近年、1対1で指導を行う「メンタリング」を導入する企業が増えていますが、上手く活用できていない企業も多いです。
メンタリングには様々な効果が期待されていますが、デメリットや実施時の注意点も存在します。
そこでこの記事では、メンタリングへの理解を深めるために概要やメリット・デメリット進め方について詳しく解説します。
メンタリングを行う際に押さえておきたいポイントについてもご紹介しますので、ぜひご覧ください。
メンタリングとは
メンタリングとは、「メンター(指導する側)」が「メンティ(指導される側)」と対話することで、教育や指導を行う育成方法のことです。メンター制度とも呼ばれています。
業務に関する支援だけでなく、心理面や思考面もサポートすることで、自発性や自律性の促進を目的としています。
メンタリングは、上司と部下のような指示命令によるマネジメントではありません。
メンティが抱えているキャリアや人生の悩みに共感し、対話によってメンティ自身に気づきを促すことがメンターの役割です。
そのため、一般的にメンタリングでは、メンティのロールモデルとなる先輩社員がメンターを務めます。
メンタリングとコーチングの違い
コーチングは、1対1の対話によって対象者の気づきを促す人材育成方法で、指導する側を「コーチ」、指導される側を「クライアント」と言います。
どちらも似たような育成方法ですが、メンタリングとは扱うテーマが異なります。
コーチングは、業務目標の達成・実現といった職務に関する課題に限定されるのに対し、メンタリングで支援するテーマは、キャリアや人生など職務内容に限定されません。
そのため、主にコーチングでは目標の実現に向けた「行動支援」を行い、メンタリングでは行動支援に加えて心理面や思考面といった「精神支援」も行います。
また、メンタリングは中長期的なキャリアの形成を目的として実施されるため、コーチングよりも取り組む期間は長いです。
メンタリングとコーチングでは、指導者の選出にも違いがあります。
コーチングは、職務に関する課題の解決を目的とするため、直属の上司がコーチとして育成を行うことが多いです。
一方、メンタリングはメンタル面の支援も行うため、メンティが気兼ねなく話せる他部署の先輩社員を選出します。
メンタリング・マネジメントとは
メンタリング・マネジメントとは、メンタリングを取り入れることで、生産性を高めようとする経営手法のことです。
一般的には、中途を含めた新入社員を対象として実施されますが、近年では管理職やリーダーの育成でも活用されるようになりました。
メンタリングを行うメリット
では、メンタリングを実施するとどういった効果があるのでしょうか。
従業員の主体性が向上する
メンタリングの導入は、従業員の主体性向上につながります。
というのも、メンタリングでは手取り足取り教えることはしません。
メンティが自分自身で結論を導き出すことが重要なので、メンターは対話やアドバイスで気づきを促します。
よって、メンタリングで指導を受けた従業員は、答えを待つ受け身の姿勢ではなく、自分で考えて行動する習慣が身につくため主体性の向上につながります。
メンタリングが定着すれば、目標の設定や達成に向けた計画の策定、実行まで主体的に行うようになるでしょう。
メンタル面のケア
令和2年労働安全衛生調査(実態調査)結果の概況によると、「仕事や職業生活が強い不安やストレスなっていると感じる事柄がある」と回答した労働者は 54.2%です。
仕事上の強いストレスや不安は離職につながりますし、精神や肉体の健康を損ねることもあります。
メンタリングでは、職務に関する内容はもちろん、メンタル面に関する対話も行うためメンティが抱えている精神面・健康面の問題を早期発見できます。
悪化する前に対処できれば、従業員の心身の健康を守れますし、離職率の低下にも役立つでしょう。
メンティ自身にとっても、社内に相談できる人物がいるのは、心理的に大きな拠りどころとなるはずです。
メンターの成長につながる
メンタリングは、メンティだけでなくメンターの成長にも役立ちます。
メンタリングではメンティの話に耳を傾け、相手の気づきを促すようサポートする必要がありますし、そもそも悩みを引き出すにはメンティとの信頼関係が欠かせません。
