皆さんは、「Know Who(ノウフー)」という言葉を耳にしたことがあるでしょうか。
Know Whoは、誰がどのような知識、スキルを持っているのかを可視化し、検索できる仕組みであり、ナレッジマネジメントに欠かせない要素です。
この記事では、Know Whoとは何か、メリットや管理方法、事例をご紹介します。
Know Whoとは?
「Know Who(ノウフー)」とは、誰がどんな知識、スキルを持っているのかを共有、検索できる仕組みのことです。
組織の誰が何を知っていて、どんな業務を経験しているのかが分かれば、その道に精通している人に直接ノウハウを教えてもらえます。直接教えてもらった方が、マニュアルやテキストでは伝えきれない細かなニュアンスもスムーズに伝えられるでしょう。
そのため、ノウフーは組織におけるナレッジマネジメントの観点において、必要不可欠な仕組みと言えます。
ナレッジマネジメントとは、個人に蓄積されていた「ノウハウ(暗黙知)」を顕在化させて共有し、組織の財産として管理することです。
人材不足や世代交代などの影響で、これまで個人に蓄積されていたノウハウが企業に残らないケースが増えています。ナレッジを確実に残すためには、ノウフーの仕組みを活用したナレッジマネジメントは非常に有効です。
Know how(ノウハウ)との違い
「Know Who(ノウフー)」によく似た言葉に「Know how (ノウハウ)」があります。
ノウハウは、業務に必要な知識や技術、問題解決の知恵のことです。
業務ごとにさまざまなノウハウが必要となりますが、ノウハウは個人での習得範囲に限界があります。
また、全体に共有しようとしても言語化できなかったり、直接アドバイスしてもらわないと分からなかったりすることもあるでしょう。
そこで、各業務におけるノウハウを誰が持っているのか、共有、検索できるよう仕組み化したのが「Know Who(ノウフー)」です。
トランザクティブメモリーとの違い
ノウフーとしばしば混同される言葉として、「トランザクティブメモリー」が挙げられます。
トランザクティブメモリーとは、組織学習に関する概念です。
組織全体で同一知識を記憶するのではなく、組織の中で誰が何を知っているのかを共有、把握することに重きを置く考え方を指します。
つまり、ノウフーはトランザクティブメモリーを実現するための仕組みということです。
Know Whoが注目されている背景
ノウフーが注目されている背景には、人材不足や生産性向上への取り組みなど、いくつかの社会的、組織的な課題があります。
その中でも、特にノウハウに対する課題を解決できるものとして、ノウフ―が注目されるようになりました。
従来は、個人のノウハウ習得が組織において重要視されていました。
しかし、個人が習得できるノウハウには限界があり、習得までに大きな負担がかかります。その結果、技術や知識の質を落とすリスクも考えられます。
このようなノウハウの課題は、社内に存在するさまざまな専門家の知識を共有、活用する仕組みによって解決可能です。
幅広い専門知識を身につけずとも、共有された組織全体の知識を活用し、社員一人一人が効率的に業務にあたれます。
また、規模が大きな組織ほどノウフ―は有効なため、大企業を中心に中小企業にもノウフ―が広まっています。
Know Whoのメリット
では、Know Whoを活用するメリットはなんでしょうか。
大きく3つのメリットをご紹介します。
知識やノウハウが蓄積できる
これまでは特定の個人しか持ち得なかった知識が、ノウフ―によって社内全体に共有されるます。
そのため、従来であれば退職などで失われていた個人の知識が、会社の財産として蓄積され、活用され続けていくのです。
社内SNSなどを活用して社内全体に知識が共有されていけば、やがて企業の大きな武器となり、競合他社との差別化にもつながります。
スムーズに情報共有を行える
社内SNSなどで情報が共有されれば、必要な情報のやり取りもスムーズになります。
情報の探し手と所有者のやり取りが可視化、共有されるので、情報の詳細はもちろん、「いつ、誰が、どんな話を、誰にしたのか」までを明確に残せます。
これにより、コミュニケーションで生じやすい齟齬や曖昧なやり取りを減らせるでしょう。ひいては、やり取りが共有されることでミス、トラブルへの迅速な対応ができるようになり、組織としての損失削減にもつながります。
生産性が向上する
社員一人ひとりが、幅広い専門知識を有していなくても知識を活用でき、自分の役割に専念できる環境が整えば、業務効率やアウトプットの質向上につながるでしょう。
また、ノウフ―を活用すると個人の負担が減るため、ストレスも減少します。ストレスが減少すれば、業務に対する集中力やモチベーションが向上するため、組織全体の生産性改善、向上も期待できます。
Know Whoの導入事例
それでは、実際の企業でノウフ―はどのように活用されているのでしょうか。
