ビジネスを取り巻く環境が目まぐるしく変化する現代において、自社の存在意義を明示する「パーパス」の重要性が高まっています。
米国トップ企業が続々とパーパス重視の経営にシフトする中、日本企業でもパーパスを策定する企業が増えてきています。
そこでこの記事では、パーパスとは何か、MVV(ミッション・ビジョン・バリュー)との関係や注目が高まった背景について解説いたします。
パーパスを策定するメリットや企業事例についてもご紹介しますので、ぜひご覧ください。
パーパスとは
パーパスとは、目的や意図を意味する言葉です。
ビジネスシーンでは「何のために自社が社会に存在し、事業を展開するのか」社会とのつながりを強く意識した企業の存在意義を指します。
パーパスは、存在意義や指針といった事業活動の根本に関わるため、基本的に策定したら変わらないものと位置づけられています。
(MVV)ミッション・ビジョン・バリューとの関係
パーパスとMVVとの関係は、
パーパス…何のために組織が社会に存在するのか(Why)
ビジョン…どこを目指すのか、目的とする理想の姿(Where)
ミッション…パーパス・ビジョンを実現するために何を行うか(What)
バリュー…具体的にどうやって実現するか、行動基準(How)
です。
このように、ミッションやビジョンの根幹となるのがパーパスですが、明確に定義づけられてはいません。
そのため、企業によって捉え方が異なり、ミッションやビジョンをパーパスと定義している企業もあります。
パーパスの関連用語
パーパスへの理解を深めるためにも、関連する用語について把握しておきましょう。
パーパス経営
パーパス経営とは、「なぜ自社が存在するのか」「事業活動を通じて社会に何を提供したいのか」など、パーパス(存在意義)を基軸とした経営手法のことです。
インナーブランディングの一つでもあり、自社そのものの価値をアピールすることで、企業イメージや従業員エンゲージメント向上につながります。
パーパスドリブン
パーパスドリブンとは、パーパスを軸として、すべての物事がそこから始まっている状態のことです。
組織全体がパーパスに導かれている状態や、商品・サービスにパーパスが反映されている状態をイメージすると分かりやすいでしょう。
パーパスブランディングについて
パーパスブランディングとは、「パーパスにもとづいた経営を行うべきである」というブランディング手法のことです。
社会における自社の存在理由を明確化して世間からの共感を得ることで、長期的なブランディングにつなげることを目的としています。
そのため、一般的なブランディングと違い、パーパスブランディングは必ずしも利益に直結するとは限りません。
パーパスが注目されるようになったきっかけ
パーパスへの注目が高まったきっかけは、米国の大手企業から成るロビー団体「ビジネス・ラウンドテーブル」が2019年8月に発表した「企業の目的に関する声明」です。
米国で企業経営の原則とされていた「株主資本主義」を批判し、「ステークホルダー資本主義」への転換を宣言したのは、世界中の経営者に大きなインパクトを与えました。
ビジネス・ラウンドテーブルの声明では、
- 顧客に価値を提供すること
- 従業員に投資を行うこと(能力開発支援など)
- 取引先との公正かつ倫理的な取引を行うこと
- 自社が属するコミュニティ(地域社会)をサポートすること
- 株主に対して長期的な価値を生み出すこと
を宣言しています。
パーパスが必要とされる背景
世界に強い影響力を持つ米国のトップ企業がパーパス重視の経営にシフトしている中、日本でもパーパスへの注目が高まっています。
VUCA時代の到来
VUCAとは、「Volatility(変動性)」「Uncertainty(不確実性)」「Complexity(複雑性)」「Ambiguity(曖昧性)」の略語です。
変化が激しく予測困難なVUCA時代を生き抜くには、株主や顧客といった特定の関係者だけでなく、あらゆるステークホルダーとのコミュニケーションが重要になってきます。
社会貢献などの視点から、自社の存在意義を捉え直して明示することで、世の中の理解や共感を得ながら事業活動を進めていけます。
