労働者を新たに雇い入れる際は、契約期間や賃金といった労働条件が記載された「労働条件通知書」を交付しなくてはなりません。
雇用契約書と混同されることも多く、労働者にとって重要な書面のため、人事に関わる方は双方の違いや労働条件通知書の概要を把握しておきましょう。
作成方法や注意点についても解説していますので、ぜひご覧ください。
本記事で紹介している内容については、法令の変更などで情報が変更されることがあります。
厚生労働省のホームページ等もあわせてご確認ください。
▼厚生労働省
労働条件通知書とは
労働条件通知書とは、労働者と雇用契約を結ぶ際に交付する、労働条件(契約期間・業務内容・賃金・就業時間など)を記載した書面です。
労働基準法第15条第1項では、
“使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない。”
引用:e-Gov法令検索「労働基準法」
とされています。
また、労働基準法施行規則第5条では、労働時間や賃金といった労働条件を書面で交付するよう義務づけています。
よって、労働条件通知書は、雇用形態に関係なくすべての労働者に書面交付しなければなりません。
ただし、2019年4月から書面交付の義務が緩和されたため、現在では労働者が希望すれば電子メールやFAXなどによる交付も認められています。
労働条件通知書の目的
労働条件通知書の目的は、労働者の保護と労使間のトラブル防止です。
労働条件の通知は、労働者を不利な条件から保護するために、労働条件の最低基準を定める「労働基準法」「パートタイム労働法」「労働者派遣法」によって義務づけています。
当然、労働関係法令で定められた基準は満たさなくてはなりませんし、労働条件が実態と異なる場合、労働者は雇用契約の即時解除が可能です。
また、労働条件通知書を交付することで、企業側と労働者側の認識が統一されるため、トラブルの防止にも役立ちます。
雇用契約書との違い
そもそも雇用契約書とは、双方の合意により雇用契約が結ばれたことを証明する書類のことです。
労働条件通知書とは別に交付する企業もありますが、記載内容に大きな違いはないので、「労働条件通知書兼雇用契約書」として、ひとまとめで交付する企業も多いです。
では、労働条件通知書と雇用契約書にどのような違いがあるのでしょうか。
労働条件通知書 | 雇用契約書 | |
---|---|---|
主な法的根拠 | 労働基準法 | 民法 |
交付の義務 | 義務 | 任意 |
合意の必要性 | なし(一方的に通知) |
双方の合意が必要(署名・捺印が必要) |
労働条件通知書の交付は、労働基準法などにより定められている事業者の義務であり、交付を怠れば罰則の対象になります。
一方、雇用契約書は、雇用契約の内容が確認できるよう書面での交付を民法で推奨されていますが、あくまで推奨なので交付しなくても罰則を受けることはありません。
また、労働条件通知書は“労働条件を通知する書面”なので、企業から労働者に対して一方的に交付されます。
雇用契約書は、労使双方が“雇用契約に合意したことを証明する契約書”なので、署名・捺印が必要となります。
そのため、罰則規定はなくても、雇用後のトラブルを回避する目的で雇用契約書を取り交わす企業が多いです。
労働条件通知書の対象者
労働条件通知書は、法的に発行を義務づけられた書面です。
正社員・契約社員・派遣社員・アルバイトなど雇用形態を問わず、雇用する労働者すべてに対して、個別に交付する必要があります。
交付するタイミング
労働条件通知書の交付時期に関しては、労働基準法で「労働契約の締結時」と定められているため、就業する前に交付する必要があります。
交付するタイミングは企業によって異なりますが、
- 新卒の場合…正式な内定まで
- 中途の場合…入社当日まで
です。
内定は「始期付解約権留保付労働契約」と呼ばれ、労働契約が成立していることから、採用内定時に交付するのが望ましいでしょう。
なお、労働契約の締結はあくまで入社当日のため、中途採用の場合は入社当日に労働条件を交付する企業が多いです。
もちろん、入社日以前に交付することも可能ですし、労働者の立場からすれば事前に交付してくれた方がありがたいでしょう。
労働条件通知書に記載するべき事項
労働基準法では労働条件の明示を義務づけており、その中には「絶対的明示事項」と「相対的明示事項」の2種類があります。
絶対的明示事項
絶対的明示事務事項とは、必ず書面で明示する必要がある項目です。
具体的には、
- 契約期間
- 期間に定めのある契約を更新する場合の基準
- 就業場所・従事する業務
