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「肉体労働」「頭脳労働」といった言葉がありますが、近年「感情労働」という言葉が注目されています。

 

対人コミュニケーションが主な業務となる、感情労働従事者は増え続けており、労働者のストレス管理が問題となっています。

 

この記事では、感情労働の概要や該当する職種、社会問題について解説いたします。

 

また、企業が行うべきメンタルヘルスケアについてもご紹介しますので、ぜひご覧ください。

 

感情労働とは

感情労働とは、アメリカの社会学者アーリー・ラッセル・ホックシールドが提唱した働き方の概念です。

 

具体的には、相手をポジティブな状態へ導くために、自分の感情を抑制または促進し、表情や声、態度でシーンに合った感情の演出を求める仕事を指します。

 

客室乗務員や販売員といったサービス業をはじめとした、労働者に感情のコントロールを求める仕事が感情労働に分類されます。

 

頭脳労働との違い

頭脳労働とは、頭脳を使って導き出した答えをお金に変える仕事のことです。

 

専門的な知識や経験をもとに成果を生み出す弁護士・税理士・大学教授・エンジニアなどが頭脳労働に該当します。

 

また、デザイナーや小説家といったクリエイティブな活動で報酬を得る仕事も頭脳労働と呼べるでしょう。

 

肉体労働との違い

肉体労働とは、身体を動かして報酬を得る仕事のことです。

 

一般的には、農業や建築土木の作業員といったブルーカラーを指しますが、定められた業務を定時までに遂行する意味では、デスクワークも肉体労働に分類されます。

 

感情労働が増加している背景

近年は感情労働が増加傾向にありますが、なぜ感情労働の割合が増加したのか、社会的背景について見ていきましょう。

 

サービス業の従事者が増加した

サービス業などの感情労働が多く含まれる第三次産業の就業割合は、年々増え続けています。

 

人口統計資料集(2020) によると、1920年には23.7%だったものの、2015年には67.2%にまで上昇していることから、今や全産業の中で最も就業比率が高いです。

 

したがって、第三次産業の就業者数増加に伴って感情労働も増加したと言えます。

 

SNSの普及

技術革新によりSNSが広く普及した現代では、情報の拡散はこれまでと比較にならないほど早くなり、SNSの影響力も増大しました。

 

誰もが簡単に情報発信できてしまうため、些細な不手際であっても瞬く間に悪評が広まり、企業イメージを大きく損ねてしまうこともあります。

 

こうしたSNSでの悪評から企業イメージを守るために、より高度な感情労働を求めるようになったことも要因の一つです。

 

感情労働が必要とされる職種

対人コミュニケーションが主な業務となる職種は、そのほとんどが感情労働に該当します。

 

では、具体的にどういった職種があるのでしょうか。

 

販売・飲食・ホテルスタッフなどの接客業

接客業は、顧客満足を第一に考え、笑顔や礼儀正しい振る舞いを常に求められることから、感情労働の代表的な職種です。

 

顧客満足を求める風潮の強い近年は、サービス提供側に過度な要求を突きつける顧客も少なくありません。

 

たとえ顧客から理不尽な要求をされても、企業イメージを壊さないよう真摯に耳を傾け、適切に対応しなければならないため、感情のコントロールが必須となります。

 

カスタマーサポートやコールセンターなど

カスタマーサポートやコールセンターといった顧客からの問い合わせに対応する職種も感情労働に該当します。

 

カスタマーサポートやコールセンターへ連絡してくる顧客の多くは、製品やサービスに何らかの不満を抱えているため、労働者はネガティブな感情と向き合わなくてはなりません。

 

誠実な対応と責任感を見せつつ、顧客が抱えている不満や誤解を解消しなければならないため、高度な感情のコントロールが求められます。

 

看護師や介護士

高度な専門知識を要求される医療職の看護師や介護士は、頭脳労働や肉体労働の要素を兼ね合わせつつも、感情労働の一種に分類されます。

 

