新たな仲間の入社は、企業や組織に新しい風を吹き込む絶好の機会です。
しかし、新人教育にかかわる人事担当者や教育担当者にとっては、期待と同時に悩みの種となることがよくあります。
- 一生懸命教えているにも関わらず、なかなか理解してもらえない
- 新人教育にリソースを取られ、他の業務が滞る
- 新人教育中または仕事を覚えた直後に離職してしまう
このような経験をしたことのある人事担当者もいるでしょう。
今回は、新人教育で生じるストレスの主な原因とその対策について解説します。
新人教育の担当者が身につけたいスキルや、新入社員のやる気を高める方法も紹介しますので、ぜひお役立てください。
新人教育はなぜイライラする?ストレスの理由
引用:東京商工会議所「企業における採用・人材育成・教育支援に関するアンケート調査結果」
新人教育を行うなかでイライラやストレスを感じることもあるでしょう。
特にOJT(On The Job Training)の場合、新入社員との距離も近いので、ふとしたことでイライラする人もいます。
では、なぜ新人教育でイライラやストレスを感じるのでしょうか?
東京商工会議所が行った「企業における採用・人材育成・教育支援に関するアンケート調査」を参考に、人材育成の取り組みにおける課題について見ていきましょう。
新人教育の仕組みが整っていない
新人教育は、教育担当者に大きな負担がかかります。
商工会議所の調査でも、多くの企業が人材育成の取り組みにおける課題として「計画的・体系的に行っていない」ことを挙げています。
特に中小企業では、課題であると回答した企業が45%にものぼりました。
教育担当者に対するサポート体制が整備されていない場合や、新人教育の段取りが不明確な状況では、担当者の負担が増える一方です。
新人教育の責任と悩みを一人で背負うことになり、結果的に精神的な疲労が生じてしまいます。
さらに、担当者が不在の際は教育の進行がストップしたり、他の社員が急に指導することになったりすることもあります。
急な予定変更に対応する必要があるため、教育担当者以外の社員も疲労やストレスが溜まるでしょう。
教育係にかかる負担が増える
中小企業の35%、大企業の45%が「多忙で時間の余裕がない」という課題を抱えています。
新人教育は、通常業務と並行して行われることが一般的です。
上司や先輩、人事担当者がビジネスマナーの習得や業務の進め方を総合的にサポートします。
教育担当者は、通常業務に加えて新人の教育や業務のフォローもこなさなくてはならないため、負担が増大します。
業務が増えることで、残業も増えることも懸念点です。
負担の大きな生活が続くほど、心身にストレスがかかります。特に責任感の強い人は、新人教育と通常業務の両方を完璧にこなそうとするあまり、疲れてしまうのです。
価値観や認識が異なる
私たちは一人ひとり異なる価値観を持っています。
価値観や認識にズレがあるとコミュニケーションエラーが起こりやすくなり、教育疲れにつながります。
例えば、新入社員が思う“期待されていること”と、上司・先輩社員が新入社員に対して“期待していること”が異なれば、取るべき行動にもギャップが出ます。
「新人が考えていることが理解できない」「期待通りの反応が得られない」という悩みや疲労感は、このような考え方のズレが関与している可能性が高いです。
教える技術が不足している
教育担当者の知識やスキルの不足も、新人教育で疲れる原因の一つです。
どのような教え方や説明が良いのかわからないと、悩むことが多くなります。
理解しやすい方法で教えることができないため、何度も同じことを説明しなければならず、時間と労力がかかります。
さらに、新人の成長にも悪影響をもたらす可能性が高いです。
反対に、手取り足取り、細かな部分までサポートをしすぎて、新人が独り立ちできない場合もあります。
教育期間が長引けば、教育担当者は長期間にわたって指導しなければなりません。その結果、体力と気力を消耗することとなります。
新人に基本的な知識・スキルが備わっていない
新人の育成は、教育担当者や配属先の管理者が果たすべき役割です。
とはいえ、新人に基本的な知識やスキルが備わっていなければ、教育は難しくなります。
主に新人の知識やスキル不足の原因として考えられる要因は、以下の2点です。
- 入社研修時の教育不足
- 採用のミスマッチが発生している
入社後の研修で、基本的な知識や業務全般のスキルをきちんと身につけないと、配属先で教育が必要な内容が増えます。
また、企業が求めるスキルやポテンシャルを持たない人材を採用した場合、スキルマッチしている人材と比べて多くの教育が必要です。
このように、教えなくてはならない内容が多いほど負担が増えるため、イライラしやすくなります。
