近年、生産性やエンゲージメントの向上につながるとして、「心理的安全性」が注目を集めています。

 

心理的安全性は、他人の反応に怯えることなく自由に発言や行動ができる状態のことを指し、その有効性は米グーグル社の調査でも明らかです。

 

そこでこの記事では、心理的安全性の定義や注目されている背景、メリットについて解説いたします。

 

また、心理的安全性の測定方法や具体的な施策についてもご紹介しますので、ぜひご覧ください。

 

心理的安全性とは

心理的安全性とは、「サイコロジカル・セーフティ(psychological safety)」を和訳したビジネスに関する心理学用語の一つです。

 

ハーバード大学で組織行動学を研究するエイミー・エドモンドソン教授が提唱した概念で、

「リスクのある発言・行動をしても拒絶や罰を与えられることなく、安全な場所であるとチームメンバー間で共有できている状態」

と定義されています。

 

簡単に言うと、「否定されるのかもしれない」「能力が低いと思われるかもしれない」といった、不安や恐怖を感じることなく、メンバー全員が自由に発言・行動できる状態のことです。

 

心理的安全性を確保すると意見交換が活発になるため、社内やチーム内のコミュニケーションが円滑になり、生産性が向上します。

 

心理的安全性が注目を集めている背景

心理的安全性が注目を集めるようになったきっかけは、米グーグル社が4年間にわたって実施した「プロジェクトアリストテレス」という大規模労働改革プロジェクトです。

 

プロジェクトアリストテレスのリサーチチームは、自社の180以上のチームを対象に、「どういった因子が生産性に影響を与えているのか」を調査しました。

 

その結果、

心理的安全性…不安を感じず、自由に発言・行動できる

信頼性…メンバー同士が信頼して仕事を任せ合える

構造と明瞭さ…目標や役割分担、実行プランが明瞭である

仕事の意味…自分の仕事に意義を見出している

インパクト…自分やチームの成果が組織にどう貢献するかを理解している

が生産性向上に大きく影響していることが判明しました。

 

そして、同プロジェクトの研究結果で「チームの成功には、心理的安全性が最も重要な要素である」と発表されて依頼、心理的安全性が高い注目を集めるようになったのです。

 

心理的安全性を確保することで得られるメリット

心理的安全性を高めると、どういったメリットを得られるのか見ていきましょう。

 

情報共有が盛んになる

心理的安全性の低い職場では、「どうせ聞き入れてもらえない」「こんなことを言ったら(聞いたら)怒られる」といった心理が働くため、情報共有がされづらいです。

 

一方、心理的安全性の高い職場では、自分の発言を否定される不安がありません。

分からないことやミスが発生したとき、早急に報告・連絡・相談ができれば、損失を最小限に抑えることができます。

 

また、意見やアイデアの発信も活発に行われるようになるため、生産性の向上はもちろん、新たな課題の発見やイノベーションの創出にもつながります。

 

パフォーマンスの向上

心理的安全性が高いと、互いを認め合い、尊重し合う価値観が従業員の間で共有されるためコミュニケーションが円滑になります。

 

チーム間での情報共有も素早く行われるため、メンバー同士で協力して仕事を進めるようになり、パフォーマンスが向上します。

 

ビジョンが明確になる

心理的安全性の高い職場は、従業員一人ひとりが臆することなく、自分の意見を発言できます。

 

組織の目標や課題に対する建設的な議論を行えるため、ビジョンが明確になりやすく、一致団結して目標達成を目指せます。

 

全員で同じ目標に向かえば、必然的に達成スピードも上がるでしょう。

 

エンゲージメントの向上

心理的安全性の高い職場は、従業員一人ひとりが安心して、考えや情報の共有を行うため、業務への不安が減ります。

 

また、自分の強みを発揮しやすくなるため、やりがいを感じて「この会社で長く働きたい」「この会社に貢献したい」と思うようになります。

 

