■最低賃金の基礎知識
「雇用主が従業員に支払わなければならない賃金額の最低限値」が最低賃金の定義ですが、その種類はふたつに分かれています。
ひとつはそれぞれの都道府県で定められている『地域別最低賃金』です。
これは正社員や派遣社員、アルバイトなどの雇用形態にかかわらず、すべての労働者に適用されます。
もうひとつは『特定(産業別)最低賃金』と呼ばれるものです。
こちらは特定の産業での労働者が対象になっており、地域や産業の詳細は厚生労働省のホームページで確認できます。
雇用主と従業員が合意の上で最低賃金以下の労働契約を結んでも、最低賃金制度のもとでは無効となりますが、各都道府県の労働局長の許可を得ることで最低賃金が減額されることもあります。
特例として対象となるのは、「試用期間中の従業員」「精神または身体障がいの影響で労働能力が低い従業員」などです。
最低賃金減額の特例許可を受けるには、許可申請書の作成と提出が必要です。
減額が認められるケースによって用意すべき書類が異なるので、厚生労働省のホームページで発信している情報を参考に、正しい書類を用意しましょう。
■2017年10月の改定内容は?
最低賃金決定の流れとして、まずは中央最低賃金審議会が厚生労働大臣へ賃金引き上げ(引き下げ)の答申を行います。
その答申を参考にして各地方最低賃金審議会でそれぞれの最低賃金が審議され、都道府県労働局長が最終的な額を決定します。
上記の手続きを踏んで、2017年10月1日に賃金改定が行われました。
改定額の全国平均は【848円】。
昨年度の823円から25円と、昨年度と並んで最大の引き上げ幅となりました。
地域別最低賃金が最も高い東京都は、昨年の932円から【958円】に引き上げられました。
逆に最も低い改定額737円は、高知県・佐賀県・長崎県・熊本県・大分県・宮崎県・鹿児島県・沖縄県となりました。
221円の差があるものの、差額の割合は3年連続で改善しており、数字からは徐々に地域格差が縮まっていることがわかります。
■最低賃金の引き上げによる影響
毎年細かな見直しが行われている最低賃金ですが、従業員や企業にどのような影響があるか見てみましょう。
1)様々な格差の解消
まず挙げられるのは雇用形態の格差です。
アルバイトや派遣社員など非正規労働者の手取りが増えるため、正規と非正規の格差が解消に向かいます。
また、地方の賃金が引き上げられることで地域経済が活性化され、高収入を求めて優秀な人材が首都圏に流出してしまうといった事態を避けることができます。
2)人件費の増大
上記のようなメリットだけでなく、最低賃金の改定は主に企業にとってのデメリットを生みます。
最低賃金が上がれば人件費は必然的に増え、経営が苦しくなる企業もあるでしょう。
特に非正規労働者を最低賃金で多く雇用している飲食店やコンビニチェーン店などへの影響は無視できないものがあります。
3)正社員の手取り減額
労働者にとっては嬉しいことばかりに思える最低賃金の引き上げですが、正社員と非正規の格差が是正されると、企業は正社員の給与を減額してバランスを取ろうとする可能性があります。
■引き上げに際しての注意点
冒頭でも述べた通り、最も注意しなければならないのは「気づかないうちに最低賃金が引き上げられていて、法律違反をしていた」というケースです。
最低賃金を下回る賃金しか支払わない雇用主には、罰則として50万円以下の罰金が課せられます(特定(産業別)最低賃金未満であれば30万円以下の罰金)。
さらに「最低賃金以下の待遇で従業員が働かされている」というマイナスイメージが一度でも付くと、労働者はもちろん取引先などからの信用も失いかねません。
最低賃金は時給で表されるため、時給で賃金を支払っている企業は最低賃金との比較がしやすいですが、日給と月給の場合はちょっとした計算が必要です。
日給、月給で支払っている雇用主の方々は一度時給に換算して、最低賃金を下回っていないか計算してみましょう。
下記は日給と月給の換算に使える計算式です。
◆日給の場合……【日給÷1日の所定労働時間≧最低賃金額(時間額)】
◆月給の場合……【月給÷1ヶ月の平均所定労働時間≧最低賃金額(時間額)】
■まとめ
普段からニュースをチェックする習慣がないと、なかなか最低賃金の引き上げ(引き下げ)に気づきません。
従業員として働いている方々の中には、最低賃金に変動があったことを知らない人も多いのではないでしょうか。
だからこそ、雇用する側は常にニュースをチェックし、最低賃金の変化に目を配る必要があります。
毎年最低賃金の改定が行われるのは10月からですが、改定に関する報道はそれよりも前に行われるので、10月が近づいてきたら賃金の増減に関するニュースに注目するようにしましょう。