新人教育に向いていない人
多くの企業では新人教育にOJTを取り入れています。
しかし、適性や新入社員との相性を考慮せずに教育担当者を決めた場合、適切な運用が困難になります。
例えば、新入社員のやる気を低下させたり、通常業務が滞ったりするかもしれません。
否定から入る人
OJTの指導者は、新入社員を業務に慣れさせ、独り立ちできるようにサポートすることを求められます。
しかし、否定から入る人が指導者になった場合、新入社員は途中でやる気をなくして、消極的になる可能性が高いです。
新入社員がミスや失敗をした場合でも頭ごなしに否定をせずにしないよう、注意しましょう。
「この部分は良くできているけれど、ここはもっと○○できるとより良くなると思う」のようにアドバイスをすると、モチベーションアップにつながります。
自分の仕事を優先する人
OJTの指導者は通常業務と並行して、新入社員の教育を行います。業務量も増えるため、「仕事の邪魔だ」と感じてしまう人もいるでしょう。
しかし、指導者が新入社員の教育をおろそかにすると、教育の質が低下して、新入社員の成長に影響を及ぼします。
指導者には教育担当としての使命を理解し、新入社員の成長を優先する姿勢が求められるでしょう。
ただし、指導者のみが熱心に教育に注力しても、望むような成果が得られない場合もあります。指導者が新入社員の教育に専念するためには、会社側の配慮も必要不可欠です。
仕事のやり方を押し付ける人
業務を教えるときに、自分が業務を通じて得たコツややり方を教えることは問題ありません。
先輩社員の声は、新入社員にとってもプラスになります。
しかし、自分の仕事のやり方を押し付けることはNGです。特に自分流のやり方は、教えられる側にとって、不安要素になりかねません。
また、業務を教えずに「見て覚えて」という考えの人もOJTには不向きです。
まずは決まったやり方を規定通りに教え、その上で自分が経験した上でのコツをアドバイスすると、安心して効率よく実務に取り組めます。
新人教育に向いている人
- 一方、新人教育に向いているのは、大きな視点で指導できる人
- 適切な言葉で良い点・悪い点を伝えられる人
- 日常業務をそつなくこなせる人
- 柔軟な考え方を持っている人
です。
新人教育に向いている人を指導者に任命すると、新入社員が安心して業務に取り組める環境を作れます。
大きな視点で指導できる人
OJTには、単に業務を教えるだけでなく、新入社員を企業の一員として育成する目的もあります。
そのため、具体的な作業手順を伝えるだけでなく、業務の位置づけや、その業務が組織全体にどのような影響を及ぼすかといった、より広い視野で指導することが望ましいです。
全体的な視点から新人教育を行うことで、新入社員も安心感とやりがいを感じられるでしょう。
適切な言葉で良い点・悪い点を伝えられる人
新入社員に対して、適切なアドバイスができる人も教育担当に向いています。
良かったところは積極的に褒め、どこが良かったのかを細かく伝えることが重要です。
漠然と「良かった」と褒めるのではなく、「この部分がしっかりとできていた」など、具体的に伝えましょう。
また、改善点や悪い部分の伝え方には注意が必要です。
頭ごなしに叱ると、相手が嫌な思いをするだけでなく、業務の改善にもつながりません。
良かった部分を褒めた上で「次はこの部分を改善すると、もっと良くなると思いますよ」など、具体的な改善点を柔らかく伝えましょう。
日常業務をそつなくこなせる人
OJTは、通常業務と並行して行うため、通常業務をそつなくこなせる人でないと大きなストレスになります。
通常業務の滞りを防ぎ、新入社員への教育をスムーズに行うためにも、日常業務をそつなくこなせる人をOJT担当者に任命しましょう。
スムーズに業務を行える人であれば、効率的に進めるコツも伝えられるはずです。
柔軟な考え方を持っている人
柔軟な考え方を持っている人も、新人教育に向いています。
新入社員一人ひとりの考え方や価値観、スキルに応じた指導ができると、社員の成長スピードが上がります。
新入社員に対して、さまざまな角度から指導やアドバイスできる指導者であるとより良いでしょう。
新人教育の担当者が身に付けるべきスキル
「人に教えること」は奥が深く、技術も必要です。
ここでは、新人教育担当が身に付けるべきスキルについて紹介します。
ロジカルシンキング
論理的かつ合理的に物事を考えられれば、問題の本質を理解したうえで、適切な解決策を見つけられます。
ロジカルシンキングが身に付いている人は、根拠や理由を示して説明するため、知識がない人でも理解しやすい説明ができるのです。
具体的には、以下を意識して指導すると良いでしょう。
- 結論ファーストで伝える
