役員報酬とは、会社の経営を担う役員に支払われる報酬のことです。
社員の給与とは異なり、役員報酬は経営責任の対価として支払われ、税務上の扱いも異なります。
そのため、役員報酬は適正な金額に設定し、支払い方法を慎重に選ぶ必要があります。
本記事では役員報酬の基本的な知識から、給与との違い、損金算入のポイント、支払い方法まで詳しく解説します。
役員報酬とは
役員報酬の意義
役員とは、会社の経営を担う重要なポジションであり、組織運営や意思決定に直接関わる責任ある立場を指します。
その役員に支払われるのが「役員報酬」です。
社員の給与とは異なり、役員報酬は「経営に対する評価」や「責任の対価」として位置づけられています。
適切な役員報酬を設定することは、優秀な経営陣を確保し長期的な視点での経営を促進する上で必要不可欠です。
役員と社員の違いとは
役員と社員は、それぞれ会社の中で果たす役割が大きく異なります。
社員 |
会社との間で雇用契約を結び、決められた仕事をする代わりに給与を受け取ります。 就業時間は決められ、残業した場合は残業代が支払われます。 |
役員 |
会社の経営を任される立場であるため、雇用契約ではなく「委任契約」に基づいています。 社員が日々の業務を通じて成果を上げることが求められるのに対し、役員は会社の利益や成長を見据えた経営判断をおこなうのが主な役割です。 |
「期待されていること」や「報酬の考え方」において大きな違いがあるのです。
役員と報酬と給与の違いとは
社員への給与は、雇用契約に基づいて「労働の対価」として支払われます。
給与は労働時間や成果に基づいて計算され、毎月決まった日に支払われるのが一般的です。
残業代や各種手当も給与に含まれます。
一方、役員報酬は、「経営上の責任や成果に対する対価」として支払われるものです。
給与のように労働時間に応じて支払われるものではなく、会社の業績や役員の貢献度、責任の重さなどを総合的に考慮し決定します。
役員報酬は、会社の将来を左右する重要な意思決定をおこなう役員への正当な評価として、支払われるのです。
役員報酬の支払い方法
役員報酬の支払いにはいくつか種類があり、法人税法上の取り扱いや税務リスクを考慮しながら決定する必要があります。
特に中小企業の場合は、自社に合った適切な支払い方法を選ぶことで節税効果を高めることも可能です。
ここでは代表的な「定期同額給与」「事前確定届出給与」「業績連動給与」の3つの支払い方法について解説します。
それぞれの特徴や税務上のポイントを押さえ、自社にとって最適な方法を見極めましょう。
定期同額給与
定期同額給与とは、役員に対して毎月同じ金額を支給する方法です。
税務上、法人税の損金(経費)として認められるため、一般的な役員報酬の支払い方法として、多くの企業がこの制度を利用しています。
支給額の変更は、原則、事業年度開始から3ヶ月以内に決定する必要があり、それ以降の変更は認められません。
これは利益調整目的の不正な報酬操作を防ぐためです。
メリットは、安定して給与を支払えるため経営計画の立案がしやすいことです。
一方、業績の変動に応じた柔軟な調整ができないため、会社の業績が悪化した際にも一定額を支払う必要があります。
事前確定届出給与
事前確定届出給与とは、あらかじめ税務署に支給額と支給時期を届け出たうえで、役員に報酬を支払う方法です。
定期同額給与と同様に法人税の損金として認められますが、届出た内容と異なる支払いをおこなうと損金不算入となるため、注意が必要です。
この制度を利用した場合、賞与のように年数回、まとまった報酬を支払うことができます。
業績に応じて年度の初めに報酬額を設定できるのも大きなメリットです。
しかし、一度届け出た内容を変更することはできず、業績悪化により報酬を減額したい場合でも変更できないリスクがあります。
事前に十分な計画を立てたうえで活用することが重要です。
業績連動給与
業績連動給与とは、企業の業績に応じて役員報酬を変動させる支払い方法です。
報酬は、売上や利益の目標達成度に応じたボーナスとして支給されます。
