近年よく聞くようになった「オンボーディング」ですが、実は新人研修のみを指す言葉ではありません。
オンボーディングは、新人が自社で早期活躍できるようサポートする取り組みのため、早期離職や戦力化などの課題解決に有効です。
この記事では、オンボーディングについて詳しく解説いたします。
注目されている背景や導入するメリット、導入時の流れについてもご紹介いたしますので、ぜひご覧ください。
オンボーディングとは?
人事領域におけるオンボーディングとは、新卒や中途で新しく入ってきた人材を組織に定着・戦力化させるために行う一連の取り組みのことです。
「on-board(船や飛行機に乗っている)」という英語が由来で、新しい乗組員へ行うサポートと新入社員をなぞらえて人事領域で使用されるようになりました。
新入社員の受け入れと聞くと、新卒を対象とした新人研修をイメージしがちですが、オンボーディングは、幹部クラスを含めた中途のキャリア人材までが対象です。
実施する内容は、業務に関する教育はもちろん、企業のミッションやビジョン、経営層の考えや人柄、チームの人間関係、社内制度など多岐に渡ります。
働く上で必要な情報や価値観を伝えることで、行動の指針が明確になるため、いち早く職場に馴染み、実力を発揮できるようなります。
オンボーディングが注目される背景
では、なぜ近年オンボーディングが注目されているのでしょうか。
定着率の向上がより重要になった
厚生労働省の「平成30年雇用動向調査結果」によると、労働者全体の離職率は14.6%です。
特に若い世代での離職率が高く、20歳~24歳では26.0%~27.7%と、約4人に1人が離職していることになります。
また、厚生労働省の「新規学卒者の離職状況」を確認してみると、大卒者の約30%が3年以内に離職している状況です。
以上のデータから、転職が珍しいことではなくなり、人材の流動化が進んでいることが分かります。
すぐに離職されてしまうと、採用や教育にかけてきた費用を回収できないばかりか、再び採用活動を行わなくてはなりません。
さらに、日本では少子高齢化が急速に進んでいるため、採用活動の難易度が高まっています。
企業間での採用競争が激しい状況の中、貴重な人材が流出してしまうのは企業にとって大きな損失です。
このように、以前よりも定着率の向上が重要になったため、新入社員のサポートを継続的に行うオンボーディングが注目されるようになりました。
定着率が低い状態が続けば、
- ノウハウの継承ができない
- 人手不足で業務が回らない
- 業務量が多く、入ってもすぐに辞めてしまう
といった事態が発生しやすくなるでしょう。
従業員の定着しない企業には、人が寄りつかなくなってしまいます。
初期育成の効率化
インターネットを代表とするテクノロジーの発展により、国境を越えたコミュニケーションが容易になったため「ヒト・モノ・カネ」の動きが活発になりました。
また、少子高齢化社会である日本のマーケットは縮小傾向にあり、多くの企業が生き残りをかけて海外マーケットへ進出しています。
このように、テクノロジーの発展やグローバル化が進んでいる近年では、従来よりもビジネス環境の変化スピードが早く、ライバルも多いです。
そのため、現在のビジネス環境において、「3年で一人前」という従来型の考えで教育・育成を行っていたのでは、他企業に遅れを取ってしまいます。
こうした状況で企業が生き残るには、新入社員に早期の段階からパフォーマンスを発揮してもらう必要があるため、効率的に初期育成をしなくてはなりません。
優秀なキャリア人材を採用することも大切ですが、どれほど優秀な人材でも組織に馴染めなければ、本来のパフォーマンスを発揮するまでには時間がかかります。
オンボーディングは、新規採用者が早期に活躍できるよう組織全体でサポートを行うため、居場所やポジションを確立しやすくなり、業務に取り組みやすい環境を作ることができます。
企業、新入社員の両面から見る導入のメリット
オンボーディングを行うメリットを、企業側と新入社員側それぞれの視点からご紹介いたします。
企業側のメリット
まずは、企業側のメリットを見ていきましょう。
早期離職率の低下
新規学卒者の3年以内の離職率は約30%と、およそ3人に1人が早期離職している状況です。
早期離職は、これまでかけてきたコストが無駄になるだけでなく、採用活動を再開するコストや新規事業の遅れなど、企業に様々なダメージを与えます。
また、既存社員のモチベーション低下といった影響もあるでしょう。
オンボーディングの施策は、
- 新入社員研修
- OJT・Off-JT
- メンター制度(先輩社員が業務やメンタル面の相談に乗る)
- 定期的なランチ
- 1on1ミーティング
- 社内イベント
など、様々です。
「フィードバックをして成功体験をさせる」「定期的にランチで対話する」のように、継続的にサポートすれば、新しい職場に馴染みやすくなり早期離職を防止できます。
初期教育の型化
新入社員への教育を現場任せにしたり、場当たり的になったりしていませんか?
