近年、SXに取り組む企業が増加してきました。SXへは社会の注目度が高いため、SXへ取り組むと企業の認知度向上につながることもあります。
しかし、「SX」という単語を聞いたことはあっても、具体的な説明ができない人は多いのではないでしょうか。
そこで、本記事ではSXとは何か、取り組むメリットやポイント、事例までわかりやすく解説します。ぜひ最後までご覧ください。
SX(サスティナビリティ・トランスフォーメーション)とは
引用:経済産業省『サステナブルな企業価値創造に向けた対話の実質化検討会 中間取りまとめ ~サステナビリティ・トランスフォーメーション(SX)の 実現に向けて~ 』
SX(サスティナビリティ・トランスフォーメーション)とは、企業が「稼ぐ力」の成長と、ESGへの取り組みなど持続可能な社会の両立を目指し、経営のあり方や投資家との対話のあり方を変革するための戦略指針です。
昨今、SDGsの注目度が高まっていることもあり、企業は社会の持続可能性(サスティナビリティ)への貢献が求められています。
SDGsやESGへの取り組みは、中長期的な企業価値を高めるメリットがあります。
ただし、こうした取り組みを行う企業は、短期的に利益を得たい投資家の投資対象には不向きで、企業戦略を理解してもらえない場合、企業と投資家の間にギャップが生まれやすいです。
企業としては、投資家にアクティブ運用の投資をしてもらいたいところですが、資本市場ではパッシブ運用をする投資家が増加しており、アクティブ運用をする投資家は減少しています。
引用:J.Pモルガン・アセット・マネジメント『アクティブ運用とパッシブ運用の話』
アクティブ運用とは、中長期的な株価上昇が期待できる銘柄を厳選して投資する運用方法です。
一方、目先の株価変動でキャピタルゲイン(売買差益)を狙う運用方法を、パッシブ運用と言います。
中長期的な投資対象となるためには、企業と投資家は利益が出るまでの時間軸を5年、10年と長期に引き延ばして共有し、「企業のサスティナビリティ(企業の稼ぐ力の持続性)」と「社会のサスティナビリティ(将来的な社会の持続可能性)」を同期させるようなコミュニケーションが必要です。
そういった経営方針の変革、投資家との対話を変革させていくことをSX(サスティナビリティ・トランスフォーメーション)と呼びます。
SXとSDGsの関係
SDGsは「Sastinable Developmemt Goals」の略称です。日本語訳は「持続可能な開発目標」と表されます。
SDGsは17のゴールと169のターゲットで構成され、経済、環境、社会における多くの課題が取り上げられており、持続可能な社会を築くための取り組みが国連主導で広がっています。
SX(サスティナビリティ・トランスフォーメーション)とは、企業が「稼ぐ力」の成長だけでなく、ESGへの取り組みなど持続可能な社会の両立を目指し、経営のあり方や投資家との対話のあり方を変革するための戦略指針です。
SDGsのゴールとターゲットは、ESG(経済・環境・社会)の課題と紐づいているため、SDGsの達成がSXへの取り組みに含まれているといえるでしょう。
SXとDXの違い
企業に求められる変革のひとつに、DX(デジタル・トランスフォーメーション)があります。
DXの目的は、デジタル技術を用いてビジネスに変革を起こし、競争優位性を確保することです。SXと比べると、短期的な視点で業務改革を進めるのがDXの特徴と言えるでしょう。
一方SXは、企業の成長に加えて、社会に対してもサスティナビリティが求められます。
SXで重視されることは、目先の小さな利益ではなく、中長期的な視点で企業の持続的成長と社会の持続を両立させることです。
企業においてはDXもSXも大切ですが、達成したい目標と時間軸に違いがあります。
なぜSXが注目されているのか
なぜ、現在SXが注目されるのでしょうか。
社会全体で不確実性が高まった
近年では、さまざまな業界が新型コロナウイルスの影響を受けました。
また、新型コロナウイルスのみならず、自然災害や社会問題とビジネスは密接に関係しています。
たとえば、
- 第4次産業革命やDXの進展による産業構造の変容
- 災害や気候変動、パンデミックによる経済リスクの拡大
- 国際問題による、グローバルサプライチェーンへの影響
などです。
中長期的な企業価値を創造し、企業が持続的に発展していくためには、このような社会の不確実性を踏まえ、自社だけでなく社会にコミットした戦略が必要です。
そのため、社会の不確実性の高まりとともに、SXが注目され始めました。
企業の社会貢献活動に対する興味関心が向上した
企業のサスティナビリティ(持続可能性)やレジリエンス(強靭性)への要請が高まると、企業による社会貢献活動が求められるようになりました。
たとえば、
- ESG投資・サスティナブル投資の拡大
- ミレニアル世代・Z世代の台頭による消費者の意識、行動変容
といった動きからも、企業の社会貢献活動への興味関心がうかがえます。