- 始業・終業時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間、休日・休暇、就業時転換
- 賃金の決定・計算・支払い方法、賃金の締め切り・支払い時期、昇給
- 退職(解雇の事由を含む)
に関する事項です。
このうち、昇給に関する事項以外は、書面交付による明示が義務づけられています。
なお、パートタイム従業員の場合、昇給・賞与・退職手当に関する事項や、短時間労働者の雇用管理改善などに関する相談窓口についても明示しなくてはなりません。(パート労働法6条)
労働条件通知書は原則書面による交付ですが、FAXでの送信もしくは、メールやSNSによる交付も認められています。
ただし、電磁的方法による通知は労働者が希望する場合に限るため、企業側の判断で勝手に送ることはできません。
相対的明示事項
相対的明示事項とは、就業規則に定めがある場合にのみ明示が必要となる事項です。
具体的には、
- 退職手当が適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算・支払い方法、支払い時期
- 臨時に支払われる賃金、賞与、手当など
- 労働者に負担させるべき食費、作業用品など
- 安全および衛生
- 職業訓練
- 災害補償および業務外の傷病扶助
- 表彰および制裁
- 休職
に関する事項です。
相対的明示事項の場合、書面はもちろん口頭での明示でも問題ないことになっています。
しかし、労働条件明示の趣旨を考えると、後の労使トラブルを防止するためにも、書面や電子通信による通知などで明示した方が安全です。
労働条件通知書の作成方法
労働条件通知書の様式に決まりはありませんが、厚生労働省が雇用形態に合わせたテンプレートを公開しています。
ここでは、厚生労働省のテンプレートに沿って、労働条件通知書の作成方法をご紹介します。
厚生労働省:「労働基準法関係主要様式」
契約期間
契約期間の項目には、期間の定めの有無を選択する欄があります。
該当する方に〇をつけた上で、契約期間に定めがある場合は「2022年4月1日~2023年3月31日」のように、始期と終期を明記してください。
有期労働契約の期間は原則3年が上限です。
相当の理由がないと途中解約はできないため、1年ごとの更新にしておくのが良いでしょう。
「契約更新の有無」と「契約更新の基準」についても記載する必要があります。
高度専門職や高齢者など、無期転換ルールの特例に該当する場合は、その旨も明示します。
就業の場所
当該労働者の具体的な勤務地(住所)を記載します。
雇い入れ直後に就業する場所のみで構いませんが、転勤の可能性がある場合は、その旨を併記しておくと良いでしょう。
在宅勤務などが発生する場合は、勤務地の住所と合わせて「会社が想定した就業場所」と記載します。
従事すべき業務の内容
「営業」「企画」「販売」のように、当該労働者が従事する業務を記載します。
業務内容の詳細を記載しても良いですが、「その他雑務」「その他付帯する業務」などの表現を用いた方が無難です。
始業、終業の時刻、休憩時間、就業時転換
「始業:9時00分/終業:18時00分」「休憩時間:60分」「所定時間外労働の有無:あり」など、具体的に記載します。
変則的な労働時間が適用される場合は、
- 変形労働時間制…適用する単位を明示した上で、原則となる勤務時間を記載
- フレックスタイム制…フレキシブルタイム・コアタイムを記載
- 裁量労働制・事業場外みなし労働時間制…労使協定の内容を説明
が必要です。
なお、変形労働時間制やフレックスタイム制の労働時間も、週平均40時間(特例措置事業所の場合は44時間)までに設定しなくてはなりません。
変形労働時間制の場合、将来シフトパターンが変更になるケースもあります。
「具体的な勤務日時は、シフト表などの文書で事前に通知」などと併記しておけば、変更にも対応しやすくなります。
「休憩時間」や「所定時間外労働の有無」についても明示してください。
労働時間が6時間を超える場合は45分、8時間を超える場合は60分の休憩を与えることと定められています。
休日・休暇
「当社カレンダーによる」の記載でもOKです。
休日は週1日以上もしくは、4週間で4日以上を与えなくてはなりません。
また、年単位の変形労働時間制の場合、年間休日を記載する必要があります。
年次有給休暇については、パートタイム労働者にも所定労働日数に応じて付与しなくてはなりません。
6カ月未満で年次有給休暇を付与する場合は、具体的な条件を明示します。
賃金
基本賃金と諸手当は別々に記載し、手当の計算方法も明示します。
月給や日給制の場合、時給換算の賃金が最低賃金を下回らないよう注意してください。最低賃金は秋ごろに改定されるため、毎年確認しましょう。
