従来の日本では、専門分野を究めたスペシャリストが重宝されてきましたが、グローバル化が進む近年、ゼネラリストの要素も併せ持つ「T型人材」の需要が高まっています。
しかし、I型人材の進化系とも言えるT型人材はそれほど多くないため、「どのように育成したら良いのか分からない」とお悩みの方も多いでしょう。
この記事では、T型人材の特徴や育成するメリットや育成方法について解説いたします。
T型人材以外の特徴についてもご紹介していますので、ぜひご覧ください。
T型人材とは
T型人材とは、専門的な知識を持ちつつ、他の分野の知識も持ち合わせた人材のことです。
「T」の縦棒が専門性の深さ、横棒が知識の広さを表しており、1つの専門性を有することから、「シングルメジャー(single major)」とも呼ばれています。
これまでは、高い専門知識を有するスペシャリストが求められていましたが、グローバル化が進む昨今、他分野にも精通しているT型人材が求められています。
スペシャリストとゼネラリストの長所を併せ持つT型人材は、今後企業にとってさらに重要な存在となるでしょう。
T型人材が求められている理由
では、T型人材が求められるようになった背景について詳しく見ていきましょう。
高度人材の必要性が高まった
インターネットの普及や技術革新により、近年はプロダクトライフサイクルが短期化しています。
ビジネス環境を取り巻く変化に柔軟に対応するには、スペシャリストのような、ある分野に特化した人材だけでなく、新たな価値を生み出せる人材が必要です。
そのため、高い専門性と幅広い知識を併せ持ち、創造性を発揮できるT型人材が求められるようになりました。
新たなイノベーションを起こせる人材の必要性が高まった
企業競争が激化し、顧客ニーズが多様化・複雑化している現代では、イノベーションによる新たな価値創造が欠かせません。
高い専門性と、視野の広さを併せ持つT型人材が別のジャンルと融合すれば、これまでにない製品・サービスを生み出すことができるでしょう。
このように競合優位性を高めるには、イノベーションを起こせる人材が必要なため、T型人材の必要性が高まりました。
T型人材以外の人材タイプ
人材タイプには、T型以外にもさまざまなタイプが存在します。
I型人材
I型人材とは、特定分野における専門知識・スキルを有するスペシャリストのことです。
高度経済成長期以降の日本企業が重宝してきた人材タイプであり、技術職や研究職、職人などがI型人材にあたります。
I型人材は、自分の専門性をベースに他分野へ横展開するT型人材の前身とも言えるでしょう。
-型人材
-型人材とは、幅広い分野の実務をこなせるゼネラリストのことです。多様な知識やスキル、経験が求められる総合職・管理職に多いタイプです。
Π(パイ)型人材
Π型人材とは、異なる2つの専門知識を持ちつつ、幅広い知見を有する人材のことです。「ダブルメジャー」とも呼ばれています。
T型人材が他分野の専門性を身につけることでΠ型人材に進化します。
2つの異なる専門性を有するため単独でも独創的な発想ができ、T型人材以上に希少な存在です。
H型人材
H型人材とは、自分の専門分野と他者の専門分野をつなげられる人材のことです。
ビジネスの架け橋となって専門領域の異なる人材とつながり、コラボレーションさせる能力を持つため、新たな価値を創造する「イノベーション人材」とも呼ばれています。
グローバル化や多様性が進む今後、専門領域を超えて連携できるH型人材の需要も高まっていくでしょう。
△(トライアングル)型人材
△型人材は、3つの専門分野を持つ人材で「トリプルメジャー」とも呼ばれています。
幅広い知見を有していなくても、複数の専門性をかけ合わせた高いパフォーマンスを発揮するため、市場価値が高い人材です。
J型人材
J型人材は、株式会社トライバルメディアハウス代表の池田紀行氏が提唱した新たな人材タイプです。
I型やT型がさらに専門性を高め、その領域の第一人者たちとつながりを持つようになった人材を指します。
第一人者たちとの交流によって得た一流の視点や考え方から、より実践的な学びを得られるため、さらなるパフォーマンス向上が期待できるでしょう。
T型人材に必要な能力
激化する企業競争を勝ち抜くための重要な存在であるT型人材には、どのような能力が求められるのか、詳しく見ていきましょう。
主体的に成長できる能力
特定分野の高い専門性を有しつつ、他分野の知見を広げるには、主体的に成長する力が必要です。