エンゲージメントが向上すれば、おのずと離職率は低下するため、優秀な人材の流出防止に役立つでしょう。

 

実際、グーグル社のリサーチ結果によると、心理的安全性の高いチームはメンバーの離職率が低いです。

 

心理的安全性が低い職場で起こる行動特徴

エドモンドソン教授がスピーチフォーラム「TED」で発表した内容によると、心理的安全性の低い職場では、4つの不安と行動特徴を引き起こすとされています。

 

具体的には、

  1. 無知だと思われる不安
  2. 無能だと思われる不安
  3. 邪魔をしていると思われる不安
  4. ネガティブだと思われる不安

の不安を払しょくするために、「自己呈示行動」や「自己印象操作」を行い、本当の自分を偽って働いているのだそうです。

 

無知だと思われる不安

業務上で分からないことや相談したいことがあっても、「こんなことが分からないのか」と思われないか不安になることです。

 

自分が無知だと思われる不安から質問や相談ができなくなり、従業員同士のコミュニケーションが減少していきます。

 

質問・相談の減少は、ミスの誘発や大きなトラブルへの発展にもつながります。

 

無能だと思われる不安

業務などでミスをした際、上司や同僚に「こんなことができないのか」と思われないか不安になることです。

 

無能だと思われる不安から「ミスの報告を隠す」「自分の失敗を認めない」といった行動に出てしまい、大きなトラブルに発展することもあります。

 

邪魔をしていると思われる不安

ミーティングなどで自分の発言で議論が長引いたり、本題から外れたりした際、「あの人はいつも議論の邪魔をする」と思われないか不安になることです。

 

自分の意見が邪魔になることを恐れて、自発的な発言・提案をしなくなるため、新たなアイデアやイノベーションが生まれにくくなります。

 

ネガティブだと思われる不安

必要な指摘であっても「あの人はいつも意見を否定する」「消極的な人だ」と思われないか不安になってしまうことです。

 

改善提案などの前向きな指摘であっても、否定的な要素が含まれていると発言を躊躇したり、必要な指摘をしなくなったりします。

 

従業員が自由に発言・行動できない環境は、課題解決や生産性向上を阻む要因となります。

 

心理的安全性の測定方法

心理的安全性を高めるには、まず自社の現状を正しく把握することが重要です。

 

ここでは、心理的安全性の測定に有効な、エドモンドソン教授が提唱した7つの質問をご紹介いたします。

 

【7つの質問】

  1. チーム内でミスをすると、批判されることが多い
  2. チームのメンバー同士で課題や難しい問題を指摘し合える
  3. チームのメンバーは、自分と違うことを理由に他者を拒絶することがある
  4. チームに対してリスクのある行動を取っても安全である
  5. チームのメンバーに助けを求めづらい
  6. チームのメンバーに自分を陥れようとする人はいない
  7. チームで業務を進めるとき、自分のスキルや能力が発揮されていると感じる

 

7つの質問を投げかけ、ポジティブな回答が多ければ「心理的安全性の高いチーム」、ネガティブな回答が多ければ「心理的安全性の低いチーム」と判断できます。

 

なお、エドモンドソン教授は、「全くその通りだ」から「全く当てはまらない」までの1~7段階評価で調査を行っています。

 

質問項目は肯定形と否定形が混在しているため、

肯定形の質問(2・4・6・7)…「7⇒全くその通りだ」「1⇒全く当てはまらない」

否定形の質問(1・3・5)…「7⇒全く当てはまらない」「1⇒全くその通りだ」

で評価すると良いでしょう。

 

心理的安全性を高める具体策

心理的安全性を高めるには、4つの不安を取り除くことが大切です。ここでは、心理的安全性を高める具体策をご紹介いたします。

 

相互理解を深める

メンバー間の信頼関係を構築するには、相互理解が欠かせません。

 

1on1ミーティング

1on1ミーティングは、上司と部下で行う個人面談で週1回30分など、高い頻度で実施されます。

 

