マイクロアグレッションとは? 無自覚な差別で相手を傷つけないためにできること

「あなたって日本人なのに大胆な考え方をしているね」

 

この言葉を聞いて、どのように感じましたか。

実はこの言葉には、発言者の無意識な偏見が含まれています。

 

こうした発言は『マイクロアグレッション』と呼ばれ、少数派に対する偏見を助長してしまうだけではなく、誰かのキャリアに対する意欲やモチベーションを低下させてしまいます。

 

ますます多様化する現代で生き残るためには、『マイクロアグレッション』を正しく理解することが必要不可欠です。

 

今回の記事ではマイクロアグレッションで、知らないうちに相手を傷つけないためにできることについて解説していきます。

 

マイクロアグレッションとは

マイクロアグレッションとは、小さな(micro)攻撃性(aggression)を意味し、相手を傷つけるつもりがないのに、結果として相手を傷つけてしまうような発言や行動のことを指します。

 

その行動や言葉に、人種や性別、価値観、障害、文化背景といった、自分と異なる人に対する“無意識の偏見”が含まれていることで、相手を傷つけてしまうのです。

 

具体的には以下のような発言が挙げられます。

  1. インド人だから数学は得意でしょ
  2. 韓国人は怒りっぽいからな
  3. 日本人なのにはっきり意見を言うね
  4. 黒人は運動神経が高いらしいよ

 

このような発言は典型的なマイクロアグレッションの事例ですが、心当たりのある方は意外と多いのではないでしょうか。

 

マイクロアグレッションと差別の違い

マイクロアグレッションとは差別の一種ですが、両者の間には以下のような決定的な違いがあります。

  意識的な違い 対処法の違い
マイクロアグレッション 無意識である 自覚がないため、自身では差別的な言動の改善が見込めない
その他差別

意識的である

故意に行っているため自覚があり、自身で気付き、考えを改善することができる

 

マイクロアグレッションは、差別している側にその認識がないという点が、他の差別と大きく異なります。

 

多数派の人にとっては差別ではないという認識があるがゆえに、些細な発言の中に隠れた攻撃性があっても、表面化しにくいという特徴があります。

 

マイクロアグレッションの歴史・背景

マイクロアグレッションが初めて唱えられたのは、1970年代のアメリカでのことです。

 

精神科医のチェスター・ピアス氏が提唱した、❝意図的か否かにかかわらず、政治的文化的に疎外された集団に対する何気ない日常の中で行われる言動に現れる偏見や差別に基づく見下しや侮辱、否定的な態度のこと❞という定義がはじまりとされています。

 

その後、コロンビア大学の心理学教授であるデラルド・ウィン・スー氏の研究によって、性的指向や人種、ジェンダーに関するものといった関連対象が広がっていきました。

 

現在では、正式にアメリカの辞書の一部となり、心理学や法律、医学、教育といった多くの専門分野に組み込まれ、メディアやSNSにおいても議論されるものとなりました。

 

マイクロアグレッションの例

ここからは、マイクロアグレッションの実例を見ていきましょう。

 

国籍・人種

人種間には『国籍』や『人種』といった本質的な優劣がある、とする考えに基づいた、態度や発言に関するものが挙げられます。

 

国籍、人種に関するマイクロアグレッションの事例として、

  1. あなたは肌が白くていいね
  2. 日本語がお上手ですね
  3. ドイツ出身ですか?どうりでまじめだなと思いました
  4. 韓国の方は気が強いんだよね
  5. 中国の方でしたか!せっかちだと思っていました
  6. 考え方が大胆で日本人離れしていますね
  7. 計算早い!さすがインド人ですね
  8. 金髪で目も青いし、学生時代モテたでしょ?

といった発言が該当します。

 

事実に基づかない偏見や勝手な思い込みをもって発言することは、単なる差別を通り越し、マイクロアグレッションとなり得るのです。

 

ジェンダー

次にジェンダーによるマイクロアグレッションの一例をご紹介します。

 

具体的な事例として、

  1. 男勝りだからもう少し女らしくしたら?
  2. なぜ結婚しないで働くの?彼氏いないの?
  3. 女性らしい発言を心がけるようにね
  4. いつまでも女の子のように泣くんじゃない
  5. 男らしく胸を張って堂々と話しなさい
  6. 女性は夜遅くならないうちに帰ったほうがいいよ
  7. 〇〇さん(女性)は女子だし、こういうの好きでしょ?
  8. 営業担当は男性だと安心だよね

といった発言が該当します。

 

性について根拠のない差別的な発言は、身体的な虐待やセクシュアルハラスメント、男性優位の職場環境などを助長することにも繋がります。

 

これらはジェンダーという認識が蔑視されている状況で起こりやすい、マイクロアグレッションと言えるでしょう。

 

身体的特徴

身体的特性については主観による部分が多く、たとえ根拠があったとしても感じ方は人それぞれ違います。

 

具体的な事例として、

  1. きれいな二重まぶたですね
  2. 青い瞳がきれいでうらやましい
  3. ぱっちり二重瞼(まぶた)ですね
  4. 白い肌で美しいです
  5. ウエストが細くてうらやましい
  6. 若いからわからないと思うけど・・・
  7. それは地毛ですか?

