DX時代に必要な“リスキング”とは? 意味や取り組むメリット、実施のポイント、事例をご紹介

あらゆる産業でDXが進んでいる近年、時代にマッチしたスキルや知識を習得する「リスキング」への注目が世界的に高まっています。

 

日本企業でもリスキングに取り組む企業が増えているため、気になっている方も多いのではないでしょうか。

 

そこでこの記事では、リスキングの意味や注目の背景、メリットについて解説いたします。

 

また、リカレント教育やOJTとの違い、実施のポイント、企業事例もご紹介しますので、ぜひご覧ください。

 

リスキングとは

リスキングとは、新しい職業あるいは、今の職業で今後必要になるスキルの大きな変化に対応するため、新たなスキルや知識を獲得することです。

 

テクノロジーの進化に伴い、これまで人が行っていた様々な業務がロボットに置き換わると言われています。

 

デジタル化によってなくなる仕事がある一方で、新たに生まれる仕事や業務も発生します。

 

とはいえ、スキルや知識がなければ新たな業務に携わることはできません。

 

リスキングによりDX推進で求められるスキルや知識を身につけておけば、既存業務が終了しても、従業員は別の業務に携われます。

 

ちなみに、2020年1月に開催された世界経済会議(ダボス会議)では「第4次産業革命によって数年で8,000万件の仕事が消える一方、9,700万件の新たな仕事が生まれる」と発表しました。

 

また、同会議で「2030年までに全世界で10億人に対してリスキングを行う」と宣言されたことからも、リスキングの重要性は明らかです。

 

リカレント教育やOJTとの違い

リスキングと混同されすい用語に、リカレント教育やOJTがあります。

 

では、これらとリスキングにはどういった違いがあるのでしょうか。

 

リカレント教育とは、今ある業務を改善するためにスキルや知識を学び直すことです。

 

OJTは、実務を通して業務の流れややり方を覚え、スキルを身につける方法であり、どちらも今現在、社内にある業務に対する教育を指します。

 

一方リスキングは、今社内にはないが今後新たに出てくる仕事や、今現在できる人がいない仕事のために、新たなスキルや知識を身につけてもらう教育です。

 

リスキングが注目されている理由

ではなぜ、リスキングが注目されているのでしょうか。

 

DX(デジタルトランスフォーメーション)の推進

DXとは、デジタル技術を活用して、ビジネスモデルやプロセスを変革することです。

 

デジタル技術を用いることで、業務効率や生産性の向上、良質な商品・サービスの提供といったメリットが生まれます。

 

今後の事業運営には欠かせないものですが、これを実践するにはデジタル技術を扱える人材が必要です。

 

しかし、高度な専門技術を保有するデジタル人材は総数自体が少ない上に、DX推進によって今後さらに需要が高まります。

 

既存従業員に新たなスキルや知識を習得させれば、新規雇用をすることなく、DXを推進することができます。

 

 

新型コロナウイルス感染症の世界的大流行

新型コロナウイルスの感染拡大により、テレワークやオンラインでの面談・面接といった、非接触型の活動が急激に広まりました。

 

こうした働き方が定着したことで、新たに求められるスキルが多数出てきたため、リスキングが注目されています。

 

リスキングに取り組むメリット

では、リスキングに取り組むとどういったメリットを得られるのでしょうか。

 

アイデアの創出

新たなスキルや知識を身につけることで視野が広がり、これまでにない斬新なアイデアが生まれやすくなります。

 

生み出されたアイデアをヒントに新規事業や製品、サービスにつなげられれば、プロダクトライフサイクルの短期化にも対応できますし、業績アップも可能でしょう。

 

企業の持続的成長に欠かせない教育と言えます。

 

業務効率化

リスキングで得たスキルや知識を活用すれば、最新のデジタル技術を既存業務にも応用できるため、業務効率化も実現できるでしょう。

 

新たなアプローチで効率化が進み業務負担が減れば、その分従業員はコア業務に専念できますし、新たな業務に着手することもできます。

 

また、残業時間の削減にもつながるため、健康経営にも役立つと考えられます。

 

企業文化の継承

企業文化や社風は、従業員によって長い時間をかけて醸成されていくものです。

 

企業の存続には新規雇用も重要ですが、既存従業員に教育の場を提供しない企業は人が定着しづらいですし、人が定着しなければ企業文化も継承されないでしょう。

 

自社の文化や社風を把握している従業員であれば、リスキングで身につけた新たなスキル・知識をどんな風に自社に活かせるかイメージしやすいです。

 

そのため、リスキングで自社を熟知している従業員を育てれば、新規事業への取り組みもスムーズに進みやすくなります。

 

コスト削減

少子高齢化による労働人口の減少により、採用難易度は年々高まっており、労働市場も流動化が進んでいます。

 

こうした中で都度採用と教育を行うのは、企業としても非常に負担が大きいものです。

 

リスキングは教育に時間はかかるものの、既存従業員に新たなスキル・知識を身につけさせられます。

 

従業員は活躍の場が広がりますし、キャリアアップもしやすくなるため、定着率向上に役立つでしょう。

 

企業は高いスキルを持つ人材を保有できるため、戦略的な人員配置をしやすくなり、採用コスト削減につながります。

 

また、優秀な人材はスキルアップへの意欲が高い傾向にあります。

 

新しいスキル・知識を身につけるリスキングに注力する企業であることをアピールすれば、優秀人材も集まりやすくなるでしょう。

 