幅広いステークホルダーからの支持を得られれば、業績にも好影響をもたらすでしょう。
実際、投資家の評価基準は財務情報だけでなく、「環境」「社会」「ガバナンス」への取り組みを評価するESGスコアが重視されています。
パーパスは“投資を判断する基準の一つ”と認識されていることからも、企業にとっていかに重要なものかが分かります。
価値観の変化
1980年代~2000年までに生まれた「ミレニアル世代」の台頭による価値観の変化も、パーパスの必要性が高まった理由の一つです。
ミレニアル世代は、彼らの親世代と比較すると物欲や所有欲が低い一方、「自分の存在意義」や「働く意味」「社会との関わり」といった意味を強く求める傾向があります。
そのため、製品・サービスの比較検討時はもちろん、就職先を選ぶ際にも、企業文化や社会への貢献といった要素が大きな決め手になり得ます。
つまり、企業が求職者や消費者から選ばれるには、ビジネスや消費の中核を担うミレニアル世代から共感を得る必要があるため、パーパスへの重要度が増したのです。
パーパスを策定するメリット
パーパスを策定すると、企業にどういう恩恵をもたらすのか、見ていきましょう。
ステークホルダーの支持を得られる
パーパスを活用するメリットは、ステークホルダーからの支持を得られる点です。
世界的に環境問題や社会問題への関心が高まっているため、企業にとってこうした問題への取り組みは無視できません。
実際、「児童労働」「有害物質による水質汚染」「産地偽装」「不正会計」などを引き起こしたために、世間から痛烈な批判を受けて業績悪化や倒産した企業は多いです。
社会的課題と紐づけたパーパスを策定して積極的に取り組んでいくことで、ステークホルダーからの共感や支持を得られます。
企業イメージも向上するため、業績アップも期待できるでしょう。
また、社会的課題に取り組むと「経営リスクの低い企業」と判断されやすくなるため、企業価値も高まります。
投資家からの評価が高まれば、資金も調達しやすくなるでしょう。
従業員エンゲージメントの向上
パーパスは、従業員エンゲージメントの向上にも役立ちます。
従業員にとってパーパスは、その企業で働く意義です。
パーパスを明示することで、企業と従業員をつなぐ共通項になるため、従業員は自分の仕事に誇りを持って取り組めるようになります。
意義や誇りを持って業務に取り組めるようになれば、必然的にモチベーションやエンゲージメントが高まります。
結果的に従業員の自律性も促進されるため、イノベーションの創出や生産性向上にもつながるでしょう。
優秀な人材が集まりやすくなる
労働の中核を担うミレニアル世代は、報酬や知名度よりも、やりがいや社会貢献、働く意義を重視する傾向が強いです。
優秀な人材ほど金銭面より志を重視する人が多いため、パーパスを発信すると、それに共感した優秀な人材が集まりやすくなります。
他社との差別化にもつながるので、採用競争でも優位に立てるでしょう。
グリーンウォッシュに注意! パーパス策定で押さえておきたいポイント
グリーンウォッシュとは、環境配慮を掲げておきながら、実態が伴っていない状態です。
グリーンウォッシュの事例には以下のようなものがあります。
- 商品のパッケージで「100%リサイクル可能」と謳っておきながら、実際にはリサイクル活動は行っていない
- 二酸化炭素排出量の削減を謳っておきながら、二酸化炭素を大量に排出する産業を支援し続けている
当然ですが、グリーンウォッシュは見せかけだけの状態なので、ステークホルダーからの信頼を失う可能性が高まります。
グリーンウォッシュを防ぐためにも、
- パーパスの内容と事業活動に一貫性があること
- 自社で実現可能な内容であること
- 自社の成長につながる内容であること
- 社会的意義を持った内容になっていること
- 従業員のモチベートにつながるものか
などを意識して、策定しましょう。
パーパスは、事業活動との関連性が低いほど取り組みづらいです。
そのため、グリーンウォッシュを避けるには、事業活動との一貫性を持たせた内容や実現可能な内容を策定する必要があります。