ここではいくつか事例をご紹介します。
パナソニック株式会社
パナソニック株式会社では、2003年にKnow Whoサーチを導入し、社員から提出された経験業務や技術経歴、語学力などのスキル情報をデータベースとして管理しています。
また、「わいわいプラザ」という掲示板を用いて、他部署であっても気軽に新商品の提案や質問、企画のメンバー集めができる仕組みを構築しました。
パナソニック株式会社では、この2つの仕組みを使って、グループ企業を含めたすべての社員が気軽に情報交換できる環境を整えています。
20万人以上の知識やスキルを業務へ活用する取り組みとも言えるでしょう。
パーソルクロステクノロジー株式会社
パーソルクロステクノロジー株式会社は、あらゆるものづくりにおける設計開発のプロフェッショナル集団です。
その事業領域は、自動車業界から航空機、宇宙機器、産業機械など多岐にわたります。それゆえ、社内で必要とされる技術の領域も広く、そして非常に専門性が高いものばかりです。
2016年に導入した「HITO-Talent」というシステムでは、誰がどの領域におけるスキルを有しているのかを、一元管理できるようになっています。
導入当初は、管理職が適材適所に人材を配置することを目的として使用されていましたが、2019年からは新入社員を含めた全社員がスキルマップにアクセスできるようになりました。
誰に何を聞いたら良いのか、どこに所属しているのかを検索し、コンタクトを取って情報に対して素早くアプローチができるようになったそうです。
社員全員が技術情報を共有できるようになったのはもちろん、スキル、キャリア情報が可視化されたことで、技術者一人ひとりのキャリアデザイン支援にもつながっています。
損害保険ジャパン日本興亜株式会社
損害保険ジャパン日本興亜株式会社では、企業情報ポータルがノウフ―として活用されています。
情報共有とコミュニケーションに機能の重きが置かれており、Q&A、個人ブログ、Know Whoと呼ばれるデータベースなどが導入されています。
業務内容の相談、失敗事例など、技術や事例の共有が社員同士の間で活発に生まれており、そこから新たな気づきも生まれているそうです。
情報の共有が学び合いを生み、業務の質を向上させていると言えるでしょう。
Know Whoの管理方法
一口にノウフ―と言っても、さまざまな管理、運営方法があります。
いくつか代表的な例をご紹介します。
人材管理システム
人材管理システムとは、従業員が持っている知識、スキル、その成熟度などを、人事情報と紐付けて一元管理するものです。
個人と技術を紐付け、データベースで一元管理することで、適材適所な人員配置を考えるのはもちろん、人材育成にも有効活用できます。
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社内イントラネット
従業員自身が自分のスキルや経歴をデータベースに登録し、社内イントラネットで公開します。
イントラネット上で必要なスキルを検索すれば、適材をすぐに探し出すことが可能です。
グループウェア
組織の業務効率化を目的としたコミュニケーションツールのことで、掲示板やTODO、プロジェクト管理などが挙げられます。
知りたい情報をグループウェアに書き込むことで、社内の他の人物が回答を書きこむなどして、社内から情報を集められます。
社内SNS
グループウェアと似ている社内SNSですが、グループウェアとの違いは手軽さです。
心理的ハードルも下がり、気軽に質問、相談を投げかけられます。
ちょっとしたディスカッションが発生することもあり、社内コミュニケーションの活性化にも大きな影響を及ぼすでしょう。
Know Whoの注意点
正しく活用すれば非常に大きな成果をもたらすノウフ―ですが、依存しすぎると大きなリスクを生み出す元となります。
多くの技術情報や経験を持った社員がいる場合、その人に頼りきりになる属人的な組織を生み出しかねません。
また、もしそういった社員が退職してしまった場合、技術や経験の情報は消滅するため、大きなリスクにつながります。
ノウフ―を用いて会得した知識をそのままにせず、さまざまな手段を用いて記録しておくことが重要です。
文章や図解を用いたマニュアルの作成に加え、動画なども活用して共有された情報を蓄積していきましょう。
Know Whoの導入で組織力を向上
Know Whoの導入により、組織の生産性向上、業務効率の改善など、さまざまなメリットを期待できます。
個人が必要な知識を会得する時間を設けずとも、必要な情報に素早くアプローチできる環境は、人材の有効活用の観点からも非常に重要です。
導入を成功させるためにも、仕組みやマニュアルのしっかりした整備は必要不可欠と言えます。
企業の組織力を高めるためにも、どのような方法なら効果的に活用できるかをしっかり見極め、ノウフ―導入を進めていきましょう。