リスキング実施のポイント

ここでは、DXに欠かせないリスキングを行うにあたって、押さえておきたいポイントをご紹介します。

 

スキルの可視化

リスキングは、今後新しく生まれる仕事や、仕事の進め方が大きく変わる仕事で求められるスキルを習得してもらうものです。

 

そのため、

  1. どういう仕事でどんなスキルがどの程度必要になるのか
  2. 誰が何のスキルをどの程度のレベル保有しているのか

を明らかにすることが重要です。

 

スキルデータベースやスキルマップを構築すれば、自社で保有しているスキルや必要なスキルを把握できます。

 

今後展開する事業にはどういう仕事が生まれるのか、新規業務に携わるにはどういったスキルが必要なのかを明確にしたら、従業員の保有スキルを確認しましょう。

 

必要なスキルと現状の保有スキルのギャップが分かれば、「誰が何をいつまでに学ぶべきか」の計画が立てられるため、効率よくリスキングを進められます。

 

学習プログラムの用意・提供

スキルの可視化ができたら、次はそのスキルを習得させるための学習プログラムの用意です。

 

学習プログラムを自社で開発したいと考える企業も多いですが、外部のサービスも積極的に活用しましょう。

 

というのも、テクノロジーは日々進化しているため、内製化してもすぐにスキルが陳腐化してしまう可能性があるからです。

 

例えば、MicrosoftやAmazon、Googleといったデジタルインフラの提供会社では、自社製品を有効活用するための学習コンテンツやセミナーを豊富に提供しています。

 

外部のサービスも活用しながら、効率的に学習プログラムを進めていきましょう。

 

学習に伴走

リスキングを成功させるには、従業員一人ひとりの学習の進捗状況や理解度、学習歴の記録など、学習管理が重要です。

 

「学習管理システム(LMS)」を活用すれば、企業はもちろん本人も自分の学習状況や獲得スキルを確認できます。

 

学習の滞っている従業員に受講を促すことができますし、スキルに合わせた戦略的な人員配置も可能になるでしょう。

 

スキルを実践で活用

リスキングは、事業の変革によって必要となるスキルを従業員に習得してもらう教育なので、獲得したスキルを実践するプロセスが欠かせません。

 

スキルを使う機会がなければ忘れやすくなるため、できる限り早めに投入するのが望ましいです。

 

とはいえ、タイミングによっては見合う仕事がまだ存在しないこともあるでしょう。

 

ただちに新規事業やプロジェクトを始動できない場合、フィージビリティスタディ(プロジェクトの実現可能性の事前調査・検証)のような、小さなスタートでも問題ありません。

 

従業員への説明

リスキングは企業にとって重要な取り組みですが、新たなスキルや知識の習得に消極的な従業員は一定数いるものです。

 

肝心の従業員にその気がなければ、スキルも身につかないでしょう。

 

そのため、リスキングの重要性を明確に説明した上で、従業員のスキルに合わせたキャリアプランを提示するなどの取り組みも欠かせません。

 

モチベーションが維持される仕組みづくり

従業員の中には、途中でモチベーションが下がる人もいるため、モチベーションの維持にも取り組む必要があるでしょう。

 

例えば、

  1. リスキングによる成長を実感させる
  2. 同じ目的意識を持つ人同士で取り組ませる
  3. インセンティブを用意する

などです。

 

リスキングの事例

世界的に注目されているリスキングですが、他の企業ではどのように取り組んでいるのでしょうか。

 

ここでは、リスキングの事例についてご紹介します。

 

AT&T

アメリカの大手通信会社AT&Tは、一早くリスキングに取り組んだ企業です。

 

2008年の社内スキル調査によって、今後の事業に必要なスキルを持つ従業員は半数、残りは10年後に陳腐化するスキルしか持っていないことが明らかになりました。

 

この調査結果を受けてAT&Tでは、2013年から約10万人の従業員を対象としたリスキングのプログラムを開始しました。

 

リスキングに10億ドルを投資したものの、従業員のスキルレベルが向上したことで社内技術者の約80%が異動によって充足できるようになったそうです。

 

また、参加した従業員の昇進率も高まり、組織全体の離職率は約1.6倍低下しました。

 

Amazon

米アマゾンでは、1人当たり約75万円を投じて、2025年までに従業員約10万人を対象にリスキリングすると発表しました。

 

具体的には、

アマゾン・テクニカル・アカデミー…非技術系の人材を技術職に移行させるプログラム

マシン・ラーニング・ユニバーシティ…IT系エンジニアにAIなどの高度スキルを獲得させるプログラム

などの実施です。

 

日立製作所

日立製作所では、国内グループ企業の全従業員約16万人を対象に、DX基礎教育を実施しました。

 

なお、グループ会社の日立アカデミーでは、2020年に基礎教育プログラムの「デジタルリテラシーエクササイズ」を開発・提供しています。

 

富士通

2020年7月、富士通は時田社長の新体制のもとで、「ITカンパニーからDXカンパニーへ」を標語として、リスキングへの注力を宣言しました。

 

社会やお客様への提供価値の創造とDX企業への変革に向け、今後5年間で5,000億円~6,000億円を投じると発表しています。

 

リスキングでDX時代に対応

テクノロジーの進化に伴って、事業や製品・サービスのライフサイクルは短命化し、求められるスキルも変化しています。

 

DXが進む今後は、既存業務であっても仕事の進め方は大きく変化するため、時代に合ったスキルが求められます。

 

リスキングには時間やお金がかかりますが、得られるメリットも大きいため、今から取り組んでみてはいかがでしょうか。

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