さまざまな分野に興味を持つ知的好奇心や、継続的に学習するための学習意欲は欠かせないでしょう。
答えを導き出す能力
現代は先の予測が困難な「VUCA(変動性・不確実性・複雑性・曖昧性)」の時代です。
複雑化・高度化したビジネス環境の中で生き抜くには、前例や固定観念に縛られず柔軟な発想で新たな価値を生み出していく必要があります。
そのため、T型人材には正解の中で自分なりに答えを導き出し、提案する力が求められます。
アナロジー思考で行動できる能力
アナロジー思考(類推思考)とは、物事の類似点や共通点を見つけ出すことで、課題解決や新たなアイデアを生み出す考え方です。
自分の専門知識をベースに幅広い知識を組み合わせることにより、イノベーションにつながります。
T型人材を育成するメリット
では、T型人材を育成すると、企業はどのようなメリットを得られるのでしょうか。
独創的なアイデアが生み出される
T型人材を育成するメリットとして、独創的なアイデアの創出が挙げられます。
現代はビジネスを取り巻く環境の変化が非常に速いため、変化に対応するには柔軟な発想から生み出されるアイデアが必要です。
T型人材であれば、専門知識に加えて幅広い知見も有するため、慣習や常識に問われない独創的なアイデアを生み出せるでしょう。
独創的なアイデアが、新規事業の立ち上げや新企画のきっかけとなれば、企業の発展につながります。企業の持続的な成長のためにも、T型人材は欠かせません。
多様な業種とコラボレーションできる
T型人材を育成すると、他業種・他業界とのコラボレーションも可能になります。
というのも、異業種・異業界がコラボレーションするには、それぞれの知識を持った人材が不可欠なためです。
T型人材は、特定領域の専門性に加えて幅広い知見も有しているため、他業界の専門家とも共通言語で会話できます。
そのため、自分の専門領域と別ジャンルを融合させた、これまでにないコラボレーションが可能となり、広がりのあるビジネスを構築できます。
T型人材の育成方法
ここでは、具体的にどうすればT型人材を育成できるのかをご紹介します。
専門性を高める教育・研修を実施する
T型人材のベースは専門性なので、まずはI型人材を育成する必要があります。
そのため、研修制度の導入などの施策を通して、ある分野のスペシャリストとして知識やスキルを磨いていきます。
当然ですが、T型人材は短期間で育成できるものではありません。
中長期的な視点で取り組む必要があるため、新卒などの若手を中心に早期の段階から計画的に育成に取り組みましょう。
ジョブローテーションを行う
T型人材は専門性に加え、他分野への幅広い知見も有しています。
特定の部門・仕事だけで知見を広げることはできないため、T型人材の軸となる専門性ができたら、他分野の実務にも携われるようにジョブローテーションを行いましょう。
ジョブローテーションで他部署の社員と交流し、新しい業務に携わることで、俯瞰的な視点を養えます。
また、新たな価値観にも触れられるため、固定観念にとらわれない柔軟な発想も身につくでしょう。
ただし、本人の意向と異なる配置をすると、モチベーション低下や離職につながる恐れがあるため、事前の面談で意向をすり合わせておくことが重要です。
他部署と共同で仕事を進める
他部署の社員と共同でプロジェクトを進める機会を積極的に設けましょう。
たとえば営業職や販売職と技術職など、異なる領域のスペシャリストが集まれば、相乗効果によって、これまでにない独創的なアイデアやイノベーションが生まれやすくなります。
柔軟な働き方を認める
T型人材の育成には、柔軟な働き方を認めることも重要です。
専門性を高め、知見を広げるには、業務や研修といった社内の教育だけでなく社外での学習機会も設ける必要があります。
たとえば、リカレント教育制度の導入や副業を認可すれば、専門性を高めたり他分野の業務も体験したりできるでしょう。
他にも、テレワークやフレックスタイムの導入もおすすめです。
ワークライフバランスが取りやすくなるため、学習時間を確保しやすくなりますし、離職防止にもつながります。
企業の持続的な成長にはT型人材が不可欠
高度成長期以降の日本では、技術職などの高い専門性を持つ人材が求められてきました。
しかし、変化が激しく多様性を求められる現代では、専門知識だけでなく幅広い知見も必要です。
独創的なアイデアを生み出し、異業種とのコラボレーションを可能にするT型人材は、今後さらに企業にとって重要な存在となります。
T型人材の育成には時間がかかるため、早めに取り組んでみてはいかがでしょうか。