複雑な事象を概念化して物事の本質を見極める「コンセプチュアルスキル」は、多様化・複雑化する現代のビジネス環境において、重要性が高まっている能力です。
特に、組織経営に大きな影響を与えるマネジメント層に求められる能力のため、「早期の段階から鍛えたい」と考える方も多いのではないでしょうか。
この記事では、コンセプチュアルスキルの概要や構成要素について詳しく解説いたします。
また、コンセプチュアルスキル向上によって得られるメリットや、鍛え方についてもご紹介しますので、ぜひご覧ください。
コンセプチュアルスキル(概念化能力)とは?
コンセプチュアルスキル(概念化能力)とは、知識や情報を整理分析して、複雑な事象を概念化することで物事の本質を理解する能力です。
複雑な事象の中から最適なものを見極めたり、解決策を導き出したりすることから、「本質を見抜く能力」とも言われています。
コンセプチュアルスキルは、マネジメント層に必要な能力の一つとして、米ハーバード大学の経営学者、ロバート・カッツ氏が提唱しました。
マネジメント層は、部門の目標達成はもちろん、新規プロジェクトの立ち上げや、重大な問題・課題の解決、部下の育成など多様な業務を行っています。難しい決断を迫られることも多々あるでしょう。
こうした業務を滞りなく行うには、コンセプチュアルスキルが欠かせません。
コンセプチュアルスキルを磨けば、経験や情報をもとに多くのことを学び、論理的思考で合理的に効率よく業務を進めることができます。
本質を見極めて、理にかなった斬新なアイデアを導き出すため、変化が激しく先を予測しづらい今の時代に重要性が増しているのです。
管理者に求められる3つのビジネススキル
参考:一般財団法人 日本科学技術連盟「マネジメント育成におけるカッツ・モデル」
カッツ氏が1955年に発表した「スキル・アプローチによる優秀な管理者への道」では、
- テクニカルスキル
- ヒューマンスキル
- コンセプチュアルスキル
の3つがすべてのマネジメント層に必要な能力として提唱されました。
そして、求められる能力のバランスは「トップ(経営者層)」「ミドル(管理者層)」「ロワー(監督者層)」のマネジメント層によって異なります。
カッツモデルの図でも明らかなように、「チームリーダーなどのロワー<部長などのミドル<経営者層のトップ」と、上位になるほどコンセプチュアルスキルの重要性は高まります。
では、それぞれの能力について見ていきましょう。
テクニカルスキル
テクニカルスキルは、業務遂行能力のことです。
職務や業務を遂行する上で必要となる能力のため、現場社員や技術者、マネジメント層では主任やチームリーダーなどの現場を直接監督する「ロワー」に多く求められます。
業界や職種によって様々ですが、
- 商品知識
- 専門知識
- 市場理解
- 加工・製造技術
- プログラミング技術
- 事務処理能力
などが挙げられます。
ヒューマンスキル
ヒューマンスキルは、対人関係能力です。
周囲と良好な関係を築き、円滑なコミュニケーションを実現する能力は、ビジネスパーソンに欠かせません。
そのため、カッツモデルにおいてもマネジメント層の階層にかかわらず、一定量の能力が必要とされています。
ヒューマンスキルの具体的な要素は、
- コミュニケーション力
- ネゴシエーションスキル(交渉力)
- プレゼンテーションスキル(提案力)
- ヒアリング力
- リーダーシップ
- コーチングスキル
などです。
コンセプチュアルスキル
コンセプチュアルスキルは、複雑な事象を概念化して物事の本質を見極める能力です。
経営に大きな影響を与える上位層になるほど、コンセプチュアルスキルの必要性は増していき、「トップ」に最も多く求められます。
コンセプチュアルスキルは、「地頭の良さ」といった先天的要素も強いですが、「ロジカルシンキング」や「ラテラルシンキング」「柔軟性」などの様々な要素も含まれます。
コンセプチュアルスキルを構成する14の要素
では、コンセプチュアルスキルにどのような要素が含まれているのでしょうか。
コンセプチュアルスキルを高めるためにも、構成要素と自分のレベルを把握するところから始めましょう。
1.ロジカルシンキング(論理的思考)
ロジカルシンキング(論理的思考)とは、物事を論理的に整理して説明できる能力です。
様々な立場の人たちが関わっているビジネスでは、一つの仕事に複雑な要素が絡まり合って、問題が発生することも多々あります。
ロジカルシンキングが身についていると、物事を体系的に整理して、筋道だった合理的な考え方ができるため、原因究明や解決策の策定に役立ちます。
課題解決や問題の対処を行う管理職にとって、欠かせない能力です。
2.ラテラルシンキング(水平思考)
ラテラルシンキング(水平思考)は、常識や固定概念にとらわれることなく、自由な発想で斬新なアイデアを生み出す能力です。