- 事実をベースとして物事を論理的に考える
- 図や表を用いて原因を突き止める
- 相手目線に立って考える
- 目的を常に意識する
ティーチング&コーチング
簡単に言うと、ティーチングは「知識を教えること」、コーチングは「相手が持つ考えを引きだすこと」です。
以下にティーチングとコーチングの違いを簡単にまとめました。
ティーチング | コーチング | |
---|---|---|
指導方法 |
具体的に指導や説明を行う。 |
対話を通じて、困りごとを明確にして改善策を探す。 |
メリット |
知識やスキルの迅速な伝達が可能。教育内容をコントロールしやすい。 |
一人ひとりにあった指導やアドバイスが可能。問題解決能力や自己啓発が促進される。 |
適したシーン |
基本的なスキルや情報の伝達が必要な場所。複数人に同じ情報を伝える場合。 |
個人の成長や目標達成をサポートする場合。 |
ティーチングとコーチングを組み合わせて教育を行うと、新入社員のやる気を引き出しつつ、着実に業務を教えられます。
コミュニケーションスタイル
コミュニケーションスタイルとは、他人とコミュニケーションを取る際に示すアプローチや方法のことです。
1968年に米産業心理学者のデビッド・メリル氏が提唱したソーシャルスタイル理論によると、コミュニケーションスタイルは以下の4つに分けられます。
①Driving(ドライビング/現実派・実行型)
→感情を抑えつつ意見を主張し、実行するタイプ。結果重視で冷静。
②Expressive(エクスプレッシブ/感覚派・直感型)
→意見を主張し、感情を出すタイプ。明るく積極的で、感覚的に行動する。
③Amiable(エミアブル/協調派・温和型)
→人の意見を聞きながら、自分の感情を出すタイプ。全体の雰囲気を大切にする。
④Analytical(アナリティカル/思考派・分析型)
→自分の感情を抑えて人の意見を聞くタイプ。慎重で論理的な分析が得意。
相手のコミュニケーションスタイルに応じた指導を行うことで、新人教育のストレスを軽減させたり、効率的な教育ができたりします。
4段階職業指導法
4段階職業指導法は、OJTの元となった指導法です。
新入社員に業務の全体像を把握してもらうため、「Show(やって見せる)」→「Tell(説明する)」→「Do(やらせる)」→「Check(評価、指導をする)」という流れで行います。
特に評価、指導、フィードバックを重視しましょう。具体的な改善案を伝えることで、仕事の習得スピードも速くなります。
また、やり方や手順を教えることはもちろん大切ですが、「なぜこの仕事をするのか」役割を教えることも重要です。
新人教育疲れによる鬱を防ぐ方法
教育担当者がストレスを溜めると、鬱状態を引き起こす可能性もあります。
鬱を防ぐには、ストレスの原因を突き止めて対策を講じることが重要です。
教育係のマインドセットを行う
教育担当のなかには、新入社員の早期育成を意識するあまり、思ったように成長しないことにストレスを感じる人もいます。
しかし、人材の成長には時間がかかるものです。
失敗を繰り返しながら、ゆっくりと成長していく人もいるので、成長スピードにも個人差があります。
また、相手の反応や行動を完全に思い通り操作することはできません。
教育係になると「新人の主導権は自分が握っていなければならない」と思う人も多いですが、この意識は捨てましょう。
「他人なんだから、思い通りにならない」と思って接すれば、大きなストレスを感じることなく、新人の指導を考えられるようになります。
他人の心の主導権は握れませんが、自分の心であれば意識を変えるだけでコントロールが可能です。
「新人とは得てしてそういうもの」くらいの気楽なスタンスで、気負うことなく向き合っていきましょう。
考え方による疲弊を防ぐには、こうした教育係のマインドセットも重要です。
初期教育をすり合わせる
企業内で教育方針や目標、期待される能力やスキルを明確にしたうえで、教育担当者同士で共有すると良いでしょう。
また、初期教育のプログラムやカリキュラムについては、企業が主体となって作成し、必要な知識やスキル、業務内容を調整する必要があります。
調整と擦り合わせが不足していると、新人の理解度や教育の進捗に差が生まれて、教育の効果が低下することが考えられます。
基本的な知識やスキルからスタートし、段階的に難易度を上げつつ、教育を進めるプログラムを計画することがおすすめです。
新人教育を体系化する
新人教育を体系化すると、教育内容が明確になり、教育担当も情報の整理がしやすくなります。
さらに、基準があることで教育のムラや我流の仕事法の押し付けを防げるため、新入社員の成長を促しやすいです。