看護師や介護士の仕事は、治療や身体的補助・介護を要する人を相手にするため、常に深い思いやりを持った対応しなくてはなりません。

 

また、ちょっとした不注意や判断ミスが命に関わることもあるため、緊張度の高い仕事でもあります。

 

よって、看護師や介護士は高度な知識・感情コントロールを求められる精神的負荷の大きな仕事と言えるでしょう。

 

感情労働で求められる2種類の演技

感情労働の提唱者であるホックシールド氏によると、感情労働は「表層演技」「真相演技」の2種類に分類されるとしています。

 

では、労働者に求められる表層演技と深層演技について、見ていきましょう。

 

表層演技

表層演技とは、上辺だけの演技です。

 

作り笑いのように、そのとき抱いた感情にかかわらず、外面的に望ましいとされる感情を表情や声、態度で表現することを指します。

 

表層演技は、相手の望む感情を抱いているように演じているだけなので、本来の感情とのギャップに葛藤が生じやすくなります。

 

なお、サービス業従事者は、入社・配属時の研修で表層演技のテクニックを指導されることが多いです。

 

深層演技

深層演技とは、外面的に望ましいとされる感情を実際に抱こうとすること、平たく言うと心から誠実に対応しようとすることです。

 

「心から申し訳なく思いながら謝罪する」「楽しい気持ちを感じながら接する」のように、自分自身でシーンに合った感情を呼び起こして対応します。

 

内面にある感情とのギャップがないので葛藤が生じることはありませんが、深層演技を繰り返していると、知らずにストレスを溜め込んでしまう可能性があります。

 

感情労働による社会問題

感情労働は顧客満足度の向上に役立ちますが、労働者の精神状態を悪化させる可能性もあります。

 

ここでは、感情労働によって引き起こされている問題についてご紹介します。

 

うつ病などの精神疾患

感情労働は、常に自分の感情をコントロールして、適正な表情や態度を取らなくてはなりません。

 

日頃から自分の感情を抑え込んだり、大げさに表現したりしていると、労働者の精神に大きなストレスを与え続けることになります。

 

過度なストレスは、うつ病などの精神疾患を発症しやすくなるため、労働者の精神的なケアが欠かせません。

 

バーンアウト(燃え尽き症候群)

責任感が強く仕事熱心な労働者ほど、バーンアウト(燃え尽き症候群)に陥りやすくなります。

 

というのも、感情労働は常に感情のコントロール求められるため、ネガティブな感情に接するほど、労働者の精神的ダメージは大きくなります。

 

責任感や仕事への取り組みが熱心な人ほど、強く感情を抑制してしまうため、反動が大きくなり、精神的なエネルギーが枯渇してしまうのです。

 

エネルギー不足により感情をコントロールできなくなると、「やりがいを感じない」「働きたくない」など、無気力感に襲われてバーンアウト状態になります。

 

バーンアウト状態は離職や精神疾患発症の要因になるため、注意が必要です。

 

モチベーション低下

感情労働は、相手の気持ちを特定の状況に導くことが当然と考えられています。

 

例えば、サービス業では、不当な要求や理不尽なクレームであっても、冷静かつ真摯な対応が当たり前とされるため、業務中に受けたストレスが見過ごされることも多いです。

 

精神的負荷が大きい割に達成感を得づらいため、こうした状況が続くと働く意義を感じられなくなり、労働者のモチベーションが低下します。

 

モチベーションの低下は、サービスの質低下につながるため、放置すると業績悪化につながります。

 

感情労働に従事する従業員へのメンタルヘルスケア

感情労働がいかに労働者の精神に大きな負担をかけるかが分かったところで、企業は具体的にどういった対応を取ればいいのでしょうか。

 

ここでは、感情労働に従事する従業員に行うべきメンタルヘルスケアについてご紹介します。

 

ストレスチェック制度の導入

ストレスチェック制度とは、労働者のストレス状況を定期的に検査する制度です。

 