雑談を交えながら、仕事について思うことや得たこと、活かしていきたいことをざっくばらんに話します。このとき、上司は傾聴の姿勢を保ちましょう。

 

部下の話に真摯に耳を傾けることで、部下は「上司は自分を分かってくれる」「自分の意見をきちんと聞いてくれる」と安心できるため、本音で話しやすくなります。

 

 

多様な価値観を受け入れる

企業には、性別や年齢、国籍といった様々なバックボーンを持つ人たちが働いており、ライフスタイルや考え方、価値観は人それぞれ異なります。

 

そのため、従業員一人ひとりがそのことを十分理解し、受け入れようと努力する必要があります。

 

多様な価値観を受け入れ、互いに認め合うことで様々なアイデアや意見が生まれるでしょう。

 

互いに助け合う関係づくり

心理的安全性の高いチームは、互いに助け合う関係ができています。

 

こうした関係性を構築するには「弱みを補完し合って仕事を進めていく」「個人間の競争ではない」といった共通認識を持つことが重要です。

 

その上で、企業や組織、チームの目標を共有し、それぞれの役割を明確にしましょう。

 

メンバーのスキルや能力を共有すれば、お互いの得手不得手を把握できるため、助け合う関係づくりに役立ちます。

 

入社後のフォロー

新卒・中途問わず、新入社員は不安を抱えているため、入社後のフォローをしっかり行うことが重要です。

 

例えば、新卒社員には年の近い若手社員を1名つける「メンター制度」が適切でしょう。

 

仕事や人間関係、キャリアといった悩みを気軽に話せる存在がいれば、不安を軽減することができます。

 

中途社員の場合は、仕事内容や就業規則、人間関係など前職とのギャップに悩むケースが多いため、上司や他のメンバーが積極的に声をかけましょう。

 

既存の従業員からコミュニケーションを取ることで、安心感を与えられるため、新しい職場にも馴染みやすくなります。

 

風通しの良い組織づくり

役職や雇用形態といった立場の違いから、意見を言いづらいことも多いでしょう。

 

しかし、心理的安全性を高めるには立場に関係なく、コミュニケーションが取れる風通しの良い組織をつくる必要があります。

 

共通認識を持つ

風通しの良い組織をつくるには、ビジョンや目標、ルールを明確化し、共有することが重要です。

 

共通認識を持つことで、全員が同じ目線で意見を出せるため、社歴や役職、雇用形態といった立場にとらわれないコミュニケーションが実現します。

 

発言機会を平等に与える

一部のメンバーのみが発言している状態が続くと、他のメンバーが意見を言いづらくなるため、発言機会を平等に与えましょう。

 

ミーティングで自分から発言するのが苦手なメンバーには、上司やファシリテーターが「○○さんはどう思う?」のように意見を聞くことで、発言を引き出せます。

 

メンバー全員の意見にしっかりと耳を傾けることが重要です。

 

アイスブレイクの活用

緊張を感じる場面では、発言が抑制されてしまうため、まずはアイスブレイクで場を和ませましょう。

 

例えば、

  1. 上司やファシリテーターの自己紹介からスタートする
  2. プライベートな話題を織り交ぜて自己紹介する
  3. ミーティングの目的を伝える

といった話からスタートすると、場が和みます。

 

無理に笑いを取る必要はありませんが、メンバーの緊張感を解きほぐすと心理的安全性が高まります。

 

チェックイン・チェックアウト

チェックイン・チェックアウトは、ミーティングの最初や最後に時間を取って、参加者全員が発言する時間を確保する手法です。

 

例えば、

  1. 冒頭でメンバー全員が手短に近況を報告する(チェックイン)
  2. 終了後に全員がミーティングの感想や反省点を手短に話す(チェックアウト)

などが挙げられます。

 

冒頭で全員が話す「チェックイン」は、緊張感を和らげて活発な意見交換を促します。

 