変化が激しく多様化するビジネス環境において、前例や固定概念の中でしか物事を考えられないと、新たな商品やサービスを生み出すことはできません。
ときには、常識にとらわれない型破りな発想も必要です。
3.クリティカルシンキング(批判的思考)
クリティカルシンキング(批判的思考)は、物事の問題点を特定・分析し、解決策を導き出す能力です。
「これは本当に正しいのか」「他に問題があるのではないか」のように、前提を疑って批判的に見ることで思考の偏りをなくし、本質的な問題や改善点を特定します。
リスクの少ない対処法や、根本的な解決策を導き出すために欠かせません。
4.多面的視野
多面的視野は、1つの物事を様々な角度からアプローチして新たな一面を発見する能力です。
顧客やビジネスパートナー、外国籍の社員など、自分と異なる立場や視点から多角的に物事を見つめることで、問題の本質や斬新なアイデアの創出につながります。
1つの問題に対して、複数のアプローチを検討できるようになるため、リスクヘッジの面でも有効です。
5.柔軟性
柔軟性は、臨機応変に対応できる能力です。
仕事にはトラブルがつきものですし、マニュアル通りにいかない状況になることもあります。
前例にとらわれることなく、その時々の状況に合わせて適切な対応ができる柔軟性は、リーダーシップを発揮する上でも欠かせない要素です。
6.受容性
受容性は、自分と異なる価値観を受け入れる能力です。
グローバル化が進んだ昨今、多様な価値観・考え方を持つ人たちと働く機会が増えたため、重要性は高まっています。
自分の意見に固執するのではなく、様々な意見に耳を傾けて比較検討することで、より良い解決策を導き出せます。
7.知的好奇心
知的好奇心は、未知なものに強い興味を示す能力です。
新しい価値観や未知なものに対し、興味を持って積極的に情報収集などを行って学んでいけば、新たなアイデアの創出や問題解決の糸口を掴むこともできます。
好奇心は、行動を起こす際の原動力となるため、新たなビジネスモデルや新規プロジェクトの創出にも役立つでしょう。
8.探求心
探究心は、物事に深い興味を示して情報収集し、成果が得られるまで粘り強く深掘りする能力です。
表面的な情報だけでなく、深い部分まで自発的に調べて考えを突き詰めるため、本質を見極めることができます。
より良い商品・サービスの創出や、専門的な知識・技術の習得に重要な能力の一つと言えるでしょう。
9.応用力
応用力は、知識や技術、経験を活用して別の物事に対応する能力のことです。
過去に得た知識や経験をもとに、課題や問題の解決にあたるため、素早い対応ができます。
日々課題解決にあたるマネジメント層には、必要不可欠です。
10.直観力
直観力は、物事を感覚的に捉えて瞬時に反応する能力です。
論理的な思考も欠かせませんが、ビジネスシーンでは経験をもとに生み出される直感やひらめきも重要です。
前例や常識にとらわれない自由な発想がブレイクスルーにつながることもあります。直感力と論理的思考のバランスが重要です。
11.洞察力
洞察力は、物事の本質を見極める能力です。
ビジネスで発生する問題は、様々な事象が複雑に絡まり合って発生することもあるため、表面的な情報のみで判断しても、根本的な解決にはなりません。
場合によっては、二次的なトラブルに発展する可能性もあるため、物事の本質を見極める洞察力は重要です。
洞察力は、応用力の基礎を支える能力でもあります。
12.俯瞰力
俯瞰力は、広い視野で物事を捉えて全体像を正確に把握する能力です。
適切な判断や新たな施策に取り組む際には、自分の置かれている状況や今後の見通しを見定めて、リスクや成功の可能性まで考慮する必要があります。
特にプロジェクトリーダーに求められる能力です。
13.チャレンジ精神
チャレンジ精神は、未経験の分野や困難な局面であっても、臆することなく挑戦する能力です。
最初から「できない」と決めつけては、チャンスを逃してしまいます。
前向きな姿勢で積極的に行動すると自分の成長だけでなく、周囲にも良い影響を与えられます。
14.先見性
先見性は、現段階では明らかになっていない結果や事象について、早期の段階から予測できる能力です。
複雑化・多様化するビジネス環境において高い精度で先を予測し、求められることやなすべきことを考える先見性は欠かせません。
プロジェクトの推進はもちろん、経営においても重要な能力です。
コンセプチュアルスキルの向上で得られるメリット
マネジメント層に求められるコンセプチュアルスキルは、組織が成長するために欠かせない重要なスキルです。
では、マネジメント層がコンセプチュアルスキルを高めると、どのようなメリットを得られるのでしょうか。
本質的な課題解決が実現する
ビジネスは、課題・問題解決の連続です。
