資するITツール導入が対象の「通常枠」と、非対面化や業務効率化に資するITツール導入が対象の「低感染ビジネスリスク枠」に分かれます。
参考:サービスデザイン推進協議会「IT導入補助金について」
生産性向上への取り組みは必須
生産性の向上は、競争力を高め、労働環境も改善に導くため、企業価値の向上につながります。
グローバル化や少子高齢化が進行する今後、生産性向上への取り組みは欠かせなくなるでしょう。
業務の可視化やマニュアル化、テクノロジーの活用、従業員のスキルアップなど、様々な取り組み方があるため、できることから始めてみてはいかがでしょうか。