資本市場において、ESG投資(持続可能な事業への投資)は、アメリカを中心に年々世界中で増加傾向にあります。
また、1981年〜1996年に産まれたミレニアル世代は、社会貢献に関心が強いと言われており、ミレニアル世代・Z世代の台頭に伴い、マーケットも変化しました。
このように、企業の社会活動に対する興味関心の向上に付随して、SXも注目をあびるようになりました。
SXに取り組むメリット
次に、SXに取り組むメリットを紹介します。
企業イメージの向上
ESG投資が拡大する背景には、さまざまな環境的・社会的な要因があります。
たとえば、気候変動による資源枯渇や、災害リスクの高まりは金融市場に大きな影響を与えます。
環境問題に取り組み、持続可能な発展を目指す企業は好印象を持たれるため、SXに取り組むと企業イメージが向上します。
また、企業の社会貢献活動はブランディング強化にもつながるでしょう。
企業価値の向上
多くの国で、企業のESGに対する取り組みを評価して、投資先を決めるESG投資の投資額が年々増加しています。
従来、投資家は投資先を選ぶ際、利益や株価など短期的かつ財務的な情報のみで判断するのが主流でした。
しかし、最近はESGに対する姿勢など非財務状況をもとに、中長期的視点で投資先を見極める動きが活発化しています。
SXはESGとの関連性が非常に高いため、SXに取り組むと投資家から「経営リスクが低い企業」と判断されやすくなります。
資金調達をしやすくなるため、キャッシュフローが改善されて経営強化につながるでしょう。
SXに取り組む際のポイント
では、SXに取り組む際にはどんなポイントがあるのでしょうか。
社会のサスティナビリティを経営に取り込む
SXに取り組む際は、ESGの観点を持つことが大切です。
なぜなら、ESGへの取り組みは、持続可能な社会への貢献度が高く、SXへの取り組みに含まれるからです。
まず、持続可能な社会が実現した未来と現状のギャップを確認しましょう。
未来とのギャップを把握することで、今後どのような変化を求められるのかが明確になります。
社会のサスティナビリティを考慮し、経営に取り込むことがSXを実現させるうえでのポイントです。
企業のサスティナビリティを高める
SXを実現するためには、企業の「稼ぐ力」と社会の「持続可能性」を両立することが求められます。
「稼ぐ力」は企業本来の基礎的な能力ですが、SXにおいては「稼ぐ力」を長期にわたって維持することが目標となります。
これは、市場において将来的に今以上の優位性を保っていられるかどうかです。
ビジネスモデルの見直しや、イノベーションによる競争力の向上が企業の「稼ぐ力」の維持につながるでしょう。
ダイナミック・ケイパビリティを強化する
ダイナミック・ケイパビリティとは、環境や状況が激しく変化する中で、企業がその変化に対応して自己を変革する能力のことです。
持続可能な社会を実現するまでの道のりは、不確実なことが多いです。
自然災害や国際問題など、予期せぬ事態も起こり得るので、ダイナミック・ケイパビリティを強化して、社会に柔軟な適応をしましょう。
SXへの取り組み事例
最後にSXへの取り組み事例を紹介します。
MEGURU BOX
MEGURU BOXはサーキュラーエコノミー推進を目的とした使用済みプラスチックの回収事業です。
2021年7月9日〜12月31日の間に、K-CEPという多数の企業からなる団体が実施しました。
具体的な取り組みとしては、活動拠点となる福岡県北九州市の小売店や公共施設に使用済みプラスチックの回収ボックスを設置し、回収するといった内容です。
回収されたプラスチックは、より良いリサイクル法検証や、環境負荷の低い商品開発に役立てられ、地域の社会団体への寄付も行われました。
日立エナジー
日立製作所は2050年までにカーボンニュートラルの達成を目標としており、目標達成のためアメリカのABB社と事業融合し、日立エナジーを発足させました。
ABB社は太陽光エネルギーの開発などを行っており、世界的なカーボンニュートラル実現に向けて活動している企業です。
日立製作所はABB社との事業融合でSXに取り組んでいます。
Nature Innovation Group
Nature Innovation Groupは「アイカサ」という傘のシェアリングサービスを展開しており、駅やコンビニなど約900箇所において1日70円、1か月280円で傘をレンタルできるサービスです。
日本ではビニール傘の消費量が年間8,000万本に及び、自宅に5本、6本と余分なビニール傘を持つ方も多いのではないでしょうか。
「アイカサ」は、そういった資源の無駄を削減できるサービスです。
SXへの取り組みで社会への貢献度を高める
SXは企業の持続性のみならず、社会の持続性を踏まえて経営方針を考えることです。
社会への貢献は時として企業に不利益を生みますが、10年後の未来を投資家と共有することで、資金調達での不利益は避けられます。
企業の将来と社会の将来を両立し、投資家ともビジョンを共有することで、身の回りに貢献度の高い経済活動ができるでしょう。