現場任せや場当たり的な教育は「Aさんには教えたけどBさんには教えていない」「人によって言っていることが違う」といった事態が発生しやすくなります。
教える側も疲弊しますし、クオリティーの低下にもつながるため、初期教育はある程度テンプレート化しておきましょう。
例えば、
- 入社後研修で企業理念などを伝えて、全社員に共通認識を持たせる
- 入社後研修を行った後にOJTを行う
- OJTでスムーズに教育できるようマニュアルを整備しておく
- メンターや教育担当を任命して、新人が誰に相談したら良いのか明確にする
などが挙げられます。
テンプレート化しておくと効率的に教育できるため、結果的に教育にかかる金銭的、時間的なコストを軽減できます。
採用力強化
オンボーディングは、採用力を強化する効果も期待できます。
新卒者や中途の未経験者はもちろん、スキルアップを目指して転職する人も多いため、教育制度が整っていると、強力なアピールポイントになります。
オンボーディングは、新入社員が職場に早く馴染めるよう、総合的にサポートする取り組みです。
そのため、オンボーディングに力を入れていることを求職者にアピールすれば、「スキルアップして市場価値を高められる」「働きやすそう」といった印象を与えられるでしょう。
選考過程での惹きつけも行いやすくなるため、自社の採用力強化につながります。
新入社員のメリット
では、オンボーディングを行うと新入社員側にはどういったメリットがあるのでしょうか。
入社直後のストレスが軽減
新入社員は、入社前から入社後しばらくの間に「上手く馴染めるだろうか」「早く仕事を覚えなくては」など、様々な不安やプレッシャーを抱えています。
そのため、新入社員を受け入れる企業は、こうした思いを汲み取った対応をすることが重要です。
受け入れ態勢が整っていないと彼らの不安を解消できず、大きなストレスを与えてしまうため、モチベーションの低下や疎外感から早期離職を決意する人も多いです。
オンボーディングでしっかりと受け入れ態勢を整えておけば、入社直後のストレスを緩和させられます。
こういった環境があることで安心して仕事に取り組めるため、職場や仕事への順応スピードも向上するでしょう。
効率的に力を発揮することができる
入社して間もない段階は、会社独自のルールや上司・同僚の人柄、仕事の進め方など、分からないことばかりです。
自分で調べたり、周囲の人に聞いたりすることに時間を取られてしまうため、必然的に仕事の進みも遅くなってしまうでしょう。
そのため、
- 入社日にメールアドレスやアカウントが用意されている
- マニュアルなどの教育体制が整っている
- 歓迎ランチがセッティングされている
のように、受け入れ態勢を整えておくと、働く上で必要な情報を早期の段階で覚えられます。
ちなみに、Googleの社内調査では「入社初日に受け入れ態勢が準備されていると、3ヶ月以内のパフォーマンスが30%アップする」という結果が出ています。
オンボーディングの具体的な流れ
企業と新入社員双方にとって大きなメリットを得られるオンボーディングですが、どのような手順で進めていけば良いのでしょうか。
ここでは、導入時の流れをご紹介いたします。
課題の整理
課題が分からないまま、とりあえず“オンボーディング的なこと”を始めてみても、最大限の効果を引き出すことはできません。
オンボーディングで何を解決したいのかを明確にすることで、実施するべき施策が見えてきます。
まずは、自社の課題を正確に把握することから始めましょう。
例えば、早期離職者が多い状況であっても、その理由は「職場に馴染めない」「業務内容が覚えられない」など、様々です。