メンタリングでは、メンティと密接にコミュニケーションを取るため、ヒアリングと信頼関係の構築に必要なコミュニケーションスキルや指導力が高まります。
また、メンターの役割を自覚することで、ロールモデルとして恥ずかしくないよう振る舞うようになるので、発言や行動も変わってくるでしょう。
能力や精神の成長につながるため、リーダー候補をメンターに抜擢するのも一つの手です。
メンタリングを行うデメリット
メンタリングにはデメリットも存在します。
メリットとデメリットを把握した上で、導入を検討しましょう。
メンターへの負担が大きい
メンタリングは、密接なコミュニケーションを長期間にわたって行います。
通常の業務に加えて、定期的な面談や相談対応といった業務が求められるため、メンターにとっての負担が大きくなります。
また、メンティの精神的なケアも行うとなれば、メンターの心理的負担は大きくなるでしょう。
業務量や精神面の負担増加により、通常業務に支障をきたす可能性が考えられるため、
- メンターの業務量を調整する
- 相談は面談中のみに行う
など、一定の配慮が必要です。
教育効果に個人差が出る
メンタリングは精神的なケアも行うため、マニュアルのように教育の内容や方法を統一化することはできません。
メンター自身が試行錯誤しながら、メンティに合う方法を見つけていかなくてはならない上に、価値観やアプローチ方法もメンターによって様々です。
そのため、メンターによって教育効果に差が出てしまいます。
効果測定が困難
メンタリングのデメリットには、効果測定の困難さも挙げられます。
メンタリングはメンティの悩みや課題解決をサポートし、自律性や自発性の促進を目的としていますが、メンターの取り組みでどの程度改善したのかを測定するのは困難です。
また、精神状態の測定も難しいため、メンタルケアの効果を検証することもできないでしょう。
メンティへのアンケート調査などを行い、「メンターの負担増加ばかりで効果が出ているのか分からない」といった事態を避けましょう。
メンタリングの進め方
ここでは、メンタリングの導入手順についてご紹介します。
課題の整理と目的の明確化
目的が曖昧な状態で始めても、十分な効果は得られないため、課題の整理と目的の明確化を行いましょう。
例えば、女性の活躍推進を目的とする場合、ポジティブ・アクションのテーマ(職域拡大・管理職登用・継続就業)ごとに課題を整理すると、具体的な目標やメンティの対象者が見えてくるはずです。
効果測定を行うためにも、意識変化などの定性的な目標だけでなく、女性の管理職比率や離職率といった定量的な目標も設定しましょう。
運用ルールを策定する
メンタリングは一部の従業員同士で行われるため、周知が不十分な場合、当事者たちが周囲の従業員から誤解される可能性があります。
メンタリングを運用する際は、ある程度ルールを策定した上で、社内周知を行ってください。
社内ルールの策定では、
- メンタリングでの内容を口外しない「守秘義務」の徹底
- メンタリングで不都合が発生したときの「相談窓口」の設置
- メンタリングを業務の一環と位置づけ、原則「就業時間内」行う
の3点を必ず定めましょう。
加えて、
- メンタリングの期間
- 面談の頻度や面談時間
- コンタクト方法(対面・Web面談など)
- 話し合う内容(ペアの任意・メンティからメンターへ提示など)
- 面談後の進捗フォロー(面談後に毎回報告など)
- メンタリング期間終了後の行動(対象者にアンケートを実施など)
- 支援策(食事代や通信費の負担など)
などを必要に応じて定めておくと、スムーズです。
メンター・メンティの選定とマッチング
メンターとメンティは、目的に照らし合わせて選定し、自薦や他薦で候補者を絞っていきます。
メンタリングを成功させるには、両者の関係性が重要となってくるため、メンターには、高い能力や豊富な経験、育成への情熱、誠実さなどの要素が求められます。
一方メンティには、キャリア開発への意欲やコミュニケーションスキル、行動力といった要素が必要となるでしょう。
その上で、
- 直属の上司や先輩以外がメンターになっているか
- メンティのキャリア志向とメンターの経歴が合うか
- メンティの能力開発のポイントを補強できるか