賃金締切日・支払日・支払い方法も明示します。
パートタイム労働者の場合、昇給・賞与に関する事項の明示が義務づけられているため、必ず明記してください。
正社員は任意ですが、同様に記載しておくと良いでしょう。
退職に関する事項
定年制や継続雇用制度の有無とその年齢、自己都合退職の手続き方法、解雇事由と手続き方法について、明示します。
民法第627条では、期間の定めがない雇用の場合「労働契約の解約は、申し入れの日から2週間を経過することで終了する」と定められています。
とはいえ、引き継ぎや後任者探しなどを行う必要があるため、自己都合退職の届出期限は「退職する1カ月以上前に届け出ること」と定めている企業が多いです。
その他
社会保険の加入状況や雇用保険の適用に関する事項を記載します。
労働条件通知書で明示する義務はないものの、労働者にとって重要な事項であるため、できる限り明示しましょう。
なお、パートタイム労働者の場合は「雇用管理の改善等に関する事項に係る相談窓口」を明記しなければなりません。
労働条件通知書の注意点
ここでは、労働条件通知書を交付する際、注意すべき点についてご紹介します。
明示事項の内容が膨大になる
企業によっては、労働条件通知書に記載する内容が膨大になることもあるでしょう。
労働条件通知書の様式に決まりはありませんし、
という通達もされています。
そのため、すべてを労働条件に書き込むのではなく、就業規則の該当箇所を明確にした上で配布する企業も多いです。
労働条件の明示を怠ると罰則の対象となる
労働条件の明示は雇用主に課された義務です。
明示義務に違反した場合、労働基準監督署から指導や勧告を受ける可能性があります。
罰則として30万円以下の罰金が科されることもあるので、注意が必要です。
また、明示した労働条件(絶対的明示事項・相対的明示事項)と実態が異なる場合、労働者からの即時契約解除が可能です。
労働条件の明示が正しく行わなければ、労働者に不信感を与えますし、SNSなどでコンプライアンスへの意識の低さが世間に知れ渡ることもあるでしょう。
企業のマイナスイメージは、採用活動だけでなく本業にも悪影響を及ぼす可能性があるため、法令に従って正しく交付することが大切です。
退職後も保管義務がある
労働条件通知書は、当該労働者の退職もしくは、死亡した日から3年間保管しなくてはなりません。
※2020年4月の労働金法改正により、労働条件通知書を含む労働関係書類の保管期間は、5年間に延長されています。
経過措置として「当面の間は3年間の保管でOK」とされていますが、保管期間の延長は決定事項なので経過措置終了後に慌てないよう準備しておきましょう。
外国人労働者にも交付する
労働基準法は、日本国内で働く労働者すべてに適用されます。
労働条件通知書は、労働基準法によって交付が義務づけられているため、外国人労働者に対しても交付しなければなりません。
外国人労働者が内容を理解できるよう、英語や母国語の労働条件通知書を交付しましょう。
また、海外では契約書が重要視されるため「労働条件通知書兼雇用契約書」を作成・交付すると、労使トラブルの回避に役立ちます。
電磁的方法による交付の注意点
2019年4月の法改正により、FAXまたは電子メールなどでの交付が可能になりました。
ただし、
- 従業員が希望していること
- 特定の受信者宛の電気通信であること
- 出力して作成できること
- 到着確認を行うこと
が条件です。
電磁的方法による交付は当該従業員の希望ありきのため、同意なしに交付できません。
雇用する従業員の希望を個別かつ明示的に確認しましょう。
労働条件通知書は、電子メールになどの受信者を特定してやり取りができる電気通信を用いる必要があります。
ブログのような、第三者がアクセスできるようなところへの交付は認められていません。
また、電子メールやSNSを利用する場合、印刷可能な状態にして送付する必要があるため、添付ファイルを用いましょう。
FAXや電子メールといった電磁的な方法は、労働者側の受信設定や何らかのトラブルにより、送付した労働条件通知書が届いていないこともあります。
そのため、電磁的方法で交付した場合は、送付後に必ず到着確認をしてください。
労働条件通知書は忘れずに交付しましょう
労働条件通知書の交付は、法令で定められた雇用主の義務です。
違反すると罰金を科されたり、従業員とのトラブルに発展したりする可能性もあるので、明示するべき事項を漏れなく記載し、法令に従って正しく交付しましょう。
労働者が希望すれば、メールやSNSなどで交付することも可能です。
効率化にもつながるため、雇用する労働者には積極的に確認しましょう。