「職場に馴染めない」が理由であれば、コミュニケーションの活発化や、企業理念・ビジョンの浸透といった施策を行う必要があるでしょう。
「業務内容が覚えられない」なら、マニュアル作成やOff-JT・ONJTの教育体制整備、両方ならメンター制度や複合的な施策、のように施策を考えやすくなります。
目標設定
課題が明確になったら、
- どの課題を
- いつまでに
- どれくらい解決するのか
- 最終的にどうなっていて欲しいのか
目標を言語化して設定しましょう。
最終的なゴールを掲げるだけでは、辿り着くまでのプロセスが正しいのか判断できませんし、高すぎる目標は現実味を感じにくいです。
したがって、最終目標達成のための中間目標を設定することが大切です。
目標を小分けに設定すると、クリアした時の成功体験を積み重ねてもらえるため、社員のモチベーション維持にもつながります。
コンテンツの検討
課題や目標を設定したら、コンテンツに落とし込んでいきましょう。
「課題解決や目標達成には、どういった取り組みをするべきか」や「求めるスキル・能力はどうすれば身につくか」を具体的に考えてみてください。
例えば、
- 経営者自らが企業理念や経営方針を説明する
- 管理職が部署について説明する
- メンター制度の導入や教育担当をつける
- 新入社員と積極的にコミュニケーションを取る機会を作る
は、オンボーディングでよく行われる施策です。
働く上で必要な情報を早期の段階で提供できるため、新入社員が職場に馴染みやすくなります。
これらの施策をベースとして、細かなプログラムを決めていき「実現可能か」「課題や目標を達成できそうか」を社内で話し合いましょう。
実施
コンテンツを作成したら、いよいよ実行です。
入社直後は、採用担当者やリクルーターなど、新入社員と面識のある社員が積極的に関わり、新入社員の不安を軽減させましょう。
オンボーディングの定着していない初期段階は、つまずく箇所や課題が出てくることもあるため、その都度詳細を記録しておくことが大切です。
また、新入社員がこうしたつまずきを目の当たりにすると会社に対して不安を感じてしまうこともあるため、事前に教育体制を構築している最中であることを伝えておきましょう。
実情を正直に伝えておけば、新入社員に納得感を与えられますし、教育に注力しようとしている姿勢も伝わるので、マイナスな印象にはなりません。
振り返りとプログラムの修正
オンボーディングは、実施したらそれで終わりではありません。
プログラムを修正して継続的に行っていくものなので、設定した目標ごとに必ず振り返りを行いましょう。
「どのような効果を得られたのか」「どういった点が良かったのか」「悪かった点はどこか」などを、管理者や現場社員、新入社員本人からヒアリングしてください。
一つの視点ではなく、多角的な視点の意見を聞くことで、新たな課題発見につながります。
振り返りで出てきた評価・課題をもとに、次回実施するプログラムを修正し、継続的に行っていきます。
オンボーディングの精度を高めるには、PDCA(Plan Do Check Action)を回すことが重要です。
オンボーディングで企業の価値を高める
オンボーディングは、組織全体で新入社員をサポートしていく取り組みです。
職場に馴染むようサポートすることで、新入社員は安心して仕事に取り組めるため、早期離職の防止や早期戦力化の効果があります。
ビジネス環境が目まぐるしく変わる近年において、新入社員の早期戦力化や早期離職防止効果のあるオンボーディングの重要性は増しています。
オンボーディングに注力している企業は、競争力や採用力の向上につながるため、企業価値も高まるでしょう。
これを機に導入を検討してみてはいかがでしょうか。