新人教育を体系化するためのプロセスは以下の通りです。
- OJT実施計画の作成
新人教育の目的、期間、内容、進行方法、評価方法などを詳細に計画する
※教育の方向性が明確になる
- 教育内容のマニュアル化
新人教育の内容を体系的に整理し、教育担当者が伝えるべき情報を明確にする
※教育の一貫性が保たれ、教育の質が向上。
- サポートの活用
必要に応じて上司や他の部門からのサポートを受ける
※新人教育を効果的に進められる
新人教育の体系化を通じて、教育の質を向上させ、教育担当者の負担を軽減させましょう。
e-ラーニングなども活用する
近年、多くの企業が注目するオンライン研修やeラーニングは、教育担当者の負担軽減に役立ちます。
例えば、基本的な業務内容や業務の流れを動画学習にした場合、教育担当者の指導時間を短縮できます。動画学習中は自身の通常業務に取り組むことも可能です。
また、動画で得た知識を元に指導をすることで、技術習得のスピードも上がるでしょう。
さらに、動画やオンラインコンテンツを使った学習スタイルなら、何度も復習できます。
新人は自分のペースで理解を深め、教育担当者は何度も同じことを繰り返し教えなくても済みます。
学習進捗を追跡できるツールを利用すれば、管理作業も減少するので効率的に新人教育を進められるでしょう。
コミュニケーションを取りやすい環境を整える
効率的な新人教育には、スムーズなコミュニケーションが不可欠です。
現行のコミュニケーション手段に違和感を感じている場合、見直しを図る必要があります。
例えば、リアルタイムでコミュニケーションを取りたい場合、連絡手段がメールだけでは不十分です。チャットツールやビデオ会議ツールの導入を検討しましょう。
ツールを導入する際は、全員が使いやすいものを選ぶことが大切です。
また、業務の割り振りや人材管理を担当する管理者も、新人の状況を把握する必要があります。
職場やチーム全体が新人を支援できるよう、円滑なコミュニケーション環境を整えることが大切です。
採用活動の見直し
新たな人材を採用する際は、求める人物像の明確化が欠かせません。
募集職種やポジションによって必要なスキルが異なるため、1つの採用基準を全社で使い回すことは避けましょう。
求める人物像を明確にする際には、経営者や人事だけでなく、現場社員からもヒアリングすることが重要です。
入社後のギャップが生じれば、現場社員への負担増加はもちろん、早期離職リスクも高まります。
まずは、募集する職種やポジションで求められる要素を詳細に洗い出しましょう。
各要素を必須条件と希望条件に振り分けることで、本当に必要な条件が明らかになります。
作成した採用条件は、定期的に見直しましょう。
新人のやる気を上げるには?
指導を受ける中で、入社前に抱いていたイメージとのギャップに悩んだり、モチベーションが低下したりすることもあります。
新入社員の不安や悩みを知り、助言やサポートをするのも教育担当者の大きな役割です。
成功体験を積ませる
やる気を上げるためには、小さな成功体験の積み重ねが有効です。
新入社員の中には、過去のミスや失敗を引きずってしまう人もいます。
仕事に対する自信がなくなるとやる気も低下し、最悪の場合離職につながります。
まずは低いハードルを設定し、「仕事で成功できた!」経験を積ませましょう。
営業なら、先輩の前で練習をさせて、うまく話せている感覚をつかませるところから始めます。
少しずつステップアップしていくと、自信がついて意欲的に仕事に取り組めるようになるでしょう。
1on1やメンター制度を取り入れる
定期的に1対1で話す機会を設けるのも効果的です。
業務や教育に追われていると、新入社員と向き合って話す時間を取ることが難しいかもしれません。
しかし、新入社員も困っていることや悩みを相談する場がないと、仕事に対して不安を感じてしまいます。
ミーティングでは、不明点や困りごとを聞き出して改善案を提示し、ポジティブなフィードバックを行いましょう。
育成プランを作成する
新入社員がやる気を失う理由として、自分の仕事の意味を見失うことが挙げられます。
最初は覚えることが多いので、「思っていた仕事と違う」と悩む人もいるでしょう。
そのため、新人教育においては一人ひとりに合わせた育成プランを作成することが重要です。
「この仕事が何のために行われているのか」「今後どのように他の仕事につながっていくのか」が分かると、仕事に対する意識が変わってきます。
まとめ
環境の変化は、善し悪しにかかわらずストレスの原因となります。
教育担当者に指導を丸投げすると、社員に大きな負担がかかり、ストレスを溜めてしまいます。
当人同士はもちろん社内全体の雰囲気悪化につながるため、教育体制の体系化などサポート体制を整えましょう。