といった発言が該当します。

 

自分のなかでの思い込みや、固執した考え方を持っている場合に起こり得る、マイクロアグレッションです。

 

LGBT

LGBT(L:レズビアン、G:ゲイ、 B:バイセクシャル、T:トランスジェンダー)に対して、偏見的な感情を持つ人は、残念ながら世の中にまだ数多く存在しています。

 

具体的な事例として、

  1. やっぱり〇〇さんはゲイだからセンスあるね
  2. トランスジェンダーって男女両方の気持ちがわかるんでしょ?
  3. 自分も恋人も女性だと、家でけんかが多そうだね
  4. LGBTなの?意外!すごくまともに見えるのに・・・

といった発言が該当します。

 

言われた本人にしか理解できないことも多く、LGBTについての正しい理解がないまま安易に発言することで、相手を深く傷つけてしまう場合もあります。

 

あなたにとっては理解を示す言葉のつもりでも、さげすまれたという感情を相手に与えてしまう可能性があるので注意が必要です。

 

あからさまな差別ではないものの、固定観念や偏見によって起こりやすいマイクロアグレッションだと言えます。

 

マイクロアグレッションが与える影響

マイクロアグレッションは、被害者はもちろん、無意識な加害者本人にも影響を与えます。

 

個人だけではなく、組織にも関わってくることですので、正しく理解することが非常に重要です。

 

ここからは、マイクロアグレッションが加害者に与える影響について見ていきましょう。

 

受けた人に精神的なダメージを与える

マイクロアグレッションの被害者は、当然ながら心にダメージを受けます。

 

心無い言葉に傷つき、どう対処すべきかを悩み、苦しんでしまうのです。

 

立命館大学准教授の金友子氏によると、被害者は、

  1. 無視して対抗しないか
  2. 立ち向かったらどうなるか
  3. そもそも立ち向かうべきか

といった心の葛藤やストレスを抱えます。

 

マイクロアグレッションに耐えることのできる人もいますが、心身的な影響が出てしまう人もいるので注意が必要です。

 

参考:立命館大学生存学研究所『マイクロアグレッション概念の射程』

 

マイクロアグレッションが黙認される可能性がある

マイクロアグレッションは加害者にとって悪意のないものであるがゆえに、黙認される場合も多くあります。

 

考えられる事例として、

  1. そんなのきっと冗談だよ
  2. 悪気はなかったと思うよ
  3. あなたの考え過ぎじゃない?

といった周囲の言葉によって、マイクロアグレッションそのものが黙認されてしまう可能性があるのです。

 

発言した人に悪意がなくとも、マイクロアグレッションを受けた人は傷つきますし、黙認したところで状況が好転することはないでしょう。

 

「悪気はなかった」だけで済まさず、真摯な対応で黙認されない環境づくりをしていくことが大切です。

 

マイクロアグレッションの対策

マイクロアグレッションは無意識のため、発言した本人が気付くことは難しく、受けた人が直接言い返すことも簡単ではありません。

 

ではどのような対策が有効なのでしょうか。

 

ここからは、マイクロアグレッションに対する具体的な対策について見ていきましょう。

 

研修の実施

アンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)に関する研修を社内で取り入れることも有効な対策の一つです。

 

研修を実施することで、

  1. 他人を自分の物差しで決めつけない
  2. 押しつけない
  3. 相手の表情や態度の変化など「サイン」に注目する
  4. モノの見方のクセや、思考のクセに気づく

といった具体的な対処法を身につけることができ、多様性を認め合う環境を目指すことができます。

 

相談窓口の設置

小さなことでも相談できる窓口を社内に設置するといった体制を整備することも、有効です。

 

2020年に施行されたパワハラ防止法により、企業の相談窓口設置が義務化され、担当者を配置している会社も増えてきました。

 

今後はパワハラだけでなく、マイクロアグレッションによる被害を受けている社員からの相談も受けられるような体制づくりを行うとよいでしょう。

 

指摘する

シンプルですが、加害者となっている発言者に対し、指摘するという対策も効果的です。

 

先程から何度もお伝えしていますが、マイクロアグレッションが無意識での行動である以上、発言した本人が自ら気づくことは難しいでしょう。

 

そのため、周囲がマイクロアグレッションを察知した際には、見て見ぬふりをするのではなく、指摘してあげることが望ましいです。

 

指摘すると良い理由として、

  1. 加害者は今後の言動に気を付けることができる
  2. 被害者は理解を得られたことで安心を得ることができる

といったメリットが挙げられます。

 

相手は自分と同じひとりの人間であり、自分の関心を満たすための存在ではありません。

互いに相手を思いやり、問題が起こった際にはしっかり指摘し合える関係こそが、よい職場の条件であるとも言えます。

 

「自分は差別しているのかもしれない」と自覚することが第一歩

マイクロアグレッションは差別とは違い、無意識的に差別をしてしまいます。また、自分ひとりでマイクロアグレッションに気づくことは難しいです。

 

そのため、「自分は知らないうちに差別をしているかもしれない」と啓蒙的になることが大切でしょう。

 

何気なく質問されたとき、「自分は普通です。」と返答することは、自分とは違う趣向を持った人を異端と考えているからかもしれません。

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