また、パーパスである以上、「社会的意義があること」は欠かせませんし、事業活動を続ける上で利益も出さなければなりません。
そのため、現代社会で顕在化している課題に向き合いつつ、自社の利益につながるものを策定することが大切です。
利益に直結しなくても、取り組むことでブランドが浸透していき、長期的に見て利益につながるようなパーパスが理想と言えます。
パーパスは従業員自身に「そこで働く意義」を感じてもらうものなので、従業員のモチベーションにつながるものを策定してください。
働く意義を感じられれば、モチベーションやエンゲージメントが高まり、生産性向上につながります。
なお、パーパスを浸透させるには、従業員に覚えてもらう必要があるため、「分かりやすい言葉で簡潔に表現すること」も意識しましょう。
パーパスの企業事例
パーパスの内容は企業によって異なります。
ここでは、実際にパーパスを導入している企業の事例をご紹介します。
ソニーグループ
2019年1月ソニーグループでは
クリエイティビティとテクノロジーの力で、世界を感動で満たす
というパーパス掲げました。
ソニーグループは多様な事業を展開しており、国内外合わせて約11万人の従業員が働いています。
加えて、個別のビジョンを掲げているケースもあり、改めてグループ全体の共通認識を設定する必要があったため、パーパスを策定することになりました。
パーパスを策定したことで、新型コロナウイルス感染拡大の中でも、同社のパーパス「感動を届けること」に照らし合わせた取り組みが行えたそうです。
例えば、
- Play At Home(ゲームなどの無料配信で自宅待機の人々を支援)
- 新型コロナウイルス・ソニーグローバル支援基金の設立
などの取り組みが挙げられます。
ネスレ
世界最大の食品飲料会社であるネスレのパーパスは、
創業者アンリ・ネスレの精神を受け継ぎ、栄養を中心としたネスレの価値観に導かれ、食の持つ力で、現在そしてこれからの世代のすべての人々の生活の質を高める製品、サービス、知識を個人と家族の皆さまにお届けするためにパートナーとともに取り組みます。
です。
同社では取り組みの指針となり、SDGsの達成を支援する2030年に向けた目標として、
- 5,000万人の子どもたちが健康な生活を送れるように支援
- ネスレの事業活動に直結するコミュニティに暮らす3,000万人の生活を改善
- ネスレの事業活動における環境負担ゼロ
の3つを掲げています。
例えば、2025年までの包装材料100%リサイクルもしくは、リユース(再使用)に向けた取り組みを行っています。
2020年には、ほぼすべての『キットカット(大袋タイプ製品)』の外袋が紙に変更されており、取り組み開始以来420トンのプラスチック削減に成功しているそうです。
他にも、養子縁組みなどで親になった社員が子育て支援を受けられる「ネスレ日本養育者支援方針」の導入や、新型コロナウイルスの影響を受けた方への自社製品寄贈といった多様な取り組みを行っています。
ピジョン
ベビー向け製品で有名なピジョンでは「愛」を経営理念に掲げています。
中堅社員の退職者が増加していたこともあり、社内の結束を高めて方向性を明確にする必要が高まったため、
赤ちゃんをいつも真に見つめ続け、この世界をもっと赤ちゃんにやさしい場所にします
を新たなパーパスとして策定しました。
従業員が新しい取り組みや事業を提案する制度『PFA(Pigeon Frontier Awards)』には、低出生体重児に初乳をあげるデバイスの改良企画など、パーパスに沿った良案が生み出されたそうです。
パーパスの策定によって従業員の意識が向上し、イノベーションの創出につながっていることが分かります。
パーパスの策定は企業の成長につながる
パーパスは自社の存在意義を明示し、事業活動を通して社会に貢献しようという考えです。
欧米の大手企業が注力し始めたことから新しく感じるかもしれませんが、日本に古くから伝わっている近江商人の「三方良し」の経営哲学に通じます。
企業・顧客・社会が幸せになるためのパーパスを策定し、持続的な企業の成長につなげましょう。