少子高齢化の影響から、女性活躍が社会的な課題となっている近年、女性管理職の登用に注力する企業が増えています。
とはいえ、日本の女性管理職比率は他の先進国と比べて低い水準にあるため、この記事では女性管理職を増やす施策や企業事例についてご紹介します。
女性管理職が少ない理由や増やすメリットについても触れていますので、ぜひご覧ください。
女性管理職にまつわる政策
男女雇用機会均等法の成立以前は、働く女性を対象とした「勤労婦人福祉法」が存在していたものの、均等待遇に関する定めが少なく、性別による待遇格差が大きい状態でした。
1979年に国連で採択された「女子差別撤廃条約」に追従する形で、1986年に「男女雇用機会均等法」が施行されています。
その後、男女平等の推進を目的とした「男女共同参画社会基本法」の施行を経て、政府は2003年に「202030(にいまる・にいまる・さんまる)」を掲げました。
202030とは、「社会のあらゆる分野で指導的位置に占める女性の割合を、2020年までに30%程度となるよう期待する」という政府の目標です。
ちなみに、202030は2020年7月に達成断念との判断から「2020年代の早期に」と先送りされています。
こうした中、2015年に「女性活躍推進法」が成立しました。
企業には、自社の女性活躍に関する状況把握・課題分析、課題解決のための数値目標、行動計画の策定・公表といった、女性活躍の環境整備が義務づけられるようになりました。
女性管理職登用の現状
ここでは、海外や国内での女性管理職登用の現状についてご紹介します。
海外の状況
引用:内閣府『第14図 就業者及び管理的職業従事者に占める女性の割合(国際比較)』
男女共同参画白書令和元年版(2019年)によると、就業者に占める女性の割合は、いずれの国においても4~5割弱です。
女性管理職の割合は、フィリピン51.5%、アメリカ40.7%、スウェーデン38.6%であるのに対し、日本はわずか14.9%に留まります。
日本国内の状況
引用:帝国データバンク『女性登用に対する企業の意識調査(2020 年)』
帝国データバンクが、全国2万社超の企業を対象に行った2020年7月の調査によると、管理職(課長相当職以上)に占める女性の割合は、平均7.8%でした。
政府が掲げている「202030」を達成している企業は7.5%に留まり、目標とは大きく乖離している状況です。
また、企業規模別の女性管理職の割合は、
小規模企業…5%
中小企業…3%
大企業…4%
と、企業規模が小さいほど女性管理職が多い傾向にあります。
女性管理職が少ない理由
女性管理職の割合が、政府の掲げる目標を大きく下回っていることが明らかになりました。
ではなぜ、日本の女性管理職は少ないのでしょうか。
管理職を目指す女性が少ない
女の転職typeが行ったアンケート調査によると「今後管理職になりたいか」の質問に対する回答は、
「頑張ってなりたい/機会があればなりたい」…1%
「絶対なりたくない/あまりなりたくない」…9%
と、否定的な人が多い結果でした。
管理職になりたくない理由として、「責任が重くなる(68.6%)」「残業時間が増えそう(50.8%)」「自分にできる自信がない(50.3%)」が上位を占めています。
女性管理職が少ない上に、メディアなどで紹介される女性は厳しい競争を勝ち抜いてきた能力の高い人が多いです。
数少ないロールモデルがスーパーウーマンのような人ばかりでは、自信をなくしてしまうのも当然でしょう。
社内の女性管理職が増えれば、ロールモデルも多様になり、管理職を目指す女性が増えると考えられます。
参考:女の転職type『管理職ってどう?』
仕事と家庭を両立するサポート体制が不足している
「男は仕事、女は家庭」といった性別役割分担の意識が薄れつつあるとはいえ、子育ては女性メインで行われることが多いです。
一方、気兼ねなく産休・育休や有給休暇を取得したり、短時間勤務で働けたりする企業は、それほど多くありません。
そのため、妊娠・出産を機に退職してしまう女性は多いです。
女性管理職を増やすには、短時間勤務制度やフレックスタイム制度、育児・介護休業制度、テレワーク制度など、仕事と家庭を両立させるための支援が欠かせません。
経営層が意欲的でない
前述の帝国データバンクの調査によると、「202030」を達成している企業は、わずか7.5%です。
さらに、女性管理職の割合が「今後増加する」と見込んでいる企業は 21.7%に留まることから、経営層の意欲の低さも要因の一つと考えられます。