上場企業では、株主との利益調整の観点から業績連動型の報酬制度が多く採用されており、役員の業績向上へのインセンティブにもなります。
一方、業績連動給与を法人税の損金にするためには、一定の条件を満たす必要があります。
外部機関(報酬委員会など)による審査や、事前に決定された計算式に基づいた報酬設定が求められるのです。
中小企業においては導入のハードルが高い制度ですが、企業成長と役員報酬のバランスを取るには最適な支払い方法です。
役員報酬を決める際に気をつけること
役員報酬額の決定は、会社の財務状況や税負担に直結する重要な判断です。
報酬額を慎重に決めることは、健全な運営を維持し適正な節税対策を講じることにつながります。
一方、高すぎると損金不算入となるリスクがあり、低すぎると役員の生活に支障をきたすケースもあります。
適切な報酬設定には、業界水準の比較、損金算入の理解、法人と個人における税負担のバランス調整が欠かせません。
他社と比較して金額を決める
役員報酬の金額を決める際には、同業他社の水準と比較します。
これは、自社の規模や業績に見合わない高額な役員報酬を設定すると、税務署から「不相当に高額」と判断され、損金不算入となる可能性があるためです。
対外的なイメージにも影響を及ぼし、株主や取引先から不信感を抱かれる恐れもあるでしょう。
しかし極端に低い役員報酬を設定すると、役員自身の生活が圧迫されるだけでなく、社会保険料の算定にも影響を与えるため、将来的な年金額が減少する可能性があります。
適正な役員報酬を決めるためには、同業他社の決算書や公開されているデータを活用し、平均的な水準を把握することが大切です。
損金不算入とならないようにする
役員報酬は、一定の条件を満たさなければ損金として認められません。
法人税法上、損金算入できる役員報酬の形式には「定期同額給与」「事前確定届出給与」「業績連動給与」の3種類があります。
要件を満たさない場合は法人税の計算上、損金として計上できず、結果的に会社の税負担が増加してしまいます。
注意すべき点は、役員報酬の変更が原則として事業年度開始から3か月以内にしか認められないということです。
期の途中で任意に増減した場合は、損金として認められません。
また「事前確定届出給与」は、税務署に事前に届け出ることで損金として認められますが、届出期限を過ぎると損金算入ができなくなります。
そのため、提出するタイミングは事前に確認しておきましょう。
無理のない金額設定をおこなう
役員報酬の金額は、会社の資金繰りや経営の安定性を考慮して決定します。
役員報酬は一度決めると、基本的に1年間は変更できません。
そのため過大な報酬設定をすると、キャッシュフローを圧迫し、資金繰りが厳しくなる可能性があります。
創業間もない企業や経営が不安定な企業では、固定費の負担が増すことで、事業運営に支障をきたすリスクもあります。
適正な役員報酬を決めるには、年間の売上や利益、固定費(家賃・人件費など)を考慮し、安定した資金繰りができる範囲内で、報酬額を設定しましょう。
法人と個人の納税額のバランスを考える
役員報酬を決定する際には、法人と個人の税負担のバランスを考えます。
法人が支払う税金には法人税、地方法人税、法人住民税、法人事業税などがあり、役員報酬として支払う金額を増やすことで法人税を軽減できます。
しかし、役員報酬が高額になると、今度は役員個人の所得税や住民税、社会保険料が増加し、トータルでの税負担が増えるケースがあるのです。
特に、所得税は累進課税制度を採用しているため、役員報酬が一定額を超えると税率が上がり、かえって手取りが減る場合があります。
適切な役員報酬を決めるためには、法人と個人の税負担のシミュレーションをおこない、最も節税効果の高いバランスを見極めることが重要です。
まとめ
役員報酬は、会社の経営を担う役員に支払われる重要な報酬であり、会社の財務状況や税務戦略に大きな影響を与えます。
報酬の決定には、同業他社との比較や無理のない金額設定などを考慮し、適切な役員報酬を設定しましょう。
役員報酬は企業の健全な成長を促進し、役員のモチベーション向上にもつながります。長期的な経営視点を持ち、慎重に役員報酬額を決めたいものです。