を考慮する必要があります。
メンティが評価を気にせず相談でき、期待に応えられる人材をアサインすることが重要です。
事前研修の実施
メンターとメンティには、メンタリングを実施する意義や目的を理解してもらうため、事前研修を行いましょう。
事前研修では、
- メンタリングとは何か
- メンタリングの目的や理由
- メンタリングの進め方やルール
- メンタリングで話し合う内容
- 問題発生時の対処法
- メンタリング成功の秘訣
といった内容について取り上げると、メンタリングへの理解が深まるため、スムーズに進みます。
メンタリングの実施
メンタリングは、当事者間の関係性に応じて、
- マッチングされたばかりの「初期段階」
- 関係性が深まっていく「深化段階」
- メンター関係終了の「解消段階」
の3つのステップに分けられます。
初期段階では、自己紹介や目的、目指すものなどを確認し、互いへの理解を深めます。
深化段階は、メンティが期間中に取り組む目標を達成するための具体的な活動や支援を行う段階です。
しっかりとコミュニケーションを取り合い、新たな懸念が生まれていないかどうかも確認しましょう。
解消段階では、メンタリング期間に行った内容を振り返り、達成度合いを確認します。
一般的に、メンタリングは6カ月~1年程度かけて行います。
1カ月目:初期段階、2~5カ月目:深化段階、6カ月目:解消段階のように決めておくと、「初期段階に時間をかけすぎてしまった」という事態を防げるでしょう。
メンタリングを導入する際のポイント
最後に、メンタリングを導入する際のポイントについてご紹介します。
守秘義務の遵守
メンタリングではセンシティブな内容を扱うこともあるため、守秘義務の遵守が欠かせません。
万が一面談の内容が第三者に漏れると、信頼関係が崩れてしまい、その後の面談に大きな支障が出ます。
会社自体に不信感を抱いた場合、担当が変わっても本音を話してくれなくなったり、離職したりする可能性が高まります。
無用なトラブルを避けるためにも、必ず守秘義務は遵守してください。
また、コンプライアンスへの抵触やハラスメントといった事象が疑われる場合、社内への迅速な共有が必要となります。
ただし、基本的にはメンティ自身で動いてもらう必要があるため、本人からしかるべき部署や担当者に連絡してもらいましょう。
メンターが共有する場合は、必ず本人から同意を得てください。
メンタリングの主役はメンティであることを肝に銘じる
メンタリングの主役はメンティです。
メンターはメンティ自身が悩みや課題を解決できるよう、アドバイスをする立場なので、自分のやり方や考えを押しつけたり、答えを出したりしてはいけません。
このような一方的なコミュニケーションを行っても、メンティの成長にはつながりませんし、信頼関係の構築にも支障をきたすことがあります。
メンティの本音を引き出す質問をするなど、じっくりと時間をかけて密接なコミュニケーションを取り合いましょう。
評価に直結させない
メンタリングの内容を評価に直結させるのは厳禁です。
せっかく勇気を出して話してくれたにもかかわらず、その内容がきっかけで評価が下がったら、メンターだけでなく企業にも強い不信感や不快感を抱くでしょう。
一度失った信頼関係は並大抵のことでは復活しません。
メンティの心理的安全性を確保するためにも、メンティの部署以外の先輩社員をアサインするなど、利害関係のない人を選定するのが適切です。
定期的な振り返りとフィードバック
メンタリングは面談回数が増えるにつれて、多様な話題が出てきます。
目的が曖昧になってしまうこともあるので、確認も踏まえて定期的な振り返りとフィードバックの実施が重要です。
定期的な振り返りと的確なフィードバックを受けることができれば、メンティの意識が高まり、成果も出やすくなるでしょう。
メンタリングで従業員をサポート
メンタリングは、メンターが対話によってメンティの気づきを促すため、自分で考えて行動するようになります。
また、メンティの抱えている問題にいち早く対処できますし、社内に相談できる人物がいるのは、メンティ自身にとっても心強いでしょう。
心身の健康を守り、従業員の成長につながるため、メンタリングを導入してみてはいかがでしょうか。