コンセプチュアルスキルが低いと、本質を見極めることが困難なため、根本的な解決には至りませんし、二次的なトラブルに発展する場合もあります。
コンセプチュアルスキルを高めると、物事や課題の本質を見極められるようになるため、根本的な課題解決やプロジェクトの成功に役立ちます。
組織の方向性や業務の全体像を共有しやすくなる
コンセプチュアルスキルは、物事の構造を捉えて、その本質を理解する能力です。
マネジメント層が複雑な物事を構造化して分かりやすく伝えることで、メンバーは組織・チームの進むべき方向性や、仕事の全体像を理解できるようになります。
業務の目的や、やるべきこと、優先順位が明確になるため、一丸となって取り組むことができます。
生産性の向上につながる
組織の方向性や業務の全体像が共有できれば、各メンバーは業務の意義や自分の役割を正しく理解し、業務に取り組めるようになります。
そして、モチベーションやエンゲージメント向上には、「自分の業務にどういう意義があり、組織にどう貢献できるのか」への理解が欠かせません。
一人ひとりが目的意識を持ち、高いモチベーションで業務にあたれば、パフォーマンスが発揮されやすくなり、メンバー間でのフォローも活発化するため、生産性向上につながります。
イノベーションが創出されやすくなる
グローバル化やデジタル化が進み、ニーズが多様化した現代においては、これまでの常識が通用しなくなっています。
前例や固定概念にとらわれてしまうと、斬新なアイデアから生み出される新しい商品やサービスを提供するのは困難です。
ラテラルシンキングや多面的視野、柔軟性、チャレンジ精神といった能力要素を発揮することで、既存の価値観や方法に捉われないビジネスモデルを生み出すことができます。
コンセプチュアルスキル向上の取り組み
コンセプチュアルスキルの向上は、容易なことではありません。長期的に育成していきましょう。
階層別の研修
コンセプチュアルスキルは、すべての職位や階層で求められる重要な能力です。
しかし、現場従業員やチームリーダー、管理職、経営幹部では、立場や求められる役割が異なるため、スキルの重要度も発揮方法も異なります。
そのため、画一的な研修を実施するのではなく、「現場従業員向け」「チームリーダー向け」「管理職向け」「経営幹部向け」のように、階層ごとの研修を実施するのが適切です。
階層別に研修を実施することで、効率よく人材育成やスキル開発を行えます。
また、研修に先立って、コンセプチュアルスキルの診断テストを実施するのも良いでしょう。
誰がどういったスキルや特性を保有しているのか、早期の段階で把握しておけば、人材育成や人事戦略にも活用できます。
人事評価制度の構築
コンセプチュアルスキルを評価する制度を構築することも重要です。
というのも、高いスキルを持っていても、その能力を評価されなければ人材の有効活用ができません。
また、企業がどういう人材を求めていて、どうなってほしいのか、どうすれば評価されるのかが分からければ、スキルアップへのモチベーションも高まらないでしょう。
目標や目的が明確化されているほど、積極的に取り組めるようになります。
コンセプチュアルスキルと人事評価を連動させ、異動や配属に活用することで、スキルアップにつながります。
実践と内省を積み重ねる
コンセプチュアルスキルを高めるには、経験が欠かせません。
どれだけ知識を詰め込んでも、実際に経験してみないと分からない・得られないことは数多くあります。
業務や課題解決の体験を通して、自分の行動と結果を振り返り「なぜ成功(失敗)したのか」「そこから何を感じ、何を得たか」などを分析することが重要です。
内省を繰り返し行うことで、新たな気づきや成功の方程式を獲得できるため、応用力などのコンセプチュアルスキルに必要な能力を磨くことができます。
コンセプチュアルスキルへの理解促進
コンセプチュアルスキルを高めると、本質を見抜く能力を養い、物事を合理的に判断できるようになります。
組織の成長に重要な能力ですが、それゆえに「合理的すぎる」「発想が斬新すぎる」など、周囲からの理解が得にくくなる点には注意が必要です。
よって、コンセプチュアルスキルを鍛える際は、コンセプチュアルスキルの重要性や階層ごとに求められるスキルバランスについて、全従業員に理解してもらう必要があります。
コンセプチュアルスキルはこれからの時代に必須
コンセプチュアルスキルは、複雑な物事を概念化して本質を理解する能力です。
物事の本質を見出すことで、根本的な課題解決やプロジェクトの成功にも役立つため、マネジメント層に求められています。
コンセプチュアルスキルを構成する要素は多数あり、地頭の良さなど潜在的な要素も作用しますが、その多くは鍛えることで高めることが可能です。
ただし、短期的に習得できるものではないので、スキル習得の機会を提供して長期的な育成を試みましょう。