女性管理職の登用を推進するには、組織のトップが明確な意向を示すことが重要です。
会社の方針として女性活躍推進を示せば、人事評価制度や両立支援制度などが整備できますし、従業員の意識も変わります。
また、男性管理職の意識が変われば、性別役割分担の意識から発生する「産休復帰した女性社員は全員補助業務」といった、本人の望まないキャリアを防げるでしょう。
女性管理職を増やすメリット
では、女性管理職を増やすとどういったメリットを得られるのか、見ていきましょう。
ダイバーシティの促進
女性管理職を増やすには、人事評価制度や育成体制、柔軟な働き方の導入といった、労働環境整備が欠かせません。
労働環境を整備すると、子育てや介護、障がいの有無、国籍などに関係なく、多様な人材が働きやすくなるため、ダイバーシティが促進されます。
多様な価値観を認め、受け入れる土壌が整えば、新たなアイデアやイノベーションの創出にもつながるでしょう。
モチベーション向上
女性管理職を増やすメリットとして、従業員のモチベーション向上も挙げられます。
日本企業では、性別役割分担の意識から、仕事の割り振りや配置転換が行われることも多いです。
しかし、たとえ配慮だったとしても、性別で育成姿勢を変えると女性社員に「キャリアアップを期待されていない」と感じさせてしまう可能性があります。
そのため、男女で仕事の割り振りや出張命令、配置転換といった育成姿勢の違いがなくなれば、女性社員の昇進意欲も高まるでしょう。
また、人事評価制度の整備によって公平性・透明性が高まれば、女性だけでなく従業員全体のモチベーションも向上します。
労働環境の改善
女性管理職を増やすには、産休・育休制度や短時間勤務制度、テレワークなど、家庭との両立を支援する制度を整える必要があります。
性別に関係なくライフスタイルに合わせて利用できるようになれば、必然的に労働環境が改善します。
労働環境の改善により、従業員エンゲージメントの向上や離職率の低下といった効果も期待できるでしょう。
社外からの評価が高まる
女性管理職を増やすと、社外評価の向上につながります。
というのも、近年拡大しているESG(環境・社会・ガバナンス)情報を投資判断に組み込む「ESG投資」には、女性の活躍状況も判断材料の一つとされているためです。
実際、内閣府『ジェンダー投資に関する調査研究 報告書』によると、半数以上の機関投資家が投資判断に女性活躍情報を活用しています。
また、女性管理職比率や目標値、女性活躍推進への取り組みの公表は、社外に「ダイバーシティを推進する働きやすい職場」という印象を与えます。
経済産業省主催の「新・ダイバーシティ経営企業100選」および「100選プライム」に選定されれば、社会的認知度が高まり優秀人材を獲得しやすくなるでしょう。
女性管理職を増やすための施策
ここでは、女性管理職を増やす具体的な施策についてご紹介します。
ワークライフバランスのサポート
女性管理職を増やすには、継続的に就業できる環境を整備する必要があるため、ワークライフバランスの支援が欠かせません。
たとえば、
- 育児・介護休業を法定期間よりも長く設定
- 時間単位の有給休暇取得
- 短時間勤務制度
- フレックスタイム制度
- テレワーク制度
- 育休復帰後の社員が相談できる窓口の設置
などが挙げられます。
このほか、女性に対する支援だけでなく、男性の育児参加を促すことも重要です。
2021年6月には、育児・介護休業法が改正されて男性も育児休業を取得できるようになりました。
男性社員も気兼ねなく取得できるよう、企業でも積極的に呼びかけましょう。
人事評価基準の明確化
性別に関係なく平等な評価ができるよう、人事制度の見直しを行って、公平かつ透明性のある明確な評価基準を設定しましょう。
たとえば、能力や勤務態度、実績によって評価する「定性評価」と、目標達成度に応じて評価する「定量評価」を利用すると、公平性や透明性が高まります。
評価基準が明確になると、会社が自分たちに何を求めているのかが分かるため、従業員の成長やモチベーション向上につながります。
管理職・経営層の意識改革
管理職や経営層の意識改革も必要です。
男性管理職や経営層の中には「産休復帰後の女性は補助的な業務を望んでいる」と考える人もおり、キャリアコースから外されてしまう女性社員もいます。
男女で育成方針を分けるのではなく、本人の希望に沿って仕事内容や目標、キャリアの方向性を決めることが大切です。