最後に振り返りを行う「チェックアウト」は、各自の考えを共有できるため、相互理解が深まるでしょう。

 

ポジティブ思考の浸透

チームのメンバーそれぞれがポジティブな表現や思考をすることで、心理的安全性を高めることができます。

 

【上司やリーダー】

部下からの質問…「こんなことも分からないのか」と否定するのではなく、正しい知識を身につける姿勢を評価する

否定的な意見…拒絶するのではなく、問題解決に向けた前向きな意見として歓迎する

今必要としていない情報の提供…切り捨て捨てるのではなく、多角的な視点を持つ貴重な意見として受け入れる

 

【部下やメンバー】

ミスの報告…「無能と思われたらどうしよう」ではなく、自分が成長する機会と捉えて恐れず報告、アドバイスをもらう

否定的な意見…ネガティブな人と思われることを恐れるのではなく、現状打破や改善のきっかけになると考えて発言する

 

チームのメンバー全員がポジティブな志向で取り組めるようになれば、心理的安全性が急速に高まります。

 

チーム編成の見直し

施策を講じても心理的安全性が高まらなかった場合は、チーム編成の見直しを検討しましょう。

 

チーム内の人間関係が良好でない場合、コミュニケーションを上手く図れないことから、心理的安全性が高まりにくくなっている可能性があります。

 

サポートに重点を置いたマネジメント

心理的安全性を高めるには、メンバーのマネジメントを行う上司の能力が重要なポイントです。

 

グーグル社が従業員1万人を対象として行った「Project Oxygen」の調査結果によると、チームの生産性を高める上司には、以下の8つの特徴があることが分かっています。

 

【最高の上司の条件】

  1. メンバーにとって良いコーチである
  2. マイクロマネジメント(部下の業務を細部まで管理)をしない
  3. メンバーの成功やプライベートの充実、健康に関心を示す
  4. 生産的で成果主義
  5. 聞き上手で積極的にコミュニケーションを取る
  6. メンバーのキャリア開発を支援する
  7. 明確なビジョンや戦略を持っている
  8. チームのサポートに必要な専門知識やスキルを持っている

 

サポートに重点を置いたマネジメントを行うことで、メンバーの自発的な活動や心理的安全性を高めることが可能です。

 

心理的安全性を高める際の注意ポイント

心理的安全性を高める施策は、一歩間違えると「慣れ合い」や「過剰な配慮」につながるため、注意が必要です。

 

慣れ合いの関係ではない

心理的安全性が高まると緊張感が和らぐため、メンバー内のコミュニケーションを増やすことができます。

 

しかし、組織や仕事へのストレスが減ることで、勤労や目標達成への意欲、責任感が低下し、ぬるま湯的な環境に転じる恐れもあります。

 

中には、慣れ合いの関係を築こうとするメンバーもいるため、上司はメンバーの意識改革や現場管理も徹底して行わなくてはなりません。

 

メンバーごとに一定の責任や目標を与えた上で、定期的に面談を実施すると良いでしょう。

 

遠慮しすぎない

心理的安全性を高める目的で、メンバーに対して指示出しや指導、注意をしない上司もいますが、こうしたやり方は役割の放棄でしかありません。

 

上司が適切な指導や指示出しをしないと、メンバーが間違った方向に進むこともあるため、生産性やパフォーマンスの低下を招きます。

 

上司は、定期的に業務の進捗確認や目標達成に向けての軌道修正などを行い、適切に業務フォローしましょう。

 

心理的安全性の確保は企業に大きなメリットをもたらす

心理的安全性の高い職場は、他人の反応に怯えることなく、安心して発言や行動ができるため、生産性やエンゲージメント、定着率の向上につながります。

 

ただし、取り扱いを間違えると、ぬるま湯的な環境に転じたり、生産性が低下したりと逆効果になるため、注意が必要です。

 

まずは、ご紹介した7つの質問でチームの現状を把握するところから始めましょう。

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