近年、新しいマネジメント手法として話題になっている「ホラクラシー経営」。
聞いたことはあるけれど、良く分からないという方が大半ではないでしょうか。
今回は、この新しいマネジメント制度のコンセプトやメリット、デメリットを確認しながら、企業経営にどのように役立てれば良いのかを見ていきましょう。
そもそも「ホラクラシー経営」とは?
ホラクラシー経営とは、「役職や肩書、階級といった上下関係を一切なくし、組織に所属する人間全てが自らの意思決定で仕事を進行できるフラットな経営手法」をコンセプトに掲げています。
簡単に説明すると、日本の社会に根付いている序列化されたピラミッド型組織「ヒエラルキー」に相対する考え方で、所属しているメンバー全員に与えられる裁量・権利が同等で、個人個人が自立的に組織成長に貢献できるシステムだと言えます。
それぞれの得意分野を最大限に発揮しながら働ける柔軟な組織体制が注目を集めているポイントです。
この新しいマネジメント手法の始まりは、アメリカの起業家ブライアン・ロバートソン氏が2007年に提唱されたものだと言われており、同氏が著作した「Holacracy : The New Management System for a Rapidly Changing World」で考え方を深く知ることができます。
日本語訳も発売されているので、興味がある方は、ぜひ一度手に取って読んでみてください。
ホラクラシー導入のメリットとは?
ホラクラシーの概要が分かったところで、実際にマネジメント手法として取り入れた場合にどのようなメリットがあるのかを確認してみましょう。
責任感や主体性が向上する
個人に与えられる裁量が大きいため、仕事に対する強い責任感が生まれます。
さらに、自発的に仕事と向き合い、課題を解決しながらプロジェクトを進めて行く主体性も磨かれるでしょう。
能力を発揮できるフィールドを与えられることで、仕事に対するモチベーションもアップします。
生産性が高まる
役職によって人材マネジメントが課せられるヒエラルキーでは、部下の管理や教育も重要な業務となっています。
しかし、役職や階級のないホラクラシーでは、個人の役割や仕事だけに集中することができるので、その人本来が持っている生産性を存分に発揮することができるのです。
人間関係によるストレスが軽減する
上司からの理不尽な命令や部下のミスの尻ぬぐいなど、人間関係によるストレスから解放されます。
「出世しないと給料があがらない」「社内派閥に所属しないと居場所がない」といった組織的な無駄を排除できることもメリットの1つです。
ホラクラシー導入によるデメリットは?
先述したメリットだけを見ると、多くの企業で導入するべきだと感じるかもしれません。
しかし、この良くできたマネジメント手法にもデメリットは存在します。
導入前にどのような点で問題が発生しやすいのかをチェックしましょう。
役職者不在による影響がある
例えばトラブルが発生した場合、責任を取る役職者がいないため、作業者が自ら問題を解決しなければなりません。
自分の業務をしっかり管理できる方であれば問題ありませんが、人から指示されないと行動できない受動的な方には向いていない制度だと言えます。
情報漏洩のリスクが高まる
ヒエラルキーでは、信頼の厚い上層部が情報を統制していることが多いですが、上下関係がないホラクラシーでは全員に平等に情報を共有しなければなりません。
同じ目的意識を持つという意味ではメリットとなりますが、多くの人間が極秘情報を知ることは、社外漏洩する可能性も高まると言えます。
コントロールが難しい
それぞれが意思決定権を持ち仕事の管理をしているため、社員を制御することが難しいです。
「どのくらいメンバーを信頼して仕事を任せられるか」が、ホラクラシーを定着させるポイントになります。
実際に制度を導入する際のポイント
アメリカやフランス、ドイツ、スイスなど、欧米ではホラクラシーを導入する企業が増えつつあります。
ここでは、ホラクラシーを先進的に導入・実践し、有名になったアメリカのアパレルEC企業『Zappos』についてご紹介します。
Zapposの導入例
1500名程のスタッフを抱える大企業でありながら、ホラクラシーの考え方をほぼ正確に取り入れています。
導入当初は人事部門の2チームで実験的に取り組み、段階を踏んで全ての部署へマネジメント手法を浸透させていきました。
ホラクラシーへの移行に違和感を覚え、抵抗した社員210名が退職するといった問題も発生しましたが、自分の仕事をやり抜くという野心を秘めたメンバーだけが残る結果となり、今後の企業成長に注目が集まっています。
ホラクラシー導入を検討する場合、組織全体を変えるには膨大な時間がかかります。
上記の企業のように、まずは部署やチームといった小さな規模から始めるのが現実的でしょう。
また、企業や事業の立ち上げ期にもホラクラシーは有効だと言えます。
少ないリソースの中で新しいモノを生み出すには、メンバー各々のポテンシャルが大きな可能性を秘めているからです。
まとめ
今回は従来のマネジメント手法と大きく異なる考え方、「ホラクラシー」についてご紹介しました。
社員の可能性やポテンシャルを信用し、各々の考え方を尊重するというマネジメント手法は、硬直しきっている組織編制を今一度考え直すきっかけになるでしょう。
また、企業が抱えている問題解決の糸口として、部分的にホラクラシーを取り入れてみるのも面白いかもしれません。
ヒエラルキー型組織が根付いている日本社会では、どのくらいホラクラシーが定着・浸透していくか未知数だと言えます。
世間からどのように認識されていくのか、今後も積極的に注目してみてください。