労働安全衛生法の改正に伴い、50人以上の従業員がいる企業では、毎年1回すべての従業員を対象として実施することが義務づけられています。

 

検査の結果、医師から高ストレス者と判断された従業員から申し出があった場合、産業医などの医師による面接指導を実施しなくてはなりません。

 

また、産業医の意見にもとづき、必要に応じて業務内容の見直しや労働時間短縮といった、就業上の措置を講じることも事業者の義務です。

 

感情労働は、労働者本人でさえストレスに気づきにくいため、ストレスチェック制度を導入すると、自分自身の精神状態を客観的に把握させられます。

 

ストレスの早期発見により、メンタルヘルスの不調を未然に防げるため、仕事熱心な従業員のバーンアウト防止にも役立つでしょう。

 

メンタルヘルス研修

社内研修などでメンタルヘルスに関する教育を行いましょう。

 

例えば、

  • ストレスを把握する方法
  • セルフケアの重要性
  • ストレスへの対処法
  • メンタルヘルスケアに関する企業の方針

といった内容を取り入れるのがおすすめです。

 

なお、管理職には、役割や対応の仕方(聞き方・アドバイスの仕方など)、ストレスで休職した従業員へのサポート、産業医との連携方法などを指導しましょう。

 

できる限り、従業員と管理職の認識を統一させることが重要です。

 

定期的な面談

感情労働に従事する労働者は、精神的に大きな負荷がかかる割に達成感を得にくいです。

 

また、常に感情をコントロールしているため、本音を吐き出せる機会がないとストレスを溜め込んでしまいます。

 

こうした状況を放置した場合、労働者は働く意義や自分の存在価値を見出せなくなってしまうため、定期的な面談で従業員の心をケアすることが重要です。

 

面談では「どこを評価しているのか」「今後何に取り組むべきか」を伝えると、従業員に働く意義や達成感を与えられます。

 

なお、仕事上の悩みやストレスを気軽に相談できる窓口を設置するのも有効です。

 

メンタルヘルス不調による休職や離職、精神疾患の発症を防ぐためにも、ストレスの早期発見に努めましょう。

 

産業医との連携

働き方改革の施行により、長時間労働は是正に向かっています。

 

しかし、サービス業をはじめとした感情労働従事者の中には、人手不足などの影響から長時間労働を強いられる人も多いです。

 

長時間労働が常態化している職場では、心身の疲労がリフレッシュされにくいため、メンタルヘルス不調やバーンアウトの発症リスクが高くなります。

 

適切な労務管理はもちろん、産業医とも連携して従業員の心身の健康を守りましょう。

 

ちなみに、月80時間超の時間外・休日労働を行い、疲労の蓄積が認められる従業員から申し出を受けた場合、産業医との面接指導が義務づけられています。

 

産業医などの医師の意見にもとづき、必要に応じた就業上の措置も実施しましょう。

 

カスタマーハラスメントへの対応マニュアル

感情労働の従事者はクレームに対応することが多いです。

 

近年は、サービス提供者に対して、不当な要求や迷惑行為を行うカスタマーハラスメントが増加しているため、正当なクレームとの線引きを明確にしておきましょう。

 

悪質クレームは現場任せにしないためにも、

  • クレーム発生時の責任者
  • 対応方法(事例ごと)
  • 記録方法(電話の録音など)
  • 共有・報告方法

などのマニュアルを作成した上で、全従業員に周知徹底することが重要です。

 

正当なクレームとの線引きを明確にし、悪質クレームへの対処方法を周知しておくことで、従業員の精神的負担を軽減できます。

 

 

感情労働への理解を深めて従業員をケアしましょう

自分自身の感情を抑制する感情労働は、顧客満足のためであっても、従業員にとっては非常にストレスがかかります。

 

「感情労働だから当たり前」と見過ごしてしまえば、従業員の心身の健康を損ねてしまうでしょう。

 

優秀な従業員に長く続けてもらうためにも、メンタルヘルスケアで従業員の心に寄り添うことが大切です。

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