研修などによるキャリア開発
研修などによるキャリア開発も、女性管理職を増やす施策として有効です。
たとえば、
- 階層別・職種別研修
- 課題別研修
- リーダーシップやマネジメントに関する研修
などが挙げられます。
育成にはそれなりに時間がかかるため、計画的に実行しましょう。
このほかにも、出産・育児でキャリアを中断した女性社員をサポートするキャリアパス構築や、正社員登用制度などの施策も効果的です。
ロールモデルとなる女性社員の育成
ロールモデルとなる女性社員の育成も重要です。
ロールモデルの少なさは、女性管理職が増えない理由の一つのため、研修だけでなくOJTを通して人材育成しましょう。
多用な女性が管理職になってロールモデルが増えれば、後の世代の女性社員も将来のキャリアをイメージしやすくなります。
座談会などで、女性管理職と女性社員の交流の場を設ける企業も多いです。
女性管理職を増やすための取り組み事例
女性活躍に積極的な企業ではどういった取り組みを行っているのか、事例を見てみましょう。
大塚製薬株式会社
大塚製薬では、2007年からダイバーシティ経営を行うため「ダイバーシティ推進プロジェクト」を発足し、さまざまな施策を積極的に展開しています。
具体的には、
- 女性MR(医薬情報担当者)の積極採用
- ワークショップ・フォーラム開催によるキャリア継続の意識醸成
- 両立支援制度の拡充・周知(結婚時同居支援制度・短時間勤務・シフト勤務など)
- マネジメント層の意識改革
- 長時間労働の抑制
- 自主的女性リーダー勉強会の開催
- 積極的なリーダー職への女性登用
です。
こうした取り組みを行ったところ、管理職に占める女性比率は7.7%、役員に占める女性比率は13.0%と、上場企業平均(7.5%)を上回る結果となりました。
また、結婚・出産後も働く女性が増加し、女性MR比率は20%と高い水準になっています。
大塚製薬の先進的な取り組みや成果は高い評価を得ており、2014年には製薬会社初となる「ダイバーシティ経営企業100選」を受賞しました。
東京急行電鉄株式会社
東急グループ経営理念に「個性を尊重し、人を活かす」を掲げている東京急行電鉄では、制度・風土・マインドの観点からさまざまな施策を講じています。
具体的には、
- 女性総合職の採用(1988年から継続)
- スライド勤務制度(多様なパターンの勤務時間が選択可能)
- 有給休暇の取得促進(取得率9割弱)
- 子育て中社員へのヒアリングにもとづいた施策(病児保育支援・学童保育費用の補助など)
- 育児休業の一部有給化(男性社員を対象に、最大43日間の賃金を支給)
- 女性社員や管理職を対象とした研修の実施
です。
働き方の見直しや両立施策を進めた結果、直近3年に入社した総合職の離職率は、0%となっています。(2014年度末)
また、柔軟な働き方などが評価され、2012年から3年連続で「なでしこ銘柄」選定、2015年には運輸業界初の「イクメン企業アワード」の特別奨励賞を受賞しました。
株式会社ノバレーゼ
ブライダル事業を展開するノバレーゼでは、ライフステージを迎える女性社員の増加に伴い、仕事と育児の両立、働き方の見直しに対する支援に取り組んでいます。
具体的な施策は、
- 「キラキラ働こう!プロジェクト」の実施(社員ニーズを踏まえた制度改定・システム整備など)
- マネジメント層へのサポートブックの配布(部下の妊娠・出産時の注意点)
- フレックスキャリア制度(1日の勤務時間を4~8時間の間で選択可能)
- 勤務エリア限定制度(異動範囲を自宅から5時間以内に限定)
- 有給休暇の取得促進
です。
両立支援関連の制度を充実させたことで、離職者が減少し、産休・育休から復帰はほぼ100%の水準に達しています。
また、取り組み開始前と比べて有給休暇取得率が倍になっただけでなく、仕事の進め方の工夫や社員同士で協力する姿勢が生まれるといった、意識・風土面の変化も発生しました。
参考:三菱UFJリサーチ&コンサルティング『「女性の活躍推進」にむけた取り組み施策集』
女性管理職比率の向上には組織全体での取り組みが必須
日本の女性管理職比率は、世界でも低い水準にあります。
しかし、女性管理職を増やすことで、ダイバーシティの促進や社外評価の向上といったメリットが享受できます。
女性管理職を増やすには、人事評価制度や教育体制の整備、柔軟な働き方といった労働環境の整備が欠かせません。
競争力を高めるためにも、ご紹介した施策を取り入